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学生たちの休日5

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学生たちの休日5
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    ★    ★    ★
 
「やれやれ、危なく大事に巻き込まれるところだったぜ」
 篠宮悠たちの厄介事を無事回避した橘恭司は、大通りを歩いていた。
「どれどれ。さすがは空京。海京とは違っていろいろな女の子がいるな」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が、キョロキョロと周囲を見回しながら顔をほころばせた。
 空京にナンパに行こうという提案をしていろいろと人を誘ったのだが、結局一人で来ることになってしまった。とはいえ、それはそれで動きやすい。
「そこの格好いいお兄さん、お茶でもしないかい」
 橘恭司に目をつけた御剣紫音が、すかさず声をかけてきた。
「なんだ?」
 見知らぬ女に声をかけられても、橘恭司は今はデートする気などまったくなかったので、思いっきり顔を顰めた。
「いや、暇そうにしてるじゃない。ミスドにでも行って、時間を肴にちょっとお話でも……」
 食い下がる御剣紫音の肩をポンポンと叩く者がいた。
「主(あるじ)、我をおいてどこへ行こうとしておるのじゃ?」
「げっ、アストレイア!」
 振り返った御剣紫音が、顔を引きつらせた。
「主様(ぬしさま)、また悪い病気が出たようじゃの」
「紫音、私たちが相手では不満どすか?」
 アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)どころか、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)まで勢揃いしている。これはまずい。まさに絶体絶命だ。
「何やら分からないが、今のうちだな」
 厄介事に巻き込まれてたまるかと、その隙にそそくさと橘恭司がその場を後にする。
「しかも、ナンパするにしても、男に声をかけるとは……。節操のない……」
 アストレイア・ロストチャイルドが、すっと目を細めて言った。
「いいじゃないか。俺は男女に公平なんだ」
 ちょっとむきになって、御剣紫音が言い返した。見た目は女でも、御剣紫音はれっきとした男である。
「まっ、それは分からなくもないが……。悪い癖には違いがないからのう」
 思わずつぶやいたアルス・ノトリアを、それじゃだめでしょうがと綾小路風花が軽く睨む。
「私の紫音を取らはれてなるものですか」
 あらためて、綾小路風花は御剣紫音が声をかけた男を捜したが、すでに橘恭司は姿を消した後だった。これは、彼にとって幸いだっただろう。
「デートなら、私がしてあげはりやす。さあ、一緒にミスドに行きまひょう」
 綾小路風花は、そう言って御剣紫音の腕をとった。
「うーん、たまの休みぐらい、いつもと違う女の子と……」
「なんですって!」
 最悪の失言だった。思いっきり、綾小路風花の鉄拳が返ってくる。
「まあまあ、少しは手加減してやらぬと、主がかわいそうであろう」
「うむ、半殺しでやめておいた方がよかろう」
 積極的に止めようとせず、アストレイア・ロストチャイルドとアルス・ノトリアが言った。
「傍観してないで助けて……。誰かあ、助け……」
 綾小路風花にボコボコにされていきながら、御剣紫音が叫んだ。
「そこまでだ!」
 突然そんな叫びが聞こえたかと思うと、小型飛空艇ヘリファルテが猛スピードでやってきて、御剣紫音たちの手前で反転急停止した。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。お助けくださいと僕を呼ぶ。正義と自由のため、皆の笑顔のため、それがヒーローの仕事。ヴァルキュリア・サクラ、出動っ!」
 小型飛空艇から飛び降りて、飛鳥 桜(あすか・さくら)が名乗りをあげた。
「暴力はやめるんだ!」
「そこのかわいい女の子、助けて……」
 思わず、手をのばして御剣紫音が助けを求める。
「まだ懲りないんどすか!」
 綾小路風花が、さらに御剣紫音をボコボコと叩いた。
「やめなさい。それ以上叩いたら死んじゃうだろが」
 さすがに、飛鳥桜が止めようとする。
「これは、我らの問題じゃからのう。口出し無用じゃ」
 アストレイア・ロストチャイルドが、飛鳥桜の前に立ち塞がった。
「さすがに、この状況じゃそうはいかないな」
 きっぱりと飛鳥桜が言い切った。チラリと、御剣紫音の賞賛の言葉を待つ。だが、すでに御剣紫音は気絶していた。残念。
「主様は静かになったようじゃ。大丈夫、後はわらわたちで面倒みるゆえ、お引き取りを……」
 アストレイア・ロストチャイルドに代わって、アルス・ノトリアが飛鳥桜に言った。
 その隙に、アストレイア・ロストチャイルドが、御剣紫音の後ろに移動した。
「我、魔鎧となりて我が主を護らん」
 アストレイア・ロストチャイルドの姿が消えると同時に、御剣紫音の身体を白銀のロングコートがつつみ込む。
「我はもう大丈夫じゃから。ありがとうなのじゃ」
 御剣紫音が、飛鳥桜にぺこりとお辞儀をして、アストレイア・ロストチャイルドの声で言った。
「では失礼するのじゃ」
 がしゃこんがしゃこんと、ぎこちない動きで御剣紫音が歩きだす。その横を、綾小路風花が精神を集中しながら歩いて行った。テレキネシスで無理矢理に歩かせているのだ。
「ちょっと待て、おかしいだろう。君たち、その人を操ってないか!?」
 さすがに、飛鳥桜が突っ込む。
「まさか、そのようなことはないのじゃ。ではまたなのじゃ」
 ぺこりとお辞儀をすると、アルス・ノトリアたちはそのまま何ごともなかったかのようにその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと、待ち……へっくしょん」
 あわてて飛空艇で追いかけようとして、飛鳥桜は大きなくしゃみを一つした。誰が噂していると心の中で叫びつつ顔をあげたときには、御剣紫音たちの姿は消えていた。