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第28章 異国の地

 1日目、2日目と、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)は店の前をうろうろするしかできなかった。入るのはとても躊躇われた。
 しかし3日目、これが最後と思うといてもたってもいられず、意を決してリリーハウスへと入るのだった。

 稲場 繭(いなば・まゆ)はパートナーに勝手に応募されて、ドリームメイデンとして店に出ることになった。本意ではなかったが、やるからには手は抜けない。

「わ、私やります! ちょっと恥ずかしいけど……それでもお客様のためにがんばります!」

 恥ずかしい2日目のコスプレ(スクール水着)にも耐えて、いよいよ最終日。
 この日、繭を指名したのはレロシャンだった。

 レロシャンは同じ学校の生徒のほうが話しやすいだろうと考えて、知り合いの繭を選んだのである。
 口べたなレロシャンが話題に困っていると、
「まず、何か飲み物を頼んでください」
と繭に促される。とりあえずヴァイシャリーの果実ジュースを注文。

「ご、ご趣味は……?」
 なんとか思いついた話題はこれだった。
「しゅ、趣味ですかっ」
 なぜか顔を赤らめる繭。

 ふたりの共通の話題といえば、先日の第二回ジェイダス杯だった。繭は四位入賞を果たしている。

「日本にいたころは、こんな生活をすることになるなんて思ってもみなかったです」
 繭はなにげなくそう言った。
「そうなんですか。私は昔のこと何も覚えてなくて」
 あっさりと重大発言をするレロシャン。繭は慌てて謝るが、当のレロシャンはまったく気にしておらず、かえって恐縮することになった。

 しばらくすると、レロシャンは猛烈な眠気に襲われた。もともとどこでも寝る性質だったが、安心して眠くなったらしい。
 寝てしまったレロシャンに、繭はタオルケットを持ってきて、体に掛けた。
 明日には起きるだろう。そうしたら一緒に帰ろう。


繭の売り上げ:800G



 桜井 静香(さくらい・しずか)のファンである葛葉 翔(くずのは・しょう)が、静香を指名するのは当然すぎるほど当然のことであった。静香は指名が集中していたので、3日目にしてやっと相手をしてもらえることになったのである。

「ご指名ありがとう、静香です」
 この3日で、何度口にした台詞か。

 翔はヴァイシャリーの果実ジュースをふたりぶん注文し、静香に話しかける。貴重な機会だ、無駄にはできない。

「カラオケとかって歌う側ですか、それとも聴く側ですか?」
「え?」
「カラオケにつきあってくれる店という話だから……」
「つきあいで歌うくらいだよ。そんなに自信はないかな。
 それにパラミタに来てからは、どうしても日本の流行とかはわかんなくなってきちゃうし。もうヴァイシャリーの歌のほうが詳しいかもしれないよ。
 蒼空学園は百合園よりパソコンとか多いから、そんなこともないのかな?」

 翔は日本での暮らしを思い出した。
 パートナーと出会うまでの生活は、平和だったけれど退屈だった。

「……俺はそんなに日本を懐かしいとも思わないから、意識したことがなかった。
 ここにいれば、やりたいことも見つかるような気がする」
「そっか。見つかるといいね」
 そういって静香は笑った。


静香の売り上げ:+400G(計2100G)


 続いて静香を指名したのはトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)である。
 翔、トライブとともに蒼空学園の生徒であり、他校生への人気が窺えた。

 トライブは未成年なので、定番となったヴァイシャリーの果実ジュースと、サンドイッチやフライドポテトなどの軽食をオーダーする。

 トライブの過去はあまり幸福なものではなかった。それが静香への憧れに繋がっていた。トライブの視点から見ると、静香はあまりに弱々しく、儚げに映った。

 空になった皿やグラスが出ると、
「なんで客の俺が……」
などとぼやきつつ素早く片付けていく。

 実際のところ、静香のクラスはメイドなので、そこまで鈍いわけではない。
 しかしとてもそうは見えないところが、ある種の人徳と言えようか。

「ゴメン、すぐに片付けるよ」
「あんたは余計なことしなくていい、校長らしく座ってな」
 こんな調子であった。

 話しているうち、二人は同い年であることがわかった。
 パラミタに来るまえの境遇は違っていたが、当時流行っていた歌はふたりとも知っていた。
「せっかくだから、歌おうか」
 懐かしくなった静香は、何気なくカラオケに誘ってみる。
「なんで俺が……」
 口では不満げでも、一緒になって歌うトライブだった。


静香の売り上げ:+700G(計2800G)