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はじめてのひと

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●君の唇を今度のデートで予約するね

 二人揃って携帯を『cinema』に変更し、帰宅するなり水神 樹(みなかみ・いつき)は、心のこもったメールを佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に送る。
(「いつもは照れてしまって、気持ちを上手に言えないんですよね……」)
 だからこそのメールだと樹は思った。
 込めたいのは、ありがとうと大好きの詰まった想い。時間をかけて文章に仕上げる。

「弥十郎さんへ

 こんにちは。
 新しい携帯での最初のメールは弥十郎さんに送りたいなって思い、メールしました。

 なにから書けばいいのかな。
 いつも、本当にありがとうございます。
 弥十郎さんといるととっても幸せな気持ちでいっぱいになるんです。
 言いたいけど、上手に言えないこともこのメールで伝わったらと思います。

 おつきあいを初めてから一年が過ぎましたね。
 はじめて出会った日や、つきあうきっかけになったあの薔薇園の思い出など、どれもが宝物のように輝いています。

 普段はなかなか上手に言えないけど、このメールで少しでもあなたへの想いが伝わったらいいな。
 弥十郎さん、あなたのことを愛しています。
 ずっと、あなたの隣にいたいです。」


 たった六文字の『愛しています』を、打つのにちょっと勇気を要した。
 どきどきしながら送信する。
 その頃、弥十郎も水神樹への文面を考えつつ、前の携帯電話から転送されたメールを眺めていた。未送信箱に、一件だけ、ぽつんと残されていたメールである。
「このメール、結局出せなかったやつかぁ……まだ付き合う前のものだね……」
 読んでいるうちにくすぐったくなってくる。樹を誘うために書いたメールだった。ところが送ろうとした直前に、彼女が別の人と出かけるということを知って、弥十郎はこれを出すのを諦めたのである。
 そのとき彼は、初めて自分の気持ちに気がついた。
 だからとても懐かしく、大切なメールだった。
 眼を細めていると、ちょうど樹からのメールが来た。良い機会だ、返事には、このメールも含めてしまおう。

「樹へ

 メール受け取りました。ありがとう。
 幸せな気持ちでいっぱいになっているのは、ワタシも同じだよ。

 言葉って難しいよね。気持ちをこうして書くのは簡単だけど、
 目の前の相手に言うのは、すごく大変だ。
 本当はワタシも、いつだって樹に『好き』って言いたいんだよ。
 だけど自分も君も赤くなっちゃうだろうから、せっかくなのでこの機会を利用させてもらおうと思います。
 好きだよ、樹。
 君がワタシに抱いている気持ちに負けないくらい、ワタシも君を愛してる」


 ところで、と続く一文で、発見したメールのことを弥十郎は述べた。

「ツァンダ商工会の企画で人気スポット調査があり、『一緒にどうかなぁ』と送ろうと
 思っていたメールなんだ。
 以下、転載しておくね。


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 ささきです。
 薔薇学では一緒にお弁当を作る機会があって凄く楽しかったです。
 薔薇学は男の子ばかりなので、上手く話せなかったかも知れないです。
 申しわけない。
 今度、ツァンダで人気スポットの調査があるみたいなので、よろしければ一緒にどうですか。


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 以上、なんだか初々しいよね。
 自分でも読んでいるうちに、その時の気持ちが思い出されてきちゃったよ。
 だから改めて、このとき誘えなかったデートにお誘いしようと思う。
 場所は建築を手伝った『イナテミスファーム』がいいかな?
 良ければ都合のいい日と時間を教えてね。

 それじゃ!

 ※追伸
 一年前はクリスマスどころか年を越えちゃったけど、君の唇を今度のデートで予約するね。」


 書き終えると弥十郎は、嬉しくてふふっと笑った。