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リアクション
六階 レストランフロア
「遅かったですわね」
「もう、お腹空いたよ!」
先に合流していたティセラとセイニィのもとに、遅れてパッフェルトエメネアがやって来た。
「ちょっと……いろいろあって」
「とーっても楽しかったですわぁ!」
少し遅めの、お昼の時間。
レストランフロアは、まだまだ大混雑だった。
「いらっしゃいませ。ただいま満席なので、少々お待ちいただき……たい」
レストラン出入り口のレジカウンターで、お客の案内を担当している朝霧 栞(あさぎり・しおり)は、四人の来店に真っ先に気が付いた。
「満席だってさ」
「ここに座って待っていればよろしいのね」
店の入り口に用意された、待ち用の椅子に座る四人。
「例の四人……来店。繰り返す。例の四人、来店! 現在、ウエイト中」
栞は、従業員用のインカムマイクを通して、四人の来店を店内に伝えた。
このレストラン、多忙な『夏物先取りスペシャルフェア』期間だというのに、なんとも不運なことに、社員従業員のほとんどが欠勤していた。
この時期に、身内の不幸や病気が重なったのだ。
そこで、短期バイトとして朝霧 垂(あさぎり・しづり)たちが雇われたのだった。
「あと少しで、忙しさのピークを過ぎるな……」
店内は混雑しているとはいえ、一番忙しい所は超えていた。
その時。
インカムから、栞の声が聞こえてくる。
『例の四人……来店。繰り返す。例の四人、来店! 現在、ウエイト中』
「例の四人……。十二星華か!」
今日、来店しているということは、知っていた。
機会があれば何とか話してみたいと思っていたのだが、まさか向こうから来てくれるとは!
「ほらっ! 手が止まってるよ!」
考え事をしていると、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)に背中を叩かれた。
「オーダー、たまってるんだからね!」
カウンターには、料理できあがり待ちの伝票が数枚並んでいる。
「ああ、すぐにやるから!」
垂は慌てて作業に戻った。
野菜を切ったり、調理器具を揃えるなどの仕込みは垂が。
味付け全般は、ライゼが担当していた。
もしも垂が味付けをすると……まあ、この忙しさが一瞬でなくなることは、間違いない。
「こうなったら、さっさと仕事を終わらせるぞ!」
「なんだか、とっても忙しそうですぅ」
空席待ち中のエメネアは、店内を覗き込んで言った。
「お腹減ったなぁ」
セイニィがお腹をさする。くぅ、と音がした。
「料理は、テンポよく出ている。おそらく、ホール担当の人数が足りていない……」
パッフェルが、店内の様子を冷静に分析した。
「もうっ。もっとホールの従業員がおいでになれば、これほど待たずに済むでしょうに」
セイニィが頬を膨らませた。
「……だったら、お手伝いしてきますぅ!」
「え?」
たたたたっと。
エメネアが、ホールで働く栞のもとに駆けていった。
「おねーさん!」
「わ、エメネ……お客様。どうなさったのだ?」
「ホールの人が足りてないみたいなのです。だから、手伝いたいのです!」
「……はぁ?」
ぱっ。
栞が手にしていた料理を、エメネアが奪い取った。
とてとて。
料理を、お客のテーブルまで運ぶ。
「お待たせしましたのですぅ」
その様子を見ていたセイニィたちも、立ち上がった。
「これも、早く食事にありつくため」
「仕方ありませんわね」
「……やろう」
なんと、四人は臨時ウエイトレス(ボランティアだが)として、働き始めたのだ。
「なんだ? 急にホールがスムーズになったじゃないか?」
その様子は、厨房にいた垂たちも感じ取っていた。
インカムから、栞の声が聞こえる。
『十二星華が……働いてる』
およそ三十分後。
ほとんどの一般客が帰り、店内は落ち着きを取り戻した。
ようやく、ティセラたちが「客」として着席した。
「助かりました。ありがとうございました!」
四人とともにホールで働いた緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が、水とおしぼりを運んできた。
遙遠の姿は『ちぎのたくらみ』効果で子供に見えるため、見た目はエメネアと同じくらいのようだ。
「一緒にお仕事できて、楽しかったですよぅ」
エメネアも、目線が同じ遙遠に、すっかりなついているようだ。
互いに手を握り合う。
「さて。なにをお召し上がりになりますか? 精一杯のおもてなしをさせていただきます!」
遙遠は、メニューブックを差し出した。
「お子様ランチ!」
エメネアが真っ先に叫ぶ。
「……同じものを」
パッフェルも、お子様ランチだ。
「じゃあ、こっちにも」
セイニィもお子様ランチ。
「ティーとパンケーキのセットをくださるかしら」
セイニィだけは、この期に及んでまだお茶を飲むようだ。
「かしこまりました! オーダー! お子様ランチみっつ、パンケーキひとつです!」
「お子様ランチ……ねぇ」
さっそく調理に取りかかりながら、垂はくすっと笑わずにいられなかった。
「なかなか、かわいいところがあるじゃないか」
「ほら、急いで作るよ。きっとすっごくお腹ぺこぺこだろうから!」
ライゼに急かされ、垂は心を込めてお子様ランチとパンケーキを調理した。
数分後。
お子様ランチみっつとパンケーキひとつ、それに大量の料理がテーブルに運ばれてきた。
「こんなに注文しておりませんわよ?」
セイニィが、運んできた遙遠に言った。
「これは……ハルカたちも食事をご一緒させていただきたいから、そのご用意なのです!」
「落ち着いてきたから、休憩して、飯食おうと思って。邪魔じゃないなら、一緒に食わせてくれよ」
エプロンを外しながら、垂とライゼがやって来た。
「店長が、デザートもサービスしてくれるってさ」
栞も、休憩をもらって合流した。
「みんなでお食事ですぅ!」
「まあいいか。さっさと食べよう」
こうして八人の、にぎやかなランチタイムが始まった。
「たまには、お子様ランチもおいしいですね」
エメネアたちのまねをして、自分もお子様ランチを頼んだ遙遠が、チキンライスをほおばっている。
「……旗がいい」
パッフェルは、ライスについている旗を、全員からもらって自分の物にしていた。
「おまえたち、普段からお子様ランチなんて食ってるの?」
垂が、ついに疑問をぶつけた。
「いや。初めて見た。お子様ランチってやつ」
「……へ?」
「わたくしたち、デパートでお食事をいただくことなんて、滅多にありませんのよ」
ティセラが上品に、お茶を飲みながら言った。
「ライスもハンバーグもえびフライも乗ってるし、おもちゃもついてる。これが一番いろいろ食べれてお得じゃないか!」
セイニィが、ばりばりとえびフライのしっぽを噛み砕いた。
「それに、こんなにいっぱいの人たちとご飯を食べれるのは、とっても楽しいですぅ」
口のまわりにケチャップをべっとりつけて、エメネアがにっと笑った。
(みなさん……)
(こいつら……)
そんな四人を見て、垂と遙遠は、少しだけさみしい気持ちになったのだった。
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