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リアクション
地面に大きな黒い穴が空いている。
「女帝を倒せば皆は街に戻ってこれるよ」
黒ウサギとアイリスの周りには、人だかりが出来ている。
「メンドクせぇが…大切な相棒だ!助けねえとな!後、女帝気にくわねぇ、痛い目見せようか」
パートナーを取られた洋兵が、穴の中に飛び込んだ。
2祝賀パーティの前夜
巨大な浴場にて
「あるところにそれはそれは美しい女帝がいました。足元まで流れる金髪は豊かに波打ち、瞳はエメラルドに輝き・・・」
黒崎 天音(くろさき・あまね)は、女帝の傍らに立ち、その美しさを褒め称えている。薔薇の学舎の天音は買い物をしていてパートナーを黒い穴に飲み込まれている。後を追ってきたのだが、女帝に気に入られたらしい。他のもののような強制労働を免れているし、トランプ兵にも変身していない。
女帝は美しい絹のドレスをまとったまま湯浴みしている。
「天音、そなたは例外ぞ。お前だけはトランプ兵になぞしない」
女帝は歯の浮くような天音の言葉をうっとりと聞いている。
野々は上質なメイド服を着て、女帝の髪を梳いている。
「ところで、女帝様、先ほど消えたドラゴニュートはどうしたのでしょう」
「ここにいるわ」
女帝は浴室の周囲を飾る大理石の彫像を見やる。
そのひとつに、ブルーズ・アッシュワースがいた。
朗々と言葉を紡いでいた天音が、ちらっと彫像をみやった。
女帝が立ち上がる。
数人のメイドがローブでその肢体を隠す。
「急いでケーキを作り直せ!それに、黒ウサギが戻ってきたら私のところによこすのだ、罰として赤く染めてやるわ!ホホホホホホ」
優雅に笑うと女帝は浴室から出て行った。
女帝のいなくなった浴室に残されたのは、天音だ。
ゆっくりと浴室を飾る彫像のひとつひとつを見ている。
ブルースの前で足を止める。
「おや…ブルーズに良く似た彫像だね」
すべすべの表面を撫でる天音。
「この凹凸は昨日の怪我かな」
「…」
「そういえば、君が年末にずっと探していた授業のノート。実は床に落ちていたのを僕が
蹴飛ばしてしまって今ベッドの下に有るんだよ…面白かったから教えなかったけど」
「…」
「慌ててるのが可愛くて。ごめんね」
「…」
「おや、服に何かついているよ」
「生クリームです」
野々が戻ってきている。驚いたように見やる天音。
「着替えは別のメイドの仕事ですから」
野々もブルースの頭をなぜる。
「彼、さっきケーキの上に落っこちたんです」
「ああ、それでか。ブルーズ、君がそれほど甘いものが好きだとはしらなかったよ」
「…」
野々はじーっと天音の顔を見ている。
「あの…飲まなかったんですか、あの薬」
「ああ、キミも?」
頷く野々。
回廊。
生クリームを洗い流し豪華な赤のドレスに着替えた女帝が、メイドを引き連れて歩いている。
今側にいるのは、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だ。
「私はクイーン・ヴァンガード。女帝様をお守りするのが使命です」
「頼もしいのだわぁ」
女帝はすっかり機嫌を直している。
メイド服姿のアリアは女帝の周囲に気を気張りながら歩いている。
時折、血迷ったトランプ兵が女帝に向かってくる。
「我が主が相手をするまでもありません。クイーン・ヴァンガードたるこの私がお相手致しましょう」
アリアは芝居っけたっぷりにトランプ兵を退治する。
女帝の少し前方に床を掃除している早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)がいる。手馴れた手つきでモップを動かすあゆみと対照的に、ぎこちないのは瀬蓮だ。モップを動かしては床を水浸しにしている。
「セレンちゃん、バケツのお水つけすぎよ」
あゆみがフォローをしている。あゆみは楽しそうだ。
「綺麗なお城ね、ピカピカして。こんなところ初めてよ・・・でも、ここって夢なのよね?」
「わかんないっ、モップがけって難しいっ」
瀬蓮はモップと格闘していて、あゆみのことばが耳に入らない。
「瀬蓮ちゃんまで出てくるなんて、本当に不思議な夢ね。おまけに一緒にお掃除するなんて。さっきまで大掃除だったのにね」
穴に落ちたときに気を失ったあゆみは全てが夢の出来事だと思っている。
二人の横を女帝が通り過ぎる。
「こういうときは、頭を下げて」
あゆみが、片膝を折り、頭を下げて服従のポーズを取る。
あわてて真似をする瀬蓮。
水をたっぷり含んだモップが瀬蓮の動きに合わせて宙を舞った。
女帝の顔に水しぶきがかかる。
「妾(わらわ)に水を掛けるとは……」
「ご、ごめんなさい?」
「ワタシが成敗いたしますっ」
アリアが瀬蓮と女帝の間に割ってはいる。
「ならぬ!メイドは全く使えぬ。妾に水を掛けた罰じゃ、噴水となって、永遠に妾の美しい身体を清める水を出し続けるが良い!!」
瞬間、瀬蓮の姿が消えた。
「えっ!」
頭を下げているあゆみには何が起こったのか、わからない。
「瀬蓮ちゃん…」
顔を上げたあゆみと女帝の目があった。
「そうか、そちも同罪にしてあげようぞ」
女帝が笑うと、あゆみの姿も消えた。
「ごめん」
アリアは瀬蓮が助けられず後悔している。アリアは調度品に変えられる人を少しでも減らすために女帝についているのだ。
「後で助けにいくね」
そのころ浴室にいたのはパートナーのブルーズを気遣う天音と野々だ。
不意に視界がゆれた。
落ち着いたときには、部屋の様子が少し違う。
「あっ、あれ!」
野々が叫ぶ。
浴室の真ん中にはメイド姿の瀬蓮がいる。人間ではなくなっている。
滑らかな質感は大理石のようだ。
胸の前で組んだ両手からは水が噴出している。
その足元にははやり差し出した指先から水をだしているあゆみが横すわりになっている。
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