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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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「待ってなさい、いまだ見知らぬ新種達よ!」
 木々を前に島村 幸(しまむら・さち)が大声で叫ぶ。瞳を爛々と輝かせ立ち並ぶ木々を見渡した。
「調べ倒してやりますよ!」
「島村さん、俺も手伝います」
 そう言って島村幸に近付くのは椎名 真(しいな・まこと)
「……でも周りの皆は人為的なものだと考えてるみたいだけど」
「いえ、まだわかりません! 環境的要因や病気や害虫による被害も併発しているかもしれませんからね。調べますよ!」
 意気込む島村幸は【博識】を使用。木々に駆け寄る。慌てて椎名真も【博識】を使い追いかける。
 椎名真を待たず、島村幸は手近にある木に手をかけた。
「サンプルを採集しないといけませんね」
 眼鏡をきらりと光らせ、携帯電話を手に取る。
「ピオス先生、サンプル集めて送りますから、指示と分析よろしくお願いしますね!」
『仕方ねーな、手伝ってやるよ』
 電話の向こう、図書館の入り口にいるアスクレピオス・ケイロン(あすくれぴおす・けいろん)が応えた。
「せっかくですから、色々サンプルをとらないと……あ、あれなんかどうでしょう?」
 島村幸は電話をそのままに落ちた枝を拾い、にんまりと笑う。手には刀。
「ふふふっ……解剖実験ですよね!」
『夢中になるのはいいけどよー……無事な樹木まで切り刻むなよっ! 絶対切り刻むなよっ! お前の何倍も生きてきた大先輩なんだからなー!』
 電話の声を半分聞き流しつつ木を刻み観察する。終始恍惚とした笑みを浮かべて細部を見逃さぬよう覗きこむ。
「えーと、サンプルに欲しいものは葉と虫と根と土でしたっけ?」
『ああ。消えた木とその他の木を比べたたいな』
「わかりました。追々データを送りますね」
 通話を終えると、やっと追いついた椎名真が島村幸の肩を叩いた。
「なにかわかりました?」
 木の枝を観察しつくした島村幸は満足そうに頷く。
「木の構造は下界のものと大差なさそうです。葉は針葉樹のようですね……根は……」
「あ、あと必要な情報ってなにかなー……俺に出来ることってあります?」
 携帯電話のカメラ機能を使用し再び自分の世界に入りつつある島村幸に慌てて声をかける。島村幸は手を止め、首を傾げた。
「そうですね……じゃあ、あの辺を調べてください」
 そう言って示されたのはやや離れた位置の木だった。
「サンプルの資料を数種類集めたいので、お願いします」
 頷いて、小走りで移動する……と、足に何かがぶつかった。
「おおっと」
 躓いて慌てて止まる。足元に背の高い雑草と、それに埋もれた切り株があった。
「これ、すごい樹液だ」
 目前の切り株からは湧水のように溢れた樹液が流れ、地面に染みだしていく。
「まだ固まっていない……ということは、切られて間もないのかな?」
 触れてみる。べたべたとした感触の液体。樹液であることは間違いない。周囲の土にまで浸み出している。土は湿り気を帯び、そのまま畑の土になりそうなほどの柔らかさだ。
「切り口も見たいところだけど……樹液にまみれてよくわからないな……」
 そう言って首を傾げた。これだけ樹液が出るのなら、虫が集まってきてもいいはずなのに、その様子はない。
「とにかく、知らせた方がいいかな。島村さん!」
 大きく手を振ってから、手招きする。
「何か見つけましたか!?」
 嬉しそうに駆け寄ってくる島村幸の背後に、影。
「危ない!」
 椎名真が反射的に【雷術】を拳に纏わせ、殴る。近づいてきた影……大ダンゴムシに直撃しひっくり返った。
「今は調査の邪魔だから、ちょっとどいててね……!」
 体勢を立て直そうとじたばた足を動かす相手に反撃の暇を与えず蹴りを繰り出す。堪らず後退する大ダンゴムシ。……と、さらに影。
 姿を現したのはまだ小さなコカトリス……幼コカトリスだ。それに応じるため、全身全霊の力を拳に込める。
「いくよ、左之助兄さん直伝――気合の一撃っ!!」
 叫んで【ヒロイックアサルト】「気合いの一撃」を放つ。槍の突きに似た鋭い拳の一撃が幼コカトリスの首に直撃。
 叫びを上げる間もなく幼コカトリスが気絶する。
「これで邪魔者はいなくなったね」
 手を払い、島村幸を振り返る。
「お疲れ様です。この樹液の画像はピオス先生に送っておきましたよ」
 島村幸は撮影した画像を示し、視線を下げた。ふと、足元にうごめく物を発見。途端に瞳を輝かせる。
「この虫、新種かもしれません! やっぱり来た甲斐がありましたね!」
 針のように細い緑の体に小さな足が六本ある謎の昆虫が、島村幸の手中におさまっていた。と、再びその背後に近付く小さな影。
「! 次が来る……」
「待ってください!」
「少し観察してみましょう!」
 再び椎名真が構えたところで本郷翔と御凪真人がやってきた。
「もしかしたら魔物が集まる原因はここにあるのかもしれません」
 二人の言葉に頷く椎名真。新種の虫に浮かれる島村幸を引きずりつつ近くの茂みへと隠れる。
 ひょこひょことやってきた魔物……マンゴラドラが切り株へと一直線に進み、小さな手で樹液を掬った。
『幸、わかったぞ』
 アスクレピオス・ケイロンからの電話に島村幸が応じる。
「なんですか、ピオス先生?」
『その木はノコハリギという針葉樹だ。資料とサンプルを比べてみたが健康と言えるだろう。そして、樹液のことだが……』
 一度言葉を切って、続けた。
『最近の研究だと、魔物の一部に樹液を糧としている奴がいるらしい。あとは……香りが魔物のフェロモンに似ている可能性がある』
「可能性ですか?」
『ああ。このあたりはまだ研究中のようだな』
「わかりました……すると、魔物はこの樹液を目当てに集まっているのですね……」
 やや残念そうに言う島村幸。と、足音が二つ近付いてきた。
「怪しいロボット発見したよー」
「どうやらこのロボットが何者かの指令を受けて木を切っていたみたいです」
 清泉北都と影野陽太、やや遅れてソーマ・アルジェントが走ってきた。木々の調査によって判明した情報が全員に知れ渡る。
 椎名真は自分の携帯電話を取り出し、アドレス帳から番号を選んで、かけた。
「ケイさん、俺達、答えを一つ見つけたみたいです!」