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第九章 ガディアス包囲網

「ホントに昔ワルだったの? そんなんじゃ、土御門雲雀は振り向かない、とか言えないよ?」
「てめー、チョイスが若干古いぞ……。つかそんなこと言いった覚えねぇし!」
 管制室近くの廊下の影で、雑談をしていた雲雀とエル。
 ついさっき行った、エルザルド提案の撹乱作戦の経過待ちをしていたのだ。

 十数分前、エルザルドは管制室の見張りに札束を渡して、こう言った。
「俺らの仲間にならない? 前金でこれだけあるけど……」
 当然困惑する見張りのテロリスト。
(仲間、といっても何のことだかわからない。テロリストたちで何かイベントをやるのか?それとも、ガディアス様へのサプライズパーティか? いや、裏切れということか?)
テロリストが考えていると、エルザルドはどこかへ行ってしまった。
「あっ、しまった……。とりあえず、リーダーに渡しておこう」
 見張りは、管制室へと戻っていった。

「なぁ、一体どういう作戦なのか教えろよ」
「いいよ。ネタ晴らししようか。あのあと、リーダーに報告したテロリストは、どうなると思う?」
「はっ? そりゃ、リーダーに真面目な働きぶりだと思われるだろ」
「その通り。でも、そういった出来事がひとつでもあると、リーダーは同時に『こいつは真面目に金を渡した怪しいヤツのことを報告したが、他のヤツはどうだ? もう金をもらって、裏切っているやつがいるんじゃないのか?』って考えてしまうんだよ」
「そんな都合良くいくかよ……」
「この砦みたいに部下が多いとね、全員と信頼関係を築くのは難しい。簡単に疑ってかかることができるんだよ。あのテロリスト、真面目に仕事したつもりが、疑心の芽を植えつける結果になるだろうね。かわいそうに……」
 エルザルドが語り終わるや否や、管制室から怒号や悲鳴、さらには物を破壊する音が上がった。
「ひゃっ!」
 思わずエルザルドに抱きつく雲雀。
 自分がついやってしまったことに頬を紅潮させながら、誤魔化すように怒る。
「て、てめー、いつまで抱きついてんだよ! 離れろコラ!」
「抱きついてきたのはそっちなのに……ヤンデレなんだから」
「だからちげーよ!」


 管制室は、死体で溢れていた。
 互いに殺しあったのだろう。モニターや壁に穴が開いていた。
「さて、制圧完了。音声の放送機器はなんとか生きているから、一輝からの情報を流そう」
 マイクの電源を入れると、喋り始めた。
「ハロー! エルザルド・マーマンの『オールナイト・パラーミター』。今回は何と、ヒラニプラ近くの砦から出張放送! みんな、最後まで楽しんでいってね!」
 いきなり何を言い出すのかと思った雲雀は、思わずコケた。
「てめっ、真面目にやれよ!」
「いいからいいから〜。エルーを信じて〜」
「だからチョイスが古いんだって!」
 雲雀の文句を無視して、エルザルドは放送を続ける。
「まずは普通のお便り、略してふつおたから。ペンネーム、“ミ・ミ・ミラクル・ヒバリンリン〜恋のヒバリ伝説〜”さんからのメッセージ。『エルザルドさん、毎回楽しく聞いています。さっそく質問なんですが、砦の中って、どうなってるんですか?』だそうです。コホン、では今から説明しますね。武器庫は4つ。一つ目は、二階に上がってすぐのところ、二つ目は四階の東端。三階の広間の近くと、奥に一つずつです。最初の一つは入口が瓦礫で閉ざされているため特に危険はありません。医務室は、二階の南西の部屋です。“恋のヒバリ伝説”さん、わかったかな〜? では一旦、ここでCMで〜す」
 エルザルドは、見事なトークで、情報を漏らし始めた。


 放送が流れたちょうどその頃、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)安芸宮 稔(あきみや・みのる)の三人は、三階の広間の近くにある武器庫へと来ていた。
「もうちょっと早くその情報が欲しかったです……」
 放送を聞いた和輝がため息を吐く。
 彼らが武器庫を探している間に、制圧を恐れたテロリストたちによって、先に三階の武器庫を押さえられてしまったのだ。
「和輝さん、大丈夫ですよ。奪われても、奪い返せばいいだけの話です」
「まかせてください。私とシルフィーに考えがあります」
 そう言って稔が取り出したのは、ねずみ花火と火炎瓶であった。
「これを使って囮になるので、その間に和輝さんが武器庫を壊しちゃってください!」
 では、と歩き出すクレアと稔。
「おい、貴様ら、止まれ!」
 二人の姿に気が付いた見張りのテロリストが、近づいてくる。
 命令どおりその場に止まると、クレアはねずみ花火に火をつけて投げつける。
「な、なんだ!」
 素早くその場で回転を続けるねずみ花火。
 変なステップを踏みながら、それを回避しようとする。
 好きなだけ回った後、ねずみ花火はパン、と風船を割ったような破裂音を起こして動きを止めた。
「ひっ!」
 突然の出来事にびっくりしたテロリスト。しかし、特にダメージもなかった。
数秒後、威嚇だと理解した。
「お、おまえらあああああぁぁぁ!!」
 怒りを口にして、元凶を探す。二人は豆粒ほどに小さくなっていた。
 見張りを出来るだけ引きつける。当然テロリストは追ってきた。そこに、今度は稔が火炎瓶を投げつけた。
 またこけおどしだろうと高をくくったのがマズかった。ぶつかって割れた火炎瓶は、テロリストの服へと燃え移った。
「うおあっ! あつ、あっつい!」
 ぐるぐると回ったり、壁に身体を押し付けたりして消火を計るが、なかなか消えない。その隙をクレアは逃さなかった。
「ええーーいっ!」
 光条兵器が光を放つ。未だ正体不明のそれだったが、テロリストにダメージを与えることには成功したようだ。床に倒れるテロリスト。
「うまくいきましたね」
「な、なんとかできましたぁ……」
 実戦慣れしていないクレアは、深く安堵した。
「これくらいで緊張してどうするんです? さぁ和輝のもとへ戻りますよ」
 テロリストの服の残り火を消してやると、稔は歩き出した。


「特に誰もいない……よしっと」
 部屋の中を確認すると、和輝は光条兵器を取り出した。
 アマツヒカリヤエハという、2mもの両刃剣の形をしたものである。
 それを片手で軽々と持つと、中の武器を破壊し始めた。
「うおりゃああああああっ!!」
 振り回して斬りつけていく。木箱に詰められた銃器を潰し、壁に掛かっていた剣を叩き斬り、棚の鎧を棚ごと両断する。
 まるで台風のように破壊していく。
「こんなもんでいいかな」
 自分がもたらした惨状を見て、満足そうに頷く。そして、クサヤを取り出すと、部屋の中に投げつける。
 暴れたときに起こった土煙に乗って、悪臭が充満していく。
「おっと、そろそろ出ましょうか」
 和輝は、ドアを閉めた。


「どうでしたか? 和輝?」
「ふふっ、上手くいきました」
 外で、クレア、稔と合流した和輝は、結果を報告する。
「そうですか。どれどれ……」
 ドアに向かう稔を和輝が止めた。
「開けないほうがいいですよ。クサヤを投げ込んでおいたので相当臭うはずです」
「なっ、和輝、あなたっ、食べ物を粗末にしてはいけませんよっ!」
 オオトシガミとしての性格やエピソード故だろうか、食べ物の話題に過剰に反応する稔。
「別に牛を食べたわけじゃありません。怒らないでください。それに、こうすれば敵も入りたがらないでしょ。無駄な殺生なんかじゃありませんから」
「それはそうですが……」
 納得のいかなさそうな顔を浮かべる稔だった。
「さて、次に向かいますよ。この階の近くにあったから、すぐに着くはずです」
 対する和輝は、柔らかい笑顔だった。


 和輝たちのいる広間からかなり距離の開いた奥の武器庫の前で、篠宮 悠(しのみや・ゆう)瀬良永 梓(せらなが・あずさ)がテロリストとの戦闘を繰り広げていた。
「結構数が多いな」
「ホントだよね。でもこの中の武器は全部ボクのだからあげないよ〜」
 向かってきたテロリストの剣を弾くと、梓はランスで素早く連続の刺突を放った。胸と腹に穴が開き、テロリストはドサリと倒れた。
「とりあえず、ここを守っておけばガディアスの捕縛に役立てるからな。やらせてもらうぜ」
 2mを超える長剣型の光条兵器を構えなおすと、悠は目の前に集まっているテロリストたちに向かっていく。
「全く……いつもは『ダルいは正義』とか言っちゃってるくせに……」
 梓の言うとおり、悠は普段から怠惰である。しかし、一度興味を示したことにはひたむきなやる気と粘りを見せるのであった。
 一人目を真横になぎ払うと、返す光刃で奥にいたもう一人のテロリストの武器を斬り落とした。
「くそっ! 調子に乗るなっ!」
 新しくやってきた敵が、ショットガンを構えた。
「ちょ、飛び道具はさすがにまずいっ!」
 すかさずブラックコートを纏い、光学迷彩を発動させる。
 姿を消す悠。そのまま一気に敵に詰め寄ると、抜刀のように素早い動きで光条兵器を再発動させ、斬り倒した。
「おお、やるねぇ……」
 あまり感心してない様子で、褒める梓。
「くっ……撤退だっ! 撤退!」
 指揮官らしき男が号令を掛けると、敵は背中を向けて逃げていった。
「よっしゃ。防衛成功」
 微笑を浮かべ、悠はふーっ、と深く呼気を外に出した。
「そろそろ、レイオールを呼んでくるか」
「そうだね。ボクはここに残って武器と蜜月の時間を過ごすよ」
「いや、すぐに戻ってくるし。そしてこの武器庫は破壊だ」
「やーだー!!」
 涙目になる梓を残して、悠は歩き出した。


「うおりゃああああああっ!!」
 三階の階段付近。
気合十分といった感じで、悠のもう一人のパートナー、レイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)がグレートソードで敵を豪快に薙ぎ払っていた。
 彼がここにいるのは、悠たちが武器庫へ向かいやすくするための陽動のためである。
「ひいっ! わあああっ!」
 発狂したように叫ぶテロリストの男。股間は湿っており、液体が床に零れていた。
 無理もない。5m近い合体ロボットのような男が暴れまくっているのだ。誰だって怖いだろう。
「おのれえええええっ!」
 恐れずに剣を打ち込んでくるもう一方のテロリスト。しかし、レイオールが軽くその剣を払っただけで、壁にめり込んでしまった。
「くそっ……。負けてたまるかぁ……」
 床で漏らしていた男は立ち上がると、震えた足のまま階下へ戻っていった。
「ふむ……終わったのか……」
 だが、しばらく待っていると、八名ほどの部下を引き連れて、レイオールの元へ戻ってきた。
 敵軍がなだれ込む。
 レイオールは応戦する。剣で攻めてきた一人目を一太刀で倒し、その死体をすぐ後ろにいた一人に投げつける。バランスを崩して転がり落ちる二人をかわしてやってきた鉄甲使いの拳を握りつぶすと、振り回して壁に叩き付けた。
 少しの間方向を変えた隙を狙い、太り気味の男が鎖を巻きつけて動きを封じようとしたが、レイオールは巻きついた鎖を難なく引っ張ると、天井へとその男の身体をぶつけた。
次の瞬間、天井の瓦礫と一緒に男が落下し、踊り場で銃を構えようとした男を潰した。
 八人中、五人が戦闘不能。
 時間にして、十秒も経っていない。
「わわわ……こんなの勝てるか〜!!」
 どひー、と、両手を上げて可愛らしく逃げていくリーダー格のテロリスト。
 だが、二人だけ、残っている者がいた。
「かっこいい……」
「ロボットだ……」
 十歳前後の、少年兵だった。武器を手にしていたが、敵意はもうないようだった。
「すげぇ! 中にいるのはGGGのサイボーグかな?」
「違うよ、貧乏探偵とロリ魔導書だろ! 汝――無垢なる刃、デモンベ――」
「おい! やめろ! いくらフロンティアワークスさんとニトロプラスさんが仲良くしたからって、そう安直なこと言うのはヤバい!」
 少年兵の無垢なる発言、もとい危ない発言を止めたのは、レイオールを迎えに来た悠であった。
「あ、篠宮悠、ワタシを迎えに来たのか? 武器庫はもういいのだろうか?」
「ああ、もう来ないだろうし。――お前ら、こんなことはもう止めて、まともな人生送りな……」
 返答しつつ、少年たちを諭す。
「え〜でもぉ……」
「こんなところにいるより、外で暮らしたほうが、いっぱいロボット見れるぞ」
「うん。テロリストやめる!」
「俺もっ!」
 言うと、駆け足で階段を下っていった。
「反応早いな……」


 悠たちが戻ると、梓が駄々っ子のように泣き喚いていた。
「やだー! ここの武器庫はボクのなんだ! 壊しちゃやだよ〜!」
「わかってください! みんなのためなんです!」
 先に来ていた和輝たちに、武器庫を明け渡すよう交渉されていたのだ。
「でもでも!」
「もういいだろ。諦めろよ。梓」
 悠が説得する。しばらく文句を言っていた梓だったが、
「わかったよっ!」
 頬を膨らませながら和輝を武器庫に入れた。
 すぐに、破壊音が聞こえてくる。
 その音がたつたびに梓は「うあっ!」とか「ああっ!」と短い叫び声を上げた。
 そうして、和輝が出てきたときには、目幅の涙を流しながら、
「さよなら――ボクのサンドロッ、じゃなかった。さよなら。ボクの愛しい武器たちよ!」
 手を組んで祈りを捧げていた。
「和輝、クサヤを使ったのですか?」
「ええ。もちろん」
 稔は、やっぱり納得のいかなさそうな顔をしていた。


『えっと、ここで緊急連絡でーす。なんか、ガディアスが医務室に向かってるとの情報が! 皆さん、気をつけてください。はい、ここで一旦CMでーす』
「まだこのふざけたラジオ番組、っつーか連絡やってんのかよ」
「いいじゃないではありませんか。それだけこちらが有利で余裕があるということですわ」
 二階の南西部。つまり医務室を制圧していたリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は、エルザルドの放送に 愚痴を言うパートナー、カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)に笑顔を向ける。
「それに、わたくしたちのところに来るそうじゃないですの。たのしみですわ。ふふっ……」
 三日月形の笑いを浮かべるリリィ。床には、ここに来てから調合しまくった武器となる化学薬品が置いてあった。
「ああっ! ビバ、薬学!」
 少女マンガのようなキラキラとした瞳で見つめだしはじめた。
「ま、まぁいいけどよぉ〜」
 カセイノがリリィに呆れていると、
「ふぐー、んぐー!」
 捕虜となっているテロリストがくぐもった声で何かを言っていた。
 というのも、グルグルに縛られた身体に、猿轡。まともに言葉を出せる状況じゃなかったのだ。
 二人がここに来て制圧したときに、ベッドで横になっていた。どうやら腕を怪我したとかで、医務室にいたらしい。
「ごめんなさいね。おとなしくしてれば命は取りませんので……」
 物騒なことを、あくまでも優しい口調で言う。
「ぐぅ……」
 その一言で、テロリストは黙ってしまった。
「さて、そろそろだろ? ちょっくら外見てくるよ」
 カセイノが踵を返したとき、
 ズドン、と乱暴な勢いでドアが開け放たれた。
 長身痩躯で長髪の男が入ってくる。
「っ! ガディアスかっ!?」
 すぐさま距離を取り、事務机の上に置いてあった作り置きの火炎瓶を手に取って投げつけた。
 しかし、ガディアスは素早い身のこなしでそれをかわすと、包帯や傷薬などが置いてある棚のへと走り出した。
 いつの間にかリリィもカセイノの傍にいた。武器に使う薬品を持って。
「もらうぞ!」
 火炎瓶を連続で投げる。
 最初のうちは右へ左へ避けていたガディアスだったが、次第に次の回避位置を読まれ始め、不利になる。
 すると、彼は捕虜となって身動きが取れないテロリストの襟首を掴むと、盾にして突進してきた。
「何だと!?」
 火炎瓶を投げるカセイノ。当たることは当たった。彼の盾にだが。
 そしてそのまま押しつぶされ、床に倒される。
「ぐあっ!!」
 カセイノがもがいている隙を突いて、ガディアスはリリィの背後に回った。
「きゃっ!」
「動くなっ!」
 首に剣を当て、人質に取る。
「ふっふっふ……頚動脈を切ったら二十秒でお陀仏だぞ」
 テロリストをどかす頃には、リリィはガディアスの手中にいた。苦虫を千匹噛み潰したような顔を浮かべるカセイノ。
「仲間を盾にした挙句、今度は女にまで……。おまえ、本当に人間か? フルボッコだな。うん、決定。ガチャガチャきゅ〜と・フルボッコだ」
「ふっ、語呂はいいがな。果たしてそう上手くいくかな」
 対するガディアスは、非常に愉快な面持ちで、薬や包帯を取っていく。
「ガディアス、発見っ!」
 刹那、永谷が医務室へと走ってきて槍を構える。
「今だっ!」
 虚を突かれたガディアスのを見て、カセイノもランスを取り素早い刺突を繰り出した。
 しかし、それに臆することも慌てることもなく、ガディアスはカセイノの槍の掴むと、反対側の永谷に思いっきりぶつけた。
 部屋の外へ放り出される二人。その二人が、続いた入ってきた透乃たちに迫る。
「危ない! 透乃ちゃん!」
 泰宏が飛んできた二人を身体で受け止める。
(今がチャンスですわ!)
 カセイノたちが作ってくれた隙を活かし、リリィはガディアスの束縛から逃れた。
「ちっ――まぁいい。薬は手に入った」
 負け惜しみのように言って、背中を向けるガディアス。
「待ちやがれええええっ!!」
 烈火の如く怒ったカセイノが尚も追いすがる。
 リリィへの非道を許せなかった彼は、今、激情で動いていた。故に、構えが疎かになってしまっていることに気が付かない。
 踏み込むタイミングがずれた。
(しまっ――)
 ランスの穂先を紙一重でかわしながら、曲刀を抜刀する。
 光のような軌跡が閃いた直後、カセイノの肩口からおびただしい出血が迸る。
「ぐはっ!」
 ランスを落とし、その場に倒れる。
 ガディアスはもう、背中を向けて走っていた。
「カセイノさん! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ……重症覚悟って覚悟してても、やっぱいてぇんだなぁ……」
 駆け寄ってきたリリィに手を借りて、ふらふらとしながらも立ち上がる。
 そのまま医務室へ行き、手当てを受けた。
「おまえら……後は頼んだわ……」
「みなさん、これを持っていってくださいませんか? 何かの役に立つかもしれません」
 リリィが渡したのは、特製ニトログリセリン爆弾だった。