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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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4-06 決戦、ハルモニア(4)

 敵将マリーの卑劣な策略によって、人質となってしまった音羽 逢(おとわ・あい)
「これで少しはナナ様も拙者の事を……何?
 ナナ様はこちらへ来ぬと!?」
 どうしてわかった。
「し、しかし、そう! 拙者とナナ様は身体が離れていても心は繋がっているで御座る! 今もこうしてナナ様の信頼のお声が! きっと!」
 耳を澄ましてみる逢様。辺りは暗闇だ。
 どうしてわかった? それは、拙者とナナ様が心は繋がっているからと……はっ。さっきのお声は?
「どなたで御座る?」
 暗闇の中に浮かび上がったのは、なかなかに美麗なお顔にお髭の似合う、葦屋 道満(あしや・どうまん)であった。
「どうされた?」
「はっ。そうで御座った」
 逢様は、マリーに囚われとなった後は、その指示に従い、大人しくしていようと心を決めた。相手の本心も計れるやも知れないと。
 すると、何やら、マリーと道満の恐ろしい会話が聞こえてきたのだった。
「葦屋さん、お仕事です。
 お客の音羽さんを連れて、砦1の地下から砦8へ潜って下さい。
 ……ふふり、ふふり。(「そこからが、恐ろしい内容だった御座る」)
 さて地下にいるヴァレナセレダ産トロルが地上にいるヴァルキリーと対をなす存在と仮定。砦の配置に線を引くと六芒と三角」
 マリーはそう言いながら、地図にぐちゃぐちゃの線を引いていった。(「大体ッ、砦の配置を書いたら戦争どころじゃなくなったであります!! ハァァァ、地図を、地図を寄越せであります! ぷんぷん、ぷんぷん」「ごめんなさい……」)
 ぶるぶる……震える逢様。
「でーであります。通れない地下道は似た存在の黒羊郷から見立て水が満ちていると仮定。全て正しいとするとこの地下には謎があります。
 ボンノーの舟でゴーの海をGo!!ではありませんが、魂が汚れていると永久に沈むかもしれません。式で紙舟を仕立て先導や船頭をお願いします」
 葦屋さんは、わかったようなわかってないよな顔で頷いたのであった。
 そうして道満は逢様を連れて、地下へ入った次第だ。
「この地下に水が……? ボンノーの舟? ゴーの海? 魂の汚れ……永久に沈む……
 もしかして、これって、例のアラヤシキとかそういうのにつながってるで御座るか? そういうの拙者、嫌で御座る……」
「いや、わからん。オレが思うに、今回のマリーは何か考え過ぎか、考え違いをしているのではないかと思う。
 しかし一つ当たっているのは、この地下にはトロルがいるということだ。……伏せろ逢様」
 どっかどっかどっか。
 荒れ狂ったトロルが、地下の影に隠れた葦屋さんと逢様の脇を駆けて行く。二人の来た方向……砦の方へ、駆け上がっていく。
「むう。まずいな、トロルか。我を忘れているな。あのままでは砦……」
「はっ。葦屋様。静かに」
「……」「……」二人が声を静めて潜むと、進行方向より、小声が聞こえてくる。
「にゃはは。上手いこといったようだな。トロルを敵の砦で暴れさせれば、面白いことになるぞ」
「うん。さんの策、お見事。さすがは、騎凛ちゃんの第四師団のメイド隊長のメモリーカードね(?)」
「にゃはは〜」
「あっ、ニケ様……!」
「えっ」
「拙者で御座る。音羽 逢で御座るよ!」
「えっ。こんなところに? まさか、ここ牢屋……え、葦屋……」
「道満! にゃはは……ほんと、こんなところで出遭うなんてね」
 ひゅんっ。ニケがすかさず剣を突きつける。栞も、奈落の鉄鎖を道満に向けて放つ姿勢を見せる。ひゅっ。ニケが逢様の捕縛を解き、剣を渡すと逢様も剣を抜いた。「葦屋様、すまんで御座るよ」
「……フ。これはやられたな。マリちゃん。どうする?
 まあ、いい。ただで出られると思うなよ。オレの式を逃れられるかな……」



 さて、残る砦1は……
 地下から暴れながら乗り込んで来た、我を忘れたトロル達によって、すでに半壊していた。
 黒羊軍は全滅したが、しかし、恐ろしいトロルは無論、解放軍にも牙を剥いた。
 だが、ここを落とせば……!
 いよいよ、決戦も大詰めだ。
「あーん」「いやーんにゃ」
 ぶちぬこが、トロルに弾かれていく。
「く、おのれ。ここは、我がヴァルキリーの部隊が!!」
 ルミナ・ヴァルキリー(るみな・う゛ぁるきりー)の姿は、見えない。が、上階にトロルの姿が見えると、最上階の壁際に潜んでいたヴァルキリー達がバーストダッシュで一斉に飛び出した。ルミナ指揮の高機動戦術だ。
 闇雲に暴れるトロル。
「きゃー」
「? 何か飛んでいったな」(砦1の指揮官は、プレシバ(ぷれしば)だ。(色違いで桃色。)さっき何処かへ飛んでいったらしく、もうここにはいない。)
「ル、ルミナ副官! トロルが。皆が、踏み潰されております!」
「ええい! 我が相手だぁ!」
 ルミナは剣で激しくトロルと打ち合うが……「はぁ、はぁ。ハルモニア解放は目の前。かようなところで、やられるわけには……! は、うっ」
 ルミナの剣が、弾かれ天井に突き立った。ニヤリ。笑うトロル。ルミナに手が伸びる。「はぁ、あっああ。これまでか!」
「メイドナイト、ここに在り」
「!」「!!」「!?」
 全トロルが、そちらを向く。
 仮面の、メイド……?! その子が、その仮面を少しずらすと、……ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)
 右手にランスを、左手を腰にあて、燃えてゆく砦の最上階に立ち、その髪が風に揺れていた。
「ユ、ユウ!」
 振りかぶったランスを投げ、トロルが串刺しになる。
 ルミナはすぐさま、天井に飛ぶと、剣を引き抜き、下り立つ。
 ユウはルミナの着地点まで飛び、倒れ伏したトロルからランスを取ると、背中合わせになった。
「やっぱり、ルミナには盾が必要みたいですね」「そうみたいだ、我の背中を任せるぞ、騎士殿」
 今回、若干影が薄くなっているが、みつルゥコンビ(注:ミニスカメイド姿の柳生 三厳(やぎゅう・みつよし)ルゥ・ヴェルニア(るぅ・う゛ぇるにあ))も健在で、ちゃんとユウが現れた場所(何処?)からそんな様子を見ている。(「こ、今回は……」「まぁ、仕方ありません」)
「ユウ、どうして……? それに、その格好は」
「ほほほ。来たわね?」そこへ。細い優雅な髭がくるりと上に曲がって眉の辺りまで伸びている。眉がきゅっと下に下がっていやらしい不敵な笑みを浮かべた。「黒羊の将プレシバよ」
「剣道91段のわたしくに勝てると思って?」
 プレシバはエペを抜いた。ひゅひゅひゅひゅ。つ。する。
「さあて? 騎士の決闘といこうじゃなーい?」
「騎士? 違う。私は……」
「な、何?」
 ――砦7に囚われたあの時……(前回以降のユウの回想。)砦を預かる、仮面のメイド男。ユウを捕え、メイド教育を教え込んだ仮面のメイド姿の男だ。武装メイド隊を率いていた。ユウは、師匠たる仮面のメイド男に、みっちりとメイド教育を教え込まれてきた。何年も……。つらかった。でもユウは、残してきたルミナのことを、一時も忘れることはなかったのだ。
 「あの子は、傷付くことを恐れないから……私が傍にいなきゃ……駄目なんだ!」(ユウ)
 「帰るなら……私を倒してゆくがよい」(仮面のメイド男)
「ほ、ほう……それで?」
 プレシバは固唾を飲む。
 ――ユウと仮面のメイド男の決闘になった。ミニスカメイド服のみつよしとルゥも、見守る他ない。ユウは……メイド男の岩をも斬るモップの責めにボロボロになりながらも、
 「! ……よくやった」「師匠……」男は、割れた仮面の片割れを、ユウに渡した。「私はメイドであり騎士だ、"守る"ことに意義がある!」
「だから、私は……私はメイドの騎士……"メイドナイト"だぁっ!」

 砦1、制圧。



4-07 ある記憶喪失者の拾遺

 "ハルモニアと黒羊郷の宗教戦争の根底は自我の肯定か否定。自我を捨て輪廻を解脱し大いなる存在に帰一するか、自我を肯定しナラカを通じて輪廻転生を目指すか"
 "いざなぎとイザナミの話か、ヒルコを神と認めるかが十二星華の話だと思ってたけどちと違う様子だ、泡島?"
 "とべんぱつが言ってたけどあの人自分が言ってた事を忘れて今は、うはうはヴァルキリんのバーストおっぱいでありますぞーとか言ってるわよ"

 ――この断片的手記を残したある記憶喪失者はその後、地下に潜ってトロルになったとも、ヴァシャの地へ行ったまま帰らぬ人となったとも伝えられている。
 ある伝承では、この者が下ったのは地下どころかナラカであったと言い、また、ヴァシャこそが゛黄泉比良にぷら゛の所在地であり、つまり、であるなら結局のところやはりナラカに下ったのだと、言われている。後代のある研究者は、この手記と共にハルモニアで発掘されたおっぱいの化石から、このこの人物を沙 鈴(しゃ・りん)だと特定したが、違う、これこそがこの地で信仰されたジャレイラ神であるとか、いや違う、マリー・ランカスター将軍だとか、議論を呼び起こすことになっている。