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学生たちの休日5

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学生たちの休日5
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    ★    ★    ★
 
「何か、感じた?」
 雲海を光る箒で飛びながら、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)に訊ねた。
「うーん、漠然としすぎてて何も……」
 少し困ったようにズィーベン・ズューデンが答える。
 空京の周りの雲海を飛びながら、広い範囲をディテクトエビルで調べているのだが、これといった反応はない。なにしろ、こちらにむけられた特定の悪意でなければ、明確に感知するのは不可能だ。敵意が漠然としていれば答えも漠然している。
 オプシディアンたちが再び姿を現したことと、雲海の気流を調べていたらしいということから、二人して遊覧飛行がてら調べに来たのだが、あまりにも範囲が広すぎてそれこそ雲をつかむような話になっていた。この広い雲海の中では、たった二人の人間なんて世界樹の枝のたった二枚の葉っぱ程度でしかない。
「どうも、海賊たちが雲海にむかって荷物を運んでいたらしいし、最近遭難が相次いでいるから、絶対何かあるって思ったんだけどなあ。油断せずいきましょう」(V)
 多少あてが外れたかなと、ナナ・ノルデンがちょっとがっかりした。
「それこそ、シェリルさんにでも聞けばよかったんだよ」
 ズィーベン・ズューデンはそうは言うが、さすがに今さらではある。
「蒼空学園が公開したデータだって、今ひとつだよねー」
 ハンドヘルドコンピュータに気象データを表示させながら、ナナ・ノルデンが首をかしげた。気象図を読み取ることはできなくもないが、それが何を意味するのかまでは分からなかった。雲海が不思議な雲に被われた文字通り海のような場所である以上、暖気と寒気による対流現象で気流が発生している。ただ、それは地球の対流圏の気流よりも複雑で、パラミタ大陸を巡る大きな物から、枝分かれしたり循環したり、季節によって位置を変えたりと様々な雲の流れが無数に存在していた。
 これらを完全に把握できれば、効率よく、通常よりも速いスピードで飛空艇などの移動ができる。あたりまえの話だが、流れに乗ればスピードは増すし、逆らえば遅くなる。強い気流からは逃げ出せないかもしれないし、まったく流れのない場所は、何かの不思議があるかもしれない。渦を巻けば、それは難所となるだろう。
「それで、どこに行くんだよー」
 ズィーベン・ズューデンに聞かれたが、こう何もないのではどうしようもなかった。何か怪しい無人島でもあれば探検ということもできるだろうが、無数にあるだろう小島を虱潰しに調べても、一生かかってしまうだろう。ついこの間も、客寄せパンダを探しに無人島に大挙して学生たちが行ったらしいが、雲海にはそういった胡散臭い島がたくさんあるに違いない。なにしろ、以前彷徨う島が存在すると、ナナ・ノルデンはペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)から教えてもらったことがあるくらいだ。
 あてどなく飛び続けていると、突然雲が乱れた。
 雲を水飛沫のように巻きあげながら、雲海の中から突如としてジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)が現れる。
「あっ、おーい、ジャワさーん!!」
 いい所で会ったと、ナナ・ノルデンが声を張りあげた。
「誰だ、わしを呼ぶのは?」
 運よく、ジャワ・ディンブラが気づいてくれた。どうやら、空中散歩中だったらしい。ゴチメイたちはいったいどこにいるのだろうか。
「また海賊たちが悪巧みしていないか、パトロール中なんです。それで、このへんで、島とか見ませんでしたか?」
 ナナ・ノルデンが訊ねた。
「散歩するのに、暗礁があったのでは邪魔だからなあ。このあたりはたしか何もないと思ったが。空京に戻るのであれば、いくつか気流があるから、教えてやってもいいが」
「準備不足だから、いったん戻ろうよ」
 ズィーベン・ズューデンがジャワ・ディンブラの言葉に乗っかった。うんとナナ・ノルデンがうなずく。
「しかたない。だったらついてこい」
 そう言うと、ジャワ・ディンブラは空京方向へ流れる手頃な気流に翼を乗せた。
 
 

2.ヴァイシャリーの流れ

 
 
「では、そろそろ運河を抜けて湖へと出ます。このへんでお昼タイムといたしましょう」
 遊覧ゴンドラを操るキーマ・プレシャスが、レストラン「湖の畔」沖にゴンドラを止めて言った。今回は、ゴンドラ乗りのバイトである。
 中型のゴンドラは、桐生 円(きりゅう・まどか)たち一行の貸し切りとなっていた。
「おべんと、おべんと♪」
 桐生円が、レバニラ炒め、唐揚げ、チキン南蛮、牛タンの串焼きをパンに挟んだサンドイッチともつ鍋をゴンドラ中央のテーブルにならべた。なんとも言えないラインナップだが、本人にまったく悪気がないのがなおさら酷い。周りの者たちの顔も、心なしか引きつっている。
「私のお弁当はこれですぅ♪」
 如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)も、持ってきたお弁当をテーブルの上に広げる。
 鶏の唐揚げに、卵焼き、きんぴらごぼう、ツナサラダ、梅干しと鮭と高菜のおにぎり、そして、レバー入りのピーマンの肉詰めといったラインナップだ。
「日奈々ちゃんが作ってきたのはレバーかあ、美味しそうだね」
 ちょっと顔を引きつらせつつ桐生円が言った。いやでも苦手なピーマンの緑が目に入ってきたからだ。
「みなさん、いろいろな物を作ってきたのですね。食べるのが楽しみですわ」
 チャイナドレスと絹の手袋にニーハイブーツというコーディネートでおしゃれしてきた冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)のお弁当は、野菜コロッケとクリームコロッケに、つけ合わせのグリルソーセージと、レタス、ブロッコリー、プチトマトといった具合で、別にご飯とティセラブレンドティーを使った紅茶を用意してきたようだ。
「私は、オムライスを作ってきました」
 メイド姿のマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)が、アルミホイルの皿に載せたオムライスをテーブルの上においた。中身は、チキンライスに、みじん切りにしたピーマン、グリンピース、刻みニラを混ぜたものだ。緑色あわせなのだが、ニラが入っている時点でかなり個性的な味になっているのは間違いない。
「悪魔のオムライスだ! ケチャップでボクの顔を描いて、描いて!」
「えっと、やった方がいいのでしょうか。では……」
 桐生円にせがまれて、マリカ・メリュジーヌがオムレツにケチャップで絵を描いていく。
「おいしくなーれ♪」
 最後に、マリカ・メリュジーヌが愛情を込める。
 そんな、マリカ・メリュジーヌの背中を、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)がちょんちょんとつついた。
「なんでしょう」
「それって、どこのメイド喫茶ですの? また、どこかから可変な知識を……。教育が必要ですわね」(V)
「えーっ、普通はやらないんですかあ?」
 崩城亜璃珠のツッコミに、マリカ・メリュジーヌが少し顔を赤らめる。
 そんなやりとりには構うことなく、桐生円の方は上機嫌だった。
「それは、御主人様の趣味嗜好次第ですわ」
 マリカ・メリュジーヌの疑問に、同じメイドであるイルマ・レスト(いるま・れすと)がしれっと答える。
 そんな彼女が持ってきたのは、食用蛙とピーマンのカレーだ。食材としては一般的な地方もあるが、肉の正体は口にしない方がいいだろうと朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は内心思った。黙っていれば、チキンカレーで通せるはずだ。
「カレーは美味しいよね、やっぱり甘口だよね? 甘口」
 肉の正体を知らない桐生円がこれまた喜んだ。
「歩ちゃんは何を作ってきたのかな。楽しみだなあ」
「私は、オーソドックスにピーマンとウィンナーと卵のケチャップ炒めだよ。だって、今日は円ちゃんのピーマン克服大作戦パーティーなんだから」
 ニッコリと微笑みながら、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が桐生円に言った。
「あはははは、そんな気はしていたんだよ、このメニューを見れば。でも、ボクはピーマンが苦手なんだよ。だって、緑で、苦そうじゃないかあ」
 桐生円が、引きつりながら叫んだ。
「えー、でも、気が早いかもしれないけど、お嫁さんになって子供できたら、その子にも食べさせなきゃいけないし、嫌いな物でも美味しく食べられるような工夫を考えておかなきゃ」
 それじゃだめだよって、七瀬歩が桐生円に突っ込む。
「それはそうだけど。まあ、別に嫌いだけれど、食べられないっていうわけじゃないし……」
 渋々桐生円が折れた。
「どっちにしたって、円以外もお昼は食べるんだから、早く食べ始めようよ」
 お腹がすいたと、朝倉千歳がみんなをうながした。
「食べられない物は食べ物ではありませんから、錦鯉に処分してもらえばいいだけのことですわ。まあ、一見したところ、円のサンドイッチ以外はまともに見えますけれど……。ところで、そのカレーはなんの肉なのかしら」
 崩城亜璃珠が、鋭くカエルカレーに突っ込んだ。
「田んぼの鶏、田鶏(ディエンチー)カレーです」
 ごく自然にイルマ・レストが答えた。言葉だけ聞くと、単なるチキンカレーのバリエーションにしか聞こえない。
「じゃあ、時間もないから、食べ始めようよ。いただきまーす」
 桐生円の言葉で、一同はのんびりとランチを食べ始めた。
 七瀬歩の料理は一番まともだったので早々となくなったが、メインディッシュと言うほどの料理ではなく、桐生円にピーマンを食べさせようというのが露骨すぎてちょっと物足りなかった。そのへんは、冬山小夜子のコロッケとご飯が美味しく補完してくれた。
「うーん、ピーマン料理だけど、意外と美味しいよね」
 言葉とは裏腹に、片目にうっすらと涙を浮かべながら桐生円が言った。もちろん、ピーマン炒めとコロッケは美味しかったのだが、実際の味覚と頭の中のピーマンという言葉がどうにも喧嘩して感覚をおかしくさせていた。
「わーい、円ちゃーん、もっと食べ食べて!」
 七瀬歩が、桐生円にだきついてピーマン炒めをさらに勧めた。
「ははははは……。もーう、やだあー。単品は無理、堪忍して……」(V)
 もう片方の目にまで涙をにじませながら、桐生円が哀願した。
「うん、ピーマン入りは味のバランスがあれだけど、クリームコロッケは絶品だね」
「まあ。崩城さんに褒められたのなら、一安心ですわ」
 さて、人数からするとこの二品だけで、みんなお腹が一杯になったとは言い難い。
 そうすると、ボリュームのある物はオムライスかカレーということになるわけだが……。もちろん、サンドイッチは早々と対象外となっている。
「……ですよね。私、なんのとりえもない駄目悪魔ですから……」
 みんなが躊躇しているのを見て、マリカ・メリュジーヌは隅っこの方で、桐生円のサンドイッチを崩城亜璃珠が鯉の餌にしてしまう前にと、もしゃもしゃと一人食べていた。
「いや、せっかくケチャップで似顔絵描いてもらったんだもの。ちゃんと食べるよ」
 ピーマンで頭が空っぽになった桐生円が、冷や汗を浮かべながらオムレツを食べていった。
 そうすると、必然的に残ったのはカレーである。
「大丈夫よ。作るとき、私も手伝ったんだから。大丈夫……多分だけど」
 繰り返し大丈夫と言いつつも、語尾は濁す朝倉千歳であった。もちろん、作り手はサービスする方だからと、イルマ・レスト共々、カレーには手をつけていない。
「田んぼで飼ってる鶏なのですぅ?」
 如月日奈々が、ちょっと小首をかしげる。彼女の知る限り、そんな食材には思いあたる節はない。
「後で、レシピ教えてくれますですかぁ」
「ええ、いいですわ」
 如月日奈々に言われて、イルマ・レストが答えた。
「ええ、後でにしましょう」
 朝倉千歳が、フォローにならないフォローを入れる。
 さて、問題のカレーであったが、美味しいとは言えなかったものの、食べられないほどの物ではなかった。カエル肉自体は決してまずい物ではないのだが、やはりフォンドボーカレーにピーマンは合わない。ベースが、本格的なインドカレーであればよかったのだが。
「さて、お食事はお済みになりましたでしょうか。では、これから再び運河に戻りまして、騎士の橋へとむかいます。温かいお茶をお飲みになりつつ、ヴァイシャリーの美しい風景をご堪能ください」
 キーマ・プレシャスが、再びゴンドラを動かし始めた。ぐるりと歓楽街の外縁を半分ほど回ってから、ゴンドラは水路へと入っていった。