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ダークサイズ本拠地・カリペロニア要塞化計画の巻

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ダークサイズ本拠地・カリペロニア要塞化計画の巻

リアクション


 カリペロニアの中心の大総統の館建設予定地のすぐ後ろには、館を護るように小高い丘がある。

とぅるるるるる

 丘の上に明かりが集まっているのが見えて、丘の頂上に向かう弥涼 総司(いすず・そうじ)の携帯電話が鳴る。

「お、ここもギリ電波が入るみたいだな。もしもし? ああ、オヤジか。ん? 私の総司とか気持ち悪いこと言ってんじゃねえよ。俺忙しいんだよ。え? 仕事だよ仕事。俺、就職決まったから。会社じゃねえよ、結社だよ。秘密結社。あ、着いた。もう切るぜ。これから大事な仕事だからな」

 丘の上に着いて電話を切った総司は、

「おお、こりゃまた立派なのができてんじゃねえか」

 と、目を見張る。
 大総統の館ができていないにもかかわらず、ここには立派な一軒家と、隣に控えめだがオープンテラスのついたセンスの良い小屋。そしてその前には、たくさんの照明やテーブルが設置され、まるでパーティ会場のように賑わっている。
 総司はきょろきょろと周りを見渡し、目標を見つける。

「お、いたいた」

 総司はテーブルの料理には目もくれず、オープンテラスに向かっていく。

「ああ……いいっ! いいわぁ。あたし、こういう風に優雅に過ごしたかったのよ」

 持参したワインを片手に、メニエス・レイン(めにえす・れいん)は優雅にリクライニングチェアに腰かけてカリペロニアを見下ろす。
 メニエスが飲み干したグラスを横に掲げると、すかさずロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)がワインを注ぐ。

「ロザ、ワインセラーはできたの? 早くしまわないと風味が落ちちゃうわ」

 メニエスはロザリアスを見ずに、自分の小屋のでき具合を聞く。
 オープンテラス付きのこの小屋は、メニエスが強引に作らせたもので、ワインセラー用の地下の穴掘り、小屋の建設までロザリアスがほぼ一人で全てをこなした。
 そのため、彼女のゴスロリ服はすでに泥だらけである。

「うんとね、明日の朝には出来上がるよ。今夜徹夜すれば大丈夫―。おねーちゃん、ワインおいしい?」
「悪くないわ」

 ロザリアスはメニエスに尽くしきるのを旨としているのか、自分のことよりまずはメニエス、らしい。
 そんなメニエスの隣では、自分の一軒家を獲得したのも関わらず、{SNL9998899#キャノン・ネネ}がリクライニングチェアでくつろいでいる。

「ふぅ〜……このカリペロニアでワインを頂ける日が来るなんて、この間まで思いもよりませんでしたわ」
「あたしに感謝することね。後であなたの家のお風呂、借りるわよ」

 と、くつろぐネネに、メニエスが恩着せがましく言う。

「ええ、かまいませんわ。なんでしたら、ご一緒しましょうか?」
「考えとくわ。ところで、これだけ快適空間を提供してあげたんだから、あたしの幹部名、もっとましな奴に……」
「そうですわね、では、『カボチャワインさん』はいかが?」
「あのね、そういうギリギリアウトなやつはやめてくんない? あたしにかぼちゃ要素なんか一つもないわよ。いくらワインだからって」
「そうです、お姉さま」

 と、ネネの隣で椅子にきちっと腰掛けて、紅茶をたしなんでいる{SNL9998898#キャノン・モモ}が口をはさむ。

「『椅子にふんぞり返ってあごで人をこき使う、さん』はどうでしょう?」
「まあ、それがいいわ、モモさん」
「……あなたたち、あたしに対して徹底的にネーミングセンスないわね」
「ではやはり、バットウー……」
「その先言ったら、殺す」

 と、メニエスはネネを睨み、がっかりしてため息をつく。

「ネネ姉さん、ネネ姉さん!」

 と、そこにバタバタとお盆に食べ物を載せて走ってくる、瀬島 壮太(せじま・そうた)
 彼は賑わっているテーブルから食べ物をいくつか確保して、ようやくネネの元へ戻ってきた。

「お待たせしました! クラッカーっす」
「あら? トッピングはないのかしら?」
「え、ええと、さっきネネ姉さん、プレーンがいいって……」
「あなたが遅いから、気分が変わってしまいましたわ」
「ああっ、すいません、すぐに!」

 と、壮太はまたダッシュして戻っていく。
 メニエスが壮太を見送りながら、

「あなた、一日中あの子使ってるじゃない。しかも我がまま放題ね」
「ああいう子が寄ってきますと、ついついわたくしのそういう部分が出てしまいますわ」
「そういえばお姉さま、彼を何と呼んであげていましたっけ?」

 というモモの問いに、ネネはモノを見るような眼をして、

「犬」
「うふふふ、お姉さまったら」
「おほほほほ」
「さっきの『椅子にふんぞり返ってあごで人をこき使う、さん』ってやつ、あなたに返すわ」

 と、メニエスはあきれる。

「あー、ごほん。ちょっと失礼」

 さらにメニエスのオープンテラスに上がってくるのは、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)。彼はフルーツをふんだんに使ったホールケーキを片手に、ネネとモモの間にある丸テーブルの前にやってくる。

「カリペロニアの改装祝いってことでよ、妹ちゃんは、甘いものは好きか?」

 トライブが差し出したケーキを見て、ネネに対して以外あまり表情を作らないモモの顔が、ぱっと明るくなる。

「まあ、私の好きなケーキ、よくご存じでしたね」
「ま、まあな。妹ちゃんの好みは、なんとなく分かるつもりだぜ」

 と、言いつつも、トライブは心でガッツポーズを作る。

(よっしゃー。勘で用意したのが大当たりだぜ)

 ケーキの好みは姉妹で同じらしく、ネネも興味を示す。

「まあおいしそう。わたくしもいただいていかしら?」
「え? ああ、適当に食っていいぜ。ところで妹ちゃん、隣空いてるか?」

 と、モモの隣の椅子に腰かける。トライブはネネとモモで明らかに態度が違うようだ。

「まあその、なんだ。単刀直入に聞くぜ。彼氏はいるのか?」
「まさか。私の存在は、お姉さまのためにあるのですから」
「あー、なるほどねなるほどね。じゃあ例えば、あんたと付き合いたい男が現れた場合……」
「そうですね、多くの場合、お断りするでしょうね」

 会場の盛り上がりの熱気に当てられたのか、モモは思いのほか素直にトライブの質問に答える。

「多くの場合? それってどういう意味?」
「やはり、もしも私と共に歩きたいと言う人は、お姉さまの認めた方でなければ」

 モモの行動は、恋愛すらネネが基準となって判断を行うらしい。

(なるほど、妹ちゃんゲットの条件は、ネネに気に入られることか……)

 トライブは頭の中にメモする。

「恋愛の話かしら? そんなものは当然禁止ですわ」

 と、トライブの後ろから、唐突に女性の声がする。
 トライブはモモとの会話を邪魔されて、あからさまに不機嫌に、

「なんだ? 邪魔すんなよ」
「これ以上お話の順番を待っても仕方なさそうですわね。割りこませていただきますわ」

 と、ファトラ・シャクティモーネ(ふぁとら・しゃくてぃもーね)が話に割って入る。

「何が言いたいんだ?」
「今日、私がわざわざ出向いたのは他でもありませんわ。キャノン姉妹のお二人。あなた方に、芸能界デビューをしていただきます」
「はあ? 何だと?」

 トライブも驚いているが、ネネとモモも唐突な話にキョトンとしている。
 ファトラはかまわず話を続ける。

「カリペロニア要塞化ということで、ダークサイズの足場が整いつつありますわ。しかし私は、その先をすでに見すえておりますの。新しい時代の秘密結社は、大衆を味方につけなければなりません。そこでネネさんとモモさん、あなた方にその役割を担っていただきますわ。私のマネージメントのもと、お二人はアイドルデビューするのです」

 一見突拍子もない提案を持ち込んだように思えるファトラ。

「まあ、わたくしがアイドルですって?」

 ネネは驚いているがまんざらでもない顔をして、壮太に扇子を渡す。

「す、すげえっす、ネネ姉さん! オレを付き人にしてくれよ」

 壮太はネネをあおぎながら、自分をネネのそばに置くために売り込みをかける。
 しかしモモは、微妙な顔をしている。

「私はそういうのにはあまり興味がありません……」

 そんなモモの反応に、ファトラは目をかっと開く。

「まあ! パラミタ征服を目論むダークサイズの女子部長・妹が二の足を踏んでどうしますか」

 ネネは、常にモモの半歩後ろを歩いてきた。人前に立つなど到底想像がつかない。
 それに乗じて、総司が顔を突っ込んでくる。

「ほほう、面白そうな話をしているじゃねえか。アイドルデビューねえ。二人なら悪くないと思うぜ」
「そう思うでしょう? 私的には、二人のルックスはシャンバラ一と思って差し支えありませんわ。何よりの目的は、あなた方の人気に支えられ、ダークサイズはカッコイイ、ダークサイズはイケてる、と人々に思われることです。そうすれば、無駄な戦いをすることなく、多くのものが手に入るでしょう」

 総司の応援を得て、ファトラはさらに勢いづく。
 しかしそれでも、モモは微妙な顔をする。
 そんな彼女を見て、総司の変態魂がうずいたようだ。

「よし、それじゃあオレが一肌脱いでやろう。ま、確かにお前さんはそのままじゃあ、いや、その胸のままじゃあ、芸能界で通用しねえな」
「? 何言ってんだ?」

 トライブの反応を無視して、総司は持ってきた袋に手を突っ込む。

「本当はモモさんに意地悪するために持ってきたんだが、この際だ。こいつを使うがいい!」

 と、総司が取り出だしたるは、胸パット約20枚。

「お前さん、そのまま人前に出るのが恥ずかしいんだろう? それなら話は簡単だぜ。アイドルとしてのキャラクターを作ればいいのさ! こいつで巨乳キャラ『MOMO』を作り上げる。そうすれば、人前でも恥ずかしくねえぜ」

がたっ!

 それを聞いて、トライブが目に怒りをたたえて立ち上がる。

「何言ってやがる! 妹ちゃんはこのおっぱいがいいんだろうが! 巨乳になっちまったら、それはもう妹ちゃんじゃねえ!」
「甘いぜ、トライブさんよお。ちっちぇえおっぱいなんざおっぱいじゃねえ。そんなもんに何の価値があるんだ?」
「てめえ! ちっぱいを侮辱するのは許さねえぜ! 表に出ろっ」
「ほぉ〜、しかしよお、こいつを装着して、巨乳のモモさんも見てみたいと思わねえのか?」
「なっ、そ、それはちょっと見てみた、いや! そんなもん見たくねえ! 妹ちゃんは貧乳でいいんだっ」

 二人のやり取りを、モモが冷めた目で睨む。しかし今日の総司はひるまない。

「そんな目で睨んだって無駄だぜ! 無駄無駄ァ! これは俺たちの美学の問題なんだからな!」
「美学っていうなら妹ちゃんこそこのままでいいんだ! 見てみろ、このボディラインのバランス!」

 と、いつの間にかトライブと総司のおっぱい談義が始まりつつも、ファトラはあくまでデビューに向けて話を進めたい。

「秋葉原四十八星華などに負けていられませんわ。大総統、あなたはどう思います?」

 と、ファトラはいつの間にか到着していたダイソウに話を振る。
 ダイソウがいたことにキャノン姉妹も気づいていなかったようで、

「あら、ダイソウちゃん、いつの間に」
「トウさん、ずいぶん地味な登場ですね」

 そんな二人の言葉は気にせずに、ダイソウはファトラに、

「もしもデビューするなら、ユニット名はキャノンシスターズか?」

 と、すでに二人のユニット名を気にし始めている。
 ファトラも、フフ、と笑い、

「さすが大総統。先を見据えるのが素早いですわね。しかしユニット名はもう少し捻って差し上げた方が」
「そうか、では……ネネとモモ、ネネモモ、ネモ……ネモ船長はどうだ」
「それはまるっきりネモ船長ですわ」

 と、ダイソウの悪乗りに、ファトラもよくわからない突っ込みをしてしまう。
 ファトラはふと思い立ち、

「二人のマネージャーは私が請け負います。大総統にはぜひ、事務所の社長に就任していただきたいですわ」
「ふむ、そうか」

 ダイソウは少し考えて、伽羅を呼ぶ。

「なんですのぉ? ダイソウトウ閣下」
「伽羅よ、ちょっとこれで、芸能事務所を作るのだ。事務所名は『ニャーク・オフィス』だ」

 と、ダイソウは懐から氷雨から受け取った封筒を伽羅に渡す。

「芸能事務所ぉ? またなんでですのぉ?」
「ネネとモモがアイドルになりたいらしい」
「まあ、ダイソウちゃん、まるでわたくしたちがなりたがってるみたいに」
「私はむしろ後ろ向きなのですが……」

 ネネとモモの抵抗もそこそこに、何故かファトラの提案がとんとん拍子に進んでいく。

(芸能事務所ですかぁ……これは……儲かるかもしれないですぅ)

 と、伽羅も芸能事務所の資金を懐に収める。
 これがきっかけで、ダークサイズは芸能部門も設立し、数々のタレントを抱えることになるのだが、それはまだ先の話である……

「さあほらほら! 明日も作業はたっぷりあるんだからな! オレのデザートも全部平らげて力つけろよ。残すんじゃないぞ!」

 ネネの家の前には、たくさんのテーブルが並び、カリペロニア要塞化の作業で疲れ果てたメンバーが、思い思いの食事を取っている。
 トライブの差し入れも当然だが、このカリペロニアで店を構えようとする椿 椎名(つばき・しいな)も、開店に向けての前哨戦として、ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)と共に大量の料理を提供している。
 椎名の料理は当然のごとく好評のようで、

「よーし、これだけ貢献しとけば、オレたちの喫茶店は確実に採用だな」

 と、椎名本人もにんまりしている。
 そこにソーマが走り寄り、

「マスターマスター、あそこに大総統がいるよ!」
「よっし! 直談判して最高の立地に店を開こうぜ」

 と、椎名とソーマは、空いた皿を持ってきょろきょろしているダイソウの元へ走り寄る。

「やあやあ、大総統! はじめまして」
「ん? うむ」

 ダイソウは椎名とソーマを少し見ると、すぐにまたきょろきょろする。
 挙動不審なダイソウに、ソーマはとにかく話を続ける。

「ねえ大総統、ボクたちこのカリペロニアに店を開きたいんだ! いいかなあ? 土地はいっぱいあるからいいよね?」
「うむ、かまわんぞ。お前たちは何屋を開きたいのだ?」
「へへへ」

 椎名は指で鼻の下をこすり、

「何を隠そう、オレの料理は天下一品だからな。すべからく世界中の料理とスイーツを提供できる、喫茶店! これに決まりだな」
「喫茶店というからには、当然珈琲にもこだわりをみせるのだな?」
「当り前だぜ! 味方はおろか、カリペロニアに攻めてきた敵だってもてなしてやるさ」
「敵をもてなしたら元も子もないではないか」
「甘い甘―い! マスターの料理を食べさせれば、敵のテンションはガタ落ち! 大総統と一緒に食事会を開けば、戦わずして敵を撃退できるんだよっ」

 ソーマも親指を立てて、椎名の店の有用性を説く。
 ダイソウも興味をそそられたのか、

「ほう、では目立つ所に出店せねばならんな」
「そうそうそれ!」

 ソーマは目を輝かせて、

「やっぱマスターの夢だから、とびきりいいところに建ててあげたいんだー」
「夢か。我々ダークサイズはパラミタ大陸征服の夢を追うものだ。夢と目標を掲げる者を応援するのはやぶさかではない」
「大総統の館のすぐ前とかどうだ? 大総統には社員割引で三食サービスしちゃうぜ!」

 椎名はダメ押しに特別割引を提示する。決して無料にしないあたりが彼女らしい。

「割引だと?」

 ダイソウは眉をひそめて椎名を睨む。

(あ、やっぱタダにしてあげたほうがよかったかな……)

 椎名は、軍帽の下からのぞくダイソウの鋭い目に、一瞬ひるむ。ダイソウはゆっくり口を開き、

「では、大総統の館竣工の暁には、一階フロアをお前の店に提供しよう」
「え、館の中に作っていいの?」
「私の居場所は当然最上階にしてくれるはずだ。一階は全てお前の店にするがいい」
「え! 一階全部!? いいの、そんなことして?」
「私ばかりいい思いをしたら、何か悪いではないか」

 エビで鯛を釣るとはまさにこのこと。ダイソウは、館の一階を椎名の店に提供することにした。

「わあ! やったね、マスター!」
「でっかい店になっちゃうなぁ」
「その代わり、大総統の館一階の守護者をになってもらうぞ。少年マンガによくある設定のやつだ」
「げ、なんか責任重大だなあ」
「そして、店の名前は私が決める。お前の名前は何だ?」
「あ、椿椎名だけど」

 よくよく考えると、名も知らぬ相手に館の一階をまるごと提供しているダイソウであった。

「よし、ではお前の店は『椿屋珈琲店』だ」
「あれ? その名前、聞いたことあるような……」
「大丈夫だ。怒られたらその時考える」

 というわけで、無事椎名の店の立地場所は決まる。そしてまたダイソウはきょろきょろし始める。

「そういえば、料理はもうないのか?」

 周りを見ると、差し入れや椎名の料理はほとんど片づいてしまっている。

「あれ? 大総統まだ食べてなかったの?」
「私が着いたころには、もうなくなっていた」
「あ、そうだったんだ……」
「毎度どうもー! 蒼空軒でーす! 遅くなりましたー」

 と、ちょうどそこに、空飛ぶ箒にまたがって飛んでくる、ヒーローの着ぐるみ。
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、正体がばれないように顔を隠してダイソウの前に降り立つ。が、彼の変装は怪しさ満点である。

「何者だ?」
「どうも! 蒼空軒です!」
「あおぞらけんは分かった。お前の名はなんだ」
「蒼空軒でーす」
「だからお前の……」
「蒼空軒でーす」

 涼介は、正体がばれたくないのか、蒼空軒で押し切る。

「えー、今日はね、カリペロニア大改装ということで、ダイソウトウさんにお祝いの料理をと思いましてね」

 涼介は変装した時にありがちなテンションの盛り上がりで、いつもとキャラクターが微妙に違う。
 とにかくお腹が減っているダイソウは、

「ほう、では早速食べさせてもらおう」

 と、涼介を急かす。

「もちろんですよ。まー、今日は私の本気の料理を味わっていただこうと思いまして、こちらに!」

 と、涼介は持参したトローリーケースを、ドン、とテーブルに置く。

「おかもちではないのか。料理がぐちゃぐちゃになってしまうではないか」

 空腹のダイソウは、不安いっぱいに涼介を見る。
 しかし涼介は自信満々に、

「大丈夫ですよ。さあ、本日の料理はこちら!」

 涼介がケースを開くと、中には米と卵とネギにチャーシューと、食材が並ぶ。

「材料ではないか」
「今から作ります」
「すぐに食べたいのだが」

 ダイソウのクレームはそっちのけで、涼介は手早くまな板、包丁、カセットコンロに中華鍋をセットする。

「ダイソウトウさん、期待してください。本日の料理は、美味しく手早く、見た目も美しい、黄金炒飯ですよ」
「ほう、黄金炒飯」
「本日の材料はこちらとなっております」

 涼介は誰とはなしに解説しながら、炒飯を作りはじめる。

「黄金炒飯の決め手は炒める前に米と卵を和えておくことですね。それによって米が金色に輝くという」
「うむ、知っているぞ」
「では早速、こうやってですね……お米に卵を合わせまして」

 涼介はボールに冷や飯を入れ、卵を溶いて加える。

「で、混ざったものがこちらです」

 と、涼介はテーブルの下からきれいに混ざった米を取り出す。

「最初からそれを出せばいいではないか」
「さあ、これを油を敷いた鍋に入れまして、刻んだ葱とチャーシューを加えるわけです」

 涼介は熱した中華鍋に材料を投入。香ばしい香りが広がる。

「で、このように強火でざざっと……炒めたものがこちらです」

 と、涼介はテーブルの下から完成した炒飯を取り出す。

「最初からそれを出せばいいではないか」
「はい、召し上がれ」

 涼介は炒飯に蓮華を添えて差し出す。

「うまい!」
「どうです、空腹の上にじらされて食べる料理は美味いでしょう」
「お前……一体何者?」
「私は! 謎の光の正義の公開の料理人! 蒼空 軒(あおぞら けん)だ!」
「名前だったのか」