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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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「……と、豊美さん……十二単って……すごく……重い……ね……」
「…………」
 豊美ちゃんに頼んで十二単を着せてもらったミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)ロレッタ・グラフトン(ろれった・ぐらふとん)が、そのあまりの重さに身体をぷるぷると震わせていた。
「十二単は女房装束とも言いまして、今ミレイユさんとロレッタさんは12枚衣を重ねてますけど、実際は12枚着るわけじゃないんですよー。平安時代は枚数に制限がなかったのもあって、女房さんがとにかく枚数を競ったり、色んな工夫をなされていたようですー。今では名前は残っていませんけど、着こなしで有名になった女房さんはカリスマ扱いされて、憧れの対象になったそうですー。ミーミルさんには、当時のカリスマ女房が着ていた十二単、48枚重ねのデコレーション付きを着てもらいましたー」
「これが、皆さんの憧れの衣装だったんですね」
 ミレイユとロレッタの4倍の衣を重ねたミーミルが、涼しい顔で自分の纏った衣装を興味深げに見つめる。直ぐに周りの女性から、羨望の視線が注がれ始めた。背中の羽も相まって、「なんて美しい……」「まさにカリスマですわ」などの声が絶え間なく向けられていた。
「み、ミーミルさん、すごいね……ワタシも……頑張る……」
「…………」
 何とか一歩、二歩と歩を進めるミレイユに、負けじとロレッタも続こうとするが、うっかり裾を踏んでしまいその場に転んでしまう」
「……こ、このくらい、たいした事ないぞ」
 身体をぷるぷると震わせ、目尻に涙を浮かべながら、ロレッタが強がりを口にする。すると今度は周りの男性が「な、なんだ、この鼓動の高まりは……」「おい大丈夫か……いかん、俺も胸が、苦しい……」などとのたまい始めた。やがて、「も、もう我慢出来ん! 俺が助けに行ってくる!」「貴様、抜け駆けは貴族の規則に反するぞ!」から大乱闘が始まり、辺りを冠や衣が飛び交う地獄絵図と化してしまった。
「知ってるかしら? 裾が長い十二単を纏った娘は、よく転んだり起き上がれなかったりしたのよ。でもそれが男性の心を引きつけたの。中にはその現場を目にした男性に見初められて結婚した偉人だっていたくらいよ。ギャップ萌え……って言うのかしら」
「幽綺子さん、いやその理屈はおかしい――おわああぁぁぁ!?」
 自身も十二単を纏った幽綺子の解説にツッコミを入れようとした博季が、慣れない衣装にもつれた拍子に騒動に巻き込まれ、姿が見えなくなった。
「さよなら、博季。骨だけは拾ってあげるわ……」
 くすくすと微笑みながら物陰に身を潜める幽綺子、その間にも騒動はさらに大きくなっていく。
「豊美さん……何かすごいことになってるよね?」
「わわ、とりあえずここから離れましょうー。お二人には魔法で動きやすくしてあげますねー」
 豊美ちゃんが『ヒノ』を二人へ向ける。
「わ、身体が軽いよ! ほらロレッタ、くるくるくる〜♪」
「……もう付き合えないぞ、ミレイユ……」
 上機嫌なミレイユと、ため息混じりのロレッタを連れて、豊美ちゃんがその場を後にする。
 ミーミルが彼女たちに追いつくには、それから数時間はかかったようである。今も昔も、ファッションに憧れる女性の熱気は凄まじいらしい。

(へぇ、これが平安時代の貴族が着ていた服か。動きにくさはあるけど、背筋が伸びて引き締まる感じだなぁ)
 衣冠に身を包んだアンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)が、袖や足回りの感覚を確かめながら感慨に耽っていると、廊下の奥から彼を呼ぶ声がした。
「兄様、お待たせしました。……どうですか? あたし似合ってますか?」
 葛城 沙耶(かつらぎ・さや)の十二単の着こなしぶりは、決してそれが初めてとは思わせないものがあった。
「うん、綺麗だよ。やっぱり沙耶はこういうの似合うね」
 アンドリューに褒められて、沙耶の頬が赤く染まる。
「そんな、兄様……。兄様もその姿、お似合いですわ」
「ありがとう。……あれ、フィオは? 一緒だったよね?」
「フィオさんでしたら――」「アンドリューさん、沙耶ちゃん、今行きます……ひゃあ!!」
 アンドリューがフィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)のことを気にしたところで、当人であるフィオナが廊下の奥から駆けてきて、裾を踏んでしまい盛大に転ける。
「痛いです〜。どうしてこんな動きづらいんですか、もう!」
「フィオ、大丈夫?」
 頬を膨らませて憤慨するフィオナに、近寄ったアンドリューが手を差し伸べる。
「あっ、ありがとうございます、アンドリューさ――ひゃあ!!」
「えっ? うわっ!!」
 手を取って立ち上がろうとしたところで、再び裾を踏んでフィオナが転び、今度はアンドリューを巻き込んでしまう。
「痛たた……フィオ、気をつけないと――」
 頭を抑えながら身を起こしたアンドリューの視界に、胸元がはだけたフィオナの姿が映り込み、アンドリューはつい、と視線を逸らしてしまう。
「あっ、アンドリューさん、どうして目を逸らしたんですか〜?」
 尋ねるフィオナの表情は、悪戯っぽい笑みに満ちていた。女性はこういう時に限って鋭い。
「な、何でもないさ。ほら、退いてくれないと立てないよ」
「ごめんなさいアンドリューさん、私足くじいてしばらく立てそうにありません〜」
 白々しく聞こえる言葉を並べて、フィオナが猫のように顔をアンドリューの胸元へ擦りつける。

「……兄様、フィオナさん。
 そこで何をしているのかしら?」


 背後に忍び寄る怨念のこもっていそうな声に、アンドリューが身を震わせ、フィオナが即座に立ち上がって距離を取る。
「あらフィオナさん、しばらく立てないのではありませんでしたか?」
「えーと……アンドリューさん、また後で!」
 乾いた笑いを浮かべて、フィオナがそそくさとその場を後にする。
「あっ、フィオ――」
 フィオナの後を追おうとしたアンドリューは、がしっ、と肩を掴まれる感触に振り返る。あくまで笑顔を浮かべたままの沙耶、しかし背後には黒いオーラが漂っているように見えた。
「兄様、お話があります。少々お付き合いいただけますか?」
「えっと……後にしてくれないかな、なんて……」
「あたしが許すと思いますか?」
「……ハァ。どうしてこうなるかなぁ……」
 観念したアンドリューは、その後たっぷりと沙耶のお説教を正座で受けさせられたのであった。

「近衛天皇は諱を体仁と言い、2歳の時に即位したのじゃ。幼少の頃より病弱で、16歳2ヶ月で崩御と短命であられたのじゃ」
「えっ、私達より年下なの? 天皇って年上のイメージがあったよ。……そっか、何だか不思議な感じだなぁ」
 草木も眠る丑三つ時、時の天皇が眠る宮殿を鷹野 栗(たかの・まろん)羽入 綾香(はにゅう・あやか)が目指して歩いていた。

 折りしも今宮殿には正体不明の黒煙の噂が流れ、昼間訪れた時には天皇への謁見も叶わぬほどの物々しい雰囲気に満ちていた。
「羽入、それって鵺のことだよね? 日本版キメラだと思う鵺、退治される前に私達がもう悪さしないようにしてあげようよ!」
「そう上手くゆくとも思えぬが……まあ、会えるものなら会ってみるのもありじゃな」
 栗の提案で『鵺退治』をすることに決めた二人は、日中は都の散策を行い、甘味処で一息ついたりしながら、夜になるのを待ったのである――。

「ふむ、ここが清涼殿じゃな。灯りは点いておるが、人の気配はないようじゃ」
 一際大きな作りの建物に辿り着き、篝火の焚かれた周囲を見回していた二人は、ふと急に寒気を感じて身を強ばらせる。やがて宮殿の屋根に、闇の中でもはっきりと映る黒い煙が、ゆっくりと獣の形を取ろうとしていた。
「よもや本当に会うことが出来るとはの。どうする栗、鵺は死しても災いをもたらしたとされておるほどの怪物じゃぞ」
「大丈夫! 私に任せて!」
 言った栗の掌に、光精が生み出した光がもたらされる。史実では源頼政が山鳥の尾で作った尖り矢で射落としたとされているが――。

「萌えのチカラで悪霊退散!
 萌え萌えびーむ!」


 背後の綾香が思わずズッコケてしまうネーミングと共に、栗の掌から放たれた光の筋が黒い煙を射抜き、屋根から振り落とす。
「栗、後を追うぞ!」
 ぶつけた鼻を赤くしつつ綾香が先を駆け、その後を栗が続く。宮殿の北方に回り込んだ二人はほどなく、射抜かれた鵺を発見するが、そこには――。

「痛〜……まったく、何ということをしよる……」

 黒を貴重とした着物姿、黒髪の外見年齢5歳前後の幼女が、擦りむいた膝を摩っていた。
(な、何故に人の姿!? これも栗のあのなんとかビームとやらの影響か!?)
 驚愕する綾香の前で、二人の姿を認めた幼女が立ち上がり、年外れた尊大な態度で口を開く。
「おぬしらか、我に手を加えたのは。我を鵺と知っての狼藉か!?」
「えっと、本当に鵺さん、なんですか?」
「なんじゃ、疑うのか? ならば見せてやっても良いぞ? 北東の寅、南東の巳、南西の申、北西の戌亥を合わせた我の姿を一目見れば、末代まで祟られること間違いないぞ」
「そ、それはそれで見てみたいかも……」
 幼女の発現を耳にして、逆に興味津々な様子の栗。流石、魔獣を愛する子である。
「……むぅ、おぬし変わっとるな。……まぁよい。おぬしらに免じて今後人の世に悪さを為すことは謹んでやろう。ではな」
 言うが早いか、幼女の姿が煙と変わり、空へと舞ってそして消えていった。
「ああっ、本当の姿、見たかったなあ……」
「むぅ……果たしてこれは真実なのじゃろうか、それとも夢なのじゃろうか……」
 残念そうな様子の栗と、首をかしげる綾香であった――。