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リアクション
「だから、その光りは止めろって言ってるだろ!」
「ならば………眠っていろ」
「!!!」
スキンヘッドの男に併走していた鬼崎 朔(きざき・さく)が黒薔薇の銃を接肌させて撃った。男はすぐに眠気に襲われて、墜ちた。
「助かったぜ」
「あぁ。続けて頼む」
「ブラストだろ? 任せな!」
一度に多勢を戦闘不能、ないし動きを止めることができる。彼女の『サンダーブラスト』もまたこの戦場では重宝された。シリウスが再び放とうとした時、それをパートナーのリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が止めた。
「じっとしていて下さい」
背中にそっと手をあてて、リーブラはシリウスに『パワーブレス』を唱えた。
「あまり無茶はなさいませんよう」
「わかってる。ありがとう」
すでに3発は撃っている、おそらくは次が最後。思った以上にパラ実生の数が居たが、戦況はこちらに傾き始めていた、次で勝ち狼煙を上げる。そう決意して、全力でド派手な一発をリーブラの笑顔に約束した。
その笑顔が、突然、落ちた。
「リーブラ? リーブラ!!」
崩れ倒れる彼女を支えた。彼女の顔、腕、全身を見た。『石化』はしていない、彼女は『眠らされて』いた。そしてそれを成したルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が2人を見下ろし、笑みを見せていた。
「可愛らしい寝顔だ」
「てめぇ……てめぇがやったのか」
「如何にも。君も、眠れ」
「てめぇ裏切るつもりか……」
『ヒプノシス』が彼女を眠らせた。続けてパラ実生と交戦中の秋月 葵(あきづき・あおい)と鬼崎 朔(きざき・さく)にも「援護します」と近づいては次々に眠らせていった。
「これは……」
爆炎波でパラ実生のバトルアックスに抗していたミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)は、空に昇る白い煙を見た。鳥の首を絞めたような音と共にあがった狼煙は、相手方の指令実行合図だったようだ。
音の鳴る前も鳴った直後にも『バイコーン』は激しく暴れ跳ねていた。
「ううー」
葛葉 明(くずのは・めい)はどうにか『バイコーン』の首にしがみついていた。
「絶対に離さないんだからー」
「聞け! 聞くんだバイコーン!!」
『バイコーン』の片角にしがみついている朝霧 垂(あさぎり・しづり)は必死に呼びかけていた。「こんなことをしても、ユニコーンと同等には扱われない! むしろ立場を悪くするだけだ!」
『ユニコーン』と対をなす存在である『バイコーン』。世に広まる自身の処遇を変革するべくパラ実生に協力しているのではないか、と。
「貴様…我を愚弄する気か!!」
「それが嫌なら」
光る箒に跨り、志方 綾乃(しかた・あやの)が『バイコーン』の背を取った。「大人しく大人しくする事です」
パワードアームで強化した拳が迫る中、『バイコーン』はスキル『地獄の天使』を唱えたのだろう、背中から骨で出来た翼を生やすと、一気に飛び立った。
「ふにゃー」
「くそっ」
綾乃の拳はかわされ、明と垂は振り落とされた。
綾乃はすぐに上空を見上げて『バイコーン』を探したが、見上げた時には既に地表付近まで急降下していた。翼を羽ばたかせて加速した『バイコーン』の角が、弾丸の如くに迫ってきた。
「しまっ−−−!!」
横っ腹から貫かれる、そんな映像が現実に近づき向かう中から綾乃を引きずり出したのはウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)だった。
ウィングはワイバーンを滑空させると、その勢いのままに飛び出した。綾乃を抱き跳んで『バイコーン』を避けると、すぐに『鬼眼』を叩き込んだ。
「なるほど。さすがは霊獣か」
動きは一つも鈍らなかった。『バイコーン』は力強く地を踏み止まると、今度はスキル『闇術』を放った。
「これは…」
ウィングは素早くワイバーンに乗り込むと、上空へ一気に昇った。空から見下ろすと、辺り一帯が闇黒に包まれていた。
「やっぱり…」
ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)は呟いた後も、推測の裏付けを取るべく、周囲を見渡した。眠らされている味方の生徒たち、あがる狼煙、そして発生した闇黒。極めつけは、煙幕ファンデーションを使ったのだろうが、煙幕も同時多発していた。
「今こそ役目を果たすときです」
戦場に見えた人数の偏りと地形を考慮した上での最良の逃走ルートは『北東』の方角。
ミカエラは『バーストダッシュ』で『北東』に待機していた氷室 カイ(ひむろ・かい)の元へと駆けた。
「奴らが撤退を始めているわ」
「そうか」
カイも辺りを見回した。煙幕は場の全てを覆っている訳ではなかった、この場からもある程度は見渡せる、つまりは煙幕の中からでもこの場を見通す事は出来るということだ。
「ここが一番に手薄だと?」
「えぇ」
「なるほど、戦況も決して良くはない、か。」
戦況が悪くなる事は想定外だったが、初めから全員を倒すつもりはない。奴らから撤退を始めるというのなら、それに乗るまでだ。
「ベディ!」
サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)は小さく頷いた。カイと共に道を開け、奴らの逃走ルートを暗に示した。全ては攫われた人たちを助けるために。
彼らの思惑通りにパラ実生たちは逃走ルートを見つけたようだ。彼らは途端に一斉に煙幕をまいて濃度を高めた。幾らかに戦闘は続き、混乱も起きたが、それでも逃走ルートを通って退散してゆく様を確認した。
カイとベディヴィアはパラ実生たちの追跡を開始した。そして戦場の遙か上空では今まさにナナ・ノルデン(なな・のるでん)が追跡を開始しようとしていた。
彼女たちが追うのは、パラ実生たちと離れ、1人反対の方向へ飛び駆けだした『バイコーン』だった。
「ズィーベン、始めましょう」
籠手型HCが発していた。ナナの声にズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は手綱を握りしめた。
「やっぱり動いたね。ずっとサボって待ってた甲斐があったよ」
「……ズィーベン。適時適材適所適動なのですよ」
「…………それ、今かんがえたでしょう?」
「行きましょう」
「了解」
ズィーベンは馬で森の中を、ナナは飼っているユニコーンを走らせて追跡を開始した。
計画外の出来事も多かった、被害は出ている、しかし、奴らが撤退しようとも希望がなくなった訳ではない。
荒れ舞う土埃と煙幕のように、事件は散り舞い始めていた。
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