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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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第8章 その身にとり憑く亡霊

「うわ・・・いかにも変なのが出そうな森だー・・・」
 合わせ鏡から森へやってきた佐伯 梓(さえき・あずさ)は、ディテクトエビルを発動させ襲撃されないか警戒する。
「誰の仕業かも何が目的かも分かりませんが、とにかく脱出することが先決ですね」
 梓と一緒に行動しているカデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)は脱出しようと、クリスタルを探し歩く。
「近くに何かいるな・・・」
 術の能力で感知した梓は足を止めた。
「出ると思ってると余計に寄ってくるんですよ」
「そんなこと言われたってなぁ・・・」
 抗議するカデシュに遭遇してしまったものは仕方ないと言い返す。
「ドッペルゲンガーでしょうか」
「どうだろうな・・・ゴーストのほうかもしれないぞ」
「憑かれたら洒落になりませんよね」
「こんなところにいられるかー。俺は部屋に戻るぞ!」
 さらっと言い放つパートナーに、たまらなくなった梓は逃げようと走り出そうとする。
「―・・・逃げ遅れちまったようだな・・・・・・」
 睨み殺すような気配を感じ、背筋がゾッと凍りつく。
「アズサ・・・逃げ・・・・・・て・・・」
「カデシュ?」
 パートナーの方へ顔を向けると身体をブルブルと震わせ、視線の焦点が合わなくなった彼はドサァッと草の上に倒れてしまった。
「おい・・・カデシュ。しっかりしろよ、おいってば!」
 カデシュの身体を抱きかかえて必死に呼びかけるがまったく返事をする気配がない。
「一体どうしたっていうんだよ!―・・・・・・カデシュ?」
 目を開き意識を取り戻したかと思うと、いきなりガシッと梓の掴む。
 彼の首を掴むカデシュの瞳の色は正常ではなかった。
 たちの悪いゴーストに憑かれてしまっていた。
「げほっげほっ!まさかカデシュ・・・ゴーストに?」
 手から逃れた梓はカデシュから離れる。
「フッフフ・・・」
 彼は不気味に笑い、フェイスフルメイスを振り回して梓に襲いかかった。
「手荒なまねできないしな・・・あぁもうっ、どうすりゃいいんだ!?」
「アーッヒャヒャヒャ!!」
「やっやめろカデシュ、目を覚ましてくれぇえ」
「トマトみたいにベチャッと潰れちゃってくださいよぉ」
 梓の呼びかけに応じず、メイスを振り回し続ける。
「冗談じゃない、こんなところで死んでたまるか!」
 隠れようとブチブチ草を引き千切り頭から被って隠れた。
「どこですかぁーアズサ〜。出て来てくださいよー」
 ゴスッ・・・ベキベキベキッ。
 手にしているメイスでカデシュが木を殴り倒す。
「あぁもうっしょうがな・・・。俺はここだカデシュ!」
 梓は意を決してガサッと立ち上がる。
「そぉんなところにいたんですかぁ。いっひひひ〜、今潰しに行きますよー」
 自分自身にパワーブレスをかけ、ブゥウンッと力いっぱい振り下ろす。
「わっひゃひゃひゃ!!」
「悪いなカデシュ・・・こうでもしないと止められないんだ!」
 他に手段を思いつかなかった梓は最終手段をとり、気絶させようとパートナーに向かってサンダーブラストを放つ。
 バチチチィイッ。
 感電したカデシュの手からメイスが滑り落ち、再び草の上に倒れて気を失った。
「―・・・ごめんなカデシュ・・・」
 気絶した彼を背負い、梓はクリスタル探しを始めた。



「これで天気が良ければ昼寝に完璧なんだけどなぁ」
 真っ暗な空を見上げて五月葉 終夏(さつきば・おりが)が呟く。
「天気がよくともゴーストとドッペルゲンガーがいるような場所で眠れないだろう」
 ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)はため息をつき、ツッコミを入れる。
「フラメル止まって!」
「どうしたのだ?」
「―・・・隠れて」
「何も気配を感じないが・・・」
「いいから早くっ」
 禁猟区の結界内に禍々しい存在が足を踏み入れ、感知した終夏はニコラの腕を掴み草陰に隠れた。
 息を潜めて音を立てず、じっとしているとナラカの死者がズルズル足を引きずりながらやってきた。
 終夏たちがいる場所でピタッと止まり、何かを探すようにキョロキョロと周囲を見回す。
 隠れている彼女たちの場所を探しているようだった。
 見つけられなかった死者は、進み始めたかと思うとスゥッと姿を消してしまう。
「行ったみたいだね・・・」
 結界の警戒反応が消え、終夏はほっと安堵の息を漏らす。
「そこに・・・誰かいるの?」
 どこからか恐怖に震える声音が聞こえてきた。
「いるよ・・・・・・もしかして森に引き込まれちゃった生徒?」
「―・・・そうよ・・・」
「よかった・・・見つけられなかったらどうしようかと思ったよ」
「今そっち行くね」
 木の上に隠れていたイルミンスールの生徒が降りてきた。
「大丈夫?どこか怪我とかしてない?」
「えぇ大丈夫よ」
「数日前にここにきたのかな」
 森に入る前に入手しておいた行方不明者の写真と照らし合わせて確認する。
 女子生徒の容姿は写真と比べてだいぶ衰弱していた。
「他の人も探しに行かなきゃいけないから、もう少しここで隠れていて。念のため禁猟区の結界をはっておくから」
「ありがとう・・・」
「それなら危険が迫った時に戻ってこれるな」
「じゃあ、また後でね」
 終夏は女子生徒へ片手を振り、他の生徒たちを探しに向かった。



「なんだかクリスタルを壊さないと皆外へ出られないみたいね」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は薄暗い森の中、外へ出るためにクリスタルを破壊しようと探していた。
「ねぇ・・・念のために光条兵器を渡しておいて欲しいんだけど」
「へっ。せっかく大手を振って遊べそうなチャンスなのに、みすみす光条兵器を渡すわけねーだろ?」
 フンッと鼻を鳴らしアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)はパートナーに渡してなるものかという態度をとる。
「じゃあな、生きてたらまた会おうぜ?」
 その場にリカインを置き去りにし、1人で森を進んでいく。
「(バカ女と一緒だとうるせぇから、俺は先に行かせてもらうぜ!)」
 ズンズン進んでいくと、沼の前でイルミンスールの生徒がぽつんとたたずんでいた。
「おい、そんなところで何やってんだ?―・・・返事くいらいしろよ!」
 男子生徒の肩を乱暴に掴み、無理やり振り向かせるといきなり火術を放たれた。
「うわぁちぃーっ、何しやがるんだ!うおぁあっ!?」
 アストライトが反論すると再び火術を放たれる。
「ほぉう・・・もしかしてドッペルゲンガーか?ちょうどいいぜ遊んでやるよっ」
 ブレードトンファーの形状をした光条兵器を手に、嬉々として挑みかかる。
「あんなところに・・・。どうやらドッペルゲンガーと戦っているようね」
 アストライトを見つけたリカインがパワーブレスをかけてやった。
「・・・これはパワーブレス・・・余計なことしやがって」
 表面上の皮膚を傷つけず、ターゲットの臓器へ直接損傷を与える。
 グシュアッと体内の臓物を潰していく感覚が手に伝わってくる。
 口から大量の血を吐き倒れる相手に、ヒールをかけてから止めを刺してやろうとするが、めちゃめちゃになってしまった臓器は治せなかった。
「ちっ、もっと楽しもうと思ったのによぉ」
 不服そうに言い、止めを刺した。
「よかった・・・あまり強い相手じゃなかったようね」
 木の陰から見守っていたリカインはほっとする。