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サンドフラッグ!

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サンドフラッグ!

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■オープニング


 シャンバラ教導団、蒼空学園双方から出た有志たちによって、ヒラニプラ大荒野にそれは着々と組み立てられていた。
 全長25メートルの巨大な鉄塔が、一辺10メートル四方の枠の中央に据えられている。
 円筒の形をしたその塔の周囲をぐるりと覆うように複数の噴出し口が溶接され、コントロールボックスは塔の中央に据えられた。そして赤い旗付き棒を、現場総監督のシャント・レースが所定の位置に差し込んで、具合を見る。
「よーし。砂を流せ」
 離れるクレーンの上から指示を出すと、下の枠に砂が入れられ、それを吸い上げた管が噴出し口から砂を排出する。どうやら不都合なく動いているようだ。
 湧き水のように滾々と砂が噴出する、その様子を見ながら、シャントは風に翻る赤旗に目を移した。

 次にこれを握る者。それこそが勝利者だ。



「皆さーん、このたびはシャンバラ教導団・蒼空学園合同演習競技・サンドフラッグにご参加いただきまして、ありがとうございましたーっ」
 渡る風に飛ばされそうになるベレー帽を押さえつつ、号令台の上からプリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)が声を張り上げた。
 彼女の前には、百人を超える学生たちが横隊を組んでいる。それぞれ、右にシャンバラ教導団、左に蒼空学園ほか各校有志による連合隊となっていた。
「はじめに、不肖ながら今回の演習で総合司会を務めさせていただきます、プリモ・リボルテックより競技説明をさせていただきます。皆さん、既にご存じのことかとは思いますが、確認のためにもお聞きください。

 まずチーム分けについてですが、シャンバラ教導団16チームには教導団側での参加を希望されました2チームが加わりまして、18チームとなります。蒼空学園15チームは他校10チームを加えました25チームとなります。
 設置罠の数が均等ではありませんが、その分倍率に差がでることから、あえて18対25のまま、皆さんの意思を尊重してチーム分け補正は加えないこととします。

 サンドフラッグとは、旗取り競争と障害物競走をかけあわせたような競技となっています。1マス10メートル四方の碁盤目がロープで引かれていまして、その中央位置に全長25メートルの砂山が築かれています。この砂山の頂上に翻っている赤い旗付き棒をいち早く手にされた方が勝利者となります。
 皆さんの行く手には、それぞれ相手チームが考案・設置した罠が仕掛けられています。障害物が目の前に見えているからといって、横にそれることは許されません。皆さんのルートは前もって提出いただいていますので、進路を変更したと判断した場合、棄権とみなされますのでご注意ください。
 また、競技はターン制となっています。一定時間が経過しましたらあたしがホイッスルを吹きますので、移動してください。大体1分程度です。罠にかかられている方は、罠が解除できるまでその場にとどまってください。

 もしも、どうしても罠が解除できない場合、体力が尽きてもう進めないと判断された場合は、お配りしています発煙筒を焚いてくださいね。派手な紫の煙が上がりますので、すぐに救助班が駆けつけます。
 また、ご提出いただきましたルートですが、皆さんかなり入り混じっております。一度作動した罠は消滅することになっていますが、同時に同じマス目に踏み込まれて設置罠が1つであった場合、平等に両者同じ罠にかかります。皆さん平等です! 文句は受けつけません、とのことです!
 また、歩く・走る・匍匐前進以外での移動……飛行して移動したり罠回避をしたりすることも厳禁です。その瞬間、問答無用で失格となりますので、お気をつけください。

 競技はシャンバラ教導団から1名、蒼空学園連合隊から1名、勝利者が出るまで続きます。そしてその2名のうち、ターン数が少なかった者が【2校対抗サンドフラッグ覇者】となります。
 その人は、ここにいる百余名の頂点に立つのです! 皆さん、奮って勝利の旗を勝ち取ってください!」
 プリモの言葉に「オー!」と声が上がり、拳が突き上げられる。
 その光景を満足げに見渡して、プリモは続けた。
「なお、優勝された方には、オークスバレーにありますうちのプリモスパ・リゾートに1泊2日でご招待させていただきまーす! 和洋中お好みで豪勢なお食事! ふかふかクイーンサイズベッドのあるスイートルーム! 満天のお星さまが見える露天風呂! ぜひぜひうちのプリモスパ・リゾートに、お2人でご来訪くださいっ」
 今回の優勝商品が湯治場、ということを聞きつけて、金と山葉に提案したのはプリモだった。金も山葉も商品に特段こだわりはなかったので、2つ返事で応諾し、プリモはそのかわりとして、今回の総合司会と実況リポーターの座を手に入れたのだ。
 自慢のプリモ温泉の格好のPRにもなると、プリモは大満足だった。
「それでは、各校長より、お言葉をいただきたいと思います。まずはシャンバラ教導団金 鋭峰(じん・るいふぉん)団長、よろしくお願いします」
 台を降りるプリモと代わって、金 鋭峰が壇上に上がる。
 その姿を見た瞬間、教導団員全員に緊張が走った。
「諸君。事ここに至り、なぜこのような演習をすることになったか、今さら言うまでもないだろう。
 教導団員とは何か? それは不屈の闘志で目前の困難に立ち向かう者たちだ。決して敵に背は見せず、常に全力であたれ! 見苦しい姿を見せるな! さすればおのずと勝利への道は開ける! 勝利者であること、それが教導団の真髄だ!」
「……相変わらずかったいなぁ」
 ぽんぽん、と肩を叩いて気軽にもたれかかったのは山葉 涼司(やまは・りょうじ)だった。
「これは戦争じゃなくて競技なんだからさ」
 にこにこ笑いながらそう言う。
 なれなれしいぞ、と言わんばかりに肩から手を振り払った金は、これ以上言うことはないという表情で山葉を見据えてマイクを押しつけ、号令台から降りる。
 その背後で、蒼空学園校長・山葉が声を張り上げた。
「みんな、スパ・リゾートに行きたいかーーっ!! 罠は怖くないかーーっ!!」
 「おーっ!」と声が上がる中、どこかで聞いたフレーズに、くすくす笑いが起きている。
 どこまでもふざけた男だった。



「みんな、ちょっと集まってくれ」
 開会式が開かれている一方で、シャントは救護班の腕章を付けた者たちを呼び寄せた。
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)神和 綺人(かんなぎ・あやと)クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)神和 瀬織(かんなぎ・せお)火村 加夜(ひむら・かや)三船 敬一(みふね・けいいち)高峰 結和(たかみね・ゆうわ)、計9名が、シャンバラ、蒼空等校のへだたりなくけが人看護のために集まった者たちである。
「何かあったんでしょうか、シャントさん」
 難しい顔をしたシャントに、皆を代表して綺人が訊く。
 彼らを見回して、シャントは言った。
「おまえたちにはこのトラップマップを渡しておく。教導団、蒼空学園それぞれのマップだ。けが人の元へ駆けつけるにはこれが必需だろう。よく頭に入れておいてくれ。おまえたちが引っかかるとまずい。
 実のところ、今回かなりのけが人が出ると思う」
「えっ? まさか?」
 そんな言葉が思わず口をついて出たのは、クレアだった。
 みんな、かなりの基礎体力の持ち主だから、自分のような救護班はあまり必要ないかもしれないと楽観していたのだ。
「罠もだが、一番の難関はあの砂山だ。25メートル上空から数トンの砂が流れ落ちているんだ。その圧力は半端じゃない。吸砂口は20センチそこそこだから吸い込まれることはないが、吸引力で砂の内部に引きずり込まれる可能性がある。流砂と同じだ。そうなれば圧死・窒息死するおそれが高い。
 だからおまえたちは、砂に流されたのを見たらすぐに駆けつけ、自力で抜け出せないと分かったら引っ張り出してやってくれ」
 その深刻な言葉に、絢人、ユーリ、ハンス、敬一が互いを見て、真剣な表情で頷いた。
「分かりました。外野から砂山までは直線で40メートルはあります。しかも罠を避けてとなると、三船さんや神和さんにはかなりの距離になるでしょう。ですが、守護天使のわたくしなら罠に関係なく飛んで行けますから、いち早く確保できると思います」
「俺もそうしよう」
 ハンスの言葉に、やはり守護天使のユーリが頷く。
「わたしも――」
 ヴァルキリーだから、と言いかけたクリスだったが、即座に綺人がまったをかけた。
「クリスは駄目だよ。女の子なんだから。瀬織やみんなと救護テントで待機しているんだ」
「……はい」
 しぶしぶといった様子ながらも、クリスは応じる。
「今日はずいぶんと聞き分けがいいんだな、クリス」
 とのユーリの言葉には、かかとで踏んでお返しをした。
「シャントさん、いろんな場合を想定して、用意してきました。これで足りるでしょうか?」
 結和が『天使の救急箱』を開いて見せる。
「うーん…。ちょっと不足するかもしれない物があるな。そのトラップマップと、やつらの進路図を重ねてもらえば分かると思うが。こちらで手配しておくからあとで受け取ってくれ。
 それ以外にも、もし自分たちで手に負えない、何か足りない薬が出てきたら、遠慮なく声をかけてくれ」
「分かりました」
 足りない物って何だろう? ちょっと思ったりもしたが、それはシャントの言う通りトラップマップを見れば分かることなので、訊き返すのはやめにした。

 ピリピリピリピリピリーーーーーーーッ

 ホイッスルが鳴って、教導団がバラバラとそれぞれのスタート位置に向かって散り始める。
「じゃあ俺たちも行くとするか。ちょうど4人いるから、それぞれ東西南北に分かれて様子を見るとしよう。受け持ちの方角で何かあったら無線で連絡だ。
 失礼します、シャントさん」
 敬一は、さっと頭を下げるとほかの3人と一緒にサンドフラッグの競技場へ向けて走り出した。
「では行ってきます、クレア様」
 手を振って遠ざかって行くハンスに軽く手を振り返し、クレアは腰に手をあてる。
「何にせよ、けが人が大勢出るっていうんなら私たちがすることは決まっている。そのときがきたら迅速に対応できるよう、前もって病人を寝かせるスペースの確保と救護テントの設営等だ。手分けしてさっさとやってしまおう」
 クレアの言葉に、その場に残った全員が頷いた。