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【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン

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【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン
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 ハロウィンの日のはじまりはじまり 
 
 
 
 10月31日。
 ハロウィンイベントを控えて、ミルムには朝から手伝いの生徒が多くやってきていた。
 あちらで飾りつけの最終確認をしているかと思えば、こちらではお菓子のラッピング。
 そんな中、貸出カウンター前ではひと悶着起きていた。
「沙幸何だよこの衣装!」
 樹月 刀真(きづき・とうま)の抗議に、久世 沙幸(くぜ・さゆき)は悪びれずに衣装を押し付ける。
「何って、ハロウィン用の仮装。ちょっと違いのお揃いにしたんだよっ。はい、刀真のはこっちの大きい方。月夜と白花のはこれね。編み上げリボンのついてるのにしたから、サイズはそれで多少調整できるようになってるから」
「ハロウィンという行事では、こういうものを着るのですか?」
 封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は、沙幸から渡された衣装をテーブルに広げてみた。
 ロングのメイド服とフリルたっぷりのエプロン。ホワイトブリムとネコ耳と尻尾飾り。ストッキングにガーターベルト、猫足スリッパ。せっかくのハロウィンなのに、いつもの格好だなんてもってのほか。自分がみんなの分の衣装を用意する、と沙幸が大見得をきって誂えたものだけに、力が入っている。
「可愛い」
「でしょ?」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の呟きに沙幸は胸をそびやかした。
 実は、任せてといったものの、沙幸は男性用の仮装なんて全く思いつけなかった。その為、女装だって仮装のうち、と自分を納得させてこのミニスカネコミミメイドの服を用意してきたのだ。
「俺は狼男の仮装をする予定だったんだが……」
 沙幸がはりきって仮装の準備を引き受けてくれたからそちらの予定はキャンセルして任せたのだが……もしかしてそれは大間違いだったのか、と刀真はミニスカメイド服を見つめる。
「大丈夫大丈夫。スイーツフェスタの時も良く似合ってたじゃない」
「いや、あの時のギンガムチェックは仕方なかったんだ!」
 そんな趣味があると思われてはたまらないと刀真が抵抗している間にも、
「白花着替えてこよう」
 月夜は白花を誘って、さっさと着替えに行ってしまう。
「今日はハロウィンだよ。どうせ周り中みんな仮装してるんだもん。女装してたってそういう仮装だと思われるだけで、おかしいって言う人なんてゼッタイいないはずだもん!」
「それはそうだが」
「ハロウィンの手伝いをするのに普段着なんてありえないよ。私も同じの着てあげるからみんなでミニスカメイドやろうよっ」
「コレも仮装か……」
 気は進まないながらも刀真がじいっとメイド服に目を落としていると。
「何だ、みんな来てたのか」
 ふらっと入ってきた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が、知りあいの顔を見て足を止める。
「正悟もハロウィンの手伝いに来たの?」
「いや。絵本を借りてきてくれと頼まれて立ち寄ったんだが、今日はハロウィンだったのか」
 カボチャの飾りつけやラッピングされて置かれているお菓子。黒とオレンジのハロウィンカラーで彩られているミルム内を、正悟は見回した。
「そうだよ。せっかくだから正悟も参加しない?」
 沙幸に誘われて、正悟は別にいいけどと答える。
「参加と言われても俺はあまり詳しくないんだけど、仮装パーティでよかったっけ? トリックオアトリートとか、トリックオアデローンとか、そういうの」
「そうそう。ちょうどお揃いの仮装があるんだよっ」
「んじゃありがたく借りるとするか」
「あ……」
 止める間もなく正悟が承諾してしまい、刀真は小さく息をついた。これはいよいよ覚悟を決めねばならないようだ。
「じゃあこれ。刀真と一緒に着替えてきてねっ」
「沙幸は色違いのお揃いを正悟にも渡す。
「ってなんだよ、この衣装!」
 途端にあがる正悟の声に、ああやはりと刀真は思ったのだけれど。
「許せん! ネコミミなら俺が作ってある奴を使わんでどうする!」
 正悟の抗議は衣装の中にあるネコミミに向かっていた。
「そのネコミミも可愛いと思うんだけどな」
「いや、これには手作りならではのこだわりがない」
「だったら今度ネコミミつけてもらうときには、正悟に声かけるようにするね。今回はこれで我慢して。代わりにこのさらさらロングのウィッグもつけてあげるから、ねっ」
「仕方がないな。……って、いつの間に俺、女装することに決めてるんだ?」
「早く着替えてきてね。みんな揃ったらケータイで記念撮影だよっ♪」
 自分も用意しなければと、沙幸はメイド服を持っていそいそと行ってしまい。
 残された正悟と刀真は互いに目を見合わせた後、苦笑しつつ着替えに行くのだった。
 
 
「ね、もしかしてその服着てカウンターにいるつもり?」
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)に言われて、御凪真人は自分の服を見た。いつもと変わらぬ服装だ。
「そのつもりですけれど、これではまずいですか?」
「ハロウィンって、ようは仮装パーティみたいなものでしょ? 一応ミルムは企画した側なんだし、そのカウンターに普通の服を着て座ってるのはどうかと思うわよ」
 セルファの指摘は尤もだと思ったけれど、真人はそんな準備はしてきていない。
「お客さんに貸し出す用の衣装を貸して貰えないか聞いてきます」
 そう言ってカウンターから出ようとした真人の前に、セルファはふかふかした布の塊を差し出した。
「そうだろうと思って、ちゃんと用意してるわよ。はい、どうぞ」
 広げてみれば、狼男の着ぐるみだ。
「ベタな仮装ですね」
「文句言わないの。さ、私も着替えて来ようっと」
 今日はいつもの来館者に加えて、ハロウィン目当てに来る人もいるだろう。きっと多くの人が来るだろうからと、セルファは手早く着替えを済ませて戻ってきた。
「セ、ルファ……? ちょっと露出度高くありませんか?」
「そうかな? 仮装するならいつもと違う雰囲気のが面白そうだと思って着てみたんだけど……ヘン?」
 露出度高めのキュートな小悪魔風衣装を着たセルファは、心配そうに真人に尋ねる。
「い、いえ別に……」
 真人はセルファの健康的な色気を直視できず、眼鏡を直すようなそぶりで視線を逸らした。
「見て見て。ここんとこ、良く出来てる衣装だと思わない?」
 真人の気も知らず、セルファは衣装のあちこちを引っ張ってみせてくる。
 そのことにうろたえている自分に驚いて、真人は意識をセルファの衣装から別のものに向けようと試みる。
「ええと、その……そう、セルファ、どうして俺の扮装は狼男なんですか?」
 目についた自分の仮装へと話題を転換……したつもりが。
「だって言うじゃない。男はオオカミなのよって」
 屈託なく笑うセルファに眩暈を覚えながら、真人はコミカルな狼男を被った顔をうつむけた。
 
 
 かぼちゃ頭が、重ねた箱を抱えてカウンターにやってくる。
 被っていたジャコランタンを取ると、その下からはファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)の顔があらわれた。
「絵本を借りてくれた子にあげるお菓子はここにおいておくからの」
 貸し出しカウンターに、ファタはオレンジと白の箱を載せた。箱の中には、皆がミルムで焼いたクッキーやケーキ、差し入れてくれたお菓子がきれいにラッピングされて入っている。
「こちらのオレンジ色の箱に入っているのはカボチャのお菓子じゃ。カボチャが苦手な子にはこちらの白い箱に入っているお菓子を渡すのじゃぞ。せっかくのハロウィンのお菓子、嫌いなものに当たったらガッカリするじゃろうからのう」
 そう説明するファタの扮装は、黒のキャミソールにオレンジのかぼちゃパンツ。オーバーニーソックスにハイヒール。腕にはロンググローブをはめ、長いマントを肩から垂らしている……という念の入った格好だ。
「お菓子と一緒にこのカードも配ってくれるかな。ハロウィンのポップアップカードを作ってみたんだ」
 白菊珂慧はお菓子の箱のすぐ横に、小さなカードをいっぱいに入れた箱を置いた。外で配る人に渡した残りのカードだけれど、それでもかなりの数がある。
「裏で業務してくるよ。もし手が足りなかったら呼んでくれていいから」
 夜なべしてカードを作成した珂慧は眠そうに目をこすると、カウンター裏の業務室へと入って行った。入れ替わりに、ファタはかぶってきたジャコランタンをカウンターの上に飾り、カウンター業務につく。
「ああ。通常業務は任せておくのじゃ。おぬしも今日くらいは業務は皆に任せて、ハロウィンのイベントを回ってきたらどうかね?」
 ファタに勧められて、いつものように業務にいそしんでいたサリチェは、私? と顔をあげる。
「みんなに手伝ってもらっているのに、私が遊んでたら申し訳ないわ」
「はじめての催しじゃから気になるじゃろう? わしは地球でハロウィンは何度もやっとるからの」
「そう? じゃあお言葉に甘えて、後で少しだけ見に行って来ようかしら」
 元々、自分でも興味があってやろうと考えたイベントだ。サリチェは嬉しそうに肯いた。
「それなら今のうちから着替えておくと良いぞ。仮装もちゃんと用意してあるからのー」
 ファタはとんがり帽子の魔女の衣装を取り出した。
「あら。準備万端なのね」
「もちろんじゃ。こういう時は楽しむものじゃぞ」
 サリチェに衣装を渡すと、ファタはにんまりと笑った。