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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・二つの決着


 雛型機甲化兵チンクエ戦。
 重装甲と長距離射程、近づこうものなら衝撃波のようなもので吹き飛ばすといった具合で、隙はない。
 これが量産型との違いだ。
「どんなに装甲は強固でも、弱点は他のものと……変わりません」
 睡蓮が狙うのは、関節部だ。ライトニングブラストで脚部関節を狙う。だが、図太い脚部は例え関節部だろうと、他の機甲化兵ほど簡単に倒れはしない。
 九頭切丸が近づき、刀型の魔力融合型デバイスで乱撃ソニックブレードを繰り出し、装甲を切り裂く。その刀は紫電槍・改と同じく雷電属性持ちだった。
 そして例の衝撃波が来る。
「そういうこと……ですか」
 それが放たれる瞬間に、氷術を唱える睡蓮。波動砲の発射口の付近からそれが放たれていると思ったが、違った。
 機甲化兵の装甲にわずかな隙間が開いていた。そこから空気が吹き出し、衝撃波のようなものとなっていたのである。
 ならば、そこを防げばいい。
 氷術で塞ぐのは、その噴出孔だ。
「今のうち、ということですか」
 その隙を、この場の者が見逃すはずがなかった。
 が銃型の試作型兵器を撃つ。今度は、装甲を打ち抜く事に成功する。次いで、藤次郎正宗が傷ついた装甲に爆炎波を浴びせる。
 このコンビネーションで、重装甲に確実にダメージを与える事になった。
 ダメージは蓄積され、機甲化兵は巨大な砲を支えるのが困難になっているらしく、バランスを崩しそうになっている。
「起き上がれなく、してやるわ」
 リカインが機甲化兵の弱った脚部を、ヒロイックアサルトとパワーブレスで強化したドラゴンアーツによって攻撃する。
 それによって、機甲化兵は横転した。
「さて、終わらせますか」
 遥が砲口に向けて、銃弾を放つ。エネルギーの蓄えられていた砲は、爆発を起こした。
 機甲化兵チンクエは、もう起き上がれない。その装甲と装備ゆえに、一度倒れると自重を支えられないようだ。
「…………」
 機甲化兵と、パートナーの九頭切丸とを見比べる睡蓮。
 装甲に身を包んだ姿は、武装は異なるがやはり近い部分がある。彼と同じように、剣や刀を扱うものだったら、もう少し類似性を見出せたかもしれない。
 雛型の中の機晶石は、人工機晶石ではなく、天然の機晶石を改造したものだ。ならば、もしかしたらある程度の知性を持っているかもしれない。
 雛型の攻撃手段は、量産型のせれとは明らかに違う。
「私の声が……分かりますか?」
 呼びかけてみる睡蓮。
 だが、返事はなく、反応はない。いや、反応はあった。
――ミサイルが横転した機体から発射される、最後の抵抗だ。
「……!」
 それを九頭切丸がデバイスで薙ぎ払い、倒れた機体に突き立てた。
 敵には、迎撃プログラムしか内蔵されていないようだった。意思なき、ただの機械。
 雛型を倒し、一行はその場を後にした。
「おっと。念のため、中の動力源は外しておいた方が良さそうですね」
 遥が装甲の中にあった改造機晶石を取り出した。それは人工機晶石とは異なるものだが、その事に気付くのは、まだ先である。

            * * *

 一方、雛型機甲化兵トレ戦。
 こちらは苦戦を強いられていた。
「く……強いッ!」
 恭司がライトニングウェポンで電撃を帯びさせた雅刀で斬りつけるも、ことごとく敵の二本の刃で防がれてしまう。
「知ってるわよ、武器はそんなに丈夫じゃないって!」
 始めから防がれるのなら、武器を破壊するつもりでいけばいい。アリアは敵の刀を集中的に攻撃する。
 それでも、敵の武器が壊れないのは、相手が攻撃を受ける際に、衝撃を軽減する受け方をしているからだ。
 量産型には決して出来ない芸当だ。
「――ッ!」
 アリアの攻撃を受け流し、敵の斬撃がくる。それを、持ってきていた機甲化兵の腕で受け止める。
「くっ……」
 腕は敵の攻撃に耐え切れず、破損した。その勢いでアリアが地面に叩きつけられる。
 今度は恭司が敵の死角から攻撃を仕掛ける。だが、それもかわされてしまう。
「その腕の残骸を投げつけて!」
 咄嗟に恭司は反応し、機甲化兵の腕の残骸を雛型に投擲する。
「まだ……まだ剣は振るえる! たぁぁぁあああああ!!!!!」
 それが敵の刀で受け止められたところで、その腕にアリアが乱撃ソニックブレードを叩き込む。
 機甲化兵の装甲の強度が、敵の武器に勝った――雛型の二本の刀が折れたのだ。それだけでなく、装甲をもわずかにめり込ませた。
「……やった!」
 だが、希望はすぐに絶望へと変わる。
 機甲化兵が武器を投げ捨てると、両肩の装甲が開く。
 そこから、さらに二本の刃が出てきたのだ。
「そんな……」
 絶体絶命。
 その時、
「大丈夫ですか!?」
 救援が来た。
 赤羽 美央(あかばね・みお)ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)鬼崎 朔(きざき・さく)スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)の四人の姿があった。
「あれが、『雛型』というヤツか」
 朔が、静かに機甲化兵トレを見据える。
「鬼崎さん――これを!」
 美央が彼女に手渡したのは、ヒラニプラで確保した刀型の試作型兵器だ。美央も、槍型のものを所持している。
「――起動!」
 美央が、魔力融合型デバイスを起動する。朔も同様だ。
 敵が構えをとり、二人を凝視している。攻撃優先をアリア達から切り換えたのである。
「行くぞ!」
 朔が機甲化兵に向かう。彼女は前衛だ。
「朔様、援護するであります!」
 スカサハが加速ブースターで敵に近づき、ライトニングブラストを放つ。それは、敵の刃によって弾かれてしまった。
 しかも、相手の機動力は尋常ではない。それを彼女達も知った。
「なにッ!」
 気付いた時には朔の間合いに入っていた。
 試作型兵器で、敵の斬撃を受けようとすると、今度は後退した。兵器から発せられるエネルギーを読み取ったらしい。
 ディフェンスシフトとファランクスで守りを固めていた美央が、動く。朔から自分に目標を移すためだ。
 轟雷閃を放つ。それを敵が二本の刃で綺麗に受け流した。
 だが、それは陽動だ。
 黒壇の砂時計で勢いをつけ、ランスバレストを叩き込む。
「貴方の攻撃すべき相手は私です……!」
 敵も咄嗟に攻撃を受けたものの、美央の試作型兵器の勢いによって、後方へと飛ばされる。しかも、彼女が手にしているデバイスは『研究所』の時と同じく、雷電を纏うものだった。
 ――紫電槍・オリジナル。その言葉が相応しいものだ。
「さすがにこのくらいでは倒れませんか」
 動きが僅かに鈍ったものの、まだ敵は動けるようだ。機体に直接強力な一撃を叩き込まない限り、勝機は掴めない。
 ならば、相手の動きを封じるまでだ。
 ジョセフが、紅の魔眼と転経杖で魔力を最大限にまで高め、雛型に向けて渾身の雷術を放つ。
「効いて、マスカ?」
 さすがに今度ばかりはダメージがあったようだ。
 その隙に、朔が禁じられた言葉で魔力を増幅し、氷術を繰り出す。狙いは、敵の装甲の関節部だ。
「喰らえ!」
 凍らせた関節部に対し、試作型兵器に轟雷閃をのせ、叩きつける。彼女の武器はウォーターブレードのようなものだった。そこに雷が加われば――
 敵の機体に電流が走る。
 しかも、その一撃が雛型の左腕を切断した。
「これで、終わりです!」
 続いて、美央が敵の左側からデバイスを思いっきり突き出した。ランスバレストである。
 片腕を失った敵に、この攻撃を防ぐ術はなかった。
 機甲化兵の身体から煙が上がり、後ろへと倒れた。
「武器が……」
 ちょうどその時、魔力融合型デバイスから光が消えた。エネルギー切れであった。
「倒したのであります」
 完全に敵は沈黙したようだった。
 機甲化兵に背を向け、その場を後にしようとする。
「――ッ!」
 物音がした。
 倒したと思った機甲化兵が立ち上がる。
「来マス!」
 ジョセフが声を上げた時には、もう一行の間合いにまで入っていた。

 キンッ!!

 敵の攻撃に反応し、美央が槍で受け止めた。
「兵器が使えなくても、負けるわけにはいきません!」
 美央が機甲化兵の攻撃を受けた瞬間。
 彼女の頭上を飛び越え、朔がブライトシャムシールを振り下ろす。
「たぁぁぁあああ!!」
 轟雷閃をのせ、一気に敵の装甲――アリアの攻撃により脆くなっていた胴体の部分への一撃を加える。
 そこは改造機晶石の埋まる、心臓部だった。
 渾身の一撃が、雛型の改造機晶石を破壊したのである。
「今度こそ、終わりました」
 敵はもう動かない。
 これで、ワーズワースの生み出した最初期の機甲化兵六体が全て破壊されたのである。
「手強い……相手だった」
 試作型兵器がなければ、四人――その場にいたアリアと恭司を含めれば六人だが、それでも勝つのは難しかったことだろう。
 
 雛型を倒し終え、PASD本隊を彼女達は追う。