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第二章 第2班行動開始〜お宝お宝〜

 第2班として編成されたグループの一人、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が目の前の宝箱の群れを見て、歓喜の笑みを浮かべていた。
「魔物も罠も出ない。しかし宝の山にはありつける。すごいですねぇ。ふっふっふ、すべては私の思うがまま、なのですぅ……」
 ある程度まで進んでいた第二班は、特に魔物や罠に出くわすことなく進んでいた。そして、目の前には宝箱の山。相当運のいい班だった。
「やれやれ、義姉者の銭ゲバ心にも困ったものでござる……」
 伽羅のパートナー、うんちょう タン(うんちょう・たん)がため息を零す。
「うんちょう殿、伽羅の金銭への執着は今に始まったことではございません。それがしは半分ほど諦めております」
 もう一人のパートナー、皇甫 嵩(こうほ・すう)も同じようにため息を零す。
「さて、中身をはいけーん」
 ノリノリで手を伸ばす伽羅。蓋を開けようとしたその時、
「触っちゃダメッ!」
 峰谷 恵(みねたに・けい)の悲鳴に近い声が上がる。
「おわっ、ど、どうしたんですぅ?」
 いきなり中止を求められ、伽羅は何事かと振り返る。
「今、トラッパーを使ったんですけど、その宝箱には罠が仕掛けられてます」
「……マジですか?」
「今、その証拠を見せましょう。下がってください。グライス、明かりをお願い」
「わかったわ」
 恵に呼ばれたグライス著 始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)が、己の契約者に言われたとおり、光精の指輪を使って明るくする。
「ありがと。……この辺かな。それっ」
 宝箱のやや後方から蓋を開ける。
 同時に、正面から矢が発射された。風切り音を立てて、すぐに対面側にあった岩に深く刺さった。
「……危なかったですぅ〜。恵さんがいなかったらどうなってたことか。ありがとうございますぅ」
 宝箱の中身を手に入れながら、礼を述べる伽羅。
「まったくでござる。助かったでござる。恵殿」
「それがしからも礼を申します。伽羅を救ってくれて、ありがとうございました」
 恭しく頭を下げるうんちょうと嵩。
「そんな、同じ班の人間として当然のことをしたまでですよ」
 困ってしまったのか、恵は照れっぱなしだ。
「きゃ〜、素敵〜。恵ちゃん」
 どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)が横から恵に抱きつき、豊満な胸を揉みしだく。
「ひゃっ! ど、どりーむさん! やめて! あっ、おっぱいらめぇぇぇ!」
 顔を真っ赤にしながらジタバタと暴れる恵を見て、どりーむは恍惚の表情を浮かべる。
「ふふふ〜、恵さんのここから、罠の香がします〜。そう、思春期の男を無駄に引きつける罠の香が〜」
「そ、そんな罠ないからぁ〜。た、助けてっ! グライス〜」
「そこの少女、主が困っているわ。離れて」
「む〜。んじゃ今度はグライスさんの胸を触らせてください〜」
 にしし、と笑うと、グライスに両手を伸ばす。
「いいわよ」
 恥ずかしがるでもなく、グライスは無表情のまま返す。
「えっ、そ、そんなに普通にOKされると、逆に触りづらい……」
 どりーむが困惑していると、
「ど、どりーむちゃん……こわいよぉ……」
 不意に、どりーむの袖を、パートナーであるふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)が不安そうな顔でギュッと掴む。
「ふぇいとちゃん。大丈夫よ。あたしは強いんだから〜」
「うん。じゃあ私も、もうちょっとがんばる……。もし魔物が出たら、ひっさつわざの『ぷらずまぶれいかー』でやっつけてあげるっ!」
「ふふっ、雷属性で『ブレイカー』、さらには金髪のツインテールなんて、ふぇいとちゃんったらそれどこのアニメの魔法少女よ? まぁいいわ。帰ったらたくさんギュッってしてあげる」
 微笑みを浮かべて、ふぇいとの頭を優しく撫でるどりーむ。


 伽羅のトラップ騒動で盛り上がっている頃、班のやや後方にいたウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は研究価値のあるお宝を探していた。
「ふっ、俺のトレジャーセンスさえあれば罠に引っかからずにお宝をゲットできるぜ!……と、ここだ」
 小部屋じみた小さい穴の中から、光沢を放っている宝石を見つけ、口の端を吊り上げる。
「俺様の目とカンに狂いはないっ!」
 喜び勇んで穴へ入る。
と、彼が足を踏み入れたと同じタイミングで、天井から何かが降ってきた。ボトボトボトッ、と立て続けに音を立てる。
「何だこ、れ――」
 肩に落ちたものを見て、全身が硬直する。
 子供の腕と同じくらいの太さの芋虫が、乗っていた。
「……」
 言語中枢が麻痺すること数秒。
「おひゃああああああ!!」
 絶叫と共に走り出した。すぐに穴から出ると、火術を発動させる。
「吹き飛べやぁ!」
 激しい音と振動を伴った爆炎が上がる。
 死んだ、そう思って安堵するのもつかの間、肩に乗っていた一匹を忘れていた。
「いつまでそこにいるんだよぉぉぉぉぉ!」
 空飛ぶ箒の先端で器用に巨大芋虫を払い、遠くの壁に叩き付けると、追い討ちをかけるように火術を放つ。しかし、ウィルネストはパニックのあまり、壁の近くに研究者がいることに気がつかなかった。
「うわぁっ!」
 絶叫を上げて吹き飛ぶ研究者。
 火球は轟音を立てながら芋虫を燃焼する。しかし、同時に研究者も負傷した。
「大丈夫ですか?」
 朱宮 満夜(あけみや・まよ)がすかさず駆け寄り、負傷の程度を確認する。
「う、うん。何とか。ちょっとした打撲だから」
「よかった……。ウィルネストさん! 落ち着いてください!」
 容態を確認すると、興奮状態のウィルネストをなだめようとする。
「はっ……す、すまん! お、俺っ、虫はダメなんだよっ!」
「もう虫はいませんから。大丈夫ですよ」
「お、おう……」
 しゅん、としてしまったウィルネストだったが、さらに追加攻撃が来る。
「ただでさえ足手まといがいるんだから厄介ごとを増やさないでくれ」
「うっ……」
 満夜のパートナー、ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)の言葉である。
「こら、ミハエル! そういうこと言っちゃだめです。ウィルネストさんだって悪気があってやったわけじゃないんですから!」
「ふん……だが、魔物は今の音に反応したみたいだぞ」
「なんですって!」
 奥の道から、2匹のリザードマンと、1匹のガーゴイルが現れた。
「くそっ、俺のせいだ。罪滅ぼしにはならないかもだが援護するぜっ!」
「ええ。お願いします!」
「しょうがないな。我輩も力になってやろう」
 ミハエルが杖を構える。
「あと、前方にいるシャンバラの方にも手伝ってもらいましょう。というか前まで誘導しましょう」


 魔物を誘導した後、伽羅、うんちょう、嵩の三人に訊いてみる。
「えっ、魔物ですかぁ? まぁいいでしょう」
「うむ。それがしも参戦するでござる。義真殿はいかがされるでござるか?」
 字で呼ばれた嵩は、
「無論。戦いましょう」
 破顔して快諾した。
「ありがとうございます! では早速、やっつけちゃうとしますか」
 敵の三匹に向き直り、戦闘を開始する。
「来れるものなら来てみろ」
 ミハエルが冷酷に言い捨てる。
 柔軟な動きで迫ってくるリザードマンだったが、ウィルネスト、満夜、ミハエルが間断なく火術を放つため、なかなか距離をつめられずにいた。
 確実に押している状況は、しかし、長くは続かなかった。三人の精神力が底をついてしまったため、火術が止まる。
 ここぞとばかりに攻めてくるリザードマン。魔法の連発で傷を負っていながらも、勢いは磨り減っていない。
 あと数歩で敵の間合い――となったとき、二匹とも背中から出血してその場に倒れ伏した。
「背中ががら空きですぅ」
「うむ。それがしらが見えなくなったことに気がつかなかった貴公らの負けじゃ!」
 光学迷彩を解き、姿を現す伽羅とうんちょう。
「あれ、嵩さんはどうしたんですか?」
 姿が見えない嵩を不思議に思った満夜がキョロキョロとあたりを見回す。と、いつの間にか遠くのほうでガーゴイルにとどめを指していた。
「なっ、あんな遠くにいるなんて……」
 ウィルネストは呆然となって、しばらく口が塞がらなかった。


 6人の戦闘を傍で見ながら、神野 永太(じんの・えいた)がパートナー、燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)に話しかける。
「戦闘は終わったみたいだな。研究者さんも無事みたいだし。よし、ゴースト探索を続けよう」
「はい」
 脇道のほうを調べる二人、そこに、
「あら、あなたたち、ゴーストを探してたりします?」
 左手の甲に蝶の刺青がある女性、クロス・クロノス(くろす・くろのす)に尋ねられた。
「ええ。まぁ」
「実は私、ゴーストに会ったんです。すぐに消えちゃいましたけど」
「そうですか……」
「でも、奥の方まで来て欲しいみたいなことを言っていました。名前はフリアって女性でしたね。罠って感じはしませんでしたけど……」
「どうせまだ奥に行くんですし、会えると思いますよ。永太も気になります。一緒に見つけましょう」
「はい。ありがとうございます」
 三人はゴーストのメッセージを班のメンバーに報告。先を進むことになった。