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豆の木ガーデンパニック!

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豆の木ガーデンパニック! 豆の木ガーデンパニック!

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終章 夢安京太郎の悲劇(あるいは簀巻きにされた人がめっちゃうるさいの回)

 かくして、夢安京太郎の騒動は終わりを告げた。


「降ろせー、このやろー、ふざけんなー、ちくしょー! ……お願い、助けて、プリーズ! アイキャンスピークイングリーッシュ! ヘールプミー!」
「そいつ、黙らせて」
「うりゃ」
「……べふっ!」
 環菜の指示を受けて月夜の右ストレートが夢安の顔面に直撃し、まるでアンパンがへこんだようにひしゃげた。
「く、くそ〜、またこんな仕打ちかよー!」
 嘆き叫ぶ夢安は、前回のカーネ騒動と同じように、中庭のカーネのなる木に吊るされてぶらーんとぶら下がっていた。唯一違うのは、今回はお仲間がいるということである。
「ほら、わめいているとそんな目にあうんですよ? ここは大人しくしておきましょうよ」
「……それに、案外悪くないかもしれないですぜ? ぶら下がり健康法って知ってらっしゃいますかい?」
 横で同じようにロープに吊らされた司とクドが、夢安に憐れむような視線を送った。いや、クドに至ってはそれほど苦痛を感じてすらいないようである。
「お前らなぁ……それでも男かっ!?」
「私、やっかいなのはシオンくんだけで十分です……」
「いやはや、それだけの元気があればなんとかならぁねぇ」
 シオンとのこれまでの思い出(?)にはせて、司は涙をダーっと流した。ああ、なんて可哀相な私なんだろう! とでも言わんばかりである。対して、クドはどうにもマイペース過ぎた。
「くそー、まゆりもトライブも刹那も、上手いこと逃げやがって……。そういえば……菜織とかいったあいつはどうしたんだ?」
 突然現れて助けてくれたと思えば、ここで捕まっている面子にいるわけでもないようだ。ふと見上げれば、学園の屋上で見覚えのある黒髪のポニーテールが揺れていた。
 ポニーテール――綺雲菜織は、静かに夢安を見下ろしていた。
「……悪党じゃない、か。最初から、こうなることが分かっていたのだろうかな……」
 きっと、夢安は聞かれても、答えるはずもないだろう。見届けるように立っていた彼女は、夢安京太郎を一瞥して、身を翻した。
 結局、捕まったのはオトボケというか、不幸な人たちというか。とにかく、どうにも幸のなさそうな男たちなのであった。あるいは、巻き込まれ組、というべきか。
「良い眺めね」
「カァ〜」
 そんな夢安たちを眺めながら、環菜はテーブルにお茶を用意して優雅なティータイムを満喫していた。膝には眠気まなこのカーネ。横には、今回もよく働いてくれた刀真たちがいる。
「……いつもありがとう。貴方たちがいてくれて、本当に助かったわ」
「環菜のその笑顔が見られるなら、俺はいつだって君の為に全力を尽くすよ」
 柔らかい微笑みを浮かべた環菜に、刀真も微笑を返して答えた。
「だから環菜……君は、俺の傍でずっと笑っててくれ」
 それは、敬愛か、はたまた、愛情か。それは誰にも分からない。きっと、彼女と彼の間でしか知ることのない、他人には言い表せぬ感情なのだろう。だが、その言葉に、嘘も偽りもないのは、確かだった。
「……あなたも、ありがとね」
「は、はい……っ!? お、俺……?」
「カーネと一緒に薬品を取り返してくれたんでしょ? あの、帝王とか名乗る暑苦しい人から聞いたわ」
 環菜に素直に褒められて、陽太はかあぁっと顔を赤くした。
「そ、そんな……俺は大したことは……」
 そんな彼に相槌でも打つかのように、カーネが喉を鳴らす。
「カァ〜」
 そして、ひょいっとテーブルの上に乗ると、陽太の腕に擦り寄ってきたのだった。
「あら……カーネも、あなたを気に入ったみたいね」
 しばらく陽太の腕に寄り添っていたカーネであったが、やがて環菜と陽太を見比べるようになる。まるで、どちらともに行きたいがどうしようといったように悩んでる様子だった。
 すると、名案でも思いついたのかカーネが陽太の袖を口で引っ張りだす。
「カ、カーネ……!?」
 案外力の強いカーネのアゴはぐいぐいと陽太を引っ張って、そして――環菜の横に陽太を座らせようとした。
「ち、ちょっ、カーネ……っ!?」
 無理やり陽太を座らせたカーネは、環菜と陽太、二人の膝の中間でゴロンと丸まった。どうやら、二人とものぬくもりが欲しかったようである。
「す、すみません……! す、すぐにどきま――」
「いいのよ。この子がそうしたかったんだから」
 自分が環菜の横に座るなど甚だしい。陽太はすぐに退こうとしたが、それを環菜が引き止めた。そして、彼女はお互いの膝で眠るカーネを見下ろす。
「気持ち良さそうに眠ってるわ。いまは、起こさないであげましょう」
 実利的で、自分勝手で、ときに無茶苦茶なことを環菜。しかし、心を許すペットには、まるで母親のような、今までに見たことのないとても愛しく、そして穏やかな笑みを浮かべた。
 陽太はそんな彼女の横顔に見とれながら、カーネに感謝する。そして、願わくば――その笑顔が、いつか自分に向けられたらと、そんな風に思うのだった。
「はぁ……俺もカーネになりたいぜ」
 環菜と陽太の膝で微笑ましく眠るカーネを羨ましく思い、夢安はため息をついた。そもそも、事の発端はカーネが薬品を持ってきたことから始まったのだ。となれば、俺の責任は半分ではないのかっ!? まったく、動物だからといって甘えは許されないぞ。
「むあーん!」
「夢安くーん!」
「ん?」
 動物相手に嫉妬する夢安に、学園から二つの明るい声が聞こえた。教室のベランダから身を乗り出している小鳥遊美羽と西尾桜子が、彼に向かって手を振っている。
「今日はありがとう! すごく楽しかったよー!」
「あ、ありがとうございました〜!」
 カーネ、ではいかないが、どうやら、自分にもそれなりに笑顔をくれる人はいるようだった。美羽のひまわりのような笑顔を見て、夢安の嫉妬はガス抜けした。
 桜子の手元にあるパンと二人のエプロンを身につけた服装を見ると、どうやら持ち帰ってきた豆でパンを作っているようだった。
 うーん、あれなら売れるかな。
 再び頭は金稼ぎへと回転するが、二人の楽しげな顔を見ていたら、そんなアイディアどこか遠くへいってしまった。
「……ま、いいか」
 笑顔をくれる。それだけでも、自分には勿体無い話である。――夢安自身は気づいていなかったが、無意識のうちに、彼は微笑を浮かべていた。



 余談、である。
「フンフンフン〜♪ フンフン〜♪」
 花壇に咲いたクラウズと呼ばれる白き花に水を注いで、アリアは続けて隣に植えられた一本の木に水を撒くことにした。それは、数時間前まで天空高く伸びていたあの豆の木である。
「また、大きな種を付けてくれるといいなぁ……」
 そう願いながら、もう意思を持って動くことをしなくなった小さな豆の木に、ジョウロの水を与える。今もう二度と、あれほど大きくなることはないのだろう。だが、たとえ動かなくなったとしても、たとえ巨大でなくなったとしても――きっと豆の木は、夢安京太郎のことも、あの騒動のことも、そして、結果的に主人となった自分のことも、覚えていてくれる。
 アリアは、そう信じていた。
「うぐう……か、カボチャ大きすぎるぅ……」
「まさかアレだけ使って一個しかできないなんて……困りましたわ」
 そんな彼女のいる花壇の傍らで、巨大カボチャに轢かれる佐々木。彼に付き添う斉民要術は、大量に空になった薬品瓶を見て、ため息をつくしかなかった。
 薬学の道は遠く険しい。だからこそ、豆の木もあんな騒動を起こすしかなかった。いつかまた、今度は害のない巨大豆の木のテーマパークが出来るだろうか。
(そのときは……この子も連れて行ってあげよう)
 そんなことを胸に秘めて、アリアは花壇の他の花たちにも水を撒いていった。

担当マスターより

▼担当マスター

夜光ヤナギ

▼マスターコメント

シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
豆の木を舞台としたコメディシナリオ、いかがだったでしょうか?

追っ手役から遊園地を楽しむ人まで、数多くの人が豆の木にやってきてくれたようです。
ときには暴れ、ときにはデートをして、自分も楽しみながら執筆することができました。

蒼空学園校長、御神楽環菜が登場するのは、当方のシナリオのなかではこれが最後となるかと思われます。
そのためか、色々と思うところのある人もいるようで……少し自分ももの悲しくなりました。
しかしこれからも彼女の意志を継ぐように、たくさんのMC,LCさんが物語を描いていくことでしょう。
そこには、きっと御神楽環菜がいたからこそ確かにある存在もいるはずなのだろうと思います。
……と、話が逸れてきたので、この辺で。

それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
ご参加ありがとうございました。