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第2章 追いつ追われつ戦いつ傍観す 2


 どこかで騒動がバタバタと起きている音を聞きながら、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は研究室をあら探ししていた。目的の物がここにあると睨んだのだが、どうやら既に移動されているようだ。もしくは、夢安京太郎が肌身離さず持っているのか。
「いずれにしても、夢安君を探さないといけないかなぁ」
「そうですね……。『カーネのなる木のもと』さえ手に入れば、新種のカーネが作れるかもしれませんもの。いったい、どこにいるのでしょうか」
 賈思キョウ著 『斉民要術』(かしきょうちょ・せいみんようじゅつ)は、佐々木の考える新種のカーネ生成計画に賛同して、同じように研究室を探していた。
 そもそもの発端は、佐々木がカーネの生態に興味をもったことだった。お金を食べるということは一定の知能が備わっているということであり、それはまた、お金以外の?何か?が好きなカーネを作れれば、大変便利だということにも他ならなかった。佐々木が考えているのは、レアメタルが好きなカーネが作れないかということ。もし可能であれば、資源調達などに役立たせ、パラミタの復興に一役買ってくれるかもしれない。斉民要術の考える、パラミタ復興で名を残すという決意も、一歩前進するかもしれないのだ。
「うーん、環菜さんから聞いた夢安君の性格からしたら、今ごろカーネをとにかく捕まえて――」
 佐々木は熟考しながら、研究室から廊下へと続く引き戸を開けた。
 すると、そこに近づいてくるは廊下を走っている足音。それも、とんでもなく速かった。
「うわああぁっ!?」
 すぐ目の前を通っていった一陣の風――夢安京太郎+その他仲間。それを追いかけるは、怒りに燃える月夜、刀真と美羽であった。
「待ちなさい」
 月夜の冷血な狂声が、夢安に脅しをかける。
「待てと言われて待つかぁっ!」
「おお、なんて悪役らしい台詞だ」
「カカカッ! ここまで来れるから来るがいい、ノロマどもよ」
 夢安に感心する加賀宮。そして追いかけてくる連中を挑発する斎。
「ワ、ワタシたちも追いかけましょう! 」
 夢安たちを見つけた佐々木と斉民要術は、慌ててそれを追いかけていった。なにせ、探していた対象が向こうからやって来たのだ。これを逃すわけにはいかない。
 佐々木は同じくヘタレな人間として、どことなく夢安の思考は理解できる気がした。自分の逃げ足には相当の自信があるはず。となると、そう簡単に隠れたりはしないだろう。敵を撒いて逃げようとするはずだ。
「なら、持久戦で追い詰めればなんとかなるかなぁ」
 佐々木も足には自信がある。休ませないように追いかけるのが一番なのだが。
 夢安は追撃者たちから距離を取りながらも、引き離せないことに少し苛立っていた。
「くそっ! 逃げたと思ったらまたこれだ。英禰! カーネは捕まえたんだろうな?」
「ああ。お前がカーネに埋もれてる間に、十分な数は確保したぜ」
 加賀宮が上手く働いてくれたおかげで、準備は整った。
 夢安はにやりとした笑みを浮かべて、後ろを振り返った。あれ、なんか増えてるし……。
「先ほど部屋から出てきたようだなっ。面白くなってきたぞっ!」
「全然面白くねっつの。くそったれっ!」
 夢安ははき捨てるようにして言った。そうして、思い至る節に冷や汗を流す。
「……もしかして、それもこれも理事長のせいか? くそー、やっぱ、あの人、鬼だぜ」
 夢安の頭には、クールな表情でくすりと笑う環菜の姿が見えた気がした。
「どうする、夢安? このままだと捕まるぜ」
「……我に秘策ありっ!」
 夢安がニヤリと笑みを浮かべた。
 どこかで聞いた台詞だが、彼も頭に残っていた台詞を言っただけなのだろう。
 夢安が急に振り向いたので、追撃している者たちも訝しげな顔になった。一体、なんのつもりだ?
 夢安が取り出したのは野球ボールぐらいの一つの玉。先端には導火線がついており、いかにも――爆弾のように見える。
「げっ……!」
 刀真たちがそれに気づいてスピードを上げるが、既に遅かった。
 爆弾のような玉が地面に落下したとき、導火線は燃え尽きて――プシュウウウウウッ!! と、莫大な白煙を吐き出した。
「はっはー! さらばだ諸君」
 煙の向こうから、夢安の楽しそうな声が聞こえてきた。
 佐々木はまさかこんなものが用意されているとは思わなかったと、自分を悔やむ。
 なんとか追いかけようとするが、煙にまみれた視界では、それも叶うことがなかった。


 夢安が追撃者たちに追われていた最中のことである。
 エヴァルトと志方は、エヴァルトの金を奪っていったカーネを探して探索中であった。
 とはいえ――
「そりゃあぁ」
 志方はチェンスマイトなどを駆使した武器攻撃で、そこら中にいるカーネを無差別に気絶させては、まだ食べきっていないお金を吐き出させていた。まさに動物虐待。いじめだいじめ。それでも、気絶させるだけに留まっているのは彼女の良心なのだろう。女の子は全員可愛い動物が好きってわけじゃないということだ。まして魔法生物だし。
「おいおい。それより、俺の金はどこだぁ?」
「あ、ほら、あれじゃないですか? だから言ったでしょ? こうやって無差別に倒していってたら、いつかは見つかりますって」
 廊下の先にいる、頬にキズを持ったカーネを指差して、志方はどーよ、という自慢げな顔だ。
 どことなく言いくるめられている気がしないではないが、見つかったのだから結果オーライとしよう。
「よし、行くぞ……ってミュリエル?」
 駆け出そうとしたエヴァルトの後ろで、ミュリエルは傷ついたカーネたちを撫で撫でしていた。
 うーむ、ミュリエルには精神衛生上悪かったか? とエヴァルトは反省。彼は傍らにいたコートラウトに無言で合図した。彼女はミュリエルをひょいと肩に乗せる。
 ミュリエルは名残惜しそうにカーネたちを見つめていたが、やがて目的を思い出したのか、キッとした表情に戻った。
「ほらほら、行きましょう」
 既に先行していた志方に誘われて、エヴァルトたちは彼女を追いかけた。