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第四章 ガディアスを捜して

 砦の地上三階。田桐 顕(たぎり・けん)は資料室と思わしき部屋で戦っていた。
「ああっ! くそっ! めんどくせぇ!」
 悪態を吐きながら目の前のテロリストを切り捨てると、奥でハンドガンを構えているもう一人の方へと間合いを詰める。
 直後、抵抗手段を失ったそのテロリストを切り伏せた。
「ひっ!」
 残ったもう一人のテロリストは、脇目も振らずに逃げ出した。
「にゃろ――逃がすかっ!」
 追いかける顕。
 しかし、必死の形相のテロリストは、資料が入った本棚を倒しながら逃げる。
(なっ! 目くらましのつもりかよ!)
 上手くかわして追っていくも、テロリストはドアの向こうに消えていた。
 書類が散乱した部屋で、顕は大きくため息を吐く。
「はー……また手がかりなしかよ……。どこにいるんだ! ガディアース!」
 自分の求めるべき相手の名前を叫ぶ。もちろん、無駄だと分かっていたが。
「ま、いいや。一回戻ろ」
 資料室を後にする。
 廊下に出てすぐに声が聞こえてきた。隣の部屋からだ。
 気になってその部屋のドアを開ける。
 顕が見たのは、テロリストに尋問している湯島 茜(ゆしま・あかね)と彼女のパートナー、エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)の姿であった。
「なんだ……あかねちんとえみりんか。ガディアスじゃなかったのな」
 ひどく残念な様子で肩を落とす。
「なんだとは失礼ですね〜。確かにガディアスじゃないけど、有力な情報を得られそうなんですよ」
 茜の言葉を聞いた顕が激しく反応し、そのテロリストに掴みかかった。
「なにっ!? どこだ!? ガディアスはどこだ〜!」
 胸倉を掴んで激しく揺らす。
「話すっ! 話すって! だから揺らさないで〜。まだ頭が痛いんだ〜」
「あん?」
 テロリストの言っている意味が分からず、聞き返す。
「それがしの投げた餅を追ってきて、コケたのでありますよ」
 テロリストの代わりに、エミリーが答えた。
 言っていることが本当だとしたら、シュールな光景だ。
「おまえ、そんなに腹減ってたの?」
 呆れたように訊ねる顕。その問いに猛反発するテロリスト。
「最近忙しくて食事する暇なかったんだよっ! うわあああああああん! びえええええん! えーんえーん!」
 ついには泣き出してしまった。
「はーっ! まあいいや。んで、ガディアスはどこにいるって?」
「ひっ、ぐっ、ううっ……ガディアス様は、最上階にいる、はず……」
 しゃっくり上げながら答えるテロリスト。餅のせいでつかまったのが、よほど悔しかったのだろう。
「おし。わかった。それさえわかればオッケーだ! んじゃな!」
 シュタッ、と手を上げると顕は部屋を飛び出していた。
「行っちゃった……。まぁいいや。あたしはまだあんたに訊きたいことがあるんだよね」
「えっ……?」
「ガディアスってさ、地球人だよね? そしたらたぶんパートナーとかいると思うんだけど……知ってる?」
「そ、それは……」
 茜の追及に、口ごもる。
「どうして答えてくれないんでありますか? どうして答えてくれないんでありますか?」
「ひっ!!」
 輝きが消えたエミリーの双眸を見て、テロリストは恐怖のあまり短く悲鳴を漏らした。
 エミリーはいつの間にか持っていた空鍋をお玉で回しながら、『り、ん、く、ん』と繰り返していた。
「こらこら、エミリー、怖がらせちゃだめだって」
「わかったであります……」
 ヤンデレが露見したエミリーを、茜がたしなめる。
「ガディアス様の、パートナーは――」
 テロリストが語った真実を聞いて、茜とエミリーは驚愕に顔を歪めた。
「まじで……?」
「それは、ガディアスと戦う人たちに知らせたほうがいいでありますな……」
「なぁ、ここまでしゃべったんだ。餅、くれよ……」
「ベラベラよく喋ると思ったら……。ほら。かみ締めて味わってよね」
 エミリーから餅を受け取ると、テロリストに渡した。
 心底嬉しそうに頬張る彼を尻目に、茜とエミリーは走り出した。