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【金の怒り、銀の祈り】うまれたひ。

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【金の怒り、銀の祈り】うまれたひ。

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*沢山のプレゼント*


「ケイラさん、大丈夫ですか?」
「ああ、何とかね」

 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は箒にまたがって、後ろを飛んでくるケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)に声をかけた。
 心配されるのも致し方なく、ケイラ・ジェシータの後ろには、二人もまたがっているのだ。ふら付いているのは、決して魔術の扱いが云々ということではない。

「なにも、全員で乗ることはないだろ」

 ため息混じりに真っ白い毛並みの頭を撫で付けるのは、ソア・ウェンボリスの肩に手を置いて同じ箒に乗っている雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)だ。その横を、使い魔のフクロウが同じ速度で羽ばたいていた。

「……でも、ケイラが支度遅れて……遅刻しそう」
「なに、人のせいにするんだ」

 御薗井 響子(みそのい・きょうこ)がぼそ、とそう呟くと、ケイラ・ジェシータはピンク色のポニーテールが顔にかかるのもいとわず振り返りざまに突っ込みを入れる。その後ろにて我関せずと空の旅を満喫していたドヴォルザーク作曲 ピアノ三重奏曲第四番(どう゛ぉるざーくさっきょく・ぴあのとりおだいよんばんほたんちょう)は、荒野に人影を見つけた。

「おや、こんな荒野で迷子かな?」
「ドゥムカ、あんまりきょろきょろしてるとおっこち……あれ?」

 パートナーの長い名前を愛称で呼びながら、ケイラ・ジェシータは同じ方向に視線を落とす。
 赤い服に、金色の髪が荒野には異質に見え、思わず箒の速度を落とした。

「ケイラさん?!」
「もしかしたら迷子かも。ちょっと声かけてくるよ。遅れていくからって、伝えてもらえるかな?」
「わかりました!」

 元気のよいソプラノの返事を聞くと、にっこり笑ってパートナーたちともども降下していった。それを見送ると、ソア・ウェンボリスの耳に不思議な音が聞こえてきた。

『私は忘れさせない、忘れられない、忘れさせたりしない、絶対に消えない、消されない、消されたりしない』
 
 ぱっと、周りを見渡しても聞こえてくるような何かは存在しなかった。だが、雪国 ベアにも聞こえたようで、彼の表情も曇っていた。

「ご主人、今のって……あの機晶姫の声じゃないか?」
「え、どうしてですか?」
「……あいつが、こっちを見ていた。気のせいかもしれないが、な」

 ソア・ウェンボリスは、その哀しげな言葉によって、胸を締め付けられるような思いに駆られた。だが、そこへはもう他の仲間が向かっているし……今日はとても大事な日だ。そう言い聞かせ、箒を急がせた。



「ええと、君……君みたいなお嬢さんが、どうしてこんなところに?」

 ケイラ・ジェシータは大地に降り立って、すぐに彼女に声をかけた。彼女だろうと判断したのは、その服装と顔立ちからだ。

「……何用か」

 キレイな青銅色の瞳に、三人の姿が映りこんだのを見つけたとき、御薗井 響子がその手に握っているものを見つけた。ニーフェ・アレエが走り回って配っていたチラシだ。

「……もしかしてそれは……誕生日会に、参加するのですか?」
「あ、これか……」
「なら丁度良かった! 自分はケイラっていうんだ。こっちは響子で、こっちは……ドゥムカ。名前が長いから、ドゥムカでいいよ。君の名前は?」
「……名前?」
「そう。あれ、もしかして……名前、ないのかな?」
「……オーディオ」
「音声? もしかして歌が好きなのかな? このお誕生日会のルーノさんと、ニーフェさんも歌が大好きなんだ。きっと君も仲良くなれるよ」

 にっこりと笑ったケイラ・ジェシータとは裏腹に、ドヴォルザーク作曲 ピアノ三重奏曲第四番こと、ドゥムカは眉をひそめた。

「……今の発音は……いや、まさかな」

(イタリア語で、【憎悪】という言葉もまた、Odioだが……まさか、気のせいだろう)

 不気味に口元を歪めた機晶姫の少女の瞳の奥に、妙な光を見つけたドゥムカはほんの少しだけ不安を抱いていた。

「うわああ! 葱料理がいっぱい……」

 九条 葱(くじょう・ねぎ)は目をきらきらと輝かせながら、並べられていく料理に目を奪われていた。それを、半ば呆れたように後ろから見つめるのは九条 蒲公英(くじょう・たんぽぽ)だ。彼女はパートナーである浅葱 翡翠が用意した飲み物を、参加者達に振舞い始めていた。

「葱が好きなんだ。なら、追加分はもっと張り切っちゃおっか」

 霧雨 透乃がそう口にすると、九条 葱はぶんぶん頭を縦に振っていた。料理を並べるのを手伝っていたニーフェ・アレエに声をかけたのは、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)だった。

「準備お疲れ」
「レイディスさん!」
「まさか、本当にシャンバラ中走ってチラシ配ってたとはな……道中色々聞いたよ。それとこれ」

 紙袋の中から、豪華な花束と、二つの包みを取り出した。レイディス・アルフェインは、そのうち一つをニーフェ・アレエに手渡す。

「こっちはルーノ用だ。来られない連中からも頼まれて、花を買ったんだ。この包みは俺から。おそろいなんだ」

 いわれながら包みを開けると、銀色のロケットペンダントだった。楕円形のシンプルなつくりだったが、まだ上品な品物よりも野道の花が似合いそうなニーフェ・アレエが持っていても、嫌味にならないアクセサリーだった。

「い、いいんですか!?」
「ああ。がんばってたから、なにか贈り物したかったんだよ。それに、今日はきっといい一日になる。その御礼だと思ってくれ」
「ありがとうございます! レイディスさん!」
「あー! レイちゃんのプレゼントもロケットなんだ?」

 朝野 未沙が見知った顔を見つけて駆け寄ってきた。レイディス・アルフェインは軽く挨拶を交わすと、小首をかしげる。

「も?」
「私もルーノさんにロケットをプレゼントしたんだよ。でも、普通の写真入れるタイプじゃないけど……」
「そっか。なら被ってないじゃないか。写真を入れる奴は、大事な写真を入れるといい」

 その言葉に、ニーフェ・アレエはにっこりと笑った。そこへ、お手伝いをしていた朝野 未羅が声をかける。

「それなら、静麻さんに写真を撮って貰うといいの!」
「ん? なんだ、早速出番か?」

 閃崎 静麻(せんざき・しずま)はカメラを構えて談笑している4人をフィルムにおさめた。その腕に【カメラ係り】と書かれているのを見つけて、ニーフェ・アレエは目を丸くする。

「静麻さん、いつの間に」
「ああ。プレゼント忘れちまったからさ。何か変わりに手伝いを、って話をしたら、あっちのお嬢さんたちにカメラを渡されたんだ。ま、思い出はいくらあってもいいだろ?」

 武器を構えるとこれ以上にないほど頼もしい人物だが、このように屈託なく笑う姿を見ていると、ニーフェ・アレエ自身も思わず笑みがこぼれた。深々とお礼の為に頭を下げると、その様子までシャッターを切られたようだった。

「今日はもうその一回だけな。あとはにっこり笑ってろ。そのほうが、カメラに収める側も気持ちがいい」

 そういわれ、少し照れくさそうにニーフェ・アレエは笑った。ふわりと、優しい香りがして緑髪の機晶姫は振り向いた。そこには黄色い巻き髪を優雅に耳にかける白騎士の姿があった。

「百合園の制服を纏うと、レディらしく見えるね」
「ララさん! リリさん!」
「久しぶりなのだ」

 白い鎧をまとう機晶姫、ララ サーズデイ(らら・さーずでい)は黒い装いのリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)と共に、花束を持って現れた。それをニーフェ・アレエに差し出して、ララ ザーズデイはニーフェ・アレエの手をとって挨拶代わりに口付けた。

「よくがんばったね。招待状をもらえて、うれしく思うよ」
「いえ、あの……ほんとうに、皆さんが……姉さんのお友達に頼っちゃってばっかりです」
「あまり自分を卑下しすぎると、君自身の輝きが失われてしまうよ。君が良き友であると思うから、みんなが君を手を貸してくれたのさ」
「先に友人となったのはルーノかもしれない。だが、ニーフェとも友達なのだよ」

 リリ・スノーウォーカーの言葉に、彼女の周りにいる獣達も同意を示すように体を摺り寄せる。そこに、一匹の黒猫が駆け込んでくる。首につけたリボンに見覚えがあり、すぐに飼い主の名前が出てきた。顔を上げれば、その二人が立っていた。

「リンさん……ってことは、やっぱり! 神楽坂さん、花梨さん!」

 花束を片手に神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)榊 花梨(さかき・かりん)を伴って現れた。ニーフェ・アレエは榊 花梨に飛びつくようなハグで歓迎する。黒猫のリンは、ティーカップパンダの蓮華とじゃれ付きながら、ニーフェ・アレエの周りをうろうろする。
 榊 花梨は二つの包みを持って、おずおずと一つ差し出した。その様子に、神楽坂 翡翠はにこやかに微笑んだ。

「大丈夫、きっと喜んでもらえますよ」
「うん……ニーフェ、これは貴方にプレゼント。こっちは、ルーノさんの分ね」
「え! 花梨さんまで……私の分を用意してくださったんですか?」
「だって、凄くがんばったじゃない。こんなにたくさんの人が来られるように、一生懸命。今度は、私も手伝うからいってね?」

 大きな緑色の瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。ニーフェ・アレエは何度も頷いた。そこへ、ルーノ・アレエが訪れた。赤い髪は少し巻きなおしたようで、先の方だけくるんと巻かれている。装いは百合園女学院の制服だったが、真新しい感じを受ける。恐らく新調したものなのだろう。

「皆さん。今日はありがとうございます」 
「ルーノさん、お誕生日おめでとう。これ、ニーフェさんとおそろいのプレゼントよ」

 受け取ると、ニーフェ・アレエの顔をのぞいてからその包みに手をかける。ニーフェ・アレエも同じく包みを開けると、中から出てきたのは七宝製のブローチ。
 蝶の形で、ルーノ・アレエは銀色をベースに七宝細工が施されており、蝶が左側に羽をたたんでいた。ニーフェ・アレエのものは、金色をベースに細工が施されている。こちらは右側に羽をたたんで、対になっていた。

「二つそろえると蝶が羽を広げる感じになるのよ」
「二つで一つ。姉妹が、いつまでも仲良く過ごせるように、と」

 二人の機晶姫は顔を見合わせて、クス、ッと笑いあった。そこへ、林田 樹(はやしだ・いつき)ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)緒方 章(おがた・あきら)と、大きな花束を持ってよたよたと歩く林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が訪れた。

「今日は招待してくれて、ありがとう。うちのコタ君がお姉さんにプレゼントしたいんだって」

 緒方 章が進み出て、代わりに挨拶を交わす。見知った顔を見て、ニーフェ・アレエは駆け出して思いっきり、ジーナ・フロイラインにハグをした。

「来て下さって、ありがとうございますッ!」
「わっ! ……ニーフェ様、喜んでいただけて光栄ですが、そういうのが苦手な方も……あの餅が典型ですが、いらっしゃいますので、気をつけてくださいね?」
「だめだ! 僕は樹ちゃん一筋だからそんないきなり抱きつくとかそういうのは困るって言うか……!」

 自分が抱きつかれたのかと思って、目を閉じて必死に抵抗している緒方 章を冷ややかな眼差しで見つめると、鼻で笑いながらにっこりと笑って言い放つ。

「誰も抱きついてませんよ。自意識過剰ですね。あんころ餅は」
「な、何!!?」
「ということで、あまりむやみに抱きついてはいけませんよ?」

 にこやかに金髪の機晶姫から諭され、ニーフェ・アレエは「あ!」とすぐに頭を下げる。その様子が可愛らしく、思わず笑みを零す。そこへ、花束を引きずらないように注意しながら、林田 コタローが進み出る。

「おたんじょーび、おめれとーなのれすっ! あれーしゃんにぷえぜんと、あげうの。えっと、えっと……のっち?」

 緑色のかわいらしい姿をしたゆる族の林田 コタローは、小首をかしげる。旗から見ると、大変癒される姿だった。林田 樹は「金の機晶姫はあっちだぞ?」と声をかけるが、何かを悩んでいるようで、うんうん唸っていた。

「こっちが、るーの・あれーしゃん。
 こっちが、にーへ・あれーしゃん。
 どっちも、『あれー』しゃん…………あれぇ?」

 ぶ、と何か噴出すような音が聞こえたかと思うと、ルーノ・アレエはしゃがみこんで肩を震わせてしまった。ニーフェ・アレエもくすくすと笑っていたが、ルーノ・アレエほどではないようだった。

「あーあ、また変なギャグでつぼに入ってるな、ルーノさん……」

 遠巻きに眺めていた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が、放っておくとどこに行ってしまう川からない二人のパートナーの首根っこをつかみながらため息を漏らす。だがその光景の中には、いつぞや彼女が見せた哀しげな表情はなかった。
 それを感じて、胸の中に熱いものがこみ上げてきた。
 さすがにしゃがみこんでいる姿には、周りのものたちは驚いてルーノ・アレエの背中をさする。

「だ、だいじょーぶれすかー?」
「コタロー、二人は家族だから、同じ苗字なのだよ」
「そーなんれすね。 こたわかったお。るーのしゃん、おめれとーなのれす」

 ようやく落ち着いたルーノ・アレエは花束を受け取る。かわいらしい小さな花がたくさん入った花束だった。にっこりと微笑んで「ありがとうございます」というと、林田 コタローはカメラを取り出した。

「るーのしゃん、にーへしゃん、きねんしゃしんとるれす」
「それじゃあ皆さん……」
「二人の写真を撮っていただくといいですよ。集合写真は、これからまだまだ沢山撮れますから」

 ジーナ・フロイラインの言葉に、ニーフェ・アレエは頷いて、姉の腕を取る。花束を抱きかかえ微笑むルーノ・アレエと、ニーフェ・アレエのツーショットになった。
 沢山の花束は、季節のものや季節はずれのもの、プリザーブドフラワーなど、多種多様で、抱えきれずに一つのテーブルに集められた。

「は、初めまして!」

 金色の髪をこれでもか、というほどに撫で付け、青い瞳を目いっぱい見開いたクラーク 波音(くらーく・はのん)は、花束を整えているルーノ・アレエとニーフェ・アレエに声をかけた。その後ろには、アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)ララ・シュピリ(らら・しゅぴり)もいる。ニーフェ・アレエはチラシを配るときに一度顔を合わせているので、後ろからこそっと会釈をする。

「クラーク 波音っていいます。こっちは、パートナーのアンナと、ララです」
「今日はお招きくださって、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」

 アンナ・アシュボードは赤い瞳を細めて微笑み、ララ・シュピリはそれを真似るようにして微笑んだ。

「こちらこそ、来てくれてありがとう」
「波音さん、来てくれてうれしいです!」
「えへへ、だってあんなに一生懸命配ってるニーフェお姉ちゃんからのお誘いだもん、楽しみにしてたんだよ。あ、これプレゼントです。ええと、邪魔になっちゃいそうだからここにおいたほうがいいかな?」
「邪魔だなんて。ここの花束は、皆さんに見てもらいたくて置いてあるんですよ。でも、私とニーフェの部屋だと入りきらなそうです」
「初めまして! ルーノ様!」

 飛びつく勢いで駆け込んできたのは、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)だ。金色の髪がたなびいていた。その後ろを、鬼崎 朔(きざき・さく)が就いてくるが、赤い瞳には怒りのようなものが映っていた。それを察して、ニーフェ・アレエは鬼崎 朔のほうへと歩み寄る。

「来て下さって、ありがとうございました」
「……スカサハが、来たがったから」

 それだけ告げると、手にしていた薔薇をルーノ・アレエに差し出す。赤い薔薇に、白い薔薇が添えられた花束だった。

「これを」
「……まぁ、ありがとうございます。いいんですか?」
「誕生日だというから用意した。気に入らないのか?」
「いえ、その……あなたの表情が、とても辛そうだから……」

 そういって、哀しげに微笑むルーノ・アレエの姿は、普通の人間のようにも見えた。鬼崎 朔は一呼吸置いて口を開いた。

「お前に、その薔薇のような思いがあると、そうあってほしいと願っている」
「この薔薇の?」
「とってもキレイな薔薇であります!」

 スカサハ・オイフェウスが横からにっこりと笑って割り込んでくる。すこしむっとしたが、鬼崎 朔はぷいっと顔を背けただけだった。

「スカサハからはこれです! 友情バッヂ! あの、友達になってほしいであります」
「……もちろんです! これからも、よろしくお願いします。スカハサ・オイフェウス」
「スカハサでいいであります!」

 ルーノ・アレエとの掛け合いを見て、鬼崎 朔は少しだけ口元をほころばせた。

「スカサハさん! 私ともお友達になってください!」
「も、もちろんであります!」
「それなら、私もお友達にしてください!」

 と、入ってきたのは青い髪の機晶姫、ラグナ アイン(らぐな・あいん)と緑髪の機晶姫ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)だった。ラグナ ツヴァイをみるなり、ニーフェ・アレエは飛びついて挨拶を交わす・

「ツヴァイさん、アインさんも来て下さったんですね!」
「はい。だって大事な友達の誕生日ですもん」
「アイン、ありがとう」
「お誕生日プレゼントは、これです」

 そういって、木製の箱を手渡す。あけると、キレイな音色が聞こえてくる。その音色には、聞き覚えがあった。

「これは!」
「はい、あの曲でオルゴールを作ってみました。それに、前もそうでしたけど、沢山アクセサリーをもらうだろうから、宝石箱を送ろうと思って」

 にっこりと笑うそのさまは、ルーノ・アレエが大事に思う女性を思い出させる。思わず、ルーノ・アレエはニーフェ・アレエのようにラグナ アインをだきしめた。

「凄くうれしいです、アイン」
「喜んでもらえてよかったぁ……佑也さんやツヴァイといっしょに用意したの……あれ?」

 ふと、制服姿のルーノ・アレエの胸元に、見慣れたネックレスを見つけて驚いたように目を丸くする。自分の胸元にも、黄色いガーネットがはめ込まれた全く同じものがあるからだ。

「ルーノさん、これ……」
「このガーネットの首飾りは、はじめていただいたプレゼントですし、大事なお守りでもあります。可能な限り身につけています」
「うれしい! きっと何があっても、このガーネットが護ってくれますからね」
「あ、あなたがルーノね。お招きありがとう」

 崩城 亜璃珠が声をかけてくる。冬山 小夜子も、丁寧にお辞儀をすると、崩城 亜璃珠が思いっきりルーノ・アレエに抱きつく。驚いたように、赤い瞳を丸くした。

「たしか、あれ? あなたの挨拶はこうじゃなかったかしら?」
「はい、あの。でも控えるようにしてるんです……お嫌な方もいるかと……ニーフェが今はよくやっていますが……」

 照れたように、ニーフェ・アレエが微笑む。それをみて、あらら、と崩城 亜璃珠は口元に手をやった。

「あら、そうだったの? ごめんなさい」
「私はうれしいです。崩城亜璃珠、冬山小夜子。改めて、仲良くしてください」

 ルーノ・アレエの笑顔に、二人の女性はにっこりと微笑んだ。