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リアクション
第四章 第4班行動開始〜モンスターコール!〜
「あっはっは〜〜〜〜!! このトラップすごいすご〜い」
全力疾走、全力絶叫しながら霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は魔物の群れを蹴散らしていく。
彼女が属する4班は、入り口から少し歩いてすぐにトラップに引っかかった。魔物の群れを呼び寄せるモンスターコールという罠だ。一定の地域に来た侵入者に反応して発動するそれは、奥へ進むためには通らなければならない道の上に設置されていたため、不可避であった。
「な、なんでそんな楽しそうな声だしてるんですか透乃ちゃん! 今私たちピンチなんですよ。わかってますか!?」
並走する透乃のパートナー、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が、理解できないといった顔で文句を叩き付ける。
「でも好き放題戦えるじゃん! 私はすっごく楽しいけど――なっ!」
しゃべりながらも、魔物への注意は怠らない。赤いポニーテールが揺れたかと思うと、横から飛びかかってきたヘルハウンドを一刀両断していた。
「あ、遊びで来たんじゃないんですよ! ちゃんと研究者さんを守らないと――」
「陽子ちゃん、左っ!」
「えっ、きゃあああっ!」
透乃に言われて見やる。すると、大刀を上段に構えたスケルトンが陽子の頭をねらっていた。
大刀が振り下ろされる前に間合いを詰めると、すかさず左手ナックルの光条兵器『緋想』を叩き込む。
ガシャン、と骨を四散させて崩れ落ちるスケルトン。
「おおおー。危なかったねー」
パチパチ、と音だけの拍手をしながら走る透乃。
「でも、油断してると、やられちゃうよ〜」
(ううっ……あんっ……)
小馬鹿にしたような発言を受けて、悲しみと共に快感が陽子の全身を駆け巡った。
陽子は表には出さないが、実は相当なMなのだ。
(あぅぅ……透乃ちゃんってば……)
いけない気持ちを払って走り続ける。
(にしても、後ろの人たち、大丈夫かな)
4班の一番後ろでは、しんがりを務めている四人が激戦を繰り広げながら、研究者を守っていた。
「ほら、早く進めっ!」
アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)は、目の前の大トカゲに機関銃をぶっ放して蜂の巣にすると、首だけ後ろに曲げて移動を促す。
「アクィラさん、こっちは全員先に進みましたぁ! わぁ! 来ないでくださいっ!」
いつの間にか背後にいたリザードマンを、引き金を引いて仕留める。
パニクりながらも、自分の契約者であるアクィラを手伝っているのは、クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)だ。
「よし! 俺たちも進むぞ」
アクィラが魔物の群れに背を向けた瞬間、奇声を上げて3匹のゴブリンが一斉に襲い掛かってきた。
(しまった!)
隙を見せてしまった――そう悔いたのと、機関銃の掃射を浴びて肉片に変わるゴブリンを視認したのは、ほぼ同時だった。
「アクィラ! 油断するんじゃないわよ!」
彼の後ろにいたのは、アクィラのパートナーの一人、アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)であった。
「危ないところだったよ! 助かったぜ。アカリ」
一気に下がり、魔物の群れと距離を取ったところで礼を言う。
「ふ、ふん、一応リーダーなんだから、しっかりしなさいよね」
対するアカリは、膨れっ面で悪態を吐く。
アクィラは、やれやれ、と首を振ると、二人に合図を出して一気に走り出す。
途中、研究者の護衛のために一旦下がっていた三人目のパートナー、パオラ・ロッタ(ぱおら・ろった)と合流し、先へと進む。
「パオラ、後ろから結構な数が来てる。また援護頼んでいいかな?」
「わかったわ」
「全滅させようなんて思わなくていい。ある程度倒したら逃げるってのを心がけてくれ」
「言われなくてもわかっているわ」
アクィラに指示に淡々と返すパオラ。
「じゃ、頼むぜ」
そこまで言って、再び機関銃を構えるアクィラ。そして、後ろから来る魔物の軍勢に向かって引き金を引く。
「うおりゃああああ!」
けたたましい音を立てて、薬莢が飛ぶ。飛んだ薬莢の数に比例して、魔物もバタバタと倒れていく。
パオラも黙ってはいない。ハーフフェアリーである彼女は、常時飛行している。そのため、上から狙い撃ちし放題なのだ。
「おまえたちのあんなところからそんなところまで、全部モロ見えマル見え。諦めろ」
ショットガンを構え、撃つ。的確に頭部を狙って即死に追い込んでいる。
「パオラ……何て下品なことを」
「ちょっとしたブラックジョーク……のつもり」
「いや、もはやただの下ネタだよ……」
呆れ返っている自分の契約者を尻目に、弾丸を再装填し、精確に魔物の数を減らしていく。
と、そのとき、奥の方から声がした。高務 野々(たかつかさ・のの)のものである。
「しんがりの皆さ〜ん、大丈夫ですか? 生きてますか〜」
岩陰から顔を出した彼女は、危機的状況に相応しくない明朗な声で生存確認をしてきた。
「四人とも、ギリギリ生きてるぜ〜」
「そうですか。それは何よりです。もうすぐ安全地帯も近いそうですから、魔物を相手にするのはそれぐらいにして、急いで来てくださ〜い」
「わかった! グラッツィエ!」
「どういたしまして。ではアリーヴェデルチ」
それだけ伝えると、野々は去っていった。
懐かしい母国語での短いコミュニケーションを済ませると、アクィラは三人に伝えた。
「聞こえた通りだ! 全力疾走ミッションスタートだ! 振り返ったら、死亡フラグが待ってるぜ!」
しんがりが逃亡に転じたその頃、藤原 和人(ふじわら・かずと)は研究者を護衛し、罠を警戒しながら、逃げるという、三つも平行してやらなければいけない状況に苛立っていた。
(くそっ! こんなのトラップって言わねーよ。ほとんど魔物の住処じゃねーか!)
心の中で暴言を吐きながら、研究者に速やかな移動を指示する。それと同時に、自分も魔物の群れから逃げる。
「ああ、もう、めんどくさい。ほら、とっとと走れっ!」
遅れている、小太りの研究者に檄を飛ばす。
「おうぁ!」
その研究者が走り出した瞬間、彼の悲鳴が聞こえた。
落とし穴の罠にかかったようである。
まだ完全に落ちてはいない。片手だけで何とか踏ん張っている。だが、その手は小刻みに震えている。時間の問題なのは明らかだった。
「マジかよ……今助けてやる!」
穴に駆け寄り手を伸ばした瞬間、手が離れた。研究者は、深い闇の中へと消えていく。
和人はすぐに穴の中に飛び込み、手を伸ばす。
(暗くて見えないけど、掴んでくれ!)
丁半博打じみたその行為。しかし、なんとか研究者を捕まえることが出来た。
(よし。あとはこれでっ!)
捕まえるのとほぼ同時に鉤爪付きロープを上に向かって投げる。爪は地面に引っかかり、急に重力から開放された二人の体は、一度大きく跳ねて、止まった。
「ふひー、なんとかなったぜ」
「あ、ありがとう……」
そのまま、二人はロープを登っていった。
逃亡劇を繰り広げる四班の面々。
しかし、それも終わりを告げようとしていた。
前方には、大きな崖と向こう側から伸びる梯子。
「あっちに渡りきった後、あの梯子を上げれば、魔物たちも追ってこれないはずです」
陽子が提案する。
「私は戦闘を楽しみたいのにぃ……。でも私がわがまま言って研究者さんたちが怪我したら嫌だしなぁ。仕方ない」
しぶしぶ承諾する透乃。
「それじゃ、来た人からどんどん渡っちゃってください! ここは私と透乃ちゃんが引き止めます」
次々に来たメンバーを渡らせていく。
「んで、私たちはどうするの?」
「はしごを渡りながら戦う、とか?」
「陽子ちゃん、それは、無理」
「あぅ……」
二人が悩んでいると、
「俺たちがなんとかするよ。武器、銃だし」
「そうね。ちゃんと仕事は最後までやるわ」
「もちろんですぅ」
「私はいつもと同じ。上から狙い撃ち」
しんがりの四人が仕事を引き継いでくれた。
「ありがと〜」
「助かります」
「おう。じゃあ、先に行ってくれ」
四人の銃撃戦のおかげで、全員が向こう側へとたどり着くことが出来た。もちろん、はしごは上がっているため、魔物は追って来れない。
そのため、ひとまず休憩ということになった。
野乃は煮物の炊き出しを行い、食事を振舞った。
「野乃ちゃん、おかわりおねが〜い」
「あらあら、透乃さんったら、143杯目ですか? よく食べますねぇ」
「いやいや、まだまだ全然足りないよ〜」
「……まぁ、いっぱい作ったからいいんですけど」
「変わった人たちばっかりだねぇ。僕らの班は」
「んあ、そーだな」
班の皆の様子を見ながら清泉 北都(いずみ・ほくと)は、白銀 昶(しろがね・あきら)と談笑していた。
「てゆーか、ゴースト出なかったな……。ちょっとつまんないぜ」
「うん。会ってみたかったなぁ」
「おいおい、ゴーストならここにいるけど?」
「えっ?」
「うわっ! 自然に会話に入ってきた!」
咄嗟に離れる二人。
「ああ、安心してくれ。俺は別に危害を加えようって訳じゃないさ。安心してくれ。借金執事、ネコ耳」
フレンドリーに接してくるゴースト。
「借金執事とか言っちゃだめですぅぅ! ライターさんが、このお話のライターさんが捕まってしまいますぅ!」
「? なにテンパってんだ? 北都。それにライターさんて何のこと?」
「いや。なんでもない。こっちの話」
両手を振ってごまかす北都。
「ふっ、はっはっは! お前ら面白いやつらだな。よし俺について来い。この先にある隠し通路を教えてやる」
「お、ホントか!?」
「ああ。お前らの仲間たちも大歓迎だ」
「お、それはありがたいですねぇ。是非とも奥に行ってみたいですねぇ」
「俺も」
ゴーストの話に乗る二人。
「決まりだな。俺はドルックだ。よろしくな」
二人はドルックをみんなに紹介して、秘密の通路へと案内してもらった。
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