シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

ダークサイズ本拠地・カリペロニア要塞化計画の巻

リアクション公開中!

ダークサイズ本拠地・カリペロニア要塞化計画の巻

リアクション


「さぁ〜! みなさん、ダイソウトウ閣下のお出ましですわよぉ〜」

 伽羅の引率でどうにか森を抜け、中心の平地へ出てきたダイソウトウたち。
 そこにはすでに、カリペロニア要塞化に向けて、我こそはと集ったダークサイズの面々。もちろんみんな幹部カードを下げている。
 そして自由度満点のダークサイズ。自分の欲しい施設の建設許可を得るべく待っている者、ガートルードのように、勝手に作業を始めている者もいる。
 島の中心の方で、何やら足場のようなものもできているのが、小さく見える。それを眺めてダイソウは、

「みんな、私と話したいのではなかったのか……」

 と、ちょっとだけ凹んでいる。

「ま、まあまあ〜。ちゃんと待っている人もいるんですからぁ」

 伽羅は自分の発言の責任を感じ、ダイソウのフォローをする。

「おう! やっと戻ってきたなあ、ダイソウトウ!」

 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、自分のリーダーを呼び捨てにしながら、気安く手を挙げて寄ってくる。
 ラルクは用意してきた設計図を広げながら、

「諸々勝手に始めちまってる奴らもいるんだが、俺としては一応あんたに話通しておきたくて待ってたんだがよ。島の南側は……」

 と、早速施設のプレゼンをしようとする。
 待ってた、と聞いて、ダイソウは無言でラルクに握手をする。

「? 何の握手だ?」
「気にしないでくださいですのぉ、おほほほ」

 ラルクはきょとんとして握手した手を見るのを、伽羅がさらにフォローを入れる。

「まあいいや。でよ、切り込み隊長としては、やっぱ戦闘力の強化をしてえんだなぁ。ちったあまともな悪者要素もなくちゃな。んで、何と言っても戦闘員の訓練施設だな。これがなくっちゃ始まらねえぜ。そうだろう?」

 ラルクが差し出す設計図は、更衣室や射撃訓練所、筋トレ機材や施設など、非常に正当なものが描かれている。

「一応、資材と業者と建築費の手はずはつけてあるんだ。やっちまっていいよな?」

 非常に正攻法なプランと、きちんと練り上げられている段取りを聞いて、ダイソウはまたラルクの手をしっかと握る。

「任せる!」
「おお、ありがとよ! こんなにすんなり通るとは思わなかったぜ。訓練エリアは島の南東部分だ。後で視察に来てくれや。あ、そうだ。おい円、お前も戦闘部隊のプレゼンあるんだろ?」

 ラルクは、彼の脇で話を聞いていた桐生 円(きりゅう・まどか)を見下ろして言う。
 しかし円は自慢げに胸を張り、

「ふふふ。ボクはすでに企画書の提出を済ませてあるんだよ」
「ほおー、やるなぁ」

 円は確認を込めて、ダイソウに言う。

「ダイソウトウ、ペンギン部隊だよ。忘れたなんて言わせないよ。ペンギン部隊のために、訓練エリアにペンギン王国を作るよ。ボクのお小遣いで、本気のペンギン王国を見せてあげるよ。うかうかしてると、このカる、カーリーペーローニーアーは、ペンギン部隊主力の組織になっちゃうよ」

 円はカリペロニアを言いにくそうにゆっくり発音し、うきうきした雰囲気で宣言する。
 同じエリア担当ということで、ラルクと円は島の南東へ出発してゆく。

ぺたぺたぺたぺた……

 よく見ると、円はこのために集めた大量のペンギンを引き連れている。数が数だけに、さすがにペンギンの足音が少しうるさい。

「さあさあさあさあ! ダイソウトウ! 見てほしいのはこっからや!」

 ラルク達が去ったのを見て、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が寄ってくる。

「ダークサイズが要塞作るって聞いて、僕にも役立てることがあるんやないかと思って、いろいろ用意さしてもらったで。ハーレック興業も動いとるみたいやけど、カリペロニア開発に出資さしてもろたで」
「そうなんですのぉ。ダークサイズの会計はとっても助かりましたわぁ。おほほほほ」

 伽羅は鉄扇を口元に当てて笑いつつ、

(思いのほか出資者が多くて助かりますわぁ。あとは『カリペロニア開発株式会社』を計画倒産させれば、大量の資金はまる儲けですぅ。欲の皮が突っ張った人からお金を巻き上げるのは、気持ちいいですわぁ)

 と、鉄扇に隠れた口元をゆがませる。
 一方泰輔も泰輔で、

(さあ、こっからダイソウトウには僕の計画に乗ってもらうで。目指すは権利収入で不労所得や)

 との思惑が働いている。
 そんなオトナの計略が錯綜する中、ぽてぽてと鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)が分厚い封筒を大事そうに抱えて歩いてくる。

「ダイソウトウさん〜」

 氷雨は持っていた封筒を、ダイソウに差し出す。

「これは何だ?」
「ボク、お金持ってきたのー。ボクね、夏にいっぱいお仕事したの。ダークサイズの基地を作るって言うから、それに使ってほしいお金なの」

 氷雨はニコニコと笑いながら、惜しげもなくダイソウに封筒を手渡す。
 ダイソウは封筒を見つめ、

「これは大事なお小遣いではないのか?」
「んーん、いいの。ダークサイズの役に立つなら、それが一番いい使い道だもん」
「……そうか。では預かっておこう。この金はダークサイズ発展に大いに役立つことだろう」
「わーい。えへへー」

 ダイソウはあえて封筒は付き返さず、受け取っておくことにした。

「では伽羅よ、これを要塞開発費に回すのだ」

 ダイソウが氷雨のお金を伽羅に渡そうとするが、伽羅は手でそれを制止する。

「ええ〜っと、これはダイソウトウ閣下の判断で、別で使った方がよいと思われますわぁ。今後ものいりでしょうし」
「ん? そうか。ではそうしよう」

 ダイソウが封筒を懐にしまうのを見て、

(ふう〜、さすがにこういうお金を受け取るのは後ろめたいですわぁ)

 伽羅は計画が計画なだけに、氷雨の純粋な資金提供だけは受け入れなかった。

「じゃあダイソウトウさん。ボク、大総統の館のお手伝いをしに行くよー。後で見に来てね」
「……」

 氷雨はダイソウの返事を待たずに、またぽてぽてと走り去っていく。

(いい子だ……)

 と、ダイソウの目が潤む。

(こういうのにめっぽう弱いなんて、年ね……)

 ダイソウの顔を見て、美羽が心の中でつっこむ。
 若干しんみりした空気を察して、泰輔がパンと手を叩く。

「さてダイソウトウ。悪の組織とはいえ、悪事だけで食って行けるほど世の中甘くない。何と言ってもまずはゼニ儲けせにゃあかん。面白いもん見せたるさかい、一緒に来てくれるか。島の南側に広がる一大リゾート施設や!」
「泰輔―、別にお金どーこーでなくても、僕としては楽しければいいんだがなぁ」

 と、お金の話題ばかりの泰輔にフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が言う。彼は儲け話よりも、リゾート施設とやらを早く見たいらしい。

「何者だ?」

 とダイソウがフランツを見ると、彼は、

「あ、どーも初めまして。フランツ・シューベルトです。英霊です」

 と名乗る。ダイソウも若干目を輝かせる。

「ほう、魔王は好きだぞ。魔王しか知らないが」
「ああっ! どうして君は僕の生きてるうちに生まれなかったんですか! 僕は生きてるうちにもっと評価されたかったあああ!」

 フランツは生前の境遇がよっぽど悔しかったのか、一人で盛り上がって泣きはじめる。
 しゃくりあげるフランツを、はいはい、といった感じで、泰輔がなぐさめる。
 さらにダイソウが別の方を見て、

「で、あれは何なのだ?」

 という方向を見ると、葉っぱのついた枝を両手に持って、顔の半分を覗かせているレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が見える。
 はっとしてレイチェルは顔を葉っぱに隠す。

(ふう、危うく見つかる所でした。泰輔さんにフランツさん……そそくさと出かけるから付けて来てみれば……やっぱり邪な考えでしたのね。お金もうけや快楽に身をゆだねるなんて……とにかく、今日は絶対見つからないように観察し、後で思い切り叱ってあげなければ)

 レイチェルは顔だけ隠して身体は完全に見えた状態で、二人を監視しに来たようだ。
 当然ばればれなのだが、

「あー、まあそっとしといてあげてくれるか? 気が済むまでやらしたってや……」

 と、泰輔は気にしないようにダイソウにつぶやく。

「なかなか大変なパートナーを抱えているようだな」
「そやねん……まあそんなことよりや。早速視察に行こか! なかなか盛り上がってるで」
「私は館を見に行きたいのだが」
「一番のお楽しみは後やろ! さあ行くで」

 と、泰輔と伽羅を先頭に、一同は島の南へと向かっていく。