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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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●第二章 増えゆく魔物の行方

 晴れて輝く冬空の下。
 溜池キャンパスへと登校してくる集団があった。
 マンゴラドラ、大ダンゴムシ、サハギン、幼コカトリス。
 群れをなして校内に足を踏み入れる魔物達だ。
「……それでは、参ります」
 朱宮 満夜(あけみや・まよ)は集中。呪文を唱え、一番前方にいるマンゴラドラへと【火術】を放つ。
 甲高い声を上げ、球根の魔物は火に焙られ消し炭となる。
 そこへ【アシッドミスト】が放たれた。朱宮満夜が振り返る先にはミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)がいた。
 次の魔法を繰り出そうと魔物を選んでいる。
「負けませんよ」
 再び集中。サハギンへと【雷術】を向ける。小柄なものに直撃し、感電してひっくり返った。
「いつもいつもミハエルに頼ってばかりじゃいけませんものね。私だって、やるときはやりますから」
 言って魔物を見遣る朱宮満夜の背後で、ミハエル・ローゼンブルグが腕を組んだ。
「まぁ満夜がいつまでも足手まといでは困るからな。ここらで満夜の実力とやら、見せてもらおう」
 持ってきていた箒を取り出し、やや高い位置に移動。朱宮満夜に近付く魔物に向け【氷術】を立て続けに放った。
 前進を続ける魔物の群れが崩れる。
「手助けは無用です。炎よ!」
 呪文を素早く唱え【火術】を紡ぎ立て続けに放つ。足止めされたマンゴラドラ達は紅蓮の炎に覆われ、灰となり消えていく……。
 長い黒髪を振り、朱宮満夜が向かって右側の魔物の集団へ【アシッドミスト】を放つ。
「よし、効いているようだ」
 上空から見守るミハエル・ローゼンブルグの瞳に、朱宮満夜へと飛びかかるマンゴラドラの姿が目に入る。
「……やはり足手まといだな」
 舌打ちして【火術】を繰り出そうと呪文を唱える……と、魔法を発動する一瞬前に【氷術】がマンゴラドラを撃った。
「言ったでしょう? やるときはやるって」
 マンゴラドラ達に応じる後ろ姿が得意げだ。
「まだまだこれからだ。油断するな」
「当たり前です」
 その言葉を合図にミハエル・ローゼンブルグが【アシッドミスト】を飛び上がって近づいてくるマンゴラドラに放つ。弱体化したところで朱宮満夜の【火術】が炸裂。甲高い叫び声が炎の中にかき消えていく。それをすり抜けた幼コカトリスの足元に向けミハエル・ローゼンブルグが【氷術】を放てば朱宮満夜が【氷術】を重ね、さらに【火術】を放って急激な温度変化による弱体化を図る。
 正門から堂々と入ってくる魔物の群れは、二人の攻撃で数を減らしてゆく……。

「新しく手に入れたこの力、試させてもらうよ!」
 校門よりもやや後方で黒と白の魔法書を取り出す少女、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が叫ぶ。
「黒の書よ……我が声に応えその姿漆黒の竜と化せ!」
 呪文を完成させ、黒い魔法書へ意識を集中させる……が、反応はない。
「? おかしいな……。こっちはどう?」
 白い魔法書に向き直り、呪文を紡ぐ。
「白の書よ……わが思いに準じその姿純白の竜と化せ!」
 声を張り上げる。しかしいくら待っても魔法書が変化する気配はない。
「この魔法書じゃ駄目なのかな……それとも私の魔力が足りないの?」
 以前逃亡した古代魔法書のように、魔法書を紙ドラゴンに変化させようと考えたのだが、魔法書は沈黙したままだ。
「仕方ないな……紙ドラゴンを使うのは諦めよう」
 深く息をつく。その間にも幼コカトリスが近づきつつあった。
「落ち込んでる場合じゃないよね。行くよっ!」
 気合いを入れ自身を奮い立たせて、魔法書を傍らに置いた。精神を研ぎ澄ませ【氷術】を放つ。現れた氷塊はコカトリスの羽を撃つ。
「まだまだ!」
 猛る鳥に向け【氷術】を立て続けに放つ。……と、幼コカトリスの鋭いくちばしが如月玲奈を突いた。
「! 動けないっ?」
 呪文を紡ぎ手を上げた状態で固まる。石のように体が重く、手足を動かすことができない。その背後に不審な音が近づきつつあった。
 大きなエンジン音。【光学迷彩】を使用しているのか姿はないが、音でその存在を感知できる。
「ここを動かなきゃ……」
 強い意志を持って手足を動かす。と、糸が切れたように手足が元の感覚を取り戻した。
「よかった……一時的な物なんだ」
 安堵もつかの間、エンジン音は背後に迫っていた。
「Knight Riderはゲッコーでいきます!」
 姿を見せぬまま【バーストダッシュ】を使用したゴザルザ ゲッコー(ござるざ・げっこー)が魔物の群れに突撃。
 驚いて明後日の方向へ逃げる幼コカトリスやバイクの下敷きになって気絶するマンゴラドラが多数。突撃の効果は少ない。
 ゴザルザ ゲッコーは突っ込んだ勢いのまま進み朱宮満夜を掠める。
「危ないですよ!」
 叫ぶ声はゴザルザ ゲッコーには届かず今度は如月玲奈の横を掠める。
「ちょっと、魔法書を轢かないで!」
 怒号はゴザルザ ゲッコーに届かず、木にぶつかる直前でエンジン音が停止した。
「ふう……あぶなかったでござる」
「こっちのセリフだよ!」
「危険運転反対です!」
 汗を拭うゴザルザ ゲッコーに如月玲奈と朱宮満夜が怒鳴った。