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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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 1549年、フランシスコ・ザビエルが鹿児島に上陸を果たし、宣教師としてキリスト教を広めながら京を目指した。京で日本の王に会い布教を認められることを望んだザビエルだが、京は戦乱の最中で混乱の極みにあり、結局時の天皇に会うことは出来なかった。
 京から山口へ戻ったザビエルは、領主の大内義隆に認められ、住居を与えられそこで付き従ってきた者たちと共に、布教活動に勤しむのであった――。

「ザビエル様、ご確認をお願いいたします」
 商人に頷き、運んできた木箱の中身を宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)=フランシスコ・ザビエルが覗き見る。中に収められていたのは聖書……ではなく、『萌えるイエスたん』と題名が打たれた、ショタっ子イエスたんが迫害に負けず父なる神の教えを説く全1225ページの大長編感動物語であった。
「……ええ、問題ありません。では、お代はここに」
 ザビエルが差し出した布包みを受け取りながら、商人が心底不思議そうに呟く。
「これほどの書物を無償で提供とは、宣教師とはかくも太っ腹なんですな」
「既にこの国で広く伝わっている仏教は、当時の性質から外れ今では生者から利益を得るための集団に成り果てていると聞きます。神の名の下に貧富の差なく等しく救われるのがキリスト教の在るべき姿なのです」
「ま、私らとしてはお代をちゃんと頂ければ、どのような意図であれ請け負いますけどね。それではまた、ご贔屓に」
 商人が頭を下げてザビエルの前から姿を消し、代わりに現れたのはザビエルに付き従っていた、同じくキリストの宣教師でありそして魔法少女な者たち。
「動乱の世を鎮めるため、人々にキリスト教を広めるのです。そしてあなたたちも、一人前の魔法少女としての道を歩みなさい」
 【魔法少女えむぴぃサッチー】の御言葉を受けて、魔法少女たちが各地に飛んでいった――。

 同じ頃、とある寺では一人の仏教僧が、据えられた仏像に手を合わせ念仏を唱えていた。その者、名を悠然(ゆうぜん)といい、熱心な仏教僧として人々に仏教の教えを説いていた。
(……ふぅ。最近はキリスト教なる邪教が人々の間に広まっていると聞く。何がキリスト教だ、まったく嘆かわしい)
 篠宮 悠(しのみや・ゆう)=悠然が祈りを終え、一息をついたところで、突如戸が音を立てて開かれ、二つの影が飛び込んでくる。
「この不埒な仏教の手下め! 魔法少女プリティミィル、天に代わって教化してあげるわ!
正義の使徒、魔法少女マジカルふぇいと降臨ですっ! 無理難題を言いつけて人を困らせる行いは許しませんっ!」
 ミィル・フランベルド(みぃる・ふらんべるど)ふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)が魔法少女な名乗りをあげ、神の使徒としてキリスト教に仇なすとされている悠然に神の裁きを下すべく身構える。
「ふん……キリスト教だ魔法少女だと、やかましい……! 仏教の教えこそが、人々を安寧に導き安らかな極楽浄土へと誘うのだ!」
 立ち上がって振り返った悠然が念を唱えると、背後の仏像が地響きのような音を立てて動き始め、微笑むような顔がミィルとふぇいとを捉えたかと思うと、その目からニ本のビームが放たれる。
「うああぁぁ!!」「きゃあああ!!」
 直撃を受けた二人が吹き飛ばされ、地面に伏せる。衣装は所々がはだけ、擦った肌から鮮血が滲む。
「神の裁きを受けるのは、お前たちだ……!」
 悠然がさらに念を唱え、仏像の首が魔法少女にトドメを刺すべく照準を向ける。
「この程度で、屈する私ではない!!」
「正義の刃は、まだ折れてはいません!!」
 放たれた二発目のビームを、二人は転がって避ける。三発目のビームが飛ぶ前に、ミィルとふぇいとの呼び出した雷が合わさり、悠然と仏像を貫くべく放たれる。
「ま、まさかこれほどの力があるとは――ぐわあああ!!」
 一際大きな爆発が起き、衝撃で主柱が折れ、屋根が崩れ落ちる。二人の魔法少女が外に飛び出すのと、本殿が完全に崩れ去り瓦礫と化すのは、ほぼ同時のことであった。
「これで、教化は完了ね」
「あなたにも、聖母マリア様のお導きを……」
 二人がそっと瞳を閉じ、そして背を向けて立ち去っていく。二人の姿が消えた後、瓦礫が崩れ中から悠然の半身が飛び出す。
「……な、なぜこうなった……」
 己の運命を嘆きながら、悠然、もとい悠は意識を飛ばした――。

 集まった老若男女を前に、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が熱弁を振るっていた。
「木や石で出来たむさくるしい像を拝んでも、魂は救われないよ? お寺や神社は女の人は立ち入れないから救われないよ? 私たちは、老いも若きも女の人もみんなまとめて救いたいんです!」
 言ってネージュが、横に置かれたマリア像……にしては随分と萌えに偏ったデザインの像を指して続ける。
「この『萌え萌え聖母マリアたん』なら、愛くるしい表情と萌えを追求したデザインで、みんなの心を癒してくれること間違いなしっ! 今なら信者限定書籍『萌えるイエスたん』『戯画で分かるキリスト教』『萌約聖書』3冊セットに、信者の証、信徒番号と洗礼名入り『マリアたんのキュートロザリオ』を特別にプレゼントしちゃうよぉ!!」
 深夜の通販番組でもなかなかない大盤振る舞いに、集まった者たちの心は揺れ動く。
「おい、どうするよ?」「俺、ちょっとキリスト教入信してくるわ」「マリアたん萌え〜」「やだ、イエスくん可愛い〜!」「やめて、そんな目でこっちを見ないで、その目が私の母性をくすぐるのよ〜!」
 ほんの僅かの間に、大勢の老若男女がキリスト教への入信を希望する。

「はぁ〜、今日もいーっぱい神の声を伝えて、あたし疲れちゃったよ〜。そろそろ休もうかなっ」
 夜も更けたころ、滞在場所として選んでいた家屋にネージュが入ろうとした頃、裏手の森に入っていくどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)の姿を認める。
(あれ? そういえばどりーむちゃん、昼間見なかったよね? 何してるんだろ?)
 その動向が気になったネージュは、どりーむの後を追って森に入る。茂みを抜けた先、拓けた空間に入ったところで飛び込んできたのは、若い女性の嬌声と、ちょっと健全なお子様にはお見せできない光景だった。
「あら、付いてきちゃったのね。まあいいわ……ネージュちゃんにも真の愛を教えてあげる」
「どりーむちゃん、これは一体――むぐむぐっ!!」
 詰め寄ろうとしたネージュが、背後から忍び寄った別の女性に羽交い締めにされ、口を塞がれる。
「ネージュちゃんが女の子を連れてきてくれたおかげで、あたしはこうしてマリア様の教え……女の子の身体の素晴らしさを説いてあげられるわ。ありがとう、ネージュちゃん……お礼にあたしがたっぷり、女の子同士の愛の営みを身体に刻み込んであげるわ……うふふ、抵抗してもだぁめ……あたしの技の前では、誰もが隠された真の姿を晒すことになるのよ……」
 昼間の清楚な様子から一転、黒く歪んだ感情を惜しげもなく振りまきながら、どりーむの指がネージュの頬を伝い、下の方へと降りていく――。

「目を瞑って……お仕置きです!!」

 天空から光がどりーむを貫き、ぱたり、とどりーむが地面に倒れる。周りにいた女性たちはその瞬間目を覚ましたように辺りを見回し、自らの醜態に頬を染めてその場を後にしていった。
「もー、いかがわしいことしちゃダメですー! えっちなことはするのも教えるのもダメですー!」
 目を閉じたまま、ぷんぷん、と豊美ちゃんが頬をふくらませる。
「う、うーん……あれ? あたし、どうしてこんなところに? あっ、ネージュちゃんおはよう」
「う、うん、おはよう」
 目を覚ましたどりーむが、昼間の様子に戻ったようでネージュに挨拶をしてその場を後にする。
「大丈夫でしたかー? 戦国時代は何があるかわかりませんから、くれぐれも注意してくださいねー」
 立ち去ろうとした豊美ちゃんが、あっ、と呟いて振り返る。
「魔法少女のことは認めておきましたー。これからも魔法少女としてよろしくお願いしますねー」
 微笑みを残して、豊美ちゃんが姿を消す――。

「いちるさんのリクエストにお答えして、長宗我部元親さんの生涯を追ってみましょうー。はい、まずは幼少の頃ですー」
 言って豊美ちゃんが、東雲 いちる(しののめ・いちる)一行を1540年代の四国へ案内する。いちるの目には、目の前にいる長曽我部 元親(ちょうそかべ・もとちか)の面影を残しながら、色白でどこか頼りなげな様子の元親が映っていた。
「わ、元親さん可愛いです! ……あっ、ごめんなさい元親さん、可愛いなんて言ってしまって」
「あはははは……いやー、改めて見るとホント、情けない姿してるな……『姫若子』なんて揶揄されるのも当然っちゃあ当然か」
「元親さんを見てたら、ウマヤドを思い出しましたー。ウマヤドも幼少の頃はですねー」
「……おば上。私が見てないからといって勝手に吹聴しないでください」
「わ! ウマヤド、まだいたんですか? 飛鳥時代でてっきり帰ったかと思いましたー」
「こんな危ない講義、おば上一人でやらせておくわけにいきません! 終わりまでしっかりと見届させていただきます」
 馬宿を加えて、一行は元親の初陣の頃に案内される。
「長浜の戦いでは、元親さんは優れた武功をあげました。その働きぶりから『鬼若子』と呼ばれるようになったんですよね」
「そうだな。この頃になるとま、少しは見られる男になったかな? 俺が言うのも何だがな」
「元親さん、凛々しいです」
 槍を手に獅子奮迅の働きを見せる元親を、いちるが尊敬の眼差しで見つめる。
「初陣の2日前は桶狭間の戦いがあったそうです。本には『桶挟まればイチコロの(1560)麻呂』……」
「……ふっ」
「もー、どうしてそこで笑うんですか、ウマヤドー!」
 本には、桶を胸に挟んだ女性が描かれていた。
「桶挟まれば……なるほど、語呂合わせとは年号を覚えるのに便利ですね。豊美様、他にもありましたら教えてください」
 ソプラノ・レコーダー(そぷらの・れこーだー)が語呂合わせを復唱しつつ、元親の生きた時代に起きた出来事をメモリーにインプットしていく。土佐統一から阿波・讃岐・伊予への侵攻へと繰り出した元親は、一度は四国攻めを容認した織田信長に兵を差し向けられるが、信長が本能寺の変で没したため、元親は存亡の危機を脱すると共に四国統一の機会を得ることとなった。
「『いちごパンツ(1582)の煩悩児』……うーん、誰が煩悩にまみれていたんでしょう?」
「あの時は生きた心地がしなかったぜ……」
 その後、一旦は四国統一を果たすものの、羽柴秀吉におよそ3倍の兵力を差し向けられ、しかも徐々に反攻の手立てを絶たれて最終的には一度の決戦も交わすことなく降伏する。
「秀吉というお方……兵を率いることにかけては天賦の才がおありだったのでしょうか」
「何もさせてもらえなかったぜ……大軍をあれだけ効率的に運用する才は、流石天下を取っただけのことはある」
 クー・フーリン(くー・ふーりん)の呟きに、当時を思い返して元親が苦い顔をする。
「その後は秀吉さんの配下となりますが、戸次川の戦いで息子さんを喪ってしまいます。その後の元親さんは覇気をすっかり失ってしまったそうですが……」
「ああ、信親は俺の跡を継ぐに相応しい器量を持っていた。仙石秀久の独断が招いたとはいえ、俺にも責任がある。もう俺は誰も喪わない……いちる、おまえのこともだ」
「元親さん……」
 元親といちるが視線を交わし合う横で、豊美ちゃんが感謝するように頭を下げる。辛い過去を目の当たりにしても、それを気にすることなく今の繋がりを大切にする彼ならば、きっとパートナーを守り抜くことが出来るだろうと思いながら。