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リアクション
エルデの町で行われている豊穣祭。
そのメインともなる『食い倒れ祭り』が今、開かれようとしていた。
序章 星槍の巫女は誰と回る?
「此度は町の復興、そして豊穣祭の開催、おめでとうございます。本日は食い倒れ祭りなる催しが開かれているとのことで、何か手伝いをさせていただきたいのですが……」
町を訪れるなり、食い倒れ祭りへの参加とは別件で受付を担当している町民へと声をかけたのは、エルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)だ。彼の後ろのは、彼の兄であるエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)も居る。
「何だい兄ちゃん、祭りには参加しないのかい? ……じゃあ、町の中の見回りでもしてくれないか。祭りという雰囲気の中、テンションの上がった奴らが何か仕出かすことが多くてなあ……」
苦笑しながら、受付の1人――大柄な男が応えた。
「見回りですね。了解しました。ところで……祭りの優勝者への副賞に、エメネアと名乗る女性からの口付けがあるとか……」
「そうだよ。彼女自ら、副賞にどうだ、と言ってくれたらしくてねえ。ほら、あそこで、参加者にスタンプカードを配っている子みたいだよ」
エルシュがエメネアのことについて訊ねれば、男は受付の反対側を指してそう告げた。視線を向ければ、確かに、エメネアが参加を申し込んで来たカップルたちにスタンプカードを配っている。
「彼女のことなのですが……」
「ちょっと待ってくれ、呼んでやるからよ。おーい、嬢ちゃん、この兄ちゃんたちが呼んでるようだぞ」
話をしようと口を開くと、男はそれを遮って、エメネアのことを呼んだ。
「はーい、何ですかぁ?」
スタンプカードを配っていたエメネアは呼ばれたことに気付いて、カードの束を手にしたまま、やって来た。
「これは素敵なお嬢さん。お近づきの印にこれをどうぞ」
エメネアの姿を見たエースが、彼女へと近付くと、淡いオレンジ色の薔薇を1輪、差し出す。
「わあ、ありがとうございますー! 素敵なお花ですねー」
一瞬でぱぁっと笑顔になったエメネアは、喜びながらその花を受け取った。
「で、話って何だい?」
「何でしょう?」
男とエメネア、双方がエルシュとエースを見て、訊ねてくる。
エルシュはこほん、と1つ咳払いをすると改めて口を開いた。
「彼女は、槍は無くとも今でも『星槍の巫女』であり、軽々しくキスを与えてよい存在ではありません。ですから……」
「嬢ちゃん、何だか大層な人だったのかい?」
エルシュの言葉に、驚いた男が、エメネアの方を向いて問いかける。
「あ、あの……確かに、そうなのですが……わたしが悪いから、ちゅーを贈ることになってしまったんですー……だから、言ってしまったからには実行しないと、嘘をついてしまうことになるわけでー……」
問われてエメネアはしどろもどろになりながら答えた。
「ですから、誰かが彼女のキスを求めてきた場合、巫女の祝福を受けるに値する人であるかを確認するというのはいかがでしょうか?」
遮られた言葉の続きをエルシュが告げる。
「確認、ですかぁ」
「まあ……兄ちゃんがそれで納得するんならいいんじゃないか? どうだい、嬢ちゃん」
エルシュと男、それぞれに訊ねられたエメネアは首を傾げつつも、男同様、エルシュがそれで納得するのなら、と答えた。
「そして、見回りついでに、一緒に町を回りませんか? 優勝者が決まるまではお時間あるでしょう?」
訊ねれば、エメネアは確認するように男を見上げる。
男も行って来い、とエメネアを送り出してくれた。
「なんてね。色々言ったけどさ、要はキスは愛する人の為に取って置こうゼってことさ」
受付から離れると、エルシュは普段の口調でエメネアへと告げた。
「はわー……ありがとうございますー」
ぺこりと頭を下げ、エメネアは感謝を口にする。
「私たちもエメネアさんの助けになればと来たのですが」
そこへ声をかけてきたのはフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)だ。
「エメネア、君のちゅーを阻止するために、優勝しようと思ったのよ」
彼女の後方から、セラ・スアレス(せら・すあれす)がそう告げながら、姿を現す。
「3人で手分けして食べて回れば、優勝できるはずです!」
「フィルさん、セラさん! わたしのために、そのようなこと考えてくださるなんて……嬉しいですぅぅぅ」
今にも泣き出しそうな勢いで、エメネアが感激の声を上げた。
「俺たちも彼女をエスコートするつもりなのだが?」
フィルとセラの前に出ながら、エースが告げる。
見えない火花が、双方の間で散っているようだ。
「5人で回れば、よいのですよー!」
どちらも譲りそうにない様子に、エメネアがそう言うと、エルシュもエースもフィルも、そしてセラも納得したようだ。
こうして、エメネアは薔薇の騎士2人と、ともだち2人に囲まれて、祭りへと繰り出した。
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