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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・魔導力連動システム


 第一ブロックの資料室。
「魔導力連動システム。どっかで聞いた事があると思ってたが、そうか、あの守護者が使ってたやつか」
 葉月 ショウ(はづき・しょう)は魔導力連動システムに関する情報を探してた。しかし、資料室を色々調べても、真新しい情報はない。
 ほとんどはPASDのデータベースで公開されているものであり、システムを使えるようにするための方法は、未だ分からず仕舞いだ。
「確か、魔力炉とそれを安定させるための魔道書が必要だってことだよな? もしそのシステムが使えるっていうんなら、魔道書もどっかにあるはずだ」
『研究所』では図書館のようなあの空間が、巨大な魔力炉として機能していた。この資料室にも同じように魔道書があるならば、ここが魔力炉の可能性も出てくる。
 しかし、魔道書らしいものは一切発見されない。
 出てくるのは、合成魔獣に関する断片的な資料くらいだった。その中にあった『アーク』という単語が、この施設の鍵となりそうではあるが……
「これには、魔法の事が書いてあるですぅ」
 パートナーのリタ・アルジェント(りた・あるじぇんと)が一冊の書物を発見する。術式の簡易化、及び魔法の同時発動――多重詠唱について触れられているものを彼女は探していた。
「そうか、だから守護者はあんな事が出来たのか」
 そこに書かれているのは、魔導力連動システムを持つ人間が、いかにして術式を行使するのかの仕組みが書かれたものだった。
 守護者――ノインは、言ってしまえば彼女自体がシステムの一部だ。口頭で詠唱を行わなくとも、念じただけで自在に魔法を使う事が出来る。
 だからこそ、複数の魔法を同時に操っていたのだ。
 彼女と同じ力を得るためには、システムに自分の身体を組み込む必要がある。しかし、その魔力の受容に耐え切れる者はほとんどいない。
 それはおそらく、この時代においてもであろう。
「他にも何か書いてあるですぅ」
 リタがある一文に気付いた。
 魔導力連動システム下において、それを使える者は魔力のネットワークを介して他者へ魔力供給や共有を行う事が出来るという。
 限定的な空間において、という制約こそ付くものの、その原理を使えば自分の使えない魔法も使えるようになったり、複数の魔法を同時に操ったりという事が可能になるという。
「強化術式の魔道書ってのがあったな。そうか、あれはこのためのものだったのか」
 魔力による身体強化が行われるのを、ショウは目撃している。自らもその恩恵を受けた。本来、その魔力は魔法使い間でも共有されるべき代物だというのだ。
 魔力の循環系統と、一人一人の人間が持つ魔力をネットワークで共有すれば、一人当たりが使用出来る魔力は増幅する。自分以外の魔力を使えるようになるのだから。
「さて、教えてやるとするかな」

            * * *

 ショウ達が調べ物をしている時、魔法関連の遺産に興味を持っている如月 玲奈(きさらぎ・れいな)とパートナーのレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)は、『現物』を探していた。『術式の簡易化と同時発動における研究』の成果を。
 実は、それこそが魔導力連動システムへと繋がるのだが、まだその事を知らない。
「うーん、わずかな音の差で発動しないなら、機械とかに詠唱させればいい気がするんだけど」
 玲奈が考えるのは、一種の発声装置だ。自分の魔力を送り込み、機械に詠唱させる。それとは別の術式を自分が唱える事で、多重詠唱を可能にするというものである。
「ですが、そういったもので上手くいくかと言えば、疑問ですね」
 レーヴェが言う。
「音のニュアンスは、機械と生身ではどうしても変わってきますから」
 自分のイメージと、機械が唱える術が必ずしも一致するとは限らない。それでも試そうとするなら、暴発するのが関の山である。
「術式の簡易化と同時発動……術式短縮による連続魔法や複数の魔法を同時発動出来れば、確かに強力ですが、それだけ魔力消費も多くなりますね」
 玲奈がはっとする。多重詠唱を会得しても、彼女の魔力の総量は変化しない。
「知っていれば便利ですが、使い勝手は悪い。無限に近い魔力――魔導力連動システムを使えれば別ですが」
 一切の予備動作、詠唱なしで複数の魔法を操っていた『研究所』の守護者。それは、魔導力連動システムを使いこなしていたから可能だったのだと、推測する。
「おそらく、この研究もそれを見越して行われたのでしょう。システムがあれば、問題が一気に解決しますから」
 そうなると、探すべきは魔導力連動システムだ。
「ここに、あるのかなー?」
 玲奈が考える。
 そもそも、システムが使える施設はそう数がないんじゃないか。唯一の成功例があった『研究所』に、実験が行われていたイルミンスールの遺跡。
「あまり期待は出来ませんね」
 第二ブロックにあった地図を参考にし、施設内を進んでいく。二人は下ではなく、上へ行く事にした。
「もし魔力炉があるとすれば、最下層か最上層か……少なくとも、全体に行き渡らせるのが容易な場所にあるはずですからね」
 現在、PASDの多くは第二ブロックの最下層――第四層に向かっている。だからこそ、あえて彼女達は上を選んだのだ。
 そんな時、ショウから連絡が入った。資料室で彼らが得た情報が、玲奈に伝えられた。
「力を使えるようにするには、システムに組み込まれなきゃいけないんだね」
 システム下では、強力な魔法が使えるようになるものの、全魔力を扱えるのは、システムの『管理者』だけである。
 システムの影響下にいる者達にどれだけの力を与えるかもまた、その者に問われる。力は敵も味方もなく、平等に与えられるのだから。
「でも、成功すれば念願の多重詠唱が……」
「そのための術式が分からなければどうしようありませんよ。あと、身体が膨大な魔力の負荷に耐えられないといけませんからね」
 それでも、二人はシステムを探すために、施設内を進む。