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【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン

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【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン
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 そしてここにもハロウィンを
 
 
 外の賑やかなハロウィンの喧噪も、ソフィアの屋敷にまでは届かない。
 まだ子供が小さいからと、今年はソフィアはハロウィンへの参加は辞退していた。だから10月31日の今日も、ソフィアの家はいつもと変わらぬ日々が……のつもりだったのだけれど。
「ママ〜、飾り付けはこれで良い?」
 ジャコランタン等の飾りつけを終えた夜魅がコトノハに確認する。コトノハには休んでいてもらいたいからと、夜魅が飾り付けを引き受けていたのだ。
「はい、それでいいですよ。これでソフィアさんのお家もハロウィンらしくなりましたね」
 黒とオレンジのハロウィンカラーに飾られた居間を、コトノハは目を細めて眺めた。
「これがハロウィンの飾り付けなんですのね」
 ジャコランタンを手に取り、面白い顔、と微笑むソフィアに、コトノハはハロウィンのいわれを語って聞かせた。
 居間に置かれた豪奢なゆりかごの中では、すやすやと赤ん坊が眠っている。
 ピンクのベビー服には百合の刺繍が白く入っている。おもちゃのカラーもいかにも女の子用、という暖色系のものばかりだ。
「名前は何と付けたんですか? 音鈴、でしょうか?」
 コトノハが気になって尋ねると、ソフィアは赤ん坊の枕元へ近づいた。
「いいえ。あれから家族で相談して、ミレイと名付けましたの」
 そう言いながらソフィアは空中に、『美礼』という漢字を書いた。
「ラテルでも受け入れられる名前ですし、礼というのはわたくしが最初につけたかった『夜露死苦』と同じく、人によろしくお願いしますと頭を下げることだと伺いましたので」
「それは良かったですね」
 夜露死苦と名付けられずに済んだミレイに、良かったですねと心の中で呼びかけたコトノハは、う、と口元に手を当てて呻いた。
「あら、もしかして……」
「はい、2ヶ月なんです」
 ソフィアの問いかけに、コトノハははにかみながら答えた。
「初産なので色々不安で……。ソフィアさんは妊娠中、どんなことに気を付けられました? 胎教とかはされたのでしょうか?」
「特別なことは何も。けれど、ミルムに来ていた学生の皆様に良くしていただいたお陰で心安らかに過ごせましたので、それがよかったのでしょうね。元気なよい子を授かりました」
 ソフィアは愛しくてならないように、ミレイの髪を指で梳いた。
「出来ましたら育児の練習をさせてもらってもいいですか?」
 分からないことだらけで不安だから、とコトノハが言うと、ソフィアはどうぞと優しく母の顔で微笑んだ。
 
 
 また来客だという知らせに、ソフィアが玄関に出ると。
「トリック・オア・トリート〜♪」
 元気いっぱいの声でジャックオーランタンが顔を出す。
「トリック・オア・トリート!」
 その隣には緑の服に帽子をかぶったピーターパン。
 何事かとソフィアは驚いたけれど、先ほどコトノハから聞いてあったハロウィンの話を思い出す。
「お菓子をあげるのでしたわね。でもどうしましょう。ハロウィンに参加するつもりがなかったから、お菓子の用意がありませんの。少し待っていて下されば、何か見繕って参りますわ」
 家の中に戻って行こうとするソフィアを、広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)はカボチャの頭のかぶり物を取って呼び止めた。
 ピーターパンはウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)の仮装だ。ファイリアがカボチャ頭なら自分は魔女の仮装でも、と思ったのだけれど、それでは美少女戦士ハッピー☆ウイッチの衣装とほとんど違いがなくなってしまう。せっかくのハロウィンだから、普段はしない衣装を、とウィノナは自分が好きな童話の主人公に扮してきたのだった。
「大丈夫ですっ。お菓子も持って来ましたですよー。ソフィアさんにハロウィンのご挨拶ですー」
「あら、お菓子とお化けがいっしょにやってきたんですの?」
 ファイリアの挨拶に、ソフィアは楽しそうに笑う。
「いっしょにハロウィンのお菓子を食べたいと思ってきたのですっ」
 赤ちゃんが小さくてハロウィンに参加しないと聞いたから、と言うファイリアとウィノナを、ソフィアはどうぞと家に招き入れた。
「ハロウィンの飾り付けはしてあるんだね」
「ええ。コトノハさんたちが飾り付けをしてくれましたの」
 ウィノナに答えてソフィアが示した所では、コトノハと夜魅がゆりかごの上にかがみ込んでいた。入ってきたファイリアたちに気づいて挨拶をすると、コトノハはミレイに掴まれた指をちょっと持ち上げてみせた。
「ミレイちゃん、さっき起きましたけれど、機嫌良くしててくれてます」
「ソフィアさんの赤ちゃんですかー? わぁ、ちっちゃくて可愛いですっ」
 ファイリアがゆりかごをのぞき込み、ミレイのぷくぷくの頬に触れる。まだどこもかもほにゃほにゃと柔らかい。
 持ってきたお菓子を目の前で揺らしてみると、おもちゃだとでも思うのかじっと目で追っている。
「お茶の準備をして参りますので、ミレイのことよろしくお願いいたしますわね」
 そう言って居間を出て行ったソフィアは、今度は翡翠たちを伴って戻ってきた。
「もう1人、ジャックオーランタンさんにお越しいただけましたわ」
「皆さんも来ていたんですね」
 出かけられず、子供たちを招き入れるのも赤ん坊がいるからと躊躇していたソフィアのところまで、ハロウィンを届けに。
「では皆さんにも、『トリック・オア・トリック』。甘いお菓子を虫歯になっちゃうくらい食べて下さいね」
 残しておいたお菓子全部を翡翠はソフィアに渡した。
「ありがとうございます。ちょうどお茶の準備をしてきた所ですの。皆さんからいただいたお菓子でハロウィンのお茶会にしましょう」
 翡翠とファイリアが持ってきたお菓子を真ん中に、おいしいお茶をいれて。
「ファイ、たくさんハロウィンのお話、調べてきたんですよー」
 ファイリアがハロウィンの話をすれば、ウィノナは自分のしている仮装のピーターパンの話をソフィアに披露した。
「地球にはそんなお話があるんですのね。こちらの言葉に翻訳されている絵本があれば読んでみたいですわ」
 この子にも、とソフィアはミレイを見つめた。
「ピーターパン以外でも、おすすめの絵本はミルムにもたくさんあるよ。さみしがりやの幽霊の話は知ってる?」
「さみしがりやの幽霊?」
「うん。子供たちが暮らしている教会の裏手にある墓場に、さみしがりやの幽霊がいてね〜」
 ウィノナが語る童話を聞きながら、ハロウィンの夜は更けてゆく。
 そんな夜を楽しみながら翡翠は、ハロウィンの持つ魔除けの起源のように、ソフィアやミルムの皆、ラテルの人々が健やかであるようにと願うのだった。
 
 
 万聖節が来る前に
 
 
 外を回る子供たちが帰って行くと、ミルムには静かな夜が訪れた。
 秋の彩りはまだ飾っておけるけれど、ハロウィン特有の飾り物は明日までに片づけておきたい。
 ジャコランタンを集めてきたファタは、ふむ、とそれらを見やった。
 地球のハロウィンで使われるのは、専用の堅くて大きなカボチャだ。食べてもあまりおいしくないかわり、水気の少ないカボチャで作られたランタンは何日ももつ。けれどラテル付近では、そういうカボチャを栽培している所などない為、飾り物は普通の食用カボチャの大きいものを使って作られている。
「明日にはもうしぼんでしまいそうじゃな」
 カボチャの状態を確かめると、ならば今のうちに、とファタはジャコランタンをキッチンに運び込んでカボチャパイを焼き上げた。
 片づけを終えた手伝いの皆に、ファタはパイを切り分け、シナモンティーを振る舞う。ハロウィンのイベントを手伝ってくれた皆に、トリックのないトリートの時間を提供する為に。
 
 
 その後発行された絵本図書館ミルム通信には、ハロウィンを楽しむ人々の様子が載せられた。
 見知らぬ土地の見知らぬ文化。
 生徒たちによって開かれた別世界への扉の向こうに、ラテルの人は何を見、何を感じたのか。
 トリック?
 それともトリート?
 どちらであっても、それはきっと楽しいハロウィンの思い出と共に――。
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

 絵本図書館ミルムのハロウィンにご参加いただき、ありがとうございました。
 遅延のお知らせをした直後に熱を出してしまい、お知らせよりも更に遅れてしまって
申し訳ありません〜〜。
 
 ハロウィンの時期になると、あちらこちらで黒とオレンジの飾り付けがされて、それを
見るだけでうきうきしてきます。
 実際にしたことはないのですけれど、ハロウィン仕様の紅茶とお菓子のセットを買って
みたり、パンプキンケーキを食べてみたりして、ささやかなハロウィン気分を味わうのが
とても楽しくて。
 そんな、お祭りに近いハロウィンをミルムでもやってみたくて、こんなシナリオを出させて
いただきました。そしたらリアクションでばたばたしてるうちに、ハロウィンが後回しに〜。
 なので私の今年のハロウィンはこのリアクションです(笑)。

 皆さんは今年、どんなハロウィンをお過ごしになったのでしょうか〜。
 このミルムのお話が、そのうちの思い出の1つになれば幸いに存じます〜。