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五機精の目覚め ――紅榴――

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五機精の目覚め ――紅榴――

リアクション


・その先に


「血生臭いとは思ったが……こいつは酷え」
 地下二階通路の惨状を見て、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は思わず呟いた。PASD本隊もここで、先遣隊に何が起こったのかその眼で知る事となった。
「周囲に特に異常はありません」
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)が超感覚、殺気看破、禁猟区を駆使するものの、この場で特に反応はない。
「ただ……」
「もう大分離れてるけど、かすかに足音が聞こえるねぇ」
 彼と同じく超感覚を使用している 佐々良 縁(ささら・よすが)が口を開く。
「調査しに来た他の連中か、あるいはこの遺跡の主が奥のものを解放しに来たのか……」 七枷 陣(ななかせ・じん)が推察する。だとすれば、
「どちらにしても、油断は出来ないね」
 と椎名 真(しいな・まこと)が気を引き締めた。護衛役を買って出ている以上、その役目はしっかりと果たさねばならない。そう考えている。
「さっきのロボット、まだいるのかなー?」
「かもな。あいつらは止まってたからいいようなもんだが、動いてんのがいたら厄介だ」 真のパートナーである彼方 蒼(かなた・そう)原田 左之助(はらだ・さのすけ)が懸念しているのは、保管室の機甲化兵の事だった。
「ご主人様が見つけた情報の通りなら、私達の力でも十分対処出来ると思います。構造や弱点は分かっていますからね」
 陣のパートナー、小尾田 真奈(おびた・まな)がそう言うのには根拠があった。『研究所』において、陣が発見した機甲化兵計画の文書には、その構造や詳細も書いてあったのだ。そこには、現在データベースに開示されている情報以上のものも存在している。
「しかし、いるのは何もそれだけに限ったことではありませんよ。合成魔獣というのも、まだ三体現存しているはずですから」
 地下二階にいるのが機甲化兵だからといって、ここにいるのがそれえだけとは限らない。島村 幸(しまむら・さち)がそう指摘する。現に、『研究所』での経験がそう判断させるのだ。
「研究施設みたいな場所の割に通路が広いのは、そんだけでかいものも運んでた、なんてことも確かにありそうだな」
 アスクレピオス・ケイロン(あすくれぴおす・けいろん)が通路を見渡しながら呟いた。
 道幅は『研究所』に比べれば狭いものの、四、五人くらいなら横に並べるくらいの広さはあった。
 護衛隊は、後続のリヴァルトの部隊の様子を見つつ、道を確かめていった。
「この方達を、ちゃんと連れ帰ってあげたいですね」
 カガチのパートナーであるエヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)が先遣隊の死体を見て呟いた。
 しかし、今はなぜ彼らがそんな姿になったのか、知る必要がある。そのためにも先へ進まなければならない。
 歩いているうちに、階段に行き当たった。降りたところで左右に分かれている。
「どっちからも血の臭いはするんだよなぁ……」
 二手に分かれる事も考えたが、この場はまず右の方へ行き、何があるのか確かめる事にした。
「それにしても、なんであのガーネットって人はこんな場所に知り合いがいるなんて思ったんやろな?」

            ***

「ガーネットって本名?」
 生存者が発見される少し前、遺跡の地下二階に入ったくらいの場所で支倉 遥(はせくら・はるか)はガーネットに話し掛けた。
「記憶にある限りじゃ、その名前で呼ばれてた。だからあたいは本名だと思ってるぜ」
 どうやら本人にも分からないらしい。さばさばとした話し方からすれば、嘘を吐いているわけではなさそうだ。
「そういえば、ここに来る時腕に覚えがあるって言ってたみたいだけど、なんかやってたの?」
「強いて言うなら格闘術ってやつだな。身体を使うのが得意なんだ」
 質問には特に言葉に詰まることもなく平然と答えている。遥が適度にくだけた口調で接しているのも、話しやすくしている要因かもしれない。
「それにしても、シャンバラも随分変わっちまったよな。おかげで全く地理が分かんねーぜ」
 軽く頭をかくガーネット。
「今までここから離れてたってことか……それじゃどっから来たの?」
「目が覚めたのは、眠った時と同じ場所だったからキマクのあたりか。だけど外に出て見たら何だか荒れ果ててるわ人相の悪い男に絡まれるわで一体何があったんだって感じだぜ。元々あんまり方向感覚は良くないからツァンダに着くまでに時間がかかっちまったぜ」
 彼女の話は続く。
「しっかしまさか五千年も眠ってたとはな。しかも国が滅んでるとか、そりゃ分かるわけねーって」
 聞きながら、遥は考える。
(二ヶ月前って事は例の一件の直後……偶然か?)
 ちょうどワーズワースの『研究所』が発見され、PASD設立のきっかけとなったのはその頃である。そして現在ツァンダで起きている事件、行方不明、それらが直線状で繋がっている気がしてならない。
 ある程度話し終えると、遥は少し距離を取って、彼女の様子を観察する事にした。
「ガーネットさん、お知り合いを探してるとのことですが、どのような方なのでしょうか?」
 今度はエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)がガーネットに声を掛けた。この時彼らは地下二階、まだリヴァルトらの隊の後ろにいた。
「ガーナでいい。なに、ただの友達だ。変わり者ばかりだけどよ。自称大賢者に、双子に、甘党。まあ、双子以外はあたいも含めてこんなところで大人しくしちゃいねーだろうがな」
 気心知れた友人を思い出すかのように語ろうとするガーネット。
「そうです……は私も人を探していまして。ウェーブのかかった長い金髪、金色の瞳の十歳前後の女の子です。会った時は黒いドレスを着ていました」
 『研究所』で出会った幼い少女の姿を思い出しながら、エメは言葉を発する。
「それに、発作を起こすくらいに体が弱いようでしたから……出来ることなら早く見つけてあげたいです」
 無論、ガーネットに告げたところで、その少女が分かるとは限らない。
 しかし、
「そーいえば、そんなのもいたな。あんたが言うのとは違うだろうけどよ。純粋無垢、一言で言っちまえばそんな感じだ。たまーに遊んでやってたっけな……」
 彼女は、まるで昔の事を思い出しているみたいだった。
(エメ様、もしかして……)
 エメのパートナーの片倉 蒼(かたくら・そう)が彼に耳打ちする。ガーネットの素性は未だに分からないが、彼女の知る「よく似た」少女は自分達が会った少女と同一な予感がした。
「その方の名前、分かりますか?」
 蒼がガーネットに尋ねた。
モーリオン・ナイン。あたいはリオンって呼んでたけどな。あの五人の中じゃ、一番まともだったぜ」
 その五人が誰らを指すのか、そこまでは説明しない。そして彼女の答えた名は、PASDのデータベースにある、『ナイン』という有機型機晶姫の失敗作の事を指しているようだった。
「ま、リオンのヤツだったとしたらあたいも会いてーけどな。あのバカ力受け止められんのも身内の中じゃあたいくれーなもんだ。淋しがってなきゃいいんだけどな」
 ガーネットは懐かしむような顔をして、天を仰いだ。
 エメと蒼はここでガーネットの正体を確信した。しかし、自分達が見てきた事、それをまだ彼女に伝える気にはなれない。彼女もまた、遥か昔に離れてしまった仲間の身を案じているのだ。
 しばらく歩き続けると、分岐に差し掛かった。左に行けば機甲化兵保管室である。前を行くリヴァルト達は左に行ったのだが、
「んじゃ、あたいらはこのまま進むか」
 とガーネットはそのまま前進しようとした。
「ガーナ、あんまりバラけると危なくねーか?」
 鈴木 周(すずき・しゅう)が彼女を制止しようとした。奥へ向かう目的は同じだが、彼もまた『研究所』の一件で、敵の強さをその身で痛感している。出来る事なら固まっていた方がよいと考えた。
「なに、いざとなったらあたいが守ってやるぜ」
 に、っと笑ってみせるガーネット。
「その必要はねーよ、女の子に守られてたんじゃ男が廃るぜ。俺に任せな!」
 彼女の様子を見て、ビビっていてはいけないと思ったのだろう。周は意気込んだ。
「それに、ガーナの知り合いも女の子なんだろ? どんな子か、是非俺も会ってみたいぜ」
 エメとの会話は聞こえていたので、ガーネットの探し人に対しても興味を持っているように振る舞った。
「周くん、張り切るのはいいけど、この前の事があるんだから無茶はしないでよね」
 周のパートナー、レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)が呆れつつ横目で彼を見た。
「分かってるって、レミ」
 いつもの調子で明るく言ってみせる。そして、正面を向き、誰にも聞こえないくらいの声で彼は呟いた。
(俺だって、絶対に見つけてやるぜ。ノイン、待ってろよ)
 身を挺して自分達を助けてくれた銀髪の魔女の姿を思い浮かべる。この先に彼女の手掛かりがあると信じて。

「こいつは、あの時の……」
 直進する事数分、一行は黒コゲの機甲化兵を発見した。
「ここで誰かが戦ったのでしょうか?」
 エメのその疑問はすぐに解決した。通路には先遣隊の死体がある。
「相打ち、か」
「いや、違うな」
 ガーネットが黒ずんだ通路を見渡した。
「こんな機体の内側に直接稲妻をぶち込むような真似、ただの人間には無理だろ」
 彼女は調べながら言う。轟雷閃の威力でも、そう簡単に金属を炭化させる事は出来ない。実際に対峙した周にはその事が分かっていた。
「じゃあ、誰がやったんだ?」
アンのやつだな。まあ、そこの死体が消し炭になってねーから、こいつらを助けるつもりだったんだろ」
 アン、というのは彼女の探し人の一人のようだ。
「手遅れだったみてーだけどな。ま、絶対とは言えねーけど、奥まで行きゃ分かんだろ」
「そのアンという方は?」
 エメが尋ねる。
「さっき言った、自称大賢者だ。あいつの能力ならこんくらいなんて事ねーはずだ。雷だろうが電磁波だろうが、磁場だろうが、とにかく『電気』に関わるものであいつに操れねーもんはねーぜ」
 少しでも手掛かりを掴もうと、機甲化兵やその周囲を調べていく。その中で、一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)がガーネットに声を掛けた。
「ちょっと聞きたい事があるの」
「ん、なんだ?」
「お腹空かない? カルボナーラ食べる?」
「違うでしょ!」
 そこへパートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)のツッコミが飛んでくる。資料室にあった資料で殴られたのだ。
「あれ、リズいつの間に?」
「そこのロボットみたいなのの前で突っ立ってる時からよ。資料室はいい具合に分担してるからこっち来たのよ」
 一度ガーネットから離れ、二人はこっそりと相談する。
(で、この写真の子と、この資料を見て)
(似てるわね。同じ人?)
 資料には、『アンバー・ドライ』と書かれ、そこに月実の持つ写真に写っているのとよく似た姿があったのだ。
(へー、『能力特性・雷電』ね。あっとそうだ)
 ガーネットに向き直る月実。
「それで、こっちがほんとに聞きたかったことだけど……あ、もちろん他言無用ね」
 改めて写真を見せる。
「誰か知ってる人、いる?」
 ガーネットはまじまじと写真を見ている。
「何でこんなもん持ってんだ? 知った顔はあるが……あたいが知ってんのよりは幼いな。へー、あいつらも元はこういうんだったのか」
 どうやら彼女もいつ撮られたものかは知らないようだ。が、そこに助手――ノインのありし日の姿が写っている事を考えれば、彼女が被験者になるよりも前なのだろう。
「この青い髪はアズだな。へー、あいつ笑うことなんてあったのか。で、こっちは今言っていたアンだ。あの双子もいるな。あれ、これじゃどっちがどっちか分かんねーな。右がエムで、左がサフィーか? いや、逆か。ん……」
 知った顔があるのは確からしいが、微妙に彼女の知る姿とは雰囲気が異なっているらしい。
「そう、分かったわ」
 月実は彼女の様子から判断する。ガーネットはワーズワースの関係者であると。彼女自身が五機精なのか、それとも研究員の一人だったのかは別として。

(特に怪しげな様子は……あれは何を見てるんだ?)
 こっそりとガーネットの一団を監視していた遥のパートナー、屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)はそのやり取りの一部始終をずっと見ていた。
(とにかく、後で報告だにゃ)
 実は、遥もまたガーネットの月実のやり取りを横目で見ていたのだが、見ているのが写真かまでは判断出来ていなかった。隙を見て知らせにいくことだろう。

            ***

「これだけ完全な状態なら、一体回収したいですね」
 機甲化兵保管室にて、ランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)が機甲化兵の一体を見上げていた。
「運ぶなら安全な今のうちだと思うよ、姉さん」
 パートナーのシャロット・マリス(しゃろっと・まりす)が言う。
「とりあえず資料室まで持っていって、またここまで戻ってくればいいんじゃない?」
 と、もう一人のパートナーミーレス・カッツェン(みーれす・かっつぇん)が口にする。
「そうですね。あとは動かせればいいんですが……」
 調査隊とともに、彼女達は機甲化兵を調べている。どうやらいきなり動き出す危険性はないようだ。
「シャロット、手伝って下さい」
 そのため、一体を動かそうとする。見た目の重厚さよりは軽いものの、さすがに一人で持てるものではない。
「では、行ってきます」
「気をつけて下さい」
 リヴァルト達と離れ、そのまま来た道を彼女達は戻っていった。

「通信が入りました。先遣隊の生存者が発見されたとのことです」
 リヴァルトが無線で受け取った内容を、本隊の者達に伝える。
「その人の様子ってどう?」
 秋月 葵(あきづき・あおい)が彼に尋ねる。行方不明になっている先遣隊員の身を案じているが故だ。
「今は気を失っているようです。命にも別状はないとの事で……」
 ただ、そう話すリヴァルトの顔色は優れない。
「どうしました、リヴァルト?」
 樹月 刀真(きづき・とうま)はその様子に気付いた。
「いえ、生存者の方が気を失う前に言ってた内容、というのを聞いたのですが、赤い髪の女とか子供とか言ってたものでして」
「赤い髪の女って、もしかして……」
 葵の頭を過ったのは、ガーネットの姿だった。
「彼女とはここに来るまで一緒でしたから違うでしょう。あのアズライト・ゼクスのような存在だと思います」
 刀真が冷静に分析する。
「血の臭いはこの部屋を抜けた先からだ。用心する事だ」
 狼化しているスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)が注意を促した。
 リヴァルトが受け取った生存者の情報と照らし合わせ、場に緊張が走る。
「……この階で通信が途切れた理由、何か言ってた?」
 質問したのは漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)である。当初はノインの使ったテレポートによる強制退場、もしくは電波障害を考えたがここに来てその可能性がないと悟ったからだ。
「突然繋がらなくなった、とのことです。ただ、今通じてるので何者かによる妨害ではと思います。子供がどうというのも気になるところですし……」
 彼はどこか『子供』という単語に縛られているようでもあった。
「そういえばリヴァルトさん、以前人形遊び好きな子供がどうとか言ってましたよね? あの日も怪我してましたし、何か心当たりがあるんですか?」
 疑問に思っていた事を、東間 リリエ(あずま・りりえ)がリヴァルトに尋ねる。
「あの時はエミカさんに心配掛けるわけにもいかないのでぼかしていたんですが、実は襲撃に遭ってしまいまして……」
 その話を聞き、その場のほぼ全員が一度彼の顔を凝視する。
「相手は依頼だから、と言ってましたが……見た目は十歳くらいの少年でした。人形遊び、とあの時は説明しましたが、実際はそんなものじゃありません。複数の機晶姫を自在に操る力を持っていました。その事に最初は気付きませんでしたが……」
 リヴァルトは続ける。
「ご丁寧に『ワーズワースの足取りを追う者を排除する』のが依頼内容だと教えてくれましたよ。なぜ私がそうだと分かったのかは不思議ですがね」
「それで、その少年はどうなったのですか?」
 刀真が彼に聞く。
「……死んだはずです。戦いの末、私が地上に落としました。だからこそ、引っかかるんですよ」
「なぜですか?」
 今度はリリエだ。
「彼が目の前で操って見せたのは、機晶姫だけではないんです。近くにあったパラミタ原産の機械類ほぼ全てです。エミカさんにツァンダで起きている事件を調べてもらってるのはそのためです。まさかとは思いますが……」
 その時、彼のもとに再び通信が入る。それは資料室からだった。
『はい、現在は機甲化兵の保管室のような場所にいます。今、一体回収して上階へと向かってます』
 簡潔に状況を連絡する。
(機械の暴走がもしリヴァルトを襲った人の仕業だとしたら……)
 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が暴走事件の事を思い出す。人為的なものだったとしても、なぜそんな事を起こす必要があるのか。遺跡内部からは判断するのは難しい。
「先遣隊がやられたのは、何もワーズワースが遺したものによって、とは限らないようですね」
 刀真が呟いた。まだエミカ側からの情報は入っていないが、生存者の断片的な話の内容からすれば、内部に裏切り者がいた、という可能性が高い。
 そして、その者は未だこの遺跡内部で彼らの様子を窺っているのかもしれないのだ。
「どちらにしたって、油断は出来ねーな」
 保管室の出口を見据え、クライブ・アイザック(くらいぶ・あいざっく)が言葉を発した。
「クー兄、だけど危険だと思ったら意地を張らずに引こうね。ここにあるようなのが動いていたら、今の私達じゃどうしようもないから」
 パートナーのルナ・シルバーバーグ(るな・しるばーばーぐ)が不安げな表情を浮かべた。
「分かってるさ。先遣隊もほとんどがやられたみたいだからな」
 機甲化兵を眺めつつ、この遺跡で何が起こったのかを彼は考えた。

「生存者は、一名だけなのでありますか?」
 頃合いを見て、比島 真紀(ひしま・まき)が今度はリヴァルトに尋ねた。
「そのようです。その方曰く、自分以外は全員……いえ、もう一人を除いてやられてしまったというところでしょうか。話を信じるならば、その人が先遣隊を全滅させたようなものですが」
 彼女はその前の会話も聞いている。以前リヴァルトの前に現れた襲撃者が実は生きて、先遣隊に紛れていたのだとしたら、彼の身が危ない。そう考える。
「リヴァルトさん、気をつけて下さい。もしかしたらここに貴殿が来る事を予測して潜んでいるかもしれないのであります」
 現在、彼女達に訪れるであろう危険は、一つではなかった。
 
 遺跡最奥にいるかもしれない、赤い髪の女。
 もしかしたら他にもいるかもしれない機甲化兵。
 そして、先遣隊の中にいたと思われる人物。
 
 遺跡の中には罠の類こそなく、漂うのは血と何かが焦げたような臭いのみ。

 ある程度機甲化兵を調べ終え、血に塗れた通路かそれとも反対側か、どちらに進むかという状況になった。奥を照らせば、護衛の面々がちょうど下層へ向かおうとしているところだった。
 その時だった、
『エミカさん、分かりましたか?』
 ちょうど、リヴァルトのところに連絡が入った。暴走事件に関する情報が入ったようだ。
 しかし、それだけではなかった。
「……!」
 スプリングロンドが超感覚で、異変を感じ取る。それは護衛役の一団とは反対方向だった。
「行ってみますか」
 その先に待ち受けるものは、果たして何か。