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ネコミミ師匠とお弟子さん(第3回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第3回/全3回)

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6章 どうせ怪我をするなら、大げさな方がいい。その方がもてるから。そんな気がするから。


 5回裏、変わらず1−0。
 肉球側はテディに変わりセイ、巽に変わりスカサハが補充された。タイタンズはナガンとルイを交代させる。
 今のグラウンドには焦土という名がふさわしいだろう。元々枯れた土地ではあるが、蛮族はドージェの儀式が失敗したのかと騒ぎはじめている。遅れて到着した羽高 魅世瑠(はだか・みせる)フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)は彼らに理由を説明するため荒野を奔走していた。
 銃声に続き、まさかの彗星突撃。グラウンドに向かう途中、全てを目撃していた並木は瞑須暴瑠の恐ろしさを肌身に感じていた。
「うろたえるな!! 並木!!」
 魅世瑠は立ちすくむ並木の頬をたたいて気合を入れる。蛮族に線を引かせ直し、もうじき試合は再開できそうだった。
「ラズは仲間を守るよー。試験も、一緒にがんばろー?」
「ラズ先輩……その笑顔、いただきます!!」
 微笑むラズの笑顔をカメラにおさめ、並木は再び戦場へ向かった。もはやスポーツではなく、試合。勝敗が決まるまで、血の連鎖は止まることがない……。


 単純に応援をしようとして遊びに来ていた瀬島 壮太(せじま・そうた)は、回復魔法が使えるミミ・マリー(みみ・まりー)と共にタイタンズの体力支援をしていた。
「皆様、熱中症には気をつけてね!」
 翡翠は葱たちとともに氷術で軽く凍らせたぬれタオルを配り、希望者にはアイス珈琲や麦茶を配っている。葱と蒲公英は正悟から渡された猫耳を付けていた。珈琲なのはただの趣味さ! 同じく保健委員としてけが人の治療にあたっている日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、歩いてくる並木を見つけ、おぉい、と手を振った。
「よお笹塚、元気にしてるか。せっかくやるんなら勝ちてぇよな。
応援してやっから気合入れてけよ」
「あ、瀬島さんこんにちは! マネージャーさん、保健委員さん、お疲れ様です!」
「そういやゴビニャーに弟子入りすることはできたのか? なんか力が必要だったら言えよ、貸してやるから」
 並木は雨宮 七日(あめみや・なのか)からバイト先で淹れ方を習ったという緑茶をもらい、壮太と皐月に挨拶をした。事前に翡翠から試験のことを聞いていた2人は守護天使の撮影がまだと聞き、お互いのパートナーに協力してやったらどうかと尋ねた。
「笹塚さんこんにちは! 壮太のパートナーのミミです。僕でよければ協力するよ」
 ミミはふんわりと笑い、並木にパワーブレスをかけた。今日は普通の野球観戦ではなかったけれど、壮太と一緒に知っている人を応援するのは楽しかった。
「守護天使っていうのは古王国時代の住人で、名前の通り守護することに長けている種族なんだよ」
「さっきの魔法も?」
「んー、そうだね。僕が使える魔法の1つ。あと、背中の羽は消すこともできるんだ。僕はいつも消してるよ」
 守護天使のミミはリカバリ、七日はSPリチャージをそれぞれ担当しているらしい。七日も写真撮影くらいはしてやってもいいが、笑顔で写真を撮ってくれる同族がいるならと申し出を控えていた。
「怪我したら早めに保健委員の所に来いよ。オレ達もそこで待機してるから」
 皐月は念のため禁猟区の御守りを並木に渡し、熱中症対策にファイアプロテクトもかけておいた。タイタンズの治療で余力があるわけではないが、打席に彼女が立つときくらいどうにかなるだろう。
「もし流れ弾がこちらに来ても大丈夫です、盾になりますから……皐月が」
「オレ!?」
 うへぇ、とうめき声をあげるが七日の言葉を打ち消しはしなかった。……七日も応急手当てで、長い時間頑張っている。自分に付き合って無理をしてくれているのは百も承知だ。
「……過保護なのかね、これは」
「いーんじゃねえか。337拍子やエールを送るのもいいよな。皆で盛り上げてやろうぜ!」
 放校処分になった日比谷は、かつては壮太同じ学校に通っていた。壮太は彼のぼやきを軽く受け止めると、その肩をぽんと叩く。お互い立場は違えど、この場では仲間だ。野暮なこと言うなよ。
「あと、どの種族が残っていますか」
「機晶姫、ゆる族、アリス……かな?」
「ゆる族ならアイン監督ですね。あのにやついた表情なら問題ないでしょう」
「そうなんですか……撮影終了! あと2種族です」
 七日のアドバイスで、また少し試験合格に近づいた。
 機晶姫、アリスは一応敵チームのメンバーだ。先輩たちは最後に集合写真を撮ると言ってくれてるけど、なるべく自分で撮影する努力はしないと……。
「並木さん、出るの?」
 素振りを始めた並木を見てミミが尋ねる。
 このバットは、師匠が入学祝いに何を贈ればいいか迷って、いろいろな人に選んでもらったものだと聞いた。今日の試合も師匠が自分を思って組み立ててくれたものだ。
「野球って、いいですね。今回は瞑須暴瑠ですけど」
「パラ実で野球だしな……笹塚は結構危ないんじゃねーのか?」
「日比谷さんもそうですけど、パラ実の人はお人好しが多いですね。自分は、この学校に来て本当に良かったです」
 『怪我人だ!!』という誰かの声が聞こえた。そろそろ、自分の番。師匠にもらったバットのグリップを、強く握る。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

<ピッチャー、ナガンに変わりまして、フリード。スマイル一番星☆>
<6番、ヘンダー、変熊。複数バットは厳禁>
 助っ人として参加してくれたルイは野球をやったことがないらしい。彼に対して久は『5回裏は無難に投げとけ。1度なれちまえば、どれだけ吹っ飛んだ野球だろうと、分かっていればどうと言う事はねえ』と事前に助言していたようだ。そのためルイは勢いはあるが、シンプルな投球をしていた。1点リードしているため、アイン監督も久の判断に許可を出していた。
「我に秘策ありー!」
 ピッチャーの後ろ、センターでニヤリと笑っているのはルルールである。実は彼女、以前から試したかったアイデアを行動に移す機会を虎視眈々と狙っていたのだ。

 全裸に薔薇学マントの変熊は今日も自分のスタイルを崩さず、相棒のにゃんくまと共に試合に臨んでいた。投球になれていなかったルイがラッキーなことに2ストライク3ボールだったので、にゃんくまは1塁に進んでいる。
「オーケィ、ボス」
 親指で鼻をピッとはじきながら、変熊はゴビニャーの方を向いて1人頷いた。ゴビニャーは先ほどの件ですさまじく落ち込んでいるため、変熊にサインを飛ばしたわけではない……。あはっ☆
「てめえ、マウンドに立つときにクチャクチャやってんじゃねえ……!」
 目の下を黒く塗り、メジャーリーガー気分の変熊は……久に言われてガムをごくりと飲み込んだ。
 むっ、外角高め。見切った、ボール球だ!
 振りかけたバットを止めるが、判定はストライク。キャンディスに詰め寄ろうとするが、審判は一度下した判定を覆そうとはしない。
「むぅ……腰のバットが回っていたか。不覚☆」
「へいへい! へぼピッチャー! 後何アウトでチェンジだか、足し算できんのかにゃーっ?」
 1塁ではにゃんくまが、ニャンニャンとわめいてお腹を抱えて転げまわっている。さしずめ、イラカワイイと言ったところか。ピッチャーが投げる態勢に入ると、隠れ身でこっそり気配を消した。
「来な、パラ公!」
「何かもうファイアストームで焼き払って、バット振るどころじゃなくしちゃおっかな☆」
「へ?」
 大柄なルイの後ろに隠れていたルルールは、手元に密度の高そうな火の玉をキュインキュイン鳴かせていた。ルイが投げたタイミングに合せてボールに自身の魔法を重ねがけすると、もうマジヤバイ感じのなんかすごい球になった。赤黒い!
「いっけー☆」
「馬鹿なぁぁぁっ!? おい、キャッチャーのことも考えろ!!!」
 変熊と久は、ここに来て心が1つになった。

 あれ、当たったら死んじゃうかも……。

 避けちゃおっかなー。どーしよっかなー。
 変熊は可愛い表情をしながらくねくねと悩んでいた。だが、その悩みは全く無駄なのだ。なぜなら、ルルールは最初から変熊をつぶす気でいるのだから。
「デッドボール!」
 キャンディスが宣言するまでもなく、文字通り変熊は生死の淵をさまよっていた。脂汗を流し、頬をこけさせて……なんと形容したものか、見ようによっては『トイレが近い人』のポーズをしている。久は青い顔で見守るだけだった……これは辛い。
「ぎぎぎ……センター貴様、わざとやったな?」
 息も絶え絶えの変熊は合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)により、救護班の神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)の元へ運ばれて行った。しかし、その後ろには毒島の姿も……。
「くはぁ〜っ。並木! とっとと肉球拳法の奥義さずかるにゃ!」
 一方、ちゃっかり抜き足差し足でどさくさに紛れ盗塁していたにゃんくまは3塁の上で毛づくろいをしている。……にゃんくまはまだ知らない、並木が獣人化後の動物で頭を悩ませていることを。超感覚後に気づいたのだが、ウサギの足の裏はふかふかとした毛でおおわれていて肉球がないのだ!!! まあ、どうにでもなるが!!! 事実、通い弟子として頑張っていた音子は先日肉球パンチを会得している。
「くっくっくっ……そこに居合わせれば、俺さまも労ぜずして奥義が手にはいるにゃ」
 ゴビニャー家にある書の文字は『鍛練』である。その後、変熊に代わりショートにはエヴァルトが入った。

 次の打者は音子、真面目に通い弟子としてゴビニャーから肉球パンチを学んだばかりだった。師匠は自身の失敗でずいぶん落ち込んでいる……ここは自分が挽回したい! ネコミミ付きのヘルメットまで準備した、アニマル愛をこめて!
「師匠の肉球に誓って!!」
 腕をピッチャーに向け袖をくいっと肩へ引き寄せた後、軽く息をとめた。集中するとき、人は無意識によく呼吸を止める。パワードアームに祈りを込めた。
「……来い!!」
 ピッチャーが投げた球はド直球ストレート、ごう、と空気を巻き込み唸る目標に狙いを定める……今だ!! シャープシューターを使い、振り子打法で『芯』を捉える!!
「うぉぉぉぉ!?」
 音子のバッティングは完ぺきだった。しかし気合いの入ったパワードアームでの一撃に彼女のバットの方が耐えきれなかったのだ。中央から派手に折れたバットのささくれ立った破片は後方のキャッチャー久の目元を容赦なく襲っている。
「ゴールにゃっ。おしりぺーんぺーん!!」
 ボールの飛んで行った方向はレフト、和希がファーストまでドラゴンアーツで送球するも音子のアウトを奪うのみだった。再び盗塁を狙っていたにゃんくまが全ての塁を踏み終わり、1−1。同点。