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パラミタ黒ウサギは、悪夢を見せる

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パラミタ黒ウサギは、悪夢を見せる

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6祝賀会

 メイドやトランプ兵にはしばしの休憩が与えられた。


 高らかなファンファーレが城中に響き渡る
 この国の祝賀パーティは三日三晩行われる。
 女帝は機嫌よく王座に座っている。
 参加しているのは、メイドとトランプ兵、それに色とりどりのパラミタウサギだ。

 ドサッ。
 また天井に空いた穴から人が降って来る。事前に準備していたトランプ兵がお互いの手をつないで、セーフティネットを作り、人を受け止める。
 大切なのは人ではない、大広間の料理だ。
 今落ちてきたのは、ハーポクラテス・ベイバロン(はーぽくらてす・べいばろん)だ。
「……え、コレ、何か違う…ような気がするんだけど」
 フリフリゴシックで超ミニスカートな女装姿のフレンチメイドのような格好だ。頭には大きな赤いリボンも付いている。
「僕、男性…」
「どちらでもよい、こっちにこい」
 ハーポクラテスは女帝の薬を渡されて飲み干す。
「なんだか良い気持ち…」
 ハーポクラテスは女帝の部屋に連れてこられた。
 鏡の前でうっとりと自らを眺めていた女帝は、ハーポクラテスを見やる。
「何ができるのじゃ」
「えっーと」
「まあいい、妙なメイドで料理には不向きだろう、給仕をさせよ」

 薔薇の学舎のハーポクラテスはクハブス・ベイバロン(くはぶす・べいばろん)と共に買い物をしていて黒い穴に落ちてしまった。
 慌てたクハブスもすぐに追いかけて穴に飛び込んでいる。
 ドサッ。
 クハブスが落ちたところは回廊だった。
 誰にも見咎められなかったクハブスは、そのまま小部屋に身を潜める。
 鏡を見て、ぎょっとなるクハブス。
 彼もメイドなのだ。ただし、足首まで隠れるロングスカートで普段の貴族服とそう変わらない?たぶん、そんなに変じゃない…どうみても女の格好だが…
「なんだこれは」
 眉間にしわが寄る。
 室内のクローゼットを開けてみる。入っているのはどれもメイド服ばかりだ。
 とりあえず薄手のコートを見つけて服の上から羽織る。鏡を覗くとなんとか…多分なんとかなっている。
 そっと廊下に出て、大広間に入るクハブス。
 そこで見たものは、とんでもない格好でメイドとして働くハーポクラテスだった。
 右手にシャンパングラスの入ったトレイを持ち、パルミタウサギに配っている。ハーポクラテスは、クハブスのそばにやって来た。
「どうぞ、ひとつ」
 グラスを差し出す。パートナーだということを忘れているらしい。
「何か飲まされてる…」
 クハブスは直感でそう感じた。
 ゆっくりと大広間を見回す。見知った顔が大勢いる。その何人かはクハブスにウインクしたり小さく手を振ったりしている。正気のものもいるらしい。まあ、面白いし見学することにするか。覚悟を決めたクハブスは傍らのテーブルに腰掛けた。

(おのれ〜、妾はテーブルじゃぞ、腰掛けるなぁ、気付かぬか!妾を助けるのじゃ!!)
 テーブルがガタガタゆれるので、クハブスは慌てて飛び降りた。
 よく見ると、顔のような柄が前面に施されている。
「もとは誰かなんです」
 過剰なフリルのメイド服に身を包んだ幻時 想(げんじ・そう)がそっとクハブスに耳打ちする。
「他の人は、品物に変えられるとおとなしくなるんですが、このテーブルだけは落ち着かなくて」
 幻時 想(げんじ・そう) はさっきまで一緒に働いていた七瀬歩を探している。食器を取りにキッチンにいったきり戻ってこないのだ。
「このテーブルが歩先輩かと思ったんですが、ちょっと違うみたいで。」
 クハブスが少し考え込んでいる。
「さっきの部屋に変な楽器があった・・・触ってないのに音が出る」


 少し時間が遡って。


 ドサッ。
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が落ちたのは女帝の前だ。
「分かりました、メイドとして頑張りますっ」
 百合園の優等生だ。メイドの仕事は一通り出来る。あっというまに女帝の側近になった。

「持てぬものはもてぬのじゃ」
 メイド姿でごねているのは、ミア・マハ(みあ・まは)だ。歩とは同じ百合園の生徒で一緒に皿を運んでいた。
 両手いっぱいに皿を抱えたミアは誤って落としてしまう。
「だいたいなぜ、わらわが皿を運ぶのじゃ、わらわのいる場所はあそこであろう」
 ミアは女帝の玉座を指差す。
「わかった、そなたにあった場所にいるがいい」
 いつのまにか現れた女帝は、ミアをテーブルに変えてしまった。
「美しき女帝さま、僭越ながら申し上げたきことがございます」
 一部始終を見ていた歩が頭を深々と下げ、女帝の前に出てくる。
「今のようにメイドを使い捨てるのは良くありません、失敗しても・・・」
 その言葉が終わる前に、女帝が歩を指差した。
 歩の姿が消えている。
「有能なメイドと思っていたのに、残念だ。口うるさいメイドは音の出るものに変えてやろう」
 歩がいたところには、バイオリンが置いてある。
 バイオリンがカタカタ揺れた。
 張り詰めた弦が一本、ピーンと切れた。
「なんとまあ、まだわらわに意見する気なのだわぁ」
 女帝は笑いながら、去ってゆく。

 その楽器は今、小部屋に置かれている。
 部屋に入ってきた想は一目見て、このバイオリンが歩だと気がついた。歩の髪と同じ色のバイオリンはとても美しい。
「歩先輩・・・」
 想はバイオリンを抱きしめる。
 ぽろぽろぽるぽろ、想の涙がとめどなくバイオリンを濡らす。
「もう一度動く歩先輩を見たいです・・・助けたいです・・・」
 涙の粒がしだいに大きくなり、楽器を満たしたとき、
「ありがと!想」
 想の目の前に歩が立っていた。

 ドサッ。
 二人の前に落ちてきたのは、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)だ。街を歩いていたら、パートナーのミアが黒い穴に飲み込まれた。
 アイリスと黒ウサギの会話から、ミアがメイドにされていると知り慌てて追いかけてきたのだ。
「いたたたっっ!」
 歩と想が落ちてきたレキに手を差し伸べる。
「ありがと!」
 レキは二人に尋ねる。
「ミア知らない?」
「知ってる」
 歩はレキを見つめる。
「いい、落ち着いて聞いてね」
 頷くレキ。


 大広間では舞踏会が始まっている。女帝が踊っているのは黒崎 天音(くろさき・あまね)だ。メイドやトランプ兵も踊りに加わっている。
 中央に置かれたケーキの前では、桐生円と桐生ひなが控えていた。
「女帝様、お待ちしていました」
「お、おいしいんだから食べてみなよ」
 二人は口々話すと、ケーキを切り取って、女帝に差し出す。
 足を止める女帝。頭を抱えた天音は少しずつ後退している。
「あ〜ん」
 女帝の口の中にケーキを押し込む円。
 女帝の顔が真っ青になる。
「水じゃ…いや、水ではない…」
 気を利かせた野々がボールを、小夜子がショールを持ってくる。
 ショールにつつまれた女帝がゲッゲッゲッとむせている。
「えっ、不味いの?」
 円が素っ頓狂な声を上げる。
「ぼくは悪くないよ!ひなくんのマヨネーズがぜんぶ悪いんだ!」
「私は悪くないですー。全部、円がいけないのですっ。」
 二人は絡み合って大喧嘩を始めた。

「もう良い」
 女帝の一声で、二人は消えた。
 絡み合った姿のまま、巨大なケーキの飾りとなっている。体中にフルーツを乗せて、円の帽子には旗まで立っている。
 女帝のそばにいたナガンが円とひなが作ったケーキをペロッとなめる。
「なんだ、うまいぞ」
 両腕いっぱいにイチゴを乗せた円と両足いっぱいにブルーベリーをのせたひなをポンと叩くナガン。


 ドサッ。
 大広場の扉前に落ちてきたのは、天音を追ってきた鬼院 尋人(きいん・ひろと)だ。自身がトランプ兵に変えられていることに気がつくが、ものともせず、ドアを開けて広場に入ってゆく。尋人は女帝の権力は魔法か幻覚だと感じていた。
 その直感が正しいか確かめるために、正面からの女帝に会うことにしていた。
 大広間に入った尋人は、まっすぐに女帝の元に向かう。
 女帝の前に膝を折り、正式な挨拶をする尋人。
「薔薇の学舎の騎士は、女帝に忠誠を尽くします」
 頭を下げる。
 頭を上げた尋人は、天音の姿を見る。
「ご無事でしたか」
 安堵の溜息をつく尋人。