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第二章 合コンの始まり

「ほう、可愛い子がいるじゃねえか」
 愛らしい猫型のゆる族マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)を見て、館山 文治(たてやま・ぶんじ)セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)の服を引っ張った。
「かわいい子でありますな。好みで?」
「おっと、勘違いはするなよ。大人の男があんなお嬢ちゃんに声をかけるなんてするわけあるまい? ただ、可愛いなってだけさ。教導団には10代もいるだろうから、喜ぶだろうと」
「……10代?」
「マティエは13歳だからねえ」
「お……」
 話に混ざってきたのは曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)だった。
「やあ」
 気軽にあいさつしつつ、瑠樹はマティエを紹介する。
「うちのマティエ。よろしくね。ゆる族同士だと年齢分かるんだねえ」
「あ、えと……りゅーきに頼まれて来ました」
 瑠樹に紹介され、マティエは丁寧に挨拶する。
「女の子が多い方がいいと思うし、場にいるだけでもいいからって言われて……。えと、合コンって男子と女子が仲良くなるためのお食事会……ですっけ?」
「概ね間違ってないぜ、お嬢ちゃん」
 文治はうんうんと頷き、マティエをエスコートした。
「では、嬢ちゃん、行くか」
「は、はい」
 マティエが付いて行くのを、微笑ましそうに見つつ、瑠樹はセオボルトと歩く。
「今回の合コンは男子ばかりが多いみたいだけど、まぁ、それもいいよなあ。交流と思えば楽しいし。こういうイベント、教導団だと珍しいし」
「そうでありますな。……と、あの人だかりの中にいるのは……?」
 教導団の男子に囲まれた二人の女の子がセオボルトの瞳に映った。
 イルミンスールの志方 綾乃(しかた・あやの)袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)の二人だ。
「え、は、はい。ありがとうございます」
 あちこちから声をかけられ、綾乃は困惑しながら、返事をしていた。
 恋愛に奥手な綾乃は、彼氏いない歴17年に終止符を打とうと、この合コンに参加したのだが、合コン会場に入ってすぐから大人気となった。
 教導団の男性と並んでも見劣りしない高い身長、97・67・87というナイスボディがまず目を引いたのだ。
「ぬぉははははは!おぜうさん方、『眼光の鋭い男性』に興味はありませんかな?」
 輪の中にいきなり飛びこんできたのは青 野武(せい・やぶ)だった。
 青の乱入に戸惑いながら、綾乃はなんとか答えようとする。
「ええと、眼光の鋭い男性を作る時もありますよ。初めてやったネトゲで作った3人目のキャラがそんな子で、眼光が鋭い黒髪黒眼黒衣の騎士って感じで」
「ほうほう、オンラインのゲームか」
 綾乃の話に、青は乗る。
「どのようなゲームであるかな?」
「えと、私が7歳の頃のゲームですから10年前なので、ライトニングドラゴンオンラインの……」
「ほほほう、それなら我輩もやっていたぞ。当時は青のドラゴンナイトだった」
「え!? 7人しかいないって言うあれですか?」
「うむ、研究の暇つぶしにちょっとやってみてな。まあ、10年前と言うと我輩はすでに25歳なのだが……」
「ど、どこのサーバですか?」
「ふむ。あれは……と、興味があるならば、座って話すといい。団長のそばで」
 自分の役割を思い出し、青が綾乃を誘う。
 ところが綾乃は大きな瞳をきょとんとさせた。
「団長って……どなたですか?」
「え?」
「綾乃、ほら、この教導団の団長じゃ」
 袁紹以上に鈍感さを発揮し、綾乃がつっこまれる。
「あ、ええと、金団長(きんとんちょう)さん、でしたっけ……?」
 空気が冷たく固まる。
「ふむ。知らぬ人にこそ、知ってもらわねば。行くとしようぞ!」
 しかし、空気が読めない青は、それに全く気付かずに、綾乃を案内する。
「は、はい。あのそうだ、霞が堰学園もやってたのですが、ご存知ですか?」
「我輩はあそこで生徒会役員をやっていたぞ」
「本当ですか!?」
 まさか趣味の合う人が見つかるなんて! と綾乃は楽しそうに青について行く。
 多分、この様子だと金団長に会っても、1分で記憶から抜けるに違いない。
「青がナンパに成功した……?」
 巨乳眼鏡っ子美少女を連れて行く青を見て、シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)が愕然とする。
「あ、青ができるならば私にも……!」
「なんじゃ、ぶつぶつ気持ち悪いぞ、そこのでかっ鼻」
「で、でかっ鼻!?」
 袁紹の言葉に、シラノはショックを受ける。
 しかし、それに構わず、袁紹はシラノにえらそうに命じた。
「そこをどくのじゃ、わらわは綾乃を追いかけねばならぬのでな」
「ん……お嬢ちゃん、小さな子がここに紛れ込んではいけないのではないか?」
「だ、誰がちびじゃ!! わらわは四代三公の名門袁家の本初であるぞ! 控えよ!」
「こ、これは失礼した」
 どこから見ても前髪ぱっつんロングの小さくて可愛いつるぺた女の子なのだが、シラノは騎士道精神を発揮し(?)、膝を折った。
「せ、せめてお詫びにこれを……」
 シラノは鞘に手をかけ、目にも留まらぬ早業で居合い抜きし、パッと花束を差し出した。
「いらん、野郎には興味ない」
 ふんっ、と顔を横に背けた袁紹だったが、女の子らしく花に興味を持ったのか、あるいはシラノに興味を持ったのか、ちらちらっとシラノを見ている。
「男に興味はないが……有用な『人材』なら歓迎し、『登用』してやっても良いぞ? おぬし、騎士のようじゃの。憎き髭を倒す役に立つかも知れぬ」
「憎き髭?」
「関羽じゃ。……と、綾乃は『関羽の付属品』のところにいってしまったのじゃったな。行くぞ、でかっ鼻」
「だ、だから鼻のことは……」
「うるさいのじゃ、さっさと行くぞ」
 袁紹に命じられ、シラノはすごすごと付いて行くのだった。