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『古代文明探求機構』の調査員を護衛せよ!

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第五章 第5班行動開始〜秘されし実験室〜

 先頭を歩きながら、青 野武(せい・やぶ)アリア・ブランシュ(ありあ・ぶらんしゅ)が研究者の話に耳を傾けている。
「なるほど、バルジュ兄弟とはそんな人物だったのですか……」
「はい。残虐なことを心から楽しむような、極悪非道というよりも人間として壊れてしまっていたというのが最近の説ですね」
「ううむ……彼らはなぜそんな風になってしまったのだろうか……。幼少期の発育環境が悪辣だったのでしょうか? ほら、地球にある、ルーマニアのチャウシェスク政権下の子供たちみたいに」
「それがですね、彼らの子供時代の文献や史料が少なくて、詳しいことはよくわからないのです……」
「この洞窟から何かわかれば、私たち、歴史の目撃者ですね」
 アリアが喜びをあらわにする。
「あはは、そうなればいいんですが……」
「我輩も力になれることがあったら手伝いますぞ。おっと、そこの近くに罠があります。気をつけてくだされ」
 野武は急に立ち止まると、手で制して研究者を止まらせる。
「足元、気をつけてください」
アリアが光術を使って視界を良くする。
「おっと。助かります」
 野武が指摘した場所を迂回して、三人は再び歩き出す。
 この5班が通っている道は、魔物は出ないものの、罠が多かった。野武が『禁猟区』を発動させていなければ、スムーズな移動は出来なかっただろう。
「野武様、私、ここに残ってリカイン様たちに罠の解除をお願いしますね」
「おお、では頼みましたぞ」
先頭を歩くアリアは、トラップ解除担当のメンバーを待つため、その場に留まった。
 しばらくして、
「あれっ、アリアちゃんじゃない。どうしたの?」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がやってきた。
「あっ、すみませんリカイン様、ルナミネス様とシルフィスティ様にご助力いただきたいのですが……」
「あー、もしかしてトラップ? いいわよ。二人とも、お願いね」
 リカインに頼まれた天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が、その場所へと向かう。
「貴様、とりあえず、踏んでみる、です」
「えっ、フィス、囮なの!?」
 ルナミネスに命令されたシルフィスティが困惑の声を上げる。
「あっ、大丈夫ですシルフィスティ様。万が一怪我しても僕の持っている天使の救急箱で治してあげますから」
 リカインのもう一人のパートナーソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)が、優しくもフォローにはならない言葉を贈る。
「なっ、怪我するのを前提で言うなあ! ふんっだ!」
 さんざん文句をたれながらも、つま先で突いてみる。
 特に何も起こらない。
(何も起こらないじゃない。罠と見せかける罠なのかなぁ……)
 ドンドンと、地面を鳴らしてみる。
「危ないっ!」
「へっ?」
 ヒュン、という音と共に、真上から剣の雨が降り注いだ。高い金属音を出し、地面に突き刺さる。
 間一髪、ルナミネスが手を引っ張ったため、シルフィスティは何事もなかったが、もし手を引っ張ってくれなかったら、彼女は串刺しになっていただろう。
「あわ、あわわわわわ……」
「罠解除、成功、です」
「マ、マジで怖かったわよ……」
 ガクガクと震えるシルフィスティ。
 そこで、ズキッとした痛みと共に、突然脳裏に映像が浮かんだ。

 周りには多くの人が倒れていた。
 目の前には、自分に笑顔を向けたまま、黒い甲冑に身を包んだ謎の男に剣で斬りつけられて、背中から鮮血を飛ばす美しい女性――

(っ……。何、今の映像……もしかして、フィスの過去と何か関係があったりするの……?)
「貴様、大丈夫、ですか?」
 様子のおかしいシルフィスティに心配の言葉をかけるルナミネス。
「えっ……ああ、大丈夫よ。助けてくれてありがとね。ルナミネス……」
 頭痛は消えていたが、自分が見た映像の謎は残っていた。
「とりあえず、何とかなったようね。それじゃ、みんな、先に進むわよ!」
 リカインがまとめ、先へ向かうことになった。
 アリア、リカイン、ルナミネス、シルフィスティ、ソルファインの五人は、足を進めていく。


 5班の後ろ。
 野武のパートナー、黒 金烏(こく・きんう)シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)青ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)の三人が、洞窟内部をよく観察しながら進んでいた。
「ううむ……普通の洞窟のようですね……。特に変わったところとかはないようですし」
「もう少し奥のほうに行ってみれば、何かあるかもしれませぬぞ」
「お父さんに、聞いてみれば、わかると思いますよ。お父さん、今、研究者さんからいろいろお話聞いてると思いますから」
「自分も野武さんのところへ行きたいのでありますが……それでもやはり任務を放棄するわけにはいかないでありますから……む」
 そこで、金烏の『禁猟区』が発動した。通路のやや右側。
「野武さんがチェックし忘れたのでありましょうか……どれどれ」
 慎重に近づいていく金烏。そこに、
「あの〜、あたしたちも手伝いましょうか?」
「罠の解除なら、力になれると思います」
「んふふ〜。ララも、がんばる〜」
クラーク 波音(くらーく・はのん)とそのパートナーであるアンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)ララ・シュピリ(らら・しゅぴり)の三人が手伝いを申し出てきた。
「そうでありますな。お願いできますか?」
「任せてください!」
「わかりました。それでは――」
 金烏は罠の仕掛けられた場所に行くと、
「この辺に攻撃魔法を放ってください。他の方は下がってください。決してこちら側の壁には近寄らないように」
 と指をさして細かな位置を伝えた。波音以外のキャラも彼の指示に従う。
「まかせて〜。サンダーブラストッ!」
 雷撃の魔法が繰り出される。降り注ぐ雷が地面を抉る。すると、その衝撃に反応したのか、どこか遠いところからゴゴゴ、という地響きが聞こえる。それはだんだんと近くなり、そして――
ドガッ、という破壊音のすぐ後に、波音が放った魔法の着弾地点の近くの壁の中から、巨大な球体の岩石が転がってきた。
幸運なことに、球体の軌道上には誰もいなかったため、全員無傷で助かったが。
「はうっ! まさか壁の中から出てくるなんて思いませんでした〜」
「金烏さん、この罠だってわかってたんですか?」
「ええ。なんとなくですが」
 アンナの質問に、微笑を湛えて答える。
「金烏お兄ちゃんすごいすご〜い」
 きゃっきゃ、とララも飛び跳ねる。
「おい、今すごい音がしたが、大丈夫であったか?」
 肩で息をしながら、野武が駆けつけた。
「あっ、お父さん、みんな元気ですよ」
 その場を代表して、十八号が答える。
「お、それならいいのだが……。ちょうどいい機会だ。先頭の方が戦いになっているのである。力を貸してくれ」


 先頭は、奥にある巨大な扉の前まで到達できたのだが、その前に置いてある、竜を模した石像が急に動き出して襲ってきたため、戦いになっていた。
「せいやああああっ!」
 パワーブレスを使ったリカインの突きが、石像の腹部にめり込む。が、相当硬いのか、ヒビしか入らない。
「っつ〜〜〜〜。どんだけ頑丈なわけ〜」
 ふーふーと、鉄甲を纏った手に息を吹きかけながら吐き捨てる。
「こりゃ、何発もやんなきゃだめね……」
 わざとらしく肩をすくめると、再び走り出す。突きの間合いに入ると、即座構え、左半身の状態から腰を回転させ、先ほどと同じ箇所に右の正拳を放つ。
「まだまだぁ!」
 さらに、体重が左足に乗っているその状態から、右足を振り上げ、これまた同じ場所に回し蹴りを叩き込んだ。
 最初の一撃では小さかった腹部のヒビが、攻撃を受けるたびに広がっていく。
「うん。効いてる効いてるっ!」
 自分の攻撃を自画自賛したあと、ステップバックで距離を取るリカイン。
「自分も援護するであります!」
 言うや否や、大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は石像へと走っていき、ショットガンを構えて引き金を引く。甲高い発砲音が立て続けに起こる。
「剛太郎さん、相手は石像ということをお忘れなく。跳弾なんかで死んだら恨みますわよ」
 剛太郎のパートナー、ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)の非難するような言葉を聞いて、銃の構えを解く。
「あっ、そうでありました。では、自分はソフィアさんの後ろから着いていって、光条兵器で戦いたいと思います」
「なっ! あなたという方は! どこまでわたくしを盾にすれば気が済みますの!?」
「では頼んだであります」
「くぅ〜。後で覚えてらっしゃい!」
 自分の契約者へ文句を言うと、ソフィアは石像へと向かっていった。ブロードソードを抜き、攻撃を当てる。
(先ほどリカインさんが当てた箇所に集中すれば――)
 自分の中で作戦を立て、実行する。
 刃が当たった瞬間、痺れにも似た衝撃が剣を通じて伝わる。
(〜〜〜〜〜〜っ! ヒリヒリしますわ)
 思わず手を離し、手首をブンブンと振っていると、石像が突進してくる。
「きゃああああああっ!!」
 今度はソフィアが劣勢に立たされる。
 背中を向けて逃げ回っていると、
(!?)
 光条兵器『旧軍の軍刀』を発動させて石像の正面に向かっていく剛太郎の姿が見えた。
「ソフィアさん、伏せるであります」
 すれ違いざまに短く指示を飛ばす剛太郎。ソフィアも反射的に従い、ヘッドスライディングよろしく前のめりに伏せた。
 そして、横に一閃、軍刀の刃はヒビが広がりつつある腹部へと滑り込んだ。
 腹部がパラパラと崩れて細い柱のようになり、ほとんどバランスが保てない状態になる。しかし、完全に壊れたわけではないので、反撃もありうる。
「だめだわ。一度下がって!」
 状況を見ていたリカインが叫ぶ。
「問題ない。我輩たちがフィニッシュを決める。行くぞ。お前たち」
 うおー、と声を上げて果敢に立ち向かっていく野武、金烏、シラノ、十八号。打撃、斬撃と各々が出来る攻撃をかまして、石像を倒す。
 フィニッシュというにはいささか強引な勝利であった。
「ふ〜、拳がはれ上がっちゃったわ……。あっ、ソルファイン、手当てお願い!」
「あ〜、はいはい、今行きますリカイン様。他の皆様も怪我してませんか? 救急箱とSPタブレットがあるのでお使いくださ〜い」
 自分の班のメンバーに手当てを施し終えた後に、移動を始める。


「自分、何かしたでありましょうか……」
 戦闘終了後、剛太郎はショボくれていた。護衛中に仲良くなった女性研究者シエラが、急に避けるような仕草をし始めたからだ。
「ううっ……」
 そんな彼の姿を見て、ソフィアは笑いを堪えていた。
(くくくっ……。剛太郎さん、いい気味ですわ。わたくしをぞんざいに扱うから、こうなるんですのよ)
 実はソフィアは、戦闘の後、剛太郎のことを女たらしだとシエラに嘘を伝えていたのだ。しかも嘘エピソード付きで。
 (私の心の痛みを知るがいいですわ〜)
 とても輝いていた表情で、ソフィアはみんなと扉へ向かっていった。


 扉の中は、まるで別世界の様相を呈していた。
「な、なんだこれは……」
 部屋に入った者が、顔に驚愕の色を浮かべた。
 今まで岩だらけだったはずなのに、この部屋は近代的なデザインの床や机があり、魔女や錬金術師が使うような資料、本、実験レポートなどが散乱していたのだ。しかしなにより皆を驚かせたのが、部屋の隅にある、白骨死体が入ったカプセルであった。
「興味深いのである……」
 研究者から手伝いの許可をもらった野武は、自分のパートナーたちと調査を開始した。
 本棚を調べていると、気になるタイトルの背表紙があったので、パラパラと捲ってみた。
「なに……これは、本当か……」
 書いてあることを理解して、野武は呆然とした。


「すっごい部屋だねー」
「うん。なんか“かがくてくのろじー”って感じがする〜」
「骨の人、かわいそう……」
 何とも他の人間とはちょっと違った感じの感想を口にする、波音、アンナ、ララの三人。
「あの〜。あなたたち……」
 不意に後ろから話しかけられる。
 そこには、波音と同年代ぐらいの女の子が立っていた。色は半透明で、両足がなかったが。
「もしかしてあんた、ゴーストさん?」
「う、うん……」
「きゃー、本当に出会えるとは思ってなかった。いろいろお話しない?」
「いいけど……その前に皆に来てもらいたい場所があるの」
「うん。いいよ」
「ありがとー。じゃあ、案内するね。あっ、ちなみに、私の名前はコット。よろしくね」
 コットの話をその場の全員にして、彼女についていく。
 そこには、隠されたエレベーターがあった。