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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANSWER 1 ・・・ 婚姻の問題 橘 舞(たちばな・まい)

V:歌って踊れる、街のアイドル、わらわ、金 仙姫(きむ・そに)のパートナーの橘舞が、今日、出会ったばかりの少年に突然、プロポーズされてな。しかも、今夜、このまま、結婚することになりそうじゃ。いくら、善は急げとは言っても、急ぎすぎの気がするのう。とにかく、舞の人生の一大事になりそうなので、一部始終を録画しておくぞ。

「よし。舞。私が許可するわ。その子と結婚しなさい!」
 舞のもう一人のパートナー、青いドレスの金髪の少女、百合園女学院推理研究会代表ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)から許しがでた。
「ねえ、おつきの人もああ言ってるし、舞お姉ちゃん、俺のプロポーズを受けてくれよ」
 膝まづき、舞の手の甲にキスした後、少年は顔をあげ、舞の目を見つめたまま、動こうとしない。
「あんた、失礼よ。舞は、私の助手なの。舞と一緒になるなら、あんたはあたしの小間使いよ」
「そうなのかあ。舞姉ちゃんの方が気品があって優しいから、御主人様だとばっかり思ってたよ。あの、あなたのお名前は」
 ブリジットの言葉を真に受けた少年が、尋ねた。
「私は、ブリジット・パウエル。舞とそこにいる仙姫は、どちらも名探偵の私の助手よ」
「えー。そんなに偉い人なら、様づけで呼ばなきゃ。ブリ様。助手の舞お姉ちゃんをアルのお嫁にください」
「様づけするなら、ブリジット様ね。ブリ様ってなによ。魚じゃないんだから。イテッ。仙姫なにすんのよ」

V:アホブリがあまりにバカばかり言っておるので、小突いてしまったわ。まったくブリにもほどがある。しかし、問題は舞のほうじゃ、いつもおっとりしているとはいえ、ポロポーズされてから、ずっと、止まっておるぞ。まばたきもせずじゃ。もう、四週間以上もじゃ。いや、それは大げさじゃが、とにかく、一時停止状態になってしまって、よほど驚いたのかのう。

「舞。大丈夫か。気をしっかり持て。プロポーズなど、わらわなら日常茶飯事、以前は一日一度は受けておったぞ。深刻に悩むことではないわ。気持ちの問題じゃ」
「それはそれであんまりだと思うわ」
 ピントのずれた仙姫の励ましに、今度はブリがつっこむ。
「あ、ああ、仙姫。ブリジット。ありがとう。あまりに急なお話だったので、私、びっくりしてしまって」
 ようやく舞がしゃべりだした。
「こうして、深夜のホテルを訪れて、私にプロポーズするなんて、深い事情があるのでしょうね。でも、結婚は、そんなに軽々とすることはできないのですよ」
 お姉さんらしく、舞は少年に優しく語りかける。
「そう言えば、私、あなたのお名前も知らないわ」
「俺は、アリトタス・カリオストロ。代々、この地で暮らしてきたシャンバラ人の伯爵家の息子さ。みんなにはアルって呼ばれてる。俺の家は、いまは、ぱっとしないけど、俺は、このマジェスティックを想う心では、誰にも負けない!」
「あんたの心意気、私が認めるわ。さ、さっさと婚礼の儀とやらにむかいましょ」
ぽんぽんとアルの肩を叩いた後、ブリジットは舞の耳に口を寄せた。
(この事件の裏には、ノーマンがいるのよ。婚礼の儀は、ノーマンの陰謀よ。この子たちは、あいつに操られてるの。いいから、ここは話にのせられて、ロンドン塔に乗り込むわよ)

V:わざとなのか、興奮しておるのか知らぬが、ブリの内緒話は、声が大きすぎて、みんなに聞こえておるぞ。よいのか。

「だいたい、結婚したって気に入らなければ、離婚すればいいだけの話でしょ。気にすることないわよ」
「そういうものかしら?」
 舞が首を傾げる。
「わかりました。みんなのために、お話をお受けします。ですが、アルさん。手短でかまいませんから、本当の事情をお話してください。私だって、アルさんが私を好きになってプロポーズしたのじゃないのくらいわかりますよ」
「それは、あの、実は、姫を助けたいんだ。今夜の儀式で姫は、メロン・ブラック博士と結婚させられる。他にも塔にさらわれた女の子たちが、博士の仲間たちと自分の意思に関係なく、一緒にされてしまうんだ。俺は、儀式に参加してそれをとめたい。俺の家は、伯爵家だから、花嫁を連れていけば、儀式に参加できる」
 アルが、真剣な表情で語った。

V:結婚前から、嫁の前で、他の娘を助けたいと言い切るとは、大した男じゃのう。

「あんたにその情報を教えたのは、ラウールね。これはノーマンから、私たちへの招待よ」
 ブリジットは、アルの返事を待たずに、一人で納得した表情で頷く。
「やっぱり、行くしかないわ。推理研の他のメンバーにも連絡するわね。ロンドン塔に集結よ。それから、一応、舞の結婚なんだから親族も呼ばないとね。千歳とイルマも、式に出席してもらうわ」
 携帯を手にしたブリジットは、電話をかける前に、動きをとめ、大まじめにアルたちに、
「そう言えば、一つ、疑問があるわ。あんたたち、なんで、私でなくて、舞にプロポーズしたの? 謎だわ」

V:それについては、せいぜい一人で悩んでおれ。ん? けれども、ブリはおいておいて、なぜ、わらわでなかったのじゃ、美しすぎて、恐れをなしたか。うーむ。謎じゃのう。