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第十一章 決戦、そして――明かされる過去

 使い魔フクロウの追跡の結果、ガディアスは砦の屋上にいることがわかった。
 しかし、階段を上がった先の扉は、固く閉ざされていた。
 どうやら、外からガラクタやら瓦礫やらで押さえつけているらしい。
「ええい! ぶち破るか!?」
 永谷が慌てたように訊く。
「……いや、さっきのニトログリセリン爆弾、あれを使おう」
「……なるほど!」
 六人は、爆弾をセットした。


 屋上にいたガディアスは、傷薬を使い終わると、高い空を仰ぎ見た。
(助けは求めた。早く来てくれよ。俺は、この計画を成功させなければいけないんだ……)
 心中の凝りを吐き出すかのように息を吐くと、後ろから爆発音が聞こえた。
「ぐっ、本当に、忌々しい――」
 曲刀と長剣をそれぞれ持ち、扉のほうに向き直る。
 爆風の向こうから現れたのは、優斗、公明、永谷、透乃、泰宏、陽子の六人。
「もう、いい。貴様ら全員、葬り去る!」
 宣言するガディアス。そこへ、大きく跳躍し、先頭に立った顕が現れた。
「ガディアス! ついに見つけたぜ! 俺と勝負し――」
 顕のセリフを無視し、レンジを一気にゼロにするかスピードで迫ってくるガディアス。交差するような二つの剣戟の軌道。しかし顕は咄嗟にブロードソードを間に挟んで防いだ。
「おおっと、いきなりかよw」
「いろいろ考えるのはやめだ。邪魔するヤツは徹底的に潰す!」
 顕の身体を押し戻す。
「へっ! 俺を楽しませてくれよな! 烈風斬!」
 正眼に構えると、その場で剣を振り下ろす。
 真空波の如き斬撃が向かってくる。それをを感じ取ると、ガディアスは横へと跳んだ。
 完全にはかわせず、ぶしゅ、という音と共に、左の二の腕から出血した。
「くっ――新参者がっ!」
 態勢を立て直すと、羽を広げた孔雀のように両腕を伸ばして走ってくる。
「させませんっ! えーいっ!」
 陽子が、左手で握られていた曲刀に凶刃の鎖を伸ばす。
巻きついた鎖を引っ張る陽子。意外にもスポンと抜けた曲刀は、そのまま陽子の手に渡る。
「しまったっ!」
 烈風斬を受けて左手に上手く力が入らなくなったと踏んだ、陽子の読みが当たった。
「すごいすごいっ! ご褒美に今度私が縄を巻きつけてあげるねっ!」
「と、透乃ちゃん、変なこと言わないでください!」
 口だけは文句で返すも、心の中ではそんなシチュエーションを期待していた。
「おのれ……。おのれええええっ!」
 ガディアスが吼える。
「なぜだ! なぜ貴様らは邪魔をする!?」
「そっちこそなぜですか!? どうしてこんなことをするのです! テロなんか起こして、一体何をしたいのですか」
 優斗が疑問をぶつける。
「……ふっ、世界を破滅へと導くためだ」
「どういうことですか……?」
「人間というのは! 自らと違うものを受け入れられない愚かな生き物だ!」
 いいだろう、と言って、話を続ける。
「俺は地球のある国で生まれた。異国の父との間に生まれたってだけで、幼い頃からいじめや迫害を受けてきてね。そんな周囲からの心無い仕打ちによって、貧しく、すさんだ生活を強いられ、その果てに父も母も失った。絶望に落ちたそんなとき、浮遊大陸パラミタの話を聞いて、そこが希望の地だと確信して行ったんだ」
 苦笑を浮かべるガディアス。
「確かに悪くはなかった。大体の人は受け入れてくれたしな。何より出会ったパートナーの女性――オルフィリアの存在が大きかった。家族以外に俺を受け入れてくれる人がいるんだって始めて思ったよ」
 そこで区切ると、苦笑が憎悪へと変わっていく。
「俺は彼女を愛してたし、彼女も俺を愛してくれた。本当に幸せだった……。反パラミタを掲げる過激派地球人とパラミタ人との抗争に彼女が巻き込まれるその時まではな!」
 くくくっ、と狂気の笑いが口から漏れる。いつの間にか、口調も乱暴になっていた。
「身体はぐちゃぐちゃになってたそうだぜ、あいつ。見つかったのは右足と服の切れ端だけだったとよ! 平穏や安全を唱えるやつらが、人を、殺すんだぜ!? いやまさに、傑作じゃねぇか! 所詮どこ行っても俺が生まれた国と同じだって、その時気が付いたんだよ。自分と違うものを許容できないという醜悪な人間が存在する限り、希望の地なんてないんだって」
「そんな、ことが……」
 語られる出来事に、公明は閉口してしまう
「俺はここで面白いこと閃いた。そんなに憎いのなら、俺が戦いの狼煙を上げてやろうって。ふふっ、地球に大陸が落ちてくれば、パラミタを危険視するヤツらとの緊張はさらに高まって、互いに戦いを繰り広げるだろうな。地球とパラミタ。哀哭する二つの楽園で殺戮を繰り広げ、自らの憎悪で世界を滅ぼすんだよ! 人間はっ! まったく、力を貸してくれたバルジュ兄弟、サマサマだぜ!」
「ざけんなっ! お前の勝手な了見で、悲しむ人やゴーストを増やせるかっ!」
「確かに、人間はいい人たちばかりではないでしょう。ですが、だからといって無益な戦争や破壊をしていいというわけではありません!」
「勝手に人間に絶望した人が、偉そうに言わないでください」
「全くだぜ。厨二病よりひどいな」
 永谷、優斗、公明、顕が否定を口にした。
「大切なを失う悲しみを知っているなら、もう止めて!」
「透乃ちゃんの言うとおりだぜ。止めないなら、おまえの計画、全力で潰す!」
「私も、透乃ちゃんたちを、失いたくないっ!」
 透乃、泰宏、陽子もまた、自分の正直な思いをぶつける。
「別に理解してもらおうとは思っていない。っと、ベラベラしゃべりすぎたな。行くぞ」
 残った長剣を手にして、進む。武器での攻撃かと思いきや、魔法を放った。炎弾が、透乃に向かっていく。
「させねぇって!」
 ディフェンスシフトでカバーに入る泰宏。
 その隙を突いて、透乃が左拳の連打を降り注ぐ。
「次はちゃんと身体に当てるからね〜」
「なめる、なぁ!」
 コンパスのように軸足を中心に弧を描くような摺り足で、背面に斬撃を叩き込もうとした瞬間、ガディアスの耳を散弾が掠めた。
 ぐっ、バランスを失い、そのまま後退するガディアス。
「ふー、なんとか間に合ったぜ!」
 声の主は、クレア・シュミットのパートナー、エイミーだった。
 クレア、エイミー、パティの三人は、一階の制圧を済ませて、ガディアス捕縛に向かっていた。ついに今、合流した。さらに、彼女たちの奥からは、洋とみとの姿も見える。
「うおっ! よくここだってわかったな。おまえら!」
 心底びっくりしたような顔を浮かべる顕。
「解放したゴーストたちに協力してもらったのであります。数を武器にして、道の捜索やらを手伝ってもらったのであります。途中、クレアたちにも出会って、今、こうしているというわけであります」
「というわけなのだよ。覚悟したまえ」
 クレアがスナイパーライフルを構える。
 戦況は、十二対一。
 これ以上は、ガディアスも辛いだろうと思ったその時、
「くっ……これは使いたくなかったんだがな……」
 彼がポケットから取り出したのは、一つの小型カプセル。それを壊すと、中から現れたゴーストがガディアスの身体の周囲に禍々しいオーラが漂い始める。
 それはどんどん大きくなっていく。
「遅かったかっ!」
 再び、扉から声。茜と、そのパートナー、エミリーであった。
「みんな、聞いてくださいであります! あれこそが、ガディアスのパートナー、オルフィリアであります!」
「あのカプセルは凝縮したオルフィリアのゴーストが入っていて、ガディアスに力を与えるの。今のあいつは、相当強くなってるわよ!」
「なんだって!」
 永谷が驚きの声を上げるのと、ガディアスが走り出したのは同時だった。火術、光術、雷術の三つを一気に発動して、その場の全員を攻撃してくる。
「くっ、厄介ですね」
 圧倒的な危機。しかし、公明は落ち着いていた。
 ヒロイックアサルト、反計。
 相手の攻撃に確実なカウンターを決めるこの技を、公明は今、発動させた。
 魔法が襲い来るまでの時間と空間の空きを瞬時に計算し、自分も火術と雷術を放つ。
(こんなときに不謹慎ですが、五丈原を思い出しますねぇ……)
「がはっ!!」
 直撃を受け、その場に膝をつくガディアス。オルフィリアの加護があるとはいえ、ダメージが無いわけではない。
 その隙を突いて、洋とみとが攻めまくった。
「いくぞ! みと! 爆撃だ! 直接火砲支援攻撃を行え!」
「承知しましたわ。洋さま」
 スプレーショットと火術のラッシュを受けて、さらにダメージを受けるガディアス。
 そこに、クレアとエイミーの銃弾が飛んでくる。
「パティ、銃弾よこせっ!」
「はい、どうぞっ!」
 至れり尽くせりで銃弾補給を行い、パティは二人の狙撃をサポートする。
「今だっ!」
 クレアが二回引き金を引く。その攻撃を最後に、ゴーストの気配が完全に消えた。
「うおああああああああっ!!」
 苦しみ呻くガディアスの周りからは、禍々しいオーラが消える。
「いやだ……そんな……消えないでくれ! オルフィリアアアァァァッ!!」
 精一杯叫ぶも、ゴーストの力が戻ることはなかった。
 それでも、ガディアスは立っていたが。
「まだだ……。まだ終わらん……。貴様らは、必ず殺すっ!」
 鬼気迫る表情で睨み付けるその顔は、まさに復讐鬼だった。


「残念だけど――君の負けだよ」
 空中から声がしたかと思うと、ガディアスの左胸に、穴が開く。その穴からは、腕が生えていた。
「これ以上やったても、君、負けるだろ? そしたら僕たちのやろうとしてることがバレちゃうわけ。だから死んでよね」
 後ろから姿を現したのは、太陽のように輝く笑顔を浮かべた銀髪の少年だった。
 愛嬌のある丸い目を乗せたその顔は、無垢な印象を与える。
 しかし、状況から見て、この場違い極まりない少年がガディアスを殺したのは間違いなかった。
「グストにいさま、グストにいさま! ガディアス、ころしちゃうの?」
 続いて現れたのも、銀髪の少年。まるで双子ように瓜二つだ。違っているところといえば、幼い喋り方ぐらいだろう。
「ソレント、役に立たないものは捨てなきゃダメだって、いつも言っているだろう?」
「うん。ソレント、いつもいわれてる。はんせ〜い。ははっ!」
 目の前に現れた二人は、とんでもない単語を口にした。
「グストに、ソレントだって……」
 信じられない様子の泰宏。
「それじゃあ、この子達が、バルジュ兄弟……」
 唖然としたクレアの声に気が付いたのか、グスト・バルジュはメンバーへと振り返る。
「君たちかぁ。僕らのことをコソコソかぎまわっているのは……」
 ゴミ出し日を守らない住人に注意する大家のような口ぶりで、わざとらしくため息を吐く。
「言っておくけど、無駄だよ。君たちに僕らを捕まえることなんてできない。僕らの野望の完成を、ただ待つしかできないよ」
「うんうん。むだむだ〜。きゃははははっ!」
 ソレント・バルジュがけらけらと笑い出す。
「野望だと……」
 顕が引っかかった言葉の意味を訊く。
「あっ、余計なことだったかなぁ。でもまぁ、聞かれたところで大して支障はないかな」
「いったいどういうことですか!?」
 優斗が激しい口調で追及する。
「教えてあげないよ。知りたかったら、自分たちで調べればいいよ〜。それじゃ、バイバイ」
「ばいば〜い」
「待てっ! このっ……」
 永谷が言った時には、すでに二人は消えていた。
「野望……一体何のことでしょう……」
 公明が呟いた頃、空には曇り空が出始めた。