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【金の怒り、銀の祈り】うまれたひ。

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【金の怒り、銀の祈り】うまれたひ。

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*今は失われた遺跡*



 エレアノールの遺跡の前に、その名前のきっかけとなった女性が立っていた。

「自分の名前がつけられるなんて、ちょっと恥ずかしいですね」

 苦笑している、青髪の女性に、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は手を差し出して挨拶を交わす。

「改めて、エヴァルト・マルトリッツだ。よろしく」
「ルーノたちのことでは、たくさん迷惑をかけたわ。ありがとう」
「いいんだよ! ボクらは友達だもの!」

 顔だけ美少女のロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)はにっこりと笑って、そのいかつい鉄の体をくねらせる。合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)も、挨拶代わりにヘッドライトをちかちかさせる。

「本音は、またこの遺跡を調べて合体ロボについて調べることであります!」
「おま! 失礼すぎるだろうが! 確かにちょっとは思ったが……!」

 エヴァルト・マルトリッツは合体戦車 ローランダーを叱責すると、目の前のエレアノールに頭を下げる。その後ろにいたイシュベルタ・アルザスはため息混じりにその肩を叩いた。

「どうせ、遺跡の中はもぬけの殻だと思うぞ、期待しているものに関しては」
「そうだよ、いくら沢山の機晶姫が攫われていたからって、合体機晶姫はコストがかかりすぎて、製造はほとんどされてないはずだよ?」

 そんな会話を交わしている横で、ピクシコラ・ドロセラは、柱のつくりを何度も見直す。霧島 春美は首をかしげながら問いかける。

「どう、かな?」
「うーん。これは……ちょっと年代がおかしいかも。内部を見てみないことにはなんとも」
「どうされたのですか?」

 エレアノールが調査をしている二人に割って入る。すると、足元のディオネア・マスキプラがぴょこん、とその肩に飛び乗った。

「ピクピクはね、この遺跡の年代を調べてるのー♪」
「え?」
「考古学の観点から見て、おかしなところはないかって。これだけの大きな遺跡で、大きな仕掛けもあるんです。もしかしたら、隠し部屋が出てくるかも、とおもって」
「確かに、ずれは感じられるけど後から壊れたものを真似て作られただけの可能性もあるわ。なんともいえない」

 その言葉を聞いて、エレアノールは黙り込んでしまった。何かを思い出しそうになっていたのを、ディオネア・マスキプラがそのこめかみにぴと、と柔らかい手を添える。

「むーってなってるよ。大丈夫。思い出せなくっても、春美やピクピクがなんとかするから☆」
「ありがとう、ディオさん」
「見ていたらいずれは思い出すかもしれません。あまり無理をしないでくださいね」
「ありがとう、エースさん」

 エース・ラグランツは、小さな薔薇を取り出してにっこりと微笑んだ。それを受け取ると、笑顔で言葉を返す。
 イシュベルタ・アルザスは、なにやらちやほやされているのが気が気じゃないらしく、そわそわしている。

「……アルザス」
「なんだ政敏、トライブまで」
「シスコンだな」
「しかも重度だな」
「う、うるさい!」

 緋山 政敏とトライブ・ロックスターはにやりと笑いながらイシュベルタ・アルザスをからかった。本人の青白い顔が少し赤らんでいるように見えた。少し前まではそんな風に笑いあえるようになるとは思わなかった。そんなことを緋山 政敏とトライブ・ロックスターは思っていた。




 遺跡内部に入るなり、騒ぎ始めたのは月夜見 望だった。研究者でもある彼女は、赤い瞳を輝かせながら、あちこちを見て回っていた。
 須佐之 櫛名田姫はものめずらしげに辺りを見回すが、ところどころに戦いの後を見つけ、問いかける。

「アレはなんじゃ?」
「……ここは、何度も戦いの場になった。その名残さ」

 トライブ・ロックスターが遠い目をしながら呟いた。途中の部屋には、もう起動できない機晶姫たちの残骸が残っている。
 何故残っているのか、あの事件の後回収したのでは?
 その問いかけに、ロザリンド・セリナが答えた。

『……その、スクラップにもならないものを、回収するのはお金がかかるから、と……』

 その言葉を聞いて、彼女自身がショックを受けているようだった。彼女も何度もここへ足を運んだ人物の一人だったからだ。
 霧雨 透乃は慎重に辺りを見回して先行する。だが、あの獣達の姿は見当たらない

「やっぱり、全部あのまま石になっちゃったのかな」
「だといいけど……」

 緋柱 陽子の言葉に、低いトーンで言葉を返す。冬山 小夜子と、崩城 亜璃珠も辺りを見回す。

「それにしても、ロザリンドから聞いた話だと、改造するための部屋は見つかっていないのよね?」
「うん。まぁ、ニーフェちゃんも何度か調べて見つけたくらいだから……まだ見つかってない各誌部屋があるんじゃないかな?」

 霧雨 透乃が答えるその横で、何度も何度もピクシコラ・ドロセラは壁を見て回る。

「……ねぇ、もしかして誰か最近ここに入った?」

 その問いかけに、一同は首を振った。地上の会場で待っているメンバーに問い合わせても、そんな報告は受けていないとの連絡が着た。

「ロザリンドさんが知らないのなら、もしかして……」

 冬山 小夜子の言葉に、茅野瀬 衿栖がにっこりと頷いた。

「きっと、ここを使う人が新たに遣うために入った」
「……思い出しました」

 盛り上がっているところへエレアノールが、声を上げる。そして、おもむろに廊下の壁画に触れる。

「それは、対になる神の絵が違う壁画……」
「そう、前はちゃんとわからないように対になってた……きっと、わざと変わっているか、使用中なんだわ」
「トイレの札みたいなんだな」

 月夜見 望が感心していると、エレアノールは壁画を幾度か撫でる。すると、壁が大きな音を立てて動き出した。林田 樹が覗き込むと、そこは機晶姫たちの残骸があった。

 いや、残骸としか言いようがなかった。足を切り落とされたもの、首がないもの、腕を引きちぎられたもの……切り刻まれ、焼き尽くされた機晶姫たちの姿があった。思わず、冬山 小夜子は悲鳴を上げそうになった。

「……全部、機晶姫?」
「そう、です」

 月夜見 望は、思わずエレアノールの胸倉を掴んでいた。

「あ、あんたら!」
「私は、知らなかったのです……こんな非道なことをしていたとは、こんなひどいことに加担していたとは……っ!」

 自分自身が何より悔しそうな表情をしているのを見て、その手を離した。短い会話しか交わしていないが、彼女にはエレアノールがそんなことをする人間ではないというのが、わかっていた。

「なんで、こんなひどいことを……」
「嫌な感じがします……もしかしたら……ワタシが閉じ込められていたのも、こんな場所かもしれません」
「ジーナ?」

 林田 樹の言葉に答えを返さないまま、ジーナ・フロイラインは、臆することなくその中へ入っていく。意外にも広いその病院の大部屋のような部屋には、ベッドの上だけではなく足場のないくらい機晶姫たちのパーツが転がっていた。何体かは脇に立てられたカプセルの中に入れられていたが、それもパーツをはがれていた。

「……これは?」

 一番奥に、デスクが置かれており、そこでまだ光る何かがあった。不用意にも、ジーナ・フロイラインは触れてしまった。

「ダメです!!」

 エレアノールの叫び声が、遺跡の中に木霊していた。
 











 ルーノ・アレエとニーフェ・アレエを探して、イングリット・ローゼンベルグとパラミタ虎のグレッグに従い追いかけていた一行は、途中スライムの大群と、何者かに襲われて戦闘をしていた。

「じょ、冗談だよね?」

 五月葉 終夏は怪我をした腕を押さえながらうめいた。前に立つコウ・オウロは彼女を護るように身構えていた。

「終夏、しっかりせいっ」
「だって、あれ……ルーノさんだよ!」
「落ち着け、お前が信じなくってどうするんだ!」

 ニコラ・フラメルに叱責されながら、五月葉 終夏は立ち上がった。軽い怪我だから、すぐにふさがるはずだ。そう思って、腕のケガから手を離す。
 目の前に立っているのは、赤い髪をした機晶姫の姿。とはいえ、その姿はパワースーツで、顔は大きなサングラスでよく見えない。顔の色は黒いようだが、指先は手袋に覆われていた。だが、その手にするレイピアと、その剣筋が、いつか見せてくれた彼女のものだったのだ。

「ルーノ!」

 アシャンテ・グルームエッジも叫ぶが、その機晶姫は全く反応を示さず、レイピアでの猛攻を再開する。フィル・アルジェントがヴァイオリンを引きながら歌声を響かせる。その歌が仲間に力を与える。
 エメ・シェンノートは驚いてそっちをみやる。まるで戦えといわんばかりではないか、そう訴えかけるように。

「ルーノさんなら、私もよく知っています。その剣筋なら、授業で何度も見ました。彼女は、あんなに迷いのない剣筋を私たちにむけるはずがありません!」

 そう言い放つ彼女の堂々とした姿は、あまりに眩しくて驚いてしまうほどだった。秋月 葵は思わず拍手してしまっていた。

「うん! そうだよ! きっと、操られてるのかもしれない! 助けてあげよう!」
「ええ」

 エレンディラ・ノイマンも満面の笑みを浮かべると、呪文を唱え始める。イングリット・ローゼンベルグも、武器を構えて切りかかる。じゃれ付くような剣技は、その赤毛の機晶姫を翻弄しているようだった。

「未那ちゃん!」
「ライトニングブラストぉ〜」

 合図を送られ、朝野 未那は詠唱を追え、ライトニングブラストを発射する。よけようとするその赤毛の機晶姫を、すかさず朝野 未羅が武器の柄で叩きつけ、その動きを止める。倒れた機晶姫に、朝野 未沙は駆け寄った。

「よっし! 未羅ちゃん!」
「うん。受信モード……………うん。やっぱりルーノお姉ちゃんじゃないの」
「なんだい? 受信モードって……」
「えへへ、ルーノさんにプレゼントしたメモリープロジェクター改造版なんだけど、受信機に未羅ちゃんも設定してあるの。でもさっきから反応しなくって……動きが止まってもだめみたいだから、きっと……電波の届かないところにいるのかも」

 赤毛の機晶姫のサングラスをはずすと、その中にはスライムだったようで、どろどろと溶けて消えていってしまった。機晶姫のからだけを、誰かが操っていたのだろうということがわかる。

「とにかく、怪我を治したらまた探さなきゃ」
「……いや、あっちだ」

 アシャンデ・グルームエッジが指を差す。その先には、ボタルガ鉱山が見えた。