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リアクション
第一章 スタッフたちの交流
「楽しそうだね、イリーナ」
ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)の問いかけに、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が振り向く。
無表情にしか見えないが、同じ獅子小隊のウォーレンには表情の変化が分かるらしい。
「ああ、楽しいぞ。ずっと気になっていたけれど、なかなか一緒に行動する機会がなかった比島、クロス、ジェシカが一緒にスタッフだしな」
比島 真紀(ひしま・まき)、クロス・クロノス(くろす・くろのす)、ジェシカ・アンヴィル(じぇしか・あんう゛ぃる)の名前を上げ、イリーナは周囲を見渡す。
視線の先にはサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)を連れた真紀やイリーナと同じ技術科の一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)の姿があった。
「比島ってかなり早い時期にスナイパーの称号を得た人で注目してたんだ。ジェシカは宇都宮とラク族の街に行ってて……」
「イリーナはいろんな人に注目してるなあ」
顎髭を撫でながら、ウォーレンが笑う。
「変かな? デゼルやプリモ、黒乃、朝霧とかとも話せたらなあとか思ってるんだが。後はパラ実の藤原とか後輩の七瀬とか」
「忙しくってそれじゃ受付してられなくなるよ。でも、俺も団長も教導団も、来てくれる他校生だって皆だーいすきだぜ☆ だから気持ちは分かるよ」
ウォーレンはうんうんと同意して、イリーナと違う方に歩きだした。
「じゃ、俺は武闘会の裏方してくるぜ。またなー」
「ああ、クレアとかによろしく」
合コン受付組に挨拶をしつつ、ウォーレンは武闘会の会場整備に向かった。
同じく、アリーセもウォーレンに付いて行き、一緒に武闘会の準備に着手した。
「控え室の準備をしてきます。それが終わったら、会場整理の方をするので」
「了解。よろしくね、アリーセ」
片目をつぶるウォーレンに、アリーセは頷き、ちょっと首を傾げる。
「こちらの会場は大丈夫でしょうけど、合コンの方は大丈夫ですかね」
「大丈夫って?」
「いえ、合コンが失敗したら団長は傷つくかなと思って……」
アリーセは教導団には関羽という顔がいるから、無理して団長が目立つ必要はないのではと思っていた。
今日はその関羽が、どこかの島に行っていて、いないようだが……。
自分の思いをアリーセはそのまま口にしてみた。
「でも、団長が無理に目立つ必要はないと思うんです。目立つのなんて他の校長に任せておけばよいのです。裏方だって、目立たないけど大事な仕事ですよね。校長会議でもそうだったけれど、団長は地味で固くて個性が強くないかもだけど、きちんと仕事をしてるって思うんです。そういうのが重要だって、分かってくれるといいなって」
「アリーセが言うのちょっと分かるな。うん、でも、今回の会全体が失敗したら、もっと落ち込んじゃうと思うから。ここは俺らは頑張るとしよう」
「はい、ウォーレンさん」
アリーセは同意し、控室の準備と給仕に向かった。
合コンの準備が整い、受付が始まる。
蒼空学園から合コンに参加した友人の島村 幸(しまむら・さち)に手を振りながら、イリーナは一緒に受付をする二人に聞いた。
「比島とジェシカは合コンは本当に行かなくていいのか?」
イリーナの問いに真紀とジェシカは迷わず頷く。
「団長の合コン成功は祈っておりますが、恋愛沙汰には、自分は興味がないでありますので」
「以下同文、だね。影ながら団長の成功は祈るけど」
真紀のパートナーであるサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)も同じく頷く。
「お二人とももったいないであります、とってもカッコいいのに」
赤いチューリップのゆる族であるトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)がサイモンたちを見て、残念がる。
「あれ、トゥルペ、今までどこに行ってた?」
「うんちょう タン(うんちょう・たん)さんに会ってきたであります! それから、外にいたエクリプス・ポテイトーズ(えくりぷす・ぽていとーず)さんとか黄 明(うぉん・みん)……あ、コーメイさんと話してきたでありますよ。正直、団長さんよりみんなの方がキャラが……」
「トゥルペ」
イリーナは制止しようとするが、トゥルペは気づかずにしゃべり続ける。
「でも、あのランキングはおかしいであります。シャンバランが入ってないであります!我らがシャンバランなのに! ……と、あれ? どうしたでありますか、ジェシカさん」
「いや、なぜ参加者名簿を男女で分けているのか。考えていたんだ」
「それは男女の出会いの場だからですわ」
エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)の言葉に、ジェシカは目をパチクリさせる。
「男女の出会いの場……?」
「ええ、そうですわ。わたくしも本当は受付なんかじゃなくて、合コンに参加したかったですわー! 先ほどスタッフでお見かけした戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)さんには『少尉昇進おめでとうございます』言えたけど。南 鮪(みなみ・まぐろ)さんともお話してみたいですわー。あ、少尉と言えば曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)さんですね。校長会議でのご活躍が……」
楽しそうに語るエレーナの頭を、イリーナがバインダーで叩く。
「痛っ、痛いですわ、イリーナ」
「手当たり次第、声をかけない」
「縁ができなければ生まれる恋も生まれませんわよ? わたくしの夢は『幸せな家庭を築く』ですから努力しないと。……聞いてますの、イリーナ」
「悪い、ちょっと受付任せた」
イリーナはエレーナの話を遮り、小走りで受付を出た。
「レオン」
声をかけられ、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)が振り向く。
「ああ、イリーナは受付をしてるのか」
「うん。団長とお話してもいいんだが、サミュの団長だしな。だからせめてスタッフとして団長の役に立とうと思って。マティエがいると聞いて少し合コンに行きたくなったが」
イリーナはマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)の可愛さに心惹かれているらしい。
その言葉にレオンハルトはちょっと微笑みを浮かべた。
「後で時間があったら、マティエに触らせてでももらうといい」
「あ、うん……武闘会に行くんだったよな、レオン」
「そうだが?」
不思議そうな顔をするレオンハルトに、イリーナはちょっと迷いながら、背伸びをして、レオンハルトの頬にキスした。
「がんばってね。無茶しないでねって言っても無理だろうけれど」
「…………」
驚いたように目を瞬かせたレオンハルトだったが、少し屈み、イリーナの頬にキスを返した。
「なっ……!」
自分からしたにもかかわらず、イリーナが頬を上気させて照れる。
「やられっぱなしは性に合わん」
くすくすと笑いながら、レオンハルトは手を振って行ってしまった。
イリーナが表情を整えて受付の方に帰ると……ジト目をしたエレーナが待っていた。
「……イリーナなんて任務のためなら、自分の命すら何とも思わない血が蒼い冷徹職業軍人女のくせに、見送るような男性がいるなんて不公平ですわ……」
「は?」
「どうしました、エレーナさん。何か目が怖くなってますが?」
ジト目のエレーナときょとんとしたイリーナの間に入るように声をかけてきたのは、エレーナの友人である向山 綾乃(むこうやま・あやの)だった、
パートナーである佐野 亮司(さの・りょうじ)の姿が見えず、イリーナが周囲を見渡す。
「佐野はどうした?」
「亮司さんなら武闘会になんだかすごく気合いが入ってて、控室で集中してますわ」
「佐野さん、商人なのに武闘会に出るの?」
トゥルペが不思議そうな顔をする。
すると、そこにフリフリのワンピースを着た可愛らしい女の子がやってきた。
「すみませんー、受付いいですか?」
「あら、翼さん?」
可愛らしい女の子の隣に立つパーカー姿の麻上 翼(まがみ・つばさ)を見て、綾乃は不思議そうな顔をした。
翼と言えば月島 悠(つきしま・ゆう)のパートナーであるガトリングの花嫁のはずなのだが……。
イリーナがちらっとその女の子を見て、名簿に名前を書くためにペンを取る。
「名前を」
「ユーマ・ツキシ……です」
少し落ち着かなそうな態度で、ユーマは答え、周囲に気を配る。
「どうかしましたでありますか?」
真紀の問いかけに、代わりに張 飛(ちょう・ひ)が答える。
「関羽の兄者はおらんかのう。会いたくて来たのだが」
「関羽さんならば何とか島とかいうところに行ってるね」
サイモンの返事に、張飛は肩を落とす。
「そうなのか。ふむ、残念だのう。それにしても、兄者は団長と別行動できるのか。それは、うらやま……」
「翼」
システム的な禁句を言いかけた張飛の言葉を遮り、イリーナが翼だけに聞こえるように小声で囁く。
「その……翼がいると、バレるぞ? 少なくともうちの小隊のメンツには……」
バレるという言葉が漏れ聞こえ、ユーマがビクッとする。
翼はこっそりと楽しげにその様子を盗み見ながら、同じく小声でイリーナに返事をした。
「そうなんですよね、獅子小隊の人や関係者だけで10人以上いますからね。でも、ボクが一緒なのは受付までだから大丈夫です。後は……こちら次第で」
こちらという言葉と共に視線を向けられたユーマは、履きなれないスカートを気にしつつ、もじもじしている。
ニヤニヤとその様子を見ながら、翼はユーマを見送った。
「それじゃ、行ってらっしゃい。じゃ、ボクらは戻りましょう」
翼は不安そうなユーマを置いて、張飛と共に行ってしまった。
「……ああいう女の子っぽい格好をしてりゃ、良い女なんだがな……」
受付とユーマから少し離れたところで、張飛がポツっとそう呟く。
「知られるのを嫌がりますからねえ。でも、このままだと将来が心配ですから、女の子モードに慣れてもらうとしましょう」
一応、心配しているかのような口ぶりだが、なぜか翼の口元に笑みが浮かんでいる。
翼の意図に気づかず、張飛はうんうんと頷いた。
「生き残るためとはいえ、根が優しいから、本当は銃なんて持ちたくなかったのだろう。誰か女として傍に寄り添える相手がいればいいんだが、それに翼も……」
「ん、ボクも?」
「もう少し悠みたいになってくれりゃ良いんだが……って、翼、よせ、やめろ、おまえの光条兵器、それは洒落にならねーっての!」
いつの間にかガトリングを向けられていた張飛が悲鳴を上げる。
「ご存知でしたか? ボクのこの砲身って高速回転させて、疑似的にドリルとしても使えるんですよ。って説明だけじゃ分からないですよね。百聞は一見にしかずです。身をもって、知ってください」
「うぎゃあーーー!」
合コン会場から少し離れたところで、張飛の悲鳴が上がるのだった。
「……今の声は?」
アサルトカービンを手にしたジェシカが、悲鳴を聞き、注意を払う。
「気のせいか……?」
「どうなさったかな、お嬢さん」
「ん……わっ!」
声をかけてきたフリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)の大きさに、ジェシカはビックリした。
ジェシカが156センチと教導団の女性の中でも、背が低い方とはいえ、243センチというフリッツの身長が大きすぎるのだ。
90センチも身長差があると、種族が違う、という気分にさえなりそうだった。
フリッツは驚くジェシカの表情を見て、ちょっと気にしつつ、遠慮がちに声をかけた。「なにかあったのではないのか?」
「あ、いや、悲鳴が聞こえた気がして……。ところであなた様は……?」
教導団で最も人数が多い歩兵科に所属しているジェシカは、顔だけなら見たことのある人も何人かいる。
しかし、フリッツはその中に含まれていなかった。
「ああ、これは失礼を。我は秘術科のフリッツ」
「秘術科?」
「ふむ。珍しいのも無理はない。我とセオボルトと、誰かのパートナーしかおらん科だからな、秘術科は」
少し苦笑いを含んだ笑みを浮かべ、フリッツは話を続けた。
「しかし、面白い場所であるぞ、秘術科は。一番教導団らしくない場所に見えて、なかなかどうして、戦いに役立つ研究もしている。機会があったら覗いて見てくれ」
「は、はい」
「では、悲鳴とやらがしたところを見に行くか。不安は取り除いた方が良かろう」
「ありがとう」
ジェシカは礼を言い、フリッツと共に歩き出した。
(あれ……?)
先ほどエレーナが言っていた『男女の出会いの場』と言葉を思い出し、ジェシカはちょっと恥ずかしくなった。
(これってナンパ……なのかな?)
「どうしたであるか?」
「あ、いえ、なんでもないであります」
任務口調に戻り、ジェシカはフリッツと共に悲鳴の主を探しに行った。
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