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学生たちの休日5

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学生たちの休日5
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    ★    ★    ★
 

「尾行続行中。10−14」
 ブラックコートに身をつつんだ遠野 歌菜(とおの・かな)が、空京公園のゴミ箱の陰にしゃがんで身を隠しながら携帯電話にむかって言った。
「だから、真後ろの人間に電話するなって。10−10」
 すぐ後ろで月崎 羽純(つきざき・はすみ)が呆れる。
 ただいま、絶賛デート中のスパーク・ヘルムズ(すぱーく・へるむず)シーナ・アマング(しーな・あまんぐ)の後を、いつものごとくぞろぞろと尾行中である。
「大丈夫です。兄としてはしっかりと見守りますよ。なにしろ、この前のようなことがあるかもしれませんしね」
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)がしっかりと公園の木の後ろに隠れながら言う。
「シーナちゃんて、かわいいもんね〜」
 ぺったりとリュース・ティアーレの背中に貼りついたリナト・フォミン(りなと・ふぉみん)が、ひょいと顔をのぞかせて言った。
「移動するみたいだよ。逃がさない! 追跡!」(V)
 遠野歌菜が命令し、一同はぞろぞろと二人の後を追っていった。
 
「紅葉が綺麗ですねー」
 片手に持ったデジカメで周囲の写真を撮りながら、シーナ・アマングはスパーク・ヘルムズとゆっくり公園を進んで行った。もちろん、もう一方の手は彼の手を握って放さない。
「そろそろお昼にしましょうか」
「そうだな、あの辺のベンチにでも行くか」
 軽くお腹に手をあてたスパーク・ヘルムズが、手頃なベンチを指さした。
 
「僕もお弁当……」
「10−34、10−34。至急取り押さえなさい」
「10−4」
 うかうかとシーナ・アマングのお弁当を食べに行こうとするリナト・フォミンに、遠野歌菜があわてた。すかさず、月崎羽純がリナト・フォミンを押さえつける。
 
「うん、うまい」
「本当ですか?」
「お世辞じゃなくうまいぜ」
「はい、あーん」
「……サンキューな」
 
「なんか、食べさせてもらってるよー」
 リナト・フォミンが、スパーク・ヘルムズがシーナ・アマングに食べさせてもらっているサンドイッチを指さして自分もほしいとだだをこねた。
「シーナも成長しましたね。兄としては、喜ばしい限りです」
 リュース・ティアーレが、わざとらしくハンカチで目許を押さえた。
「あ、今度は寝てるよ」
「言わなくても分かるから〜」
 目を皿のようにした遠野歌菜が、リナト・フォミンに答えた。
 スパーク・ヘルムズの膝枕で、ベンチに寝転んだシーナ・アマングがちょっと恥ずかしそうに目を閉じている。
「普通逆だろうが。それともまた何か悪巧みか……」
 何をやっていると、もどかしそうに月崎羽純が身を乗り出した。
 
「スパークさん……」
 目を閉じて胸の上で手を組んでいたシーナ・アマングが、スパーク・ヘルムズの名を呼んだ。
「――んな堅っ苦しい呼び方すんなよ。ガラじゃない。スパーク――でいい。スパークって呼べ」
 ちょっと困ったように、たどたどしくスパーク・ヘルムズがシーナ・アマングに言い返した。
 
「よし、その訂正はGJです」
 まずはお互いの呼び方からだと思っていたリュース・ティアーレが、呼び捨てにさせようとしたスパーク・ヘルムズにエールを送った。
 
「えっと、じゃあ、す、す、す、す、す、スパーク……」
 なんだかいっぱいいっぱいで、シーナ・アマングがスパーク・ヘルムズの名を呼ぶ。
「で、なんだ?」
 あらためてシーナ・アマングのかわいさにどぎまぎしながら、スパーク・ヘルムズがちょっと顔を赤らめつつ聞き返した。
「そろそろ起きたいのですけれど」
「ああ、分かった」
 そう言うと、スパーク・ヘルムズはシーナ・アマングの上半身を抱きかかえて引き起こした。そのまま顔を近づけてキスをする。
 
「わあ〜♪」
 遠野歌菜とリナト・フォミンが歓声をあげそうになって、あわてて声を殺した。
「青春ですねえ〜」
 リュース・ティアーレが、ほれぼれと見とれる。
「青春だとちゅーするの? だったら、歌菜ちゃんと羽純ちゃんも、ちゅーするの?」
「なななななな……、何言ってるのよ!」
 リナト・フォミンの質問に、遠野歌菜が耳たぶまで真っ赤にする。
「じゃ、僕が……」
「はい、そこまでー」
 代わりに遠野歌菜にキスしようとするリナト・フォミンを、月崎羽純が素早く引き剥がした。
 
「どうかしたの?」
 しがみつくようにしてスパーク・ヘルムズにだきついたシーナ・アマングが、怪訝そうに訊ねた。スパーク・ヘルムズは、狼の耳を顕わにしてピクピクと震わせた。
「ものすごく嫌な予感がする……」
 そうつぶやくと、スパーク・ヘルムズはゆっくりと周囲を見回していった……。