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ダークサイズ本拠地・カリペロニア要塞化計画の巻

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ダークサイズ本拠地・カリペロニア要塞化計画の巻

リアクション


 カリペロニア島は、中心の草原を囲むように森が広がっている。
 かといって、島自体が東京ドーム10個分ということで、そこまで広大というわけではない。
 そんな森の中に、一頭のレッサーワイバーンが降り立つ。

「さあ、ヒラニプラまでは、もうそれほど遠くない。一休みしたなら、一気に行くぞ」

 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、ワイバーンの鼻筋を撫で、適当な倒木に腰を下ろす。

「このようなゆったりした一人旅もいいものだ」

 この島が無人島だと思い込んでいるウィングは、のんびりお茶でも入れようかと、薪を集めて小さな火をおこす。
 ウィングは一息ついて木々の隙間から見える青空を見上げ、目を閉じる。
 森がウィングに語りかけるようにざわざわと鳴る。
 突如、ウィングは目を開き、鋭い警戒の目を右にやる。
 彼のお供のドラゴンも、その方向を見る。

(何か……いる!)

 ウィングは武器を手元に寄せ、目を凝らす。
 殺気は感じない。

(野生のモンスターか?)

 ばきばきばきばきっ!

 何の前触れもなく、森の木がウィングに向かって倒れこむ。
 ウィングは難なくそれをかわし、前転を決めて武器を構える。

「くっ、モンスターか!?」

 ウィングが思わずあげた声が聞きとれたらしい。倒れた木の向こうから人の声が聞こえる。

「おいおい何だ! 人がいやがったぜ。あぶねえあぶねえ。大丈夫か兄ちゃん?」

 ウィングに声をかけた男の胸には、

『ハーレック興業☆こぶん』

 と丸文字が書かれたカードが下がっている。

(な、人? 無人島ではなかったのか)

 ウィングは動揺するものの、表情には一切出さない。
 カードをかけた子分の男は、後ろを振り返って大声を張り上げる。

「おおい、ブレイロック兄貴ィ! ストップだ! 人がいやがった!」
「ああ!? お前、ちゃんと安全確認しなかったのか!」

 いかにも迫力のある声と共に、伐採用の大鎌を持って現れるネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)
 ネヴィルは子分を叱咤しながら、巨大な肉体からこれまた巨大なげんこつを子分にくらわす。

バギッ!

「ぎゃあ!」
「ぎゃあじゃねえ! しっかり目を配れ! 小さなミスが大きな事故につながるんだからな!」
「す、すいやせん!」

(な、なんだあのドラゴニュートは? 人間を支配しているのか?)

『ハーレック興業☆現場監督 ねう゛ぃる・ぶれいろっく』

 のカードを下げたネヴィルを見ても、ウィングは状況がつかめない。

「で?」

 ネヴィルはウィングに目を移す。

「何だあんたは? ここは私有地だぜ」
「私有地? こんな辺境の島が?」

 ウィングが驚いた顔をネヴィルに向けたところで、

「ブレイロック! なぜ作業を止めているのです?」

 今度は女性の声が森の向こうから聞こえる。
 ハイレグのタキシードにシルクハット、マントを羽織って杖を片手に、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)がやってくる。
 この手つかずの森の中を歩くには、まったく似つかわしくない格好だ。

「早急にこの森は全て伐採してしまわなければなりません。建築資材も足りませんし、我がハーレック興行の備蓄資材も確保しなければ」

 年の割に余りにも堂々とした出で立ちのガートルード。倒れた大木の上に立ち、ネヴィル達を見下ろす。
 ガートルードはウィングに目をやり、

「その人は誰です?」

(そうか、意図せずとはいえ、不法侵入をしてしまったのだな……)

 ウィングは言い訳を考えながら、

「いや、私は……」
「新しいバイトだ。現地採用ってやつだな」

 と、ウィングの言葉を遮って、とっさに気を回したのか、ネヴィルが口をはさむ。

「新人なもんでよ」
「そうですか……カードを身につけていないようですが」

 ガートルードは、

『ハーレック興業☆代表 がーとるーど・はーれっく』

 と自分のカードを見せ、ウィングを冷めた目で見ている。

「大丈夫だ。後で受付に貰いに行く」

 ネヴィルの言葉を聞いて、ガートルードはふと思い出した顔をする。

「そういえば、ダイソウは戻ってきましたか? 資材の分配について話をしたいのですが」
「おいおい、ハーレックくん、まだ話してねえのか? 見切り発車で先に作業を始めちまったが、そろそろ話さないとまずいだろう」
「仕方ないでしょう。受付に行くと言ったきり、戻ってこないのですから」
「ハーレック殿、この木材は運んでいいでありますか?」

 と、さらにそこに、相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)がやってきて、先ほどネヴィルが倒した大木を指す。

「ええ、お願いします。ついでですから、その人も連れて行ってください。一緒に運搬作業を」

 ガートルードはウィングに目をやって、洋の作業に参加するように言った。
 洋はきちっとウィングを向き、

「これはどうも。私、相沢洋という者であります。こちらは乃木坂みと」
「ウィング・ヴォルフリートだ」
「貴様は、パワードスーツはお持ちか?」
「いや。しかしもし力仕事が必要なら、私のスキルで補填できるはずだ」
「なるほど、結構。我々の仕事は、とにかく片っ端から木材を確保することだ。我々ダークサイズの要塞、カリペロニア! 私としては当然、銃座付きの監視等が欲しいところだが……」
「よ、要塞?」

 知らず知らずに間にお手伝いに回されているウィングは、これには驚く。

(何かとんでもない所に紛れ込んだらしいな……さしあたり、話を合わせておかねば。ダークサイズとかいう組織の人間ではないとばれれば、何をされるかわからん……)

 洋の軍人的な堅苦しい風貌や、ガートルードやネヴィル、また要塞などのキーワードから、ウィングはダークサイズが何か巨大な秘密軍事組織のように思えてしまっている。

「何でいきなり道に迷ってんのよ!」

 そこに、数人の気配と足音、そして美羽がどなる声が聞こえてくる。
 ウィングたちのいるところを偶然通りかかってくる、ダイソウトウたち。

「ここ、ダークサイズの拠点でしょ? 要はあんたの庭じゃない。なんでこんな小さな森一つ抜けられないのよ」

 祥子がダイソウを叱る。

「結和よ、なぜ来しなに目印をつけておかなかったのだ」
「あ、すみません……ってなんで私が怒られるんですかー!」

 ダイソウの理不尽な怒りに切れる結和。

「東はどっちだ……」
「っていうか、よく受付にたどり着けたわね」
「明日はどっちだ……」
「知らないわよ。道に迷ってまでふざけてんじゃないわよ」

 そんな言い合いに、ガートルード達が気づく。

「おお、あれはダイソウトウではありませんか」
「だ、だいそうとう……?」

 ダイソウの無駄に偉そうな名前に、ウィングは重ねて驚く。
 ガートルードはダイソウたちに歩み寄る。

「こんな所で何をしているのです?」
「見ろ、私は彼らを探していたのだ」

 ダイソウはエメリヤンの上から祥子たちに、ミエミエの言い訳をする。

「嘘つけ!」
「さっきまで目が泳ぎまくってたじゃないの!」

 と、ツッコむ周囲をよそに、ガートルードがダイソウに進み出る。

「ちょうど良いところに通りかかってくれました。ダイソウ、要塞建設資材の確保のため、私たちは木々を伐採しています」
「うむ、かまわん」
「私たちも一応興業として運営していますので、伐採した木材を分けていただきたいのです。フィフティフィフティで」
「む、そんなに持っていくのか?」
「要塞の資材は十分確保できますよ。森の木を全部切り倒してしまえば」
「なに、全部だと?」

 ガートルード達ハーレック興業は、資材確保の手間賃として、木材の分け前を要求する。
 しかしダイソウは、

「全ての木を伐採するのは困るぞ」
「知ったことではありません。ザンスカールの森以外は滅ぶべきなのです」
「森林浴ができなくなってしまうではないか」
「森林浴がしたいときはザンスカールへ来てください」

 と、ダイソウとガートルードが口論していると、

「やっと見つけましたわぁ! ダイソウトウ閣下、こんなところにいらしたのですねぇ」

 ゆったりした声をあげて、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)がやってくる。

「さあ、みなさんお待ちかねですわ。ダイソウトウ閣下の許可が欲しいとウズウズしてますのよぉ」

 伽羅はダイソウの手を引っ張り、島の中心部へ連れて行こうとする。
 ガートルードはそれを見送りながら、

「では、とりあえず森は全て伐採しておきます」

 と、作業に移ろうとする。伽羅がそれを制止して、

「あら、待ってください。木を全て切り倒すのは許可できませんわぁ」
「ほう、何の権利があってそんなことを?」
「私は、謎の闇の悪の秘密の経理コンサルタント『カリペロニア開発株式会社』の皇甫伽羅ですわぁ。申し訳ないのですけどぉ、カリペロニアの開拓はわが社の仕切りの行いますのぉ」
「そんなことは聞いてませんよ?」

 ガートルードは伽羅に食い下がる。
 伽羅は白羽鉄扇を片手に、

「当然ですわぁ。さっき決まりましたものぉ。この島はダークサイズの所有ですが、権利書を持っているのはダークサイズ女子部長・姉{SNL9998899#キャノン・ネネ}さん〜。島の開発の決定権はダイソウトウ閣下ではなく、ネネさんから委託を受けた私にありますものぉ。外敵の侵入を防ぐためにも、森はいくらか残しておかなくてはぁ」
「侵入者への警戒……ですか」

 ガートルードもいっぱしの悪者。敵への警戒を説かれると、強くは言えなくなってしまう。

「しかたありませんね……しかし伐採した木々は我がハーレック興業にも分けていただきますよ」

 と、妥協しながらも、せめて自分への利益を確保する。

「さあさあダイソウトウ閣下ぁ、何を油売ってるんですかぁ。みなさんあなたに話を通したいからと、アイデアを抱えてお待ちかねですぅ」
「決定権は私にはないのではなかったのか?」
「もちろん最終的には。まあ結局は、みなさんあなたとお話がしたいのですわぁ」

 伽羅はダイソウを引っ張って、森の出口へと歩いていく。