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【GWSP】星の華たちのお買い物

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【GWSP】星の華たちのお買い物

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 空京堂の屋上には、森と、ステージと、そしてもうひとつ名物があった。
 それは、小さな社。
 ノリのいい空京堂の社長が、商売繁盛の守りとして建てたものだが、今ではなぜか縁結びの効果があるパワースポットとして、女性からの人気もある場所だった。
 その社で、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は、時間をかけてゆっくりとお参りをした。
「……さて」
 狐樹廊がお参りを済ませて振り向くと、そこではリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、フェンスごしに空京の街を見下ろしていた。
 社は、屋上の端に建てられている。
 高いフェンスに囲われているものの、空京の街が一望できる、良い場所だ。
「はあ……」
 ため息をつくリカインの手の中には、一枚の便せんが握られていた。
 彼女のパートナー、中原 鞆絵(なかはら・ともえ)から、リカインに宛てて書かれたものだ。

『リカさんへ 空京堂でフェアがあるそうですが、あたしはお仕事がありますしこの歳で人ごみの中へ行くのは楽なことではありません。なので代わりに腐葉土や植物用栄養剤を買ってきてもらえませんか?』

「腐葉土と、栄養剤ね……」
 リカインが持っている、空京堂の紙袋には、既に頼まれたものが全て入っていた。
「それだけで、よかったのですか? 年頃の女性なら色々と要り様なものと聞き及んでおりますが」
「う……。狐樹廊まで、トモちゃんと同じこと言わないでよ。お願いされた物を買うだけで十分なんだから」
 鞆絵がわざわざ買い物を頼んだのも、自分にショッピングを楽しませるための行為だろう。
 そのことは、リカインにもよく分かっていた。
 だが、ファッションやら、雑貨やらに興味がない。ないものは、仕方がない。
「あ〜! こんなところにいた! なんで全然買い物してないのよ」
 リカインを追いかけてきたのは、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)
「興味がないものは、仕方ないでしょう」
「もうっ。またそれぇ?」
 シルフィスティは、がっくりとうなだれた。
「はぁ。今日はくたびれ損だわ」
「誘っていないのに、勝手に来たくせに、その物言いはないじゃない!」
 さすがにリカインも言い返す。
「今日、このデパートに十二星華が出たって聞いてね」
「……えっ? 本当に?」
「さあ、本当かどうだか。あの猫娘……セイニィがいるかと思ったんだけど、結局会えなかったし」
「十二星華……」
 リカインは、空京の街を見つめながら、つぶやいた。
「……私は、誰が女王になっても別にいいと思ってる。大事なのは過程……私たちがどう考えて、どう行動したか……だと思うから」
 遠くから、派手な音楽と人の叫び声が聞こえる。
 ヒーローショーをやっているのだろう。
「人の活気というものは、時として恐ろしい、とすら感じるもの。それでも、活気がないよりは、遙かに良いですな」
  狐樹廊が、リカインの独り言のようなつぶやきに、答えた。
 二人は、並んで立って、そよぐ風を楽しんだ。
 仲間に入れろと、シルフィスティも並ぶ。
「あなたがどのような道を選ぶのかは知りませんが、地祇の端くれとしてこのような光景が見られぬ日がこないことを願っております」
「……うん」
 さあっ……。風が、吹き抜ける。
「十二星華……かぁ」
 リカインがそうつぶやいた、その時。

「エメネアーーーーーーー!」
「ヒャッハァ〜、逃げるぜぇ〜〜〜」
「止まれと言っているだろう!」
 どどどどどどど。
 それほど広くない社の周辺に、突然なだれ込んできた人々。
 ちびっこ入り買い物かごを下げたモヒカンに、端正な顔立ちの男子。そして、本物か偽物か、武装をした女性たち。
「……は?」

 体勢は、決した。
 とうとう、鮪は取り囲まれてしまった。
「十二星華は、商品じゃない」
 パッフェルが、ごく当たり前の事実を、鮪に突きつける。
「な、なんだってェ〜〜?」
「だからっ! 買えるわけがないだろう!」
 彼方が怒鳴る。
「それなら仕方ねぇなぁ〜。また売り出しタイミングでお買い上げするぜぇ〜〜〜。撤退!」
 ぽーん。
 鮪の手から放たれた買い物かご……中身はエメネア……は、少し離れた所で成り行きを見守っていたリカインの方に飛んできた。
「お、おおっと!」
 ぱしっ!
 リカインは、なんとかその買い物かごを受け止めた。
 気付くと、既に鮪の姿は見えなくなっていた。

「……ありがとう。受け止めてくれて」
「い、いえ」
 パッフェルが、かごごとエメネアを引き取りながら、リカインにお礼を言った。
「ナイスキャッチでしたよぅ」
 どこか他人事のように笑うエメネア。
「エメネア! 怪我はない?」
 彼方が、エメネアを買い物かごから引っ張り出す。
「何ともないですよぅ。むしろ楽しかった!」
 エメネアが、まるで夏の太陽のように、ぱあっと笑った。
 彼方は、ここまでの苦労が吹き飛ぶような気がした。
「いろいろと、ありがとうございました」
 エメネアが、ぺこりと彼方に頭を下げた。
「い、いいって。オレたち、友達だろ?」
「……はい! お友達ですぅ!」

 わいわいと立ち去るパッフェル、エメネア一行の背中を見送りながら、リカインはつぶやいた。
「あれが……十二星華……」