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団長に愛の手を

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団長に愛の手を

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序章 お祭りの始まり

「黒、シラノ、この雑誌を見たか! 我輩は『今、教導団一イッてる男』に選ばれたぞ! 何とも光栄である!」
 青 野武(せい・やぶ)は自分の載った雑誌を黒 金烏(こく・きんう)シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)に誇らしげに見せた。
 その雑誌には、教導団No.1の注目株として、青が写真付きで載っていた。
「…………」
 イケメンではなくイッちゃっていると言われているだけではないだろうか、と思いつつ黒は雑誌を見る。
 でかでかと載った青の写真を見て(これが教導団の顔でいいのかな……?)という心を押し隠しながら、シラノが口を開いた。
「町雀の噂によれば、団長は1位を取れなかったことにつきご不興の由」
「ん?」
「まずくありますな……団長を差し置いて、とは」
 黒にも窘められ、青は考え込んだ。
「むぅ、団長に睨まれるのはまずいの」
 ここ数日、研究のためにあまり剃っていない髭に手を当てつつ、青は考え……ある名案をひらめいた。
「ならばここは我らの魅力で団長に女人をあてがい、団長の好感を得ようぞ!」
「ナンパということでありますな」
 最近覚えてばかりの言葉をシラノは楽しそうに口にする。
「うむ、つまりはナンパじゃな! 団長のために我らが囮となって、合コンを盛り上げようではないか!」
(計画に無理がありますが、これで青が落ち着きを取り戻してくれるならば良いかな……)
 黒はそう計算し、ナンパに乗り気なシラノと青に賛成した。
「それではやることが決まったならば、早々に準備をすると良いだろう」


 一方、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)は雑誌の特集を見て、悲鳴を上げていた。
「いかん! 未来から来た人工生命体だとバレてしまった! せっかくカッティ達が、私が未来から来たことを黙っていてくれているのに!」
「……」
 そんなイレブンの様子を見て、カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)は小さく溜息をついた。
(頭の弱いところがあるからね、イレブン……未来から来た人工生命体、ねえ……かわいそうだから黙っててあげようかな。でも、この雑誌記者、イレブンの世迷い言を信じたのかな?)
 色々ツッコミたそうなカッティだったが、イレブンはそれに気づかず、雑誌を握りしめた。
「カッコつけてライトセーバーを持っていたのが見られたか! いや、これは好機! 教導団のイメージを良くするために、活動するとしよう!」
 そう決めると、イレブンは携帯を取り出して電話をかけ始めた。
「あ、もしもし、織機か?」
 イルミンスールの織機 誠(おりはた・まこと)に電話をして、イレブンは合コンの話をした。
 次に百合園の七瀬 歩(ななせ・あゆむ)にも電話して、パラ実のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)にも電話する。
「さて、これで少し人が集まると良いが……」


 ランキングには入らなかったものの、渋くてカッコいいと評判の高いセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)も合コンの参加を決めていた。
「これは自分が団長の力になるしかありませんな」
 教導団のナイスガイ(【自称】と本人は思っているが、それなりに認知されてる自称)であるセオボルトは自分のナイスガイオーラで団長の周りに女性を集めようとしていた。
 そして、セオボルトのパートナーである館山 文治(たてやま・ぶんじ)も合コンを盛り上げるべく、協力することを決めていた。
「ナイスダンディな俺がいれば、団長に女の一人や二人作るなんて余裕だぜ。いざとなれば団長が俺を抱っこすればオールオッケーだ。俺からにじみ出るダンディオーラで女を引きつけて団長を助けてやるぜ」
 文治はリス型のゆる族だ。
 身長45cm、体重5kg。
 ふわふわっとした尻尾をしていて、小さくてぬいぐるみのリスのようで、かわ……。
 文治が静かに銃を手にした。
「どうした?」
「いや、今、俺のことを可愛いとか、言いそうになった奴がいる気配がしたのでな」
 すみません。
 文治は気配が消えたのを確認すると、尻尾に銃をしまって、代わりに胡桃を出した。
「さて、では合コンに備えて、ゆっくり休むとするか。合コン当日は、セオに大人の男のダンディズムって奴を教えてやるぜ」
「ほう、それでは合コンの会場で、ナイスガイとナイスダンディのどちらが上かをはっきりさせたいものですな。まあ、勝つのは当然、自分でしょうが」
 セオボルトは魅力的ない笑みを見せてそれに答え、二人は部屋の電気を消した。


 マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)も合コンと聞き、気合が入っていた。
「自分が参加者一覧にいれば、女の子たちが合コンに来るに違いないであります」
 美しいばかりのピンクの弁髪。
 髪と同じ色をした凛々しいダリ髭と細い顎鬚。
 弁髪マリーと言えば、教導団だけでなく、他校にも知れ渡ったその容姿は、確かに、近くで本物を見てみたいと思わせるものだった。
 カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)は結いあげた髪からお菓子を取り出しつつ、マリーに尋ねた。
「合コンで声をかけられたらどうするのー?」
 その問いかけにマリーは高らかに笑った。
「ぶわーっはははっ! 守備範囲の広さはゴールデングラブ賞並のこのマリーに否応はありませんぞ。この弁髪の届くところ、髭がピクピク反応するところ、すべてお持ち帰りしてくれるわ!」
 意気揚々と宣言するマリーだったが、気にかかることもあった。
「すべては団長を思う故の役回り、ではありますが。自分の周りに人が集まってしまって、団長は座して待てども誰も来ず、かもしれませんな」
「そしたら困っちゃうね!」
「まあ、そうなったら、団長は側にいるマリーと、密かに想いを寄せてくれているサミュエルのありがたみを噛みしめて、くっついてるのが良いであろう。サミュエルもきっと喜ぶ」
 合コンが開催される前からオチまで決めて、うんうんとマリーが頷く。
「まあ、教導団でモテるというなら、自分であろう。夜の憲兵総監、変の百戦百勝将軍たるこのマリーが行くからには、団長も泥舟に乗った気分で安心すると良い」
 マリーはキレイに髭を整えて、合コン会場へと向かった。
 ちなみに変は誤字ではありません。