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第一章 突入

 轟音と共に、扉が吹き飛んだ――
 砦の正面入口の広間にいたテロリスト兵たちは何事かと扉へと一斉に押し寄せる。
 彼らの目に飛び込んで来たのは、一瞬にして砕け散った扉の残骸を踏みつけて、立ち昇る土煙の中を悠然と歩くクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)の姿だった。
「侵入成功なのだよ。エイミー、パティ。始めるとしようか」
「おっしゃ。パティ、また頼んだよ」
 クレアに名前を呼ばれた彼女のパートナーエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)が、隣にいたパティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)に指示を飛ばす。
「任せてくださいですぅ。それ、六連ミサイルポッド!」
 おっとりとした口調で、ミサイルを発射した。しかし標的は敵ではなく、数歩先の地面。
 激しい爆発音が室内に響く。
「な、なんだっ!?」
 立て続けに起こった爆発に、その場にいたテロリストたちも動揺を隠せない。気が付くと、強行突入してきた三人の姿は消えていた。
 否、正確には隠れていたのだ。
 先ほどパティが放ったミサイル。それによって破壊された床が、塹壕の役割を成していたのだ。
「し、侵入者だ――があっ!」
 急ごしらえの塹壕から、乾いた音が響く。同時に、テロリストの脇腹から鮮血が流れ落ちる。
 クレアが、ライフルによる遠距離狙撃を行ったのだ。
「よし、みんな、中に進むのだよ」
「オレらが派手にかましてやっから、とっとと行きやがれ!」
「心配はいらないですぅ。弾薬ならたくさんありますから〜」
 クレア、エイミー、パティが三者三様の言葉で侵入を促す。その言葉を聞いたメンバーたちが、素早く移動を開始する。


「さて、そろそろみんな内部へ向かったであろう――おっと、危ない」
 砦に入っていくメンバーを確認しながらも、敵を警戒し引き金を引く。
 冷静かつ正確に敵の数を減らしていくクレアだったが、敵の数はみるみるうちに増えていく。中には、武装したゴースト――ゴースト兵も集結していた。
「なんか変なの来たぜ……」
 ゴースト兵の姿を確認したエイミーが、不安を漏らす。
「大丈夫。心配はいらないわ!」
 背後から声がする。そこに立っていたのは、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)であった。
「ゴーストだからって全く物理攻撃が効かないわけじゃないのよ。それに、私たちも協力するから。ね? ルナ、フィス」
 隣にいた自分のパートナー、天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)に笑顔を向けるリカイン。
「任せてくださいお姉さま、です」
 無表情のままうなずくルナミネスと、
「もちろん! 役に立ってみせるわよ!」
 自信を示すシルフィスティ。
「すまないな。では、私たちは後方から支援させてもらうのだよ」
「了解――いくわよ」
 深く腰を落とすと、両足の伸縮を使って床を蹴った。パワーブレスで強化されているため、常人を軽く凌駕する速さであった。
 まるで、疾風――
 獲物を捕食する肉食動物のような動きで、リカインは敵に肉薄していった。
 数は三人。
 目の前にいたテロリストは、蛇のような軌跡を描くフックをこめかみに受けて崩れ落ちる。
 左斜め前とその奥。残り二人の敵の顔が、驚愕に歪む。
 恐ろしいほどのスピードとパワーを目の当たりにして、二人は一瞬身動きが取れなかった。
 もちろんその隙をリカインが逃すはずがない。素早いステップで左斜めにいた敵へと詰め寄り、鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。
「ぐふっ――」
 短い息と共に、くの字に曲がったテロリストはしかし、倒れることを許されなかった。
 リカインに髪の毛を掴まれていたからだ。

 掛け手、という言葉がある。
 空手などの武道で、相手の首に手を掛けて頭部を引っ張ると同時に突きや蹴りを当てるという、攻撃を効率よく繋げるための技術だ。
 しかし、その起源は相手の髪の毛を掴むことだったという説がある。そんなことをされればほとんど身動きが取れず、防御も攻撃も非常に困難であると言ってもいい。危険であるが故に武道の試合では禁じ手――反則なのだが、そんなものが存在しない実戦においては、この技術は脅威である。
 リカインがこのことを知っていたのかどうかは定かではないが、定石通りの使い方をして、さらなる打撃を加えることはしなかった。
 しなかったのだが――

「うおりゃっ!」
 近くにいたもう一人に、そのテロリストを投げ飛ばすという珍技を見せ付けた。ぶつかった衝撃でバランスを崩した二人は、床に尻餅をつく。
 その刹那、リカインは、突き飛ばされたほうのテロリストの顎を容赦なく踵で踏み抜いた。
 耳を汚すような不快音がした後、そのテロリストは動かなくなった。
「ふぅ。まだこれで終わりじゃないわよね?」
 視線を目の前に移す。
 奥からは、騒ぎを聞いてやってきた敵がなだれ込んできていた。
「オレらも負けてらんねーぞ! 派手にかまそうぜ! パティ、弾薬よこせ」
 リカインたちの活躍を見たエイミーは、塹壕の中で弾薬を補充し、機関銃を掃射する。
 銃口が激しい音を出して明滅を繰り返す。その度にテロリストたちは後退と回避を余儀なくされる。


 現場リーダーのテロリストは、思いもかけない事態に混乱していた。
つい少し前に来た、鏖殺寺院の連絡要員を名乗る者たちの言っていた情報が全く違うのだ。
――侵入者は二、三名で性格は愚直。それ故に正面から攻撃を仕掛けてくるが大して強くない、と。
(くそっ! 一体どうして情報が見破られたっていうんだ!? ……まさか! 鏖殺寺院から来たあいつらがクロだったのか……?)
 混乱した頭がさらにごちゃごちゃになる。騙されたことへの悔しさと怒りを抱きながら銃を構えようとするが、それよりも数コンマ早く、クレアの正確無比な狙撃が、リーダーの額に穴を開けた。
 リーダーはまるで床と抱擁をかわすように絶命した。