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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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「はい、弥生時代の後期くらいまで飛んできましたー。えっと教科書には……『卑弥呼様 不作(239)で義兄に泣きついた』とありますねー。239年に卑弥呼が魏に遣使を行い、親魏倭王の称号を頂いたそうですー。ちなみに、この『魏』が『三国志』で有名な魏だというのは今日知りましたー。皆さん博識ですねー。私も皆さんに負けないように勉強したいと思いますー」

 修学旅行のことを思い出したかのようにガイドをする豊美ちゃん、周囲には実りを迎えた稲穂が垂れ下がり、当時の格好に身を包んだ者たちが手分けしてそれらを刈り取っていた。
 刈られた稲は手製の道具によって梳かれ、土器に詰められて倉庫へ保管される。山と積まれた土器、しかしその一つが再び運び出され、それを抱えた人影は倉庫から離れるように駆けていく。
「全く、この程度しかやることがないなんて退屈な授業ね。
 そもそも、どうして旧石器時代という選択肢がないのかしら。私がこうして来たのは旧時代の肉が食べられるからって話だったのに。
 恐竜……はとうに絶滅してるけど、マンモスは生きてそうじゃない。リズに言われて私、調べたんだからね。少しは褒めなさい。
 で、あそこの高床式倉庫から奪ってきた米だけど――」
「ついでとばかりに襲撃すんな! 米奪うな!!」
 リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)の振り抜いたうさぎが一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)の足をすくい、月実の身体が地面に落ちた土器の中にすぽっ、とハマってしまう。
「……まずっ。ものすごいまっず!! こんなん食べてられないわね」
「食うなあぁぁ!! ……ちょっと待って、ねえ月実、食ったの!? それ生だよね!? なのに食ったの!?」
 リズリットが月実を土器から引き出すと、確かに月実の口元にはご飯粒……もとい、生の米が引っ付いていた。
「もう、カロメの方が断然良いじゃない。あ、リズ、後全部食べていいわよ」
 米を拭って、食後の一服とばかりに月実がカロメを咥える。
「またカロメだし……それに月実が食えない物なんて、私だっていらないよ! ねえ、せっかく弥生時代に来たんだからさ、卑弥呼になってみるとかどう? 私雨乞いのリンボーダンスやってみたいー」
「卑弥呼ねぇ……あそこで揉めてる人達も卑弥呼とか言ってるわよ」
「へ?」
 月実に言われて、リズリットが視線を向けた先では。
「わらわこそが卑弥呼であるぞ。ほれ、ここに金印もある」
 祝詞 アマテラス(のりと・あまてらす)が、卑弥呼が遣使を行った際に渡されたとされる金印……にしてはいささか巨大な、本人曰く『ゴールドハニー』と化したエル・ウィンド(える・うぃんど)を傍らに置く。
「あなたは何も知らないのですね……いいでしょう、今こそ明かされる卑弥呼の正体! 実は卑弥呼は幻惑格闘術『鬼道・祇獅鷲神典』の継承者『神祗鷲皇』で、その武術をもって倭の国に降臨した最強の格闘家だったのです! はあっ!!」
 もう一人卑弥呼を名乗った志方 綾乃(しかた・あやの)がそう告げ、気合のこもった一撃をエルの胸元に見舞えば、金色に輝いていたアーマーにヒビが入り、バラバラと崩れ落ちる。
「やあっ!! とうっ!!」
 二撃目と三撃目がエルのアームを砕き、四撃目と五撃目がレッグを砕く。残るのはやはり金色に輝いているインナーだけである。
「何をするのじゃ、粉々になってしもうては歴史が再現出来ぬではないか。……まあよい、どちらが本物の卑弥呼かは、そこにおる壱与が見抜いてくれようぞ」
「……えっ?」
 アマテラスに名指しされ、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が狼狽える。本人としては『壱与になって卑弥呼に弟子入り』と思っていたのだが、まさかこのような事態に巻き込まれるとは思ってもみなかっただろう。
「……そうですね。祇獅鷲神典を継いだはずの壱与が、師である私の技を見間違えるはずもありません」
 綾乃もアリアに視線を向け、二人に視線を向けられたアリアがさらに狼狽える。
(あ、あれ? 二人とも、イメージしていた卑弥呼様と違い、ますよね? でも、ここで二人とも違うって言ったら、歴史がおかしなことに……あ〜もう、どうしてこんなことになるのー?)
 しばらく悩んだアリアは、ふと思い至る。そうだ、こんな時にこそ頼るべき人がいるじゃないか、と。
「助けて豊美ちゃーん!」
「はーいどうしましたかー? ……わ、卑弥呼さんが二人いますー」
 呼ぶや否や、キラキラとしたエフェクトに包まれて豊美ちゃんが現れ、二人の卑弥呼に驚いた表情を見せる。
「おお、豊美が現れたとなれば、わらわは魔法少女を名乗らねばいかんのう。……太陽はあまねくを照らす、太陽女神アマテラス! どうじゃ?」
「わたくしも名乗らせていただきますわ。……別に、わたくしだけ仲間外れがイヤだからってわけじゃございませんわよ?」
 アマテラスに続いて、シャンダリア・サイフィード(しゃんだりあ・さいふぃーど)がいつの間にか取り出したステッキを振れば、伸びた光の帯がシャンダリアを包み込む。
マジカルスターシャンダリア! わたくしの光であなたの闇を払ってあげる♪ ……豊美さん、うまく出来てます?」
 それぞれ魔法少女な名乗りを上げたアマテラスとシャンダリアへ、豊美ちゃんがわー、と拍手を送る。
「二人ともお似合いですー。はい、いいですよー」
「え、えっと豊美ちゃん?」
「……わ、そうでしたごめんなさいー」
 アリアに呼ばれたのを思い出し、頭を下げて豊美ちゃんがアリアに振り返る。
「実はですね……」
 アリアから事情を聞いた豊美ちゃんが、うんうん、と頷いて、そして口を開く。
「そうですねー、卑弥呼さんの正体は一部の方を除き謎に包まれていた、ということですから、たとえ二人いたとしても、えーと、なんとかかんとかの継承者だとしても、いいんじゃないでしょうかー」
「ほ、本当にそれでいいの!?」
「こうじゃない、って言えませんからねー。『ありえない』って言っちゃうのは魔法少女として失格なんですよー。卑弥呼さんはとにかく凄い力を持っていて、その力で立派に国を治めた、が守られていればいいと思いますー。でも、歴史に名を残す偉大な方に対して、悪者扱いしたり悪者扱いされるような行動を取ったりするのはいけませんよー。その時は容赦なくお仕置きしちゃいますからねー」
 『ヒノ』を向けて豊美ちゃんが、にっこりと微笑む。
「さて、歴史では卑弥呼さんをお世話する方がいたみたいですけど……」
「あ、それでしたらここに適任がいます」
 綾乃が手を挙げて、物珍しそうに銅鐸を眺めていた袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)を指差す。
「誰が世話役じゃと!? どうしてわらわがこのような……」
「本初さん、先程は色々教えていただいてどうもありがとうございましたー。私が生まれる前のことなのですごくためになりましたー」
「うむそうじゃろうそうじゃろう、もっと褒め称えるがよい!」
 豊美ちゃんに感謝の言葉をかけられた本初が、ノせられるように卑弥呼の世話役として収まり、騒動は一応の決着を見る。
「うむ、では壱与よ」
「は、はい!?」
 アマテラスに声をかけられたアリアが答えると、目の前に簀巻きにされたエルが転がされる。
「この金印をそこの溝に捨ててまいれ」
「ええっ!? これ捨てちゃうんですか?」
「大丈夫じゃ、江戸時代に発見されるはずじゃから問題ないじゃろ」
「も、問題アリアリですよぉ……」
「それが終わったら、私が直々に稽古をつけてあげます。あなたには私の持つ技の全てを引き継いでもらわないといけませんから」
 綾乃がアリアに告げ、アマテラスと共に奥へと下がっていく。
「あっ、あの、江戸時代に見つかった金印は別の……行っちゃいました。ごめんなさいアリアさん、あまりお役に立てなかったみたいですー」
「ううん、大丈夫。ちょっと違うかもだけどクイーン・ヴァンガードとして、立派にお仕えしてみせる! ……でも、この人はどうしましょう」
 身ぐるみ剥がされたエルは、しくしく、と涙を流していた。
「エルさんは私が預かりますー。では、頑張ってくださいー」
 エルを連れて、豊美ちゃんが現れた時と同じようにして姿を消す。
「よーし、頑張るぞー!」
 ぐっ、と拳を握って、そしてアリアが二人の卑弥呼の所へと向かっていった。

「どう、リズ? あの中に混ざる気、まだ残ってる?」
「……ううん、いいや。私の中の卑弥呼のイメージがボロボロになりそうだもん」
 一部始終を見届けたリズリットが振り返ると、月実は先程の米を炊いて握り飯にしていた。
「炊くとそれなりにいけるわね。リズも食べる?」
「……うん、もらう」
 月実から握り飯を受け取り、口に含む。
「……美味しい」
「カロメには劣るけどね」
 そう言いつつ、月実は次の握り飯に手を伸ばす。
 穏やかな風が二人を吹き抜け、たわわに実る稲穂を揺らしていた。