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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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3-03 イレブンとの再会

 ここは、黒羊郷の街の外れにあるヴァリアの酒場。
「イ、イレブン? 一体どうしちまったんだ?」
 イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)のもとを訪れたデゼル、ルケトは唖然とした。
 酒場の地下にある暗い一室の壁に向かい、ひたすら禅を組み続ける男。まるで、隠者である。
 イレブンは、ただ無心だった。
「イレブン……」
「……」
 イレブンも、無論あの戦いのことを忘れてはいない。だからこそこうして。……――討ち取ったという慢心。油断。何と愚かだったか。あの戦いであたらに兵を、仲間達を死なせてしまった。失ったものは大きかった……。
 今のイレブンには、おそらく何を言っても無駄なのだろう。
 今まで、幾多の戦場を共に戦い抜いてきたデゼルは、それを無言のうちに了解した。
 イレブンの心はすでに、数でもない策でもない新たな力を手に入れるため、葦原明倫館に転学(帰依?)しており、すでに教導団の生徒でもなくなっていた。イレブンの服装はすでに、明倫館の制服である和服に着替えられている。
 イレブン。しかし、このままでいいのか。カッティは、パントルは、デイセラは、デロデロは……
 デゼルは無言のまま、イレブンの心にそう問いかける。
「……」
 カッティ。パントル。デイセラ。デロデロ。……騎狼部隊の皆……!
 イレブンは一瞬、苦しそうな表情を見せたが、すぐに無心の表情へと戻っていった。



「ハインリヒ。あんたはどうするんだ?」
「ハインリヒ?」
 いかにもな整った髭を伸ばして、すっかり酒場の経営者然としている彼は自らの名も忘れつつあった。前回から引き続き、ヴァリアの酒場を経営している、ノイエ・シュテルンのハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)である。
「おっと、そうでございましたな。しかしその名はここでは……。
 わたくしですか。わたくしは、ここに地上の楽園を築き上げてみせるつもりでございますよ」
「はぁ……?」
「あ。いえいえ、つまり、」クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)が、きっ、と睨んだのを受けて、ハインリヒはにやりと緩んだ表情を正し、「サービス満点の男の楽園(キャバクラ)を作り上げるのでございます。さすれば、兵や庶民だけでなく、将軍や幹部など上流階級に属す者達も足を運んでくるようになりましょう。女達に、機密事項を探らせるのでございます。まあ、見ててください。あ、デゼル殿も、戦いに疲れたときには、是非」
 ハインリヒもすっかり、教導団員とは思えぬ酒場のマスター風出で立ちで、カクテルを振りながらそう言う。
「あ、あぁ。男の楽園、か」
「オイ、デ・ゼ・ル……??」
「あ、ああ。ルケト。どうしたんだ、ハハハ、じゃあ行こうぜ。
 あ、何ならルケトもここで働かせてもらうか? 意外と似合うんじゃ」
「おお、それはいい。是非。ルケト殿のようなタイプにもきっとお客の需要が」
 ごんっ。ごんっ
「じゃあナ。お互いしっかり、任務を忘れないようにしないとな!」
 ルケトは、デゼルを強引に引き摺ってヴァリアの酒場を後にした。
 彼らが出ていったあと、ハインリヒはヴァリアに二つ目のたんこぶを作ってもらえた。

 尚、そんなデゼルとハインリヒの二人だが、もう一つ別の重要な話し合いもきちんと持っていた。
 黒羊郷地下の地図、のことである。
 デゼルが、先の蜂起の一件で、敵は前以上に要塞の守りを固めてしまったことに触れると、ハインリヒは、ふと思い出したように、地下に通じる地図をアクィラが作成していることを明かした。(アクィラとはその後しばらく連絡が取れていないのだが、彼は更に地下を調査しているだろうとのこと。)
 また、すでにケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)がそれを本営に持ち帰っているだろうとも。
 と、なれば。もう少し先ほどの蜂起のタイミングをずらしていれば……本営側との地下からの連動も可能だったのか。いや、それは今からでも……。
「ハインリヒ、その地図は……」
「ええ無論、写しを取ってありますとも。デゼル殿、しかし今度は機を慎重に。わたくしも、更なる情報を仕入れてみせるつもりでございますからな」