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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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第3章 嘲笑う探求者

 オメガを探すどころか道に迷ってしまったカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、自分と同じ容姿のドッペルゲンガーに遭遇してしまった。
「生徒たちに手紙を出して、この森へ誘い出した黒幕がいるんじゃない?キミ、知らないかなぁ?」
 純粋な知的好奇心から興味を持ち、ドッペルゲンガーのカレンに話しかける。
「そんなやつ知らないなぁ」
 答える気がないのかそっけなく言う。
「(自分の得しか考えていないようなヤツらが素直に答えると思えないのだよ・・・)」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)はドッペルゲンガーと軽々しく会話するパートナーの行動に頭を抱える。
「ボクと代わってくれたら教えてあげてもいいけど?」
 もう1人のカレンは上から目線の物言いをする。
 代われということは、ダイレクトに言うと“死ね”ということだ。
 余生を奪って生きることしか考えていない存在にとって、生かしておく利点や意味がない。
 そのことにまだ気づいていないカレンは少し考えてみる。
「うーんじゃあ質問を変えるよ」
 結局取引に応じずに質問内容を変えた。
「キミたちは一体どうやって生まれてきたの?」
「―・・・どうしても知りたい?」
 もったいつけるように数秒ほど間を空け、カレンの方を見て言う。
 好奇心に目を輝かせてカレンは何度も頷く。
「ボクたちはこの森の・・・そこら辺から生まれたんだよ」
「へっ・・・どいうこと?」
「つまりそっちの世界でいう、生む親とかがいないってことだよ。キミたちが生まれた瞬間、ボクたちが生まれたんだよ」
「へぇえ〜そうなんだぁ」
「そしてキミがもしもここの外で死んだとしたら、同時にボクの死を意味する。だけどキミがここに来て命を失うと、その残りの余生をボクがもらって外へ出られるんだ」
 カレンと違い小生意気な雰囲気で喋っていた少女の目の色が、獲物を狙う目つきに変貌した。
 危機感を察知したカレンはあわてて質問を変える。
「えぇっとじゃあ・・・今度はボクたちのところについて教えてあげるよ。世界には同じ顔の人間が3人いるって言うけど、もう1人別の場所にキミみたいなのがいたりして」
「同じといっても顔だとかその程度でしょ?知識のレベルまで同じだとかそいうのじゃなきゃ興味がないな」
 まったく知らないことに興味がないのか、目で見て確認出来ない情報はいらないという態度をとる。
「こんな暗い森の中にずっといたら、退屈だよねぇ。たまになら代わってあげてもいいんだけど・・・でもキミ、2度と元に戻ってくれないでしょ?」
「どうしようかなぁー・・・。そんじゃあちょっと遊びに行かせてくれたら戻るよ」
「本当?」
「うん本当だよ」
 表情を一変させてニコッと笑いかける。
「それじゃあまず、冷気で仮死状態になってもらおうかな?」
「うぅーんそれはちょっと・・・」
「だってそうしないと出られないんだよ。大丈夫だって、苦しくしないから」
 説得しようとするドッペルゲンガーに、カレンはしぶしぶ受け入れた。
 アルティマ・トゥーレの冷気で彼女の身体を凍てつかせていく。
「―・・・本性を現したようだな!」
 ニヤリと口元を笑わせる怪しげな笑みに気づいたジュレールが轟雷閃を放ち止める。
「もう少しだったのに」
「2人がかりなら後は簡単だったのだよ」
 カレンを始末した後、ドッペルゲンガーのカレンとジュレールは、彼女を2人がかりで仕留めようと企んでいた。
「ボクは今の自分に満足してないけどさ、それはまだボクの出会えてない楽しいことが、向こうの世界でたくさん待ってるからなんだ!」
 妖刀の柄を握り締め、アルティマ・トゥーレの冷気を纏った刃で左片手一本突きを繰り出す。
 傷つを負わせた斬り口から凍りついていき、偽者のカレンはあっとゆう間に氷像のように凍りついた。
 ジュレールはありったけのSPを使い、自分のドッペルゲンガーへ轟雷閃の雷光を纏った刃で斬り刻む。
「無駄口が仇となったようなのだよ。・・・とはいえ・・・一瞬でけりをつけるために、SPを切らせてしまったようなのだ」
 剣を鞘に納めながら、疲れたようにため息をついた。



 クリスタルを破壊しようとニコラス・シュヴァルツ(にこらす・しゅう゛ぁるつ)は探し歩きながらオペラグラスを覗き込む。
「こうすれば見落とさないはずだよ」
 つまずいて転ばないようにゆっくりと進んでいく。
「(助けるのに協力したいのはわかるが・・・大丈夫だろうか)」
 アイン・シュルツ(あいん・しゅるつ)の方はパートナーが心配でついてきた。
 彼女を守るのは“守るのは自分しかいない!”という理由からだった。
「―・・・誰かこっちにくるよ」
 オペラグラスの向こう側に、数名の生徒たちが見えた。
「同じ目的かもしれないから声かけてみようか?」
「おっおい、待て!」
 生徒たちの方へ行こうとするニコラスの襟を掴んで止める。
「何で止めるの?」
「おまえって・・・ばか・・・。ドッペルゲンガーだったらどうするんだ!」
 叱られた彼女はしゅんとしてしまう。
「えっと・・・まぁなんだ。もしもそうだったら危ないからな、少しは警戒したほうがいいということだ」
 沈んだ顔をするニコラスに、助言するように言う。
「うん、気をつけるよ」
 怒っていないと分かった安心した彼女は安心してニコッと微笑む。
「わ・・・分かればいいんだ・・・分かれば・・・・・・」
 可愛らしい彼女の笑顔に、視線を逸らしてアインは照れ隠しする。
「さっき見えた生徒たち、まだ近くにいるのか?」
「ちょっと間ってね・・・。うん、いるよ」
 オペラグラスを覗き込んで位置を確認する。
「何か話してるみたい・・・」
「少し近づいて話の内容を聞いてみるか。もしかしたら本当にクリスタルを探している生徒たちかもしれないからな」
 足音を立てないよう慎重に近づいていく。
「異変を解消したら脅威も消えるよ。戦闘は避けて進もう・・・」
 どこに潜んでいるか分からないドッペルゲンガーと戦闘を避けるため、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が小声で話す。
「―・・・どうやらオリジナルのほうの人間みたいだな」
 木の陰に隠れて様子を窺っているアインはヒソヒソ声で言う。
「じゃあ近づいても安心ていうこと?」
 ガササッと草むらの中から出て、ニコラスはアインの手を引っ張ってルカルカたちの方へ駆け寄る。
「襲撃か!?」
 ドッペルゲンガーが不意打ちを仕掛けてきたのかと、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は鞘に納まっている剣の柄に手をかけた。
「うわっ待て!オリジナルのほうか確認しろ!」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が柄から剣を抜こうとするダリルの手を止める。
「こんなところだから警戒するのも分かるけどな・・・」
 誰が本物か分からない状況の中、緊張の糸が途切れた夏侯 淵(かこう・えん)はどたばた劇にため息をつく。
「あなたたちもクリスタルを探しているの?」
「そうだよ、アイン様と一緒に来たんだ」
 ルカルカの問いかけにニコラスは頷いて答える。
「この森は危険がいっぱいだから、一緒に行動しましょう」
「うん!」
 嬉しそうにしている彼女の傍、アインは不安そうな顔をする。



「くふふ・・・ドッペルゲンガーの森・・・・・・なんだか面白そうな場所だね」
 噂を聞きつけてやってきたニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)は、探究心に目を輝かせ周囲をキョロキョロと見回す。
「走り回って逸れないでくださいよ!」
 ユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)が遠くの方で駆け回るニコに大声で注意する。
「まったくあんなにはしゃいで・・・」
 ニコに対するユーノの保護者ぶりに磨きがかかっていた。
「ねぇねぇユーノ、面白いの見つけたよ」
「えっ・・・ニコさん今あっちに行ったような・・・」
 恐る恐る振り返ると、笑顔でハーフムーンロッドを向けるニコの姿があった。
「ボクさ・・・もっといろんなこと知りたいから外へ行ってみたいんだよね。だから・・・まずは守りから消しておこうかと思ってね」
 ドッペルゲンガーのニコが至近距離からユーノへ雷術を放つ。
「うぐぁあああ゛っ!!」
 バチチィイイッ。
 凄まじい雷光がユーノの身体を駆け巡り、後方へ飛ばされ草の上に転がる。
「あれ?上手く仕留められなかったようだね。苦しまないように一瞬で逝かせてあげようと思ったんだけど」
 クスクスと冷ややかな笑みを浮かべ、地面に転がるユーノに近づいていく。
 体中の痛みを堪えて立ち上がり、鞘からライトブレードを抜いた。
 ダンッと土を蹴りいっきに間合いを詰める。
「ユーノ・・・僕を殺すの?」
 せめて楽に死なせてやろうと、心臓を刺し貫こうとする剣の刃をピタッと止めてしまう。
 怯えた顔をするドッペルゲンガーに、躊躇してしまった。
「なぁんてね♪くふふっ・・・消えなよ、マヌケ」
 手の平をユーノの顔へ向けて火術を放つ。
 もう駄目だと思った瞬間に突然、冷気の風が吹き荒れる。
「ちょっと!僕を守る役目なのにどうしてピンチになっちゃっているのさユーノ!」
 本物のニコの氷術により火術が一瞬にして消火されたのだった。
「協力するなら後で代わってあげたりしよかと思ってたのにね(半分冗談だけど・・・)。今まで研究したこととか全部教えてあげるし、おもちゃも貸してあげようと思ったけど。その様子じゃあ交渉の余地はないようだね」
 自分の欲しかない相手と交渉の余地はないと分かり、残念そうにため息をつく。
「決めた・・・キミを研究対象にするよ」
 ニコはターゲットに向かって雷術を連発させる。
「自分と遊ぶのってなんか不思議な感じ!色々試してみたかったんだ〜!」
「―・・・遊ぶ・・・?その言葉・・・後悔させてあげるよっ」
 魔術士としての実力をなめられたと思ったドッペルゲンガーは、瞳に怒りを宿し火術を放つ。
 ズドォオオオーーンッ。
 雷術と火術がぶつかり合い、爆煙が巻き起こる。
「ユーノ、ぼさっとしない!補助!!」
「あ・・・・・・はい!」
 禁猟区を発動させ、ニコの周囲に魔法陣の結界を出現させた。
「もらったぁあっ!」
 結界の影響でドッペルゲンガーの術の威力が弱まり、温くなった炎の中へ突っ込み雷術をくらわす。
 断末魔を叫ぶ間もなく、偽者の身体は灰となった。
「あーっ楽しかった♪」
 自分と同じ姿した者に対して、何の躊躇もなく倒したニコは遊びを楽しんだ子供のような笑顔になる。
「やりましたねニコさん」
「あっそうだユーノ、僕に何か言うことない?」
「何かって・・・・・・何ですか?」
「まだちゃんと言ってくれてないじゃないか」
 思い出さないユーノに対し、ニコはムスッとした顔をする。
「―・・・あ・・・・・・!さっきは助けてくれてありがとうございました」
「うんっ、それでいいんだよ」
 ドッペルゲンガーの魔法から助けてくれた礼を言うユーノに、彼は満足そうに笑う。
「そんじゃあクリスタルでも探しにいこうか!」
 もう1つの研究対象のクリスタルを探そうと、ニコたちは再び森の中を歩き始めた。



「見つからないわね、クリスタル・・・」
 歩き疲れたルカルカは、ぐぅーっと背伸びをする。
「何かキラキラしたのが見えるよ」
 遠くを見ようとオペラグラスを覗き、ニコラスが何かを見つけて小さく声を上げる。
「俺様たちが探している物かもしれないな」
「歩きづらい・・・」
 早く確認したいのにニコラスは背の高い草に阻まれ、なかなか前へ進めない。
「(やれやれ仕方がないな)」
 アインは彼女の前を歩き、草を踏みつけて歩きやすいようにしてやる。
「あったー!」
 ニコラスがキラキラと輝くクリスタルのところへ走っていく。
「奇麗・・・。ね、ちょっち持って帰ったらダメ?」
 もって帰りたいというルカルカにダリルは首を左右に振り“駄目”と仕草をする。
「壊しちゃうのもったいないけど、しかたないわよね」
 破壊しようとルカルカは高周波ブレードの刃を向ける。
「あぁ〜、待ってぇえーー!!」
 クリスタルを研究しようと探していたニコが全力で駆け寄ってきた。
「はぁ・・・はぁ、よかった間に合ったよ。壊す前にちょっと見せてもらっていい?」
「いいけど・・・」
「やったね♪それじゃあさっそく・・・」
 ニコはクリスタルの形状や材質を調べる。
「これがドッペルゲンガー発生装置なのかな?それとも違う何かかな・・・うーん・・・・・・」
 片手を口元に当てて考え込む。
「もし作り出されたんじゃなかったら、生み出す原因となる元があると思うんだけどねぇ」
「私たちという存在し始めた頃からいるとすると、自然的な感じがしません?」
「ドッペルゲンガーがここで生まれて育ったていうこと?」
「えぇ仮説ですけど」
「ふむ・・・なるほどねぇ・・・」
「そろそろ壊しちゃっていいかしら?」
「あっ・・・うん」
 夢中で分析しているニコに、遠慮がちにルカルカが壊していいか聞く。
 音速を越えた乱撃ソニックブレードの刃風でバラバラに砕く。
 砕かれた破片はキラキラと輝きながら消えてしまった。