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桜井静香の冒険~探険~

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桜井静香の冒険~探険~

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 床下を、或いは壁の向こうを、天井の上を。絶え間なく続き、近くなる水の流れを聞きながら、遺跡探索組は進んでいた。

 途中で他の面々とは別の道を進んでいたアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)は、目の前の光景に呆気にとられた声を出した。
「これが……お宝だって?」
「え?」
 手書きの地図から顔を上げた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は、アレクセイが掲げるカンテラが照らしたものに、やっぱり絶句する。
「そこじゃっ!」
 絶句しながら見ていると、背後から熱の塊が飛んできた。慌てて両側に飛び退く二人の間を、火球が通り過ぎて、壁に黒い煤を残した。振り向くと、蒼空学園とは微妙な仲であるイルミンスールのエリス・カイパーベルト(えりす・かいぱーべると)が立っていた。
「あぁ済まぬなぁ。人のいる気配がしたものでな」
 と、口では言うものの、危険そうなところに次々火球を放って確認している。
「金、金、世の中金が全てなのじゃ! これがお宝だとは思えぬわ! 何か秘密があるに決まっておる!」
 が、何の秘密もなく。
 メロディが響いているだけだった。

「……納得できないなぁ〜」
 もう一方の、探索組に紛れていた桐生 円(きりゅう・まどか)もまた、不満げだった。
「かわいいものじゃないわね〜」
「おいしいもの食べたい。戦いたいよー」
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)も、円に同意する。
 おそらくこれが宝なのだろう、と思われるが、これは一般に言うお宝ではない。他人にとっては何の価値もないものだった。
 その部屋の壁には彫刻が施されていた。その彫刻は順番に読めば、一つの物語となっているのが分かる。
 かつて古王国に仕えた一人の女騎士と、彼女に身を守るための「剣の花嫁」を創ったシャンバラ人の鍛冶師の話だ。
 二人は恋人同士であり、剣の花嫁の性質──「使い手にとって大切な人」の姿を取ることが多い、という法則に従い、その花嫁は鍛冶師と同じ姿を取った。
 始めこそ問題なかったが、度々戦場で背中を合わせて戦うようになり、女騎士は鍛冶師の元へ行くことを止めた。花嫁もまた、自身を大切にしてもらうという本能により、鍛冶師と入れ替わることを思いついた。花嫁は自身を壊れたと偽って、女騎士に罠をかけ、彼女に鍛冶師を葬らせた。
 女騎士は新たな花嫁を鍛冶師に創らせようとしたが、当然彼にはそんな力はない。やがて鍛冶師が好きだった歌を知らなかったことから真相に気付いた彼女は、彼を折り、恋人の鍛冶師の遺骨を収めるためにこの遺跡を創らせ、自らをも葬らせた。
 ──天井から流れ落ちる雫が、彫像に吸い込まれていく。少しの間。音が鳴る。繰り返され、音はメロディを奏でる。
 水琴窟だった。
 この遺跡は死者を音で弔うために造られたのだ。あちこちに同じ仕掛けがあり、一つの曲を作り上げるという寸法だった。
「マスター、ミネルバ、利益がないまま帰るってのも癪じゃないかい?」
 円がパートナーに呼びかける。非合法には非合法でも問題ないよね、と彼女は考えていた。
「楽しまなくちゃねぇ」
「そうねぇ〜。楽しければいいわぁ〜。かわいい円の活躍も見たいわぁ〜」
「楽しければいいもん」
 三人はいち早く道を引き返すと、道中罠にかかって流血しながら、賭場に乗り込んでいった。
 円は機関銃で、オリヴィアは火雷氷取り混ぜた魔術で、ミネルバはランスで、止めに来る従業員をモンスター扱いして、肉塊に変えて──いこうとした。というのは、結果的には死人は出なかったからだ。
「あはははは、戦うっておもしろいねー」
 ひっかかった罠や、円の機関銃の跳弾で血まみれになりながら、ミネルバが高笑いをあげながら、ランスで警備員の首と胴体をさよならさせようと振りかぶる。幸いこの前に騒動が起こっており、殆どの客は避難していたから、一般人に被害者はいないものの、あちこち怪我人が続出し、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
 トドメを刺そうとしたところで、責任者らしい黒髪の男を生徒に連れ出させたフェルナンが戻ってきて、円の前に立った。
「何だい、運動の邪魔しないでくれよ。どうせ賭博って非合法だろう? こっちも非合法で返せるだろうに? 売上金くらい貰ったっていいじゃないか」
「残念ながら、非合法が立証されても、ヴァイシャリーには、ヴァイシャリー家の私軍がいるんです。そちらに引き渡してもらわなければ困りますね」
 彼の手には、穂先の長いハルバードが握られている。
 近距離から機関銃を振り回して銃口をフェルナン向けようとした彼女だったが、その機関銃は据え付けて使うタイプだ。
「桐生さん、その大型の機関銃、振り回そうなんて無謀です」
 いつの間にいたのか、琴理が円の後ろに回って、デリンジャーを首筋に当てていた。
 円を救いに向かおうとしたミネルバは、血を流しすぎたせいで、意識が朦朧としかかっている。身体が動かない。
「自分の傷を顧みないのも無茶ですね。──あ、オリヴィアさんも抵抗は止めてください。脅すのは趣味ではないのですが……彼女がどうにかなれば、契約者である以上、ダメージを受けますから。同じことです」
「しかし皆さん、軽率ですよ。好き勝手なさりたいのでしたら、時と場合を選ぶべきです。もし船が出航したら、島に取り残されるだけですよ。まさか泳いで帰るおつもりですか?」
 こうして、三人はぐるぐる巻きにされてガレー船の部屋に閉じこめられたのだった。
 三度の食事は、ラズィーヤの提案により、牛の生レバーである。