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【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン

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【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン
【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン 【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン

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 ハロウィン企画 『お化けカードを探そう』
 
 
「さあさあ皆様、少々お耳を貸してくださいねぇ〜」
 すっぽりとシーツをかぶったお化けが、そう言って子供たちを手招きする。シーツの中身は佐々良 縁(ささら・よすが)だ。
「しっかしベタな仮装だよな〜」
 そう呟く佐々良 睦月(ささら・むつき)の仮装もかなりベタな、包帯をぐるぐる巻きにしたミイラ。ただし通常のゆうに3倍は包帯を増量した『いやというほど包帯巻きしたミイラ』の仮装となっている。
「文句言わないの。それ巻くの大変だったんだからねぇ」
「そのわりに楽しそうに巻いてたように見えたけど?」
「ふっふっふー。それは後のお楽しみってことで〜」
 妙に機嫌の良い縁の様子になんだかいやな予感がするけれど……。
「こういうのは分かりやすい仮装が良いんですよ」
 魔女っ子に扮したクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)に言われ、それもそうかと睦月は納得した。いやな予感より何より、今は目の前のハロウィンの方に心惹かれる。昨日、この為に睦月はミルムのあちこちに仕込みをしたのだから。
 そう睦月が気を取り直すうちにも、縁は集めた子供たちにハロウィンの説明を始めている。
「今日ミルムに来て、お菓子をもらったり仮装したりして、なんだか不思議だなぁって思った人、手を挙げて〜」
 手を挙げた子供たちに、だよねぇと縁は肯きかけた。
「これはねぇ、地球のハロウィンっていう行事なんだよぉ」
 そう言って、分かりやすくハロウィンのいわれについて解説をしていった。
 ハロウィンはどういうことをするのか、どうして仮装して家々を回るようになったのか、子供たちにも興味をもってもらえるようにと気を配りながら語り。
「……と、こうして化けさんが来る日なので、仮装して仲間ですよっとやるわけです」
 そう締めくくると、縁は子供たちの方に身を乗り出すようにしてこう付け加えた。
「それから、この絵本図書館にもいくらか化けさんが紛れこんじゃったみたいですねぇ」
 どういうことかと目を丸くして聞き入っている子供たちに、今度はクエスティーナが説明する。
「私たちと同じ姿のハロウィンのお化けが、カードになってミルムのどこかに隠れちゃったみたい」
 縁のシーツお化け、睦月のミイラ、自分の魔女、そしてサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)の扮した吸血鬼を、クエスティーナは順に指していった。
「みんなで、どこにお化けのカードが隠れているのか探してみましょう。カードは4種類。全部集められるかしら」
 クエスティーナが誘いかけると、子供たちはあちこち探し始めた。
「探すときには気をつけてねー。お化けさんたちは隠れてるだけあって、騒がれるとにげちゃうかも。図書館には本を読みにきている人もいるから、そーっと探してねぇ、約束だよー?」
 カード探しに夢中になった子供たちがうるさくしたら、他の人の邪魔になってしまうかも知れないと、縁はそっと子供たちに注意しておく。いくらハロウィンのイベントをやっているからといっても、ミルムは図書館なのだから騒ぎすぎるのは禁物だ。
「あった!」
 早速1枚目を見つけた子供がカードを高く差し上げる。子供たちが取りにくくないよう、そしてあまり一カ所に固まりすぎないようにと睦月が苦心して隠したものだ。
「もう見つけたのですか。早いですね」
 サイアスはそう褒めて、魔女のカードを裏返した。
「こちらにはお化けの説明が書いてあるんですよ。それだけでなく、4種類集まったのをあわせてみると……さて、どうなるのかは集めてからのお楽しみです」
 このお化けカードは、普段は写本をしている手を止めてハロウィンゲーム用に作ったお手製カードだ。さすが普段絵本の写本をやっているだけあってか、図柄はどれも絵本の登場人物であるかのような可愛さだ。
 表にはお化けの絵、裏にはその説明と4枚つなげるとジャックオーランタンの図柄になるような背景が描かれている。
 これは全部集めなければと、子供たちはむきになってカードを探し始める。子供たちのカード探しがうまく行くように、トラブルがないようにと4人は見守るのだった。
 
 無事に子供たち全員がカードを集め終えるとゲームは終わり。
 カードを大切そうに持って帰ってゆく子供たちを見送ると、やれやれと縁はのびをした。
「とりあえず成功したみたいだねぇ。みんな楽しそうだったよぉ」
 で、と縁は睦月をむんずと掴む。
「ねーちゃん何だよ? 終わったんなら早く着替えたいんだけど」
「ふふふ、任せなさーい」
 縁は睦月に巻いた包帯の端をぴょーんと引っ張った。
「な……だああああああああああ?!」
 ぐるぐると両腕で包帯を巻き取る縁の動きにあわせて、睦月がくるくると回る。
「あーーれぇぇーーー!」
 町娘のような悲鳴を上げつつ回転すると、睦月は目を回してばったりと倒れた。
「くるくるくる〜ですね」
 くすくすと笑って見ていたクエスティーナだったけれど、その身体が後ろからマントに包まれる。
「誰?」
 振り返ろうとした首に牙が当てられるのを感じ、クエスティーナは気を失った。
「お帰りの時間ですよ、姫」
 作り物の吸血鬼の牙でクエスティーナを驚かせたサイアスはそう言って彼女を抱き抱えると、優雅に一礼して去って行ったのだった。
 
 
 
 ハロウィン企画 『らくらくおかあさん ハロウィンスペシャル』
 
 
 いつもは子供たちの親に自由な時間をあげる為に開催されている『らくらくおかあさん』企画だけれど、ハロウィンの今日は秋イベントとして、親子一緒の参加も歓迎、としていた。
 堅苦しい企画ではないから、子供たちはカーペットの上で自由に転がったり、クッションを抱えたりして自由に過ごしている。
「めっ。遊ぶのはいいけど喧嘩はダメだよ。お友達とは仲良くねっ」
 冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は叩き合いを始めた子供の間に入って仲裁したり、仲直りして遊び始めた子の面倒をみたりしている。マントと牙で吸血鬼に扮した千百合を最初は怖がっていた子供たちも、遊んでくれる相手だと認識すると甘えてまとわりついてきた。
「そうだったのですかぁ……良かったですねぇ……」
 マントと帽子で魔女に扮した如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)は子供たちの話し相手……というよりは、話したい子供の聞き手役となって、あれこれと四方山話に付き合っていた。
「お姉ちゃん、これ読んでー」
 絵本をぐいと押しつけられて、日奈々は困ったようにうつむく。
「お姉ちゃん……目が、見えないから……本を、読んであげることは……できないの……ごめんね……」
 文字を読むのは勘ではどうにもならないから、と寂しそうに言う日奈々の手から、千百合が絵本を取り上げた。
「じゃあこれはあたしが読んであげるね。あたしは日奈々の目なんだから」
 膝の上に絵本を広げると、のぞき込んでくる子供にゆっくりと千百合は絵本を読んであげるのだった。
 
 子供たちがある程度遊んだのを見計らい、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はその前に1つずつカラフルな箱を置いていった。
「これなぁに? 開けてもいいの?」
「うん、開けてみて。色んなものが入ってるよ」
 ルカルカが言うと、子供たちはすぐに箱を開けた。
 中には様々なものが入っている。花、紅葉、ミニミニのカボチャランタン、薄の穂、作り物のトンボ、栗、さつまいも……この季節に関わりのあるものばかりだ。
「これらのほとんどは、ミルムのそばで見つけられるものなんですよ」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が箱から品物を取り出しながら言う。落ち葉は実際にこの近くで拾ってきたものだし、トンボはラテルでも見られる種類を模してある。今日の為に皆で付近を回って秋らしいものを集め、それを箱に詰めたのだ。
「コレ何か知ってる人〜」
 ルカルカは箱の中から取り出したものを子供たちに見せた。
 わあわあと子供たちが、てんでに名前を言う。
「そう、トンボだよね。でも、トンボにもいろいろあるのは知ってる?」
 ルカルカはそう言ってトンボの描かれた図鑑を広げてみせた。
「こんなにいっぱい種類があるのよ。見たことのあるトンボがいるかどうか本で探してみてね」
 本を眺めては、これ知ってる、違う、と言い合う子供たちの様子を見守るルカルカに、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)はちょっと感心する。任務で敵に見せる姿からは想像つかない、教え上手なお姉さん、といった様子だ。
「最終兵器お姉さん、か」
 つい漏れた呟きに、ほえ? とルカルカが顔を上げる。
「い〜や、ナンでもねぇよ」
 何食わぬ顔で口笛を吹くカルキノスにルカルカは訝しげな顔を向けたけれど、すぐに子供たちへと意識を戻した。
「こうやって……調べると……ね、載ってるでしょ?」
 ルカルカが子供たちに教えるのは、知りたいことの答えではなく、どうしたら自分の知りたいものを調べられるか、という方法だ。
 調べ方を知れば、物語を楽しむばかりではなく、本は知識の源としても役立てられるようになる。自分で何かを知ってゆく喜びを、子供たちには知ってほしい。
「これはなんだか分かるか?」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が掲げてみせたものに、
「お花ー」
 と子供たちの答えが返ってくる。
「一括りにするとこれ全部『花』になるけど、さっきのトンボと同じように花にもたくさん種類があるんだ。これはコスモス。ミルムの入り口近くにも咲いてただろう? それからこっちの花はケイトウ。この赤くてひらひらしたの、何かに似てると思わないか?」
 花に関してのことは任せておけとばかりに、エースは何種類も取りそろえてきた花の説明をしてゆく。
「鶏のトサカにそっくりだから、地球の日本ではこれを鶏頭、ケイトウって呼ぶんだ。学名の意味するのは『燃焼』。そう言われると、炎が燃えさかっているようにも見えるよな」
 秋の花は夏の花のような華やかさはないけれど、風情あるたたずまいの花が多い。
「じゃあ次はこっちの実だ」
 エースが取り出したのは、鮮やかな黄色い実だった。レモンの端の片方をちょっとのばして、逆側の端にはつんつんと小さな角が幾つも突き出ている。
「これは何に見えるかな?」
 言いながらエースは、黄色い実に目を描き、ひげを引いた。
「あっ、キツネだ!」
 確かにその実は、鼻先がつきだした顔につんっと耳が生えたキツネに見えた。
「フォックスフェイス、キツネの顔、って言うんだぜ。なかなか楽しい形だろう?」
 花のこととなると、エースにも熱が入る。あれも見せようこれも見せようと持ってきた秋の花や実を説明するエースの横で、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は花の図鑑のページをめくる。
「ここにも花のこと、詳しく書いてあるんだよ。ほら、他にもいろんな花がいっぱい」
 学ぶには、実際にそのものをみるのが一番だけれど、本には先人の知恵が詰まっている。簡単には手に取れないものも、本から学ぶことができる。
「これいい匂いがするね」
「これはキンモクセイ。1本裏の道を歩いていて見事な樹を見つけたから、家の人に頼んで分けてもらってきたんだ。ミルムからも近いから、気をつけて歩いてみれば、匂いを頼りにどこに咲いているか分かるかも知れないぜ」
「そういえば、かいだことあるかも……」
 キンモクセイの匂いを記憶しようというように、子供は目を閉じて花の香りをかいだ。
 秋の野菜を示してみると、予想通り、こちらは子供たちも良く知っていた。露地栽培が主なラテルだから、旬な作物については地球の子供よりも詳しいのだろう。
 そうしてしばらく調べものをしたりして遊んだけれど、子供の集中は長くはもたない。
 飽きてしまう前に一通りの説明を終えると、ルカルカは子供たちに出したものを箱に戻してもらった。そして、元気よく立ち上がる。
「さあ、この箱を持って、ミルムに秋の魔法をかけにいこう」
 先に立って歩き出したルカルカの後を、箱を大切そうに抱えた子供たちがはしゃぎながらついていった。
 
 箱に入れてあった品物にはどれも、飾り用の紐がつけてある。軽いものには吸盤もついていて、窓やつ滑らかな面に自由に貼れるようになっていた。
「んー、くっつかないの……」
「こうやって……きゅ、っとおさえて……」
 うまく吸盤を扱えない子の手に手を添えて、日奈々が貼るのを手伝う。
「吸盤の……空気、を抜くようにすると……じょうずに、くっつくはず、ですぅ〜」
「くっついた!」
 嬉しそうな子供の声に、日奈々も笑顔を誘われる。
「高いところにつけたいのか? ほらよ」
 カルキノスは箱を持った子供を、高く持ち上げてやった。持ち上げられた子供は驚いて目をぱちぱちさせていたけれど、すぐに熱心に飾りをつけだした。
「あっちも!」
「ん? どこだ? って、登るのはちょっと待ってくれ」
 自分も高いところに飾りをつけようと背中を登りだしている子に、カルキノスは身体をねじるようにして言う。が、その声に気づいた他の子供までやってきて、いつものように『カルキのぼり』しようと取り付きだす。
「分かった分かった。遊んでやるから少しだけ待ってろ」
「さすがにそれではカルキノスさんが動けないですよ」
 子供たちにまとわりつかれ、動きの取れないカルキノスに気づくと、ザカコは笑いながら子供の1人を下ろした。
 その子供を肩車して、高く持ち上げてやる。
「向こう側を飾り付けてみましょうか。順に肩車していきますから、こちらに来て下さい」
 子供たちの何人かを、ザカコは別の飾り付け場所へと連れて行った。
「ほら、あそこにも吊り下げるところがありますよ」
 飾り付け用にとあらかじめ天井から下げておいたフックを示すと、子供は喜んでそこに小さなカボチャの飾り物を引っかけた。
 あちらでは紅葉、こちらでは栗。
 1つ飾り付けるたび、ミルムに秋が増えてゆく。
「花は傷めないようにそっと扱うんだよ。大事に世話をすると、花もそれに応えて長い間きれいに咲いていてくれるんだ」
 エースは子供たちと一緒にミルムに花を飾っていった。
 
 そうしてミルムに秋の飾り付けをし終わると、今回の『らくらくおかあさん』企画は終了だ。最後に、参加者にはお菓子の入ったポーチが渡されてゆく。
「トリック・オア・トリート。ハロウィンではそう言ってお菓子をもらうんですよ」
 ザカコはそう言いながら、子供たちにおみやげのポーチを手渡した。
「お疲れー。食べるのはお家に帰ってからにしてくれよ」
「ここじゃ……食べちゃ、だめ……だから……おうちに、着いてから……あけてね、ですぅ〜」
 エースと日奈々はそう注意してからポーチを配る。
「ちょっとだけ……でもダメ?」
 上目遣いで頼んでくる子供には、ルカルカが言い聞かせる。
「図書館は食べるところじゃないからね。だからお菓子は、おうちに着いてからのお楽しみ♪」
 みんなにお菓子のポーチを配り終えると、
「ばいばいー」
「またねー」
 口々に言って元気に帰っていく子供たちを、らくらくおかあさんのメンバーは笑顔で見送ったのだった。