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ダークサイズ本拠地・カリペロニア要塞化計画の巻

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ダークサイズ本拠地・カリペロニア要塞化計画の巻

リアクション


 ハーレック興業は、カリペロニアの森を全て伐採しようとし、明日香の受付周辺や島の南側辺りは多くの木が切り倒され、資材に回された。たが、他のメンバーの希望もあって、いくらか森は残されることになっている。
 その残された森の中で最も広い面積を確保したのは、島の北東部の地域。
 その森の中を、デジタルビデオカメラ片手にいかにも苦しそうに歩く、一人の猫。

「はあ、はあ……私は今、空京の東に浮かぶ絶海の孤島に来ています……」

 バスティアン・ブランシュ(ばすてぃあん・ぶらんしゅ)は、四方に気を配りながら、

「ここに、未開の原住民が生息しているとの情報を手に入れ、その上陸に成功したのです」

 と、自分でナレーションをはさんでいる。
 一方で、バスティアンのカメラに写りこまぬよう、慎重に隠れながら別角度からの彼の様子を映す、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)

(良い。良い表情です、バスティアン)

 エメの腕には、

『探検ドキュメンタリー ゆけ! ゆけ! バスティアン・ブランシュ!』

 という腕章が付いている。
 エメが、バスティアンのカメラの向きを確認し、おもちゃの蛇を足元に放り投げる。
 バスティアンはそれに大げさに反応し、

「ああっ、危にゃい! にゃんという危険な土地でしょう。こんにゃ巨大な毒蛇が生息している!」

 続いてエメがゴムのサソリを投げる。

「にゃあっ! 森にサソリがいるにゃんて!」

 と、二人はドキュメンタリーの出来レースを繰り広げる。
 エメが今度はトラのぬいぐるみを投げようとすると、

「何をしているのだ?」

 と、ダイソウがエメに声をかける。

「しーっ!」

 エメはダイソウに向かって、人差し指を立てる。
 エメはふと思い立ち、

「そうだダイソウトウ、よいところに。後でギャラを払うので、あの湖で水浴びをしてくれませんか?」

 と、ドキュメンタリーの出演交渉をする。
 ダイソウは当然訳が分からないが、畑仕事で汚れていたのもあり、バイトができるなら、と湖に入る。
 そして予定調和にバスティアンがそれを発見。

「いたっ! いました! あれが原住民です。上半身裸に何故か帽子をかぶっている……ん、あれは? さらに人が増えているようです」

 と、島中で働く長門が神出鬼没に湖を通過している。
 長門ははしゃいでダイソウを湖に沈めたりして遊ぶ。

「あのラ族の人、ナイスですね」

 エメは嬉しそうに長門を映す。

「一体何をしておるのだ……?」

 不思議そうな顔をして、夜薙 綾香(やなぎ・あやか)が通りかかる。
 汗を流して湖から上がったダイソウは、

「バイト代付きの水浴びをしていたのだ」

 と正直に言うが、綾香にはなおさら訳が分からない。

「まあよく分からんが……まあよい。ダイソウトウ閣下、ちょうど良いところへ来てくれた。私の魔術研究室を見に来る気はないか?」
「ほう、こんな森の中に作ったのか?」
「魔術実験場といえば、森の中がうってつけであろう。私の諸々の研究室は、空京大学からここに拠点を移すつもりなのだ。まだ研究中のものもあるが、やはりリーダーには魔術班の存在を知らしめねばならんからの。よいものを見せてやろう」

 と、綾香はダイソウ一行を、さらに森の奥へ連れていく。
 エメは急いでバスティアンを手招きし、綾香についていくよう指示を出す。

「にゃんと、私は原住民への接触に成功しました。この奥では怪しげにゃ魔術が行われているようです……」

 と、バスティアンは注意深げな演技で、そろそろとダイソウ達の後をつける。

「しばしもやすまず 槌打つ響き
トンテンカンっと トンテンカン
あーあー 大躍進 だいーやーくしーん」


 やかましく歌を歌いながら、シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)は建設材料確保のために、真っ赤な鉄を打って釘やかすがいを作る。

「ぬぉわはははは! どうであるかシラノ! 我輩の土法炉の使い心地は」

 と、これまたやかましい声で、青 野武(せい・やぶ)がやってくる。

「我らトラブルメーカーズ! マッドサイエンティストの研究所と言えば、人里離れた森の中と相場は決まっておる。大総統の館には、まだまだ釘も蝶つがいも足らぬであろう。我輩の先端テクノロジーを持ってして、館建設に多大な貢献をしてやらねば!」

 野武は自分の研究所の材料のついでに、大総統の館のために、建築資材をシラノに生産させている。

「しかし、土法炉で作る製鉄品は、6割が使い物にならないと言いますけど……」

 と、黒 金烏(こく・きんう)が水を差す。

「や、やかましい! 悪の拠点はその都度崩壊するのが常であろう。我輩はそれをスムーズにしてやっておるだけだ」
「やはりまともな支援をする気はないのですね……」

 金烏は、それほど興味はなさそうに言う。彼はと言えば、野武の研究所の隅に、隙間だらけの診察所と手術室、放射線防護がほとんどできていないレントゲン室を作り上げた。

「あとは生物科学研究所が欲しいですね。採取した細菌を培養して、ゆくゆくは人類を絶滅危惧種に……」

 と、金烏は恐ろしい妄想に浸る。

「おー! これはこれは、ダイソー閣下ではないか!」

 野武は、綾香が連れてきたダイソウを見て、歓迎する。

「よくぞ我輩の科学研究所に来てくだすった」
「魔術研究所ではないのか?」

 綾香は少し暗い顔をする。

「たまたま同じようなところに作ってしまったのだ。静かに研究をしたいのに、やかましくてかなわん……」

 綾香にしてみれば、隣に野武の研究所を作られたのが唯一にして最大のがっかりポイントである。
 そんな綾香を見て、野武はまた得意げに笑う。

「ぬぉわはははは! よいではないか。とある魔術ととある科学の偶然の融合! これは歴史上、誰人も思いつかぬ発想であるぞ!」

 野武は根拠なく高笑いをする。

「こ、この部族は、魔術と科学を用いてよからぬ研究に没頭しているようです……」

 バスティアンはすかさず実況する。

「まあとにかくだ、ダイソウトウ閣下。先ほど言った面白いものを見せてやろう」

 綾香は気を取り直して、彼女の魔術屋敷にダイソウ達を案内する。

「おや、お戻りになったようですわね。段取り通り、隠れておかねば」

 綾香の屋敷の中で、不気味な魔法陣と祭壇を設置していたアンリ・マユ(あんり・まゆ)
 扉が開いて綾香たちが入ってくるのを見て、祭壇の裏に隠れる。

「おぉ……思いもよらず、私は魔女の館に……」

 暗い屋敷内をバスティアンはとらえ続ける。
 綾香が案内した、アンリが隠れている魔法陣の一室。
 ドライアイスが焚かれ、怪しげな雰囲気を演出する。

「よいかダイソウトウ閣下。悪の秘密結社らしく、私ことマジカル★ナハトはこれより、悪魔を召喚してしんぜよう」
「あ、悪魔だと……」

 綾香とアンリの演出が功を奏して、ダイソウ達はまんまとドキドキする。

「危険な術式ゆえ、決して大騒ぎしてはならぬ。悪魔の怒りを買うのはあまりに危険だ……」

 綾香が両手で我流の印を結び、焔で空間に魔法陣を描く。綾香は続いて低く呪文を唱える。

「Eloim Essaim frugativi et appelavi
焔の神よ、我は求め訴えたり
暗闇の彼方、深淵の果てより、応えよ
汝、背教の紅き竜
煉獄の契約に従い、我が元へ来たれ!」


ごうっ!

 と魔法陣の焔が巻き、熱い風が渦を起こす。
 ドライアイスのスモークが巻きあがり、視界を塞ぐ。
 その隙に、すすっと祭壇の裏から魔法陣の中に潜り込むアンリ。

「うっ!」

 突風に一同思わず目をつぶり、風が収まると恐る恐る目を開く。
 そこには……

「私はザナドゥの奥、背教の紅き竜……我を眠りから呼び起こすはそなたか……」

 アンリが台詞通りしゃべるのを、

「おおおおー!!」

 と、一同すっかり目を奪われる。

「悪魔だー!」
「何かエロい感じの雰囲気の悪魔だー!」

 各々思うように、アンリの見た目の感想を言う。

「とまあ、こんな感じだ。今後パラミタ征服のために必要な古代兵器や、魔獣も召喚して、戦闘には魔法部隊が役立つであろう。さ、出た出た」

 と、綾香はからくりがばれないように、早々にダイソウ達を館から追い出す。

「ううむ、カリペロニアは島中が油断ならない絶大な悪の拠点となったな……」

 ダークサイズ幹部たちの幅広いジャンルの施設、予想以上の充実ぶりに、満足というより驚きを隠せないダイソウ。

「ダイソー閣下。視察は全て終わったのであるか?」

 と野武の問いに、ダイソウは目をきらりと光らせ、

「お楽しみは最後に取っておいた。いよいよ大総統の館の視察だ。しかしだ……」

 ダイソウは奥深くまで入ってきた森を見渡し、

「これでは方角がわからん……」

 という独り言を聞きつけた青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)

「やあ。十八号くんだよ」
「十八号、森を抜けるための道はまだできておらんのか?」

 と、野武が確認すると、十八号は、

「大丈夫ですよ、お父さん。ちょっと整備をしていたのです」
「整備だと?」
「ええ。森林を切り開き、道路を作るための。すぐに道が必要ですか? 分かりました。じゃあ下がっててください」

 と、十八号は整備したという機晶姫用レールガンを構える。

「レールガン発射準備。ターゲットスコープオープン。エネルギー充填120%。3、2、1……」
「待て十八号、その位置では研究所に当た……」
「発射!」

どごおおおおおん!!

 轟音と共に火を噴く、十八号のレールガン。
 煙が引くと、木々をえぐって森を抜ける真っすぐな道と、レールガンの波動で倒壊した野武の研究所、それに壁を削られた綾香の魔術研究所。

「ああああっ!」
「どうです、道ができました」
「何をしておるのだ、十八号!」
「わ、私の館が……」
「おや、失敗失敗」
「なんてことをするのだー!」
「ああっ、なぐらないでください」

 十八号をぽかすか殴る野武と綾香。
 崩れた研究所を見て、

「土法炉で作った釘であれば、直撃しなくてもこの程度か……」
「当然と言えば当然ですね。ちょうどいいから、ちゃんとしたものに作りなおしましょう」

 と、金烏とシラノは、冷静に分析するのであった。