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【2020年】ハロウィン・パティシエコンテスト

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【2020年】ハロウィン・パティシエコンテスト

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第4章 大作だけじゃない・・・体にいいスイーツもアリじゃないの

-10月29日 AM0:00-

「美容にとってもいい、コラーゲンボールが完成しました!そしてこれからゼラチンを溶かすわけですが・・・って何やっているんですか!」
 こそこそとコラーゲンボールを摘み食いしているマナに、ズビシィイッと木ベラを向ける。
「何のことだクロセル」
「今・・・食べましたよね?」
「疲れて幻でも見たのでは」
「そうそう・・・ちょっと寝不足で・・・って違いますっ。幻だとか、残像だとかいうごまかしはききませんよ!」
「私はパーツのチェックで忙しい。夢の中の出来事は独りで呟いて欲しいのだよ」
 マナは天然着色料で色づけした窓の出来栄えを見ながら白を切る。
「(くぅ〜っ。食欲魔人に食べられないように何としてでも、材料を守らなければ・・・)」
 ゼラチンと溶かしつつ、彼女の方をちらりと見て襲撃を警戒する。
 溶かしたそれに少量のかぼちゃペーストを加え、ぐつぐつと溶かす。
 型に入れて僅かな時間を置いた後、コラーゲンボールを入れて更に冷やす。



「まずは食材を茹でなきゃね」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は3つのコンロを使い、南瓜と栗、枝豆を別々に茹でる。
 彼の仮装はクランプスだが和訳すると鉤爪という意味になり、他の生徒たちと比べてちょっと怖めだ。
 ドイツのクリスマスにいる悪い子にお仕置きするというやつなのだ。
 平たく言えば西洋版なまはげといったところだろうか。
 一方、真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)の方は赤色をベースにしたサンタクロースの格好をしている。
 よい子にはサンタ、悪い子にはクランプスといったような雰囲気だ。
「さて裏ごしをしようかな」
 ほこほこ湯気を立ち上らせるカボチャをまな板に置き、中身を取り出して裏ごしをする。
 栗と枝豆は菜箸で鍋からテーブルの上へ移し皮を剥いて、カボチャと同じように裏ごしをしておく。 
「ジャムをひとさじ入れると、泡立てやすくなるんだよね」
 生クリームをハンドミキサーで、落ちたすじがしばらく残る感じの7分だてにする。
 裏ごししたやつに生クリームを加え、赤色と栗色、緑色の3種類のモンブランクリームを作る。
「緑は甘さを引き締めるためにこれを入れておかなきゃ」
 ぱらぱらっ・・・。
 枝豆のやつにだけ塩を少しだけ加えておく。
「求肥も作らないとね」
 白玉粉が入った袋を開けて計量し、水を入れてやわらかくする。
 水あめと砂糖を加え、艶がでるまで加熱しながら練る。
「うん、ちょうどいいやわらかさになったかな」
 余熱で焦げないようにコンロの火を止め器に移す。
 その求肥で緑色のモンブランクリームを包みゴースト形にする。
「くっつかないように気をつけなきゃね」
 コーンスターチをふり、形が崩れないようパリッと千切ったラップをかけて冷蔵庫に入れる、
「私が作る番だねぇ」
 真名美はバターを鍋に入れてトロトロに溶かす。
 卵は卵白だけ使い、砂糖と小麦粉、鍋で溶かしたバターの順に入れて混ぜる。
「ゴーフレットはこれで焼こう♪」
 コンセントを入れて道具を温めておく。
「んー・・・顔の部分を作っておこうかな」
 常温で溶かしたバターに砂糖を混ぜ、十分に馴染ませる。
「一晩寝かせなきゃいけないから時間がかかるね。早めに来てよかったよ♪」
 卵と小麦粉、最後にココアを混ぜてラップで包んで冷蔵庫に入れた。
「そろそろ道具が温まったかな?」
 バターを塗り帽子部分を作る生地を流しいれて両面焼きする。
「だんだんいい香りがしてきたね」
 ゴーフレットの香ばしい香りを吸い込み、焼きあがるのを待つ。
「わーい、色に焼けた♪」
 開けて見ると薄っすらと狐色がついてる。
 冷めないうちに道具から外して、小型の木製コーン型に巻きつけ冷ます。

-AM2:00-

「さぁ・・・目覚めの時間だ」
 ダークな声音で言い、カッと目を覚ましたトマスがぬぅっと起きる。
 ガスンッゴスッ。
 ピザやパイ生地に使うような伸ばし棒で叩き砕く。
「見学もしたいから早めにきたけど、何か凄いことになっているな」
 作っているところも見てみようと早めに来た和原 樹(なぎはら・いつき)が、地獄のようなお菓子作りの光景を目にする。
「ん?見たな・・・見たんだな!?」
 青色の相貌をギラつかせて樹の方へ振り返る。
「まだ見ちゃいけなかったのか?」
「いや全然見て大丈夫だ、コンテストだしさ」
 テノーリオが彼の声に気づきヘラッと笑いかける。
「フッ、カボチャの種も・・・」
「普通に手で割ってください、恐怖をふりまくと人が寄ってこなくなってしまいます」
 種を棒で叩こうとするトマスを、粉ゼラチンを冷水に浸そうとしている子敬が止める。
「えーっ!よりリアルにするためには、雰囲気作りも大切だと思うんだけどなぁ」
 止められたトマスはしぶしぶ石畳用の種を手で割る。
「何を作っているんだ?」
 樹は土台を見下ろしてどんなお菓子を作ろうとしているのかトマスに聞く。
「城だよ。でも城っていっても要塞だからね。ドラキュラの大好物の香りがするような城にするのさ」
「大人しいものばかりじゃないのか。でも、それも面白いかもな」
 興味津々に作っている光景を見学する。
「雰囲気からするとあまり食べる用ではない気がするな」
「んー・・・・・・、まぁそうかもね」
 フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)の言葉に、トマスは少し考えるように間を空けて言う。
「他のところも見てみませんか?」
 くいくいっとセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)が樹の裾を引っ張る。
「あぁそうだな。他の人のところにも行ってみようか」
 トマスたちから離れ、樹たちは生徒たちの作品を見て歩く。
 彼らが他の場所へ見に行った後、子敬は人形作りのために沸騰したお湯に、ゼラチン水を加えて溶かしている。
 ボウルにふるった粉砂糖の中心をくぼませ、流しいれて手で混ぜる。
 ラップで包み、硬く絞った布巾でその上からまた包む。
「生地を涼しいところで休ませなきゃいけないんですが。かなり時間がかかりますね・・・マジパンならすぐ使えるんですけど」
「あー・・・かなりギリギリな感じかなぁ。あまり大きいと間に合わないから小さくしただけどね」
 城を作りながらトマスは小さなサイズでも、完成させるのはやっぱり大変だなぁと呟く。

-AM9:00-

「完成イメージを決めなきゃいけないから早めに来たけど。深夜からいる人もいるんだね、場所はどうしようかな」
 すでに作り始めている生徒たちを見て、魔法使いの仮装をしてコンテストへ参加しにやってきた椎名 真(しいな・まこと)は空いているテーブルを探す。
「兄ちゃん、あっちの方空いてるよっ」
 彼方 蒼(かなた・そう)はパタパタとしっぽを振り、彼の手を引っ張って連れて行く。
「ちょっと蒼、急がなくても場所は逃げないって!」
 無邪気にはしゃぐ少年に引っ張られ、羽織っている黒いマントがバサバサと揺れる。
「あまーいにおいがするねー」
 耳としっぽがぴょっこり出た白い布お化けの仮装をしたわんこが、テーブルから顔を覗かせる。
「いろんな形のクッキーがたくさんあるよ」
「郁乃さんたちの隣か。何だか凄そうなの作ってるね」
 大きな帽子の鍔を指で摘みくいっと持ち上げて見ると、彼女たちのテーブルにあるお菓子の家のパーツを見つける。

「どんな風になるかはまだナイショだよ♪」
 真の声に振り返り、桃花たちに頼まれて組み立て作業を手伝っている郁乃がニッと笑う。
「俺たちはイメージ図作りからだね。蒼、紙に書きながら案を出そうか」
「うん兄ちゃん、なにつくるー?」
「目の前で作るなら焼きたての方がいいかな、こんなのでどう?」
「―・・・うー、こうしたほうが楽しいよー!」
 それだけじゃ物足りない蒼は紙を自分の方へ寄せ、真のお菓子完成図にワッフルをチョコドームで覆うように色鉛筆でグリグリと描く。
「まぁるいチョコをワッフルに被せてみようよ〜」
「食べるときも楽しいお菓子か。ハロウィンとは違うけど、案はおもしろいな・・・!」
「でしょー♪」
「蒼、刻んでおいたほうが溶けやすいよ」
「うん分かった、兄ちゃんっ」
 子供用の包丁でホワイトチョコを刻み湯煎にかける。
「次は風船を沢山ふくらませなきゃ。ふぅ〜っ、ふ〜ぅう〜っ!」
 カバンの中から風船を掴みプクゥーッと膨らませる。
「あまり続けてやらないようにね、酸欠になっちゃうからさ」
 カボチャを茹でながら作業に夢中の蒼の方へ顔を向けて言う。
「だいじょーぶだよっ」
「疲れたらちゃんと休憩をしてね。―・・・っと、火を止めなきゃ。半分は薄く切るんだけど、残りはペースト状にっと」
 コンロの火を止めて茹でたカボチャを半分に切り、片側はカラメリゼにした後もう半分はマッシャーで潰し、丁寧に裏ごしをして木ベラで滑らかにする。
「えーっとグラニュー糖・・・どこにしまったかな。ずいぶん奥にあるなぁ。小麦粉とかテーブルの上に置いておこう」
 ガサガサとカバンの中へ手を入れて探し、他の材料をテーブルに置きグラニュー糖を鍋の中へ入れる。
「冷めないうちにやらなきゃいけないから、こういうのって時間との勝負だよね」
 ぐつぐつと溶かし、鍋から棒の間に細くふう。
「それ何ですの?」
「溶かしたグラニュー糖で綿飴細工を作っているんだよラズィーヤさん」
「キラキラしていて美しいですわね、フフフッ」
 天使に似せて作った羽を衣装につけて仮装したラズィーヤは唇を扇で隠し、お菓子作りの様子を楽しみながら微笑む。
「ビデオに撮るですぅ〜。こうして見るとお菓子の魔法使いみたいですねぇ♪」
 エリザベートがパタパタと近寄り、真をデジカメで撮影する。
「粉からこんなのが出来るなんてたしかに魔法みたいに見えるかな」
「兄ちゃんお菓子の魔法使いだったんだー!?」
 少女の言葉に耳をぴくっとさせ、蒼は目を輝かせて真を見上げる。
「はははっ、そうかもしれないね」
「そっちの材料は何に使うんですかぁ?」
「ワッフルを作るんだけど、コンテスト当日の朝方に焼こうかなって思ってね」
「ではその頃にまた来ますねぇ」
「さてと生地の用意を始めようかな」
 エリザベートたちがテーブルから離れていった後、真は薄力粉とベーキングパウダーをふるう。
「(蒼の作業が大変そうだから早めに来たんだし。今日はここまでにしておかなきゃな)」
 椅子に腰をかけて風船にチョコをつけている蒼の姿を見る。
「ちょんちょっちょんちょこれーと〜。あまーい、あまぁーいちょこー♪」
 わんこは筆でチョコを塗りつけながら楽しそうに尻尾を振っている。
「でも〜わんこだから食べられない〜」
 じゅるりと垂れそうになるヨダレをハンカチで拭き我慢する。
「兄ちゃんいっぱい塗ったよー」
「冷やしておかなきゃね」
「少し休憩するー」
 冷蔵庫の中へぱたむとしまい終わった蒼は、ふかふかの椅子の上に丸くなり、チョコが固まるのを待つ。

-AM11:00-

「あぁもったいないねぇ。こんなに捨てちゃって」
 弁天屋 菊(べんてんや・きく)は会場にいる参加者たちが捨てたカボチャの残骸を使い、ジャック・オ・ランターンの仮装をしてコンテストに挑戦する。
「こうやって食べ物を粗末にするとー・・・、もったいないお化けがでるぞ〜」
 ランタンを片手に、目と口をくり抜いた大きなカボチャを被り、夜色のマントをゆらゆらと揺らめかせる。
「予想以上に種が捨てられまくっているねぇ。ちゃんと使っている人もいるけど」
 ブルス・リーの格好してきたガガ・ギギ(がが・ぎぎ)が、笊の中にある種の周りの繊維をとり流し台で水洗いをする。
「いくらなんでも捨てすぎだよっ!」
 ヌンチャクを振り、怒りを表現する。
 何でこんな格好をしているかというと、ドラゴンつながりでということらしいが、彼女にはさっぱり分からない。
「食べ物だし、保存をきかせてもやっぱり消え物だからね。あたいたちがもらっていくよ」
 お腹の中に消えるもんだからと、親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)は調理場に捨てられたカボチャの種や、カボチャの切れ端などを集める。
「邪魔するよ血を吸っちゃうわよー♪本当には吸えないけどね、フフフッ」
 生徒たちの調理場へドラキュラの仮装をして集め残骸を歩く。
「天日干しは時間的に厳しいからね、今回は術を使ってやるよ」
 ガガは火術の温度を調節し、焦がさないように乾燥させる。
「へぇ〜、そうやって乾燥させられるんだ?」
 調理の様子を見に来た樹が、感心したように言う。
「時間がないっていうのと、火加減の問題があるから術を使ってるんだけどねぇ。その分、二酸化炭素が出にくいから地球にも優しいぞ」
「そうか!なるほどな」
「お菓子ってことは甘い感じになるのか?」
「んー・・・まぁ、甘いところもあるけど、そんなに砂糖は使わないぞ。甘いのは苦手か?」
 蒸し器の蓋を開けつつ、甘いものは得意じゃないのかとフォルクスに菊が聞く。
「我は飲み物に合うようなやつが好きだな。飲めるといっても茶とコーヒーくらいだ」
「ふぅ〜んそうか。飲み物に合わせちゃいないけどねぇ、どっちにでも合うんじゃないか」
 熱さも気にせず皮と身の部分を、素手で大雑把に分けながら話す。
「え、もう食べに来たの?まだ出来てないわよ、せっかちね」
 カボチャの使われなかった部分を集めてきた卑弥呼が、早々とやってきた彼を見てクスッと笑う。
「いや、どういうふうに作っているのか気になって見学しているんだ。材料を無駄にしない作り方もあるんだな・・・」
「あらそうだったの」
「食材を粗末にするとな・・・、もったいないお化けが出るんだぞ〜・・・、もったいなーいもったいなぁーいってねぇ」
 菊は手を止めてゆっくりと振り返り、クククッと笑い周りに火の玉が見えそうな雰囲気を作り出す。
「用はせっかく農家の人が作ったやつを無駄にするなってことだよ」
 お化けが出そうなオーラを消し、下拵えを再開する。
 身の黄色と皮の緑の部分を分けてペースト状にし、別々のボウルに入れておく。
「世の中にはなかなか食べることが出来ないやつが沢山いるじゃん?工夫すれば残さず食べられるんだよ」
 ぱたぱたとふるいにかけた薄力粉に、砂糖とバターを混ぜ水でこね、2つに分けた生地をそれぞれのペースに混ぜる。
「確かにそうかもな。試食、楽しみに待っているよ」
「―・・・ん。あぁ、じゃねぇ」
「間に合いそう?」
「大食いがいない限り大丈夫かな?」
 屈んで様子を見る卑弥呼にガガは振り向かず、殻を剥き噛み砕きやすいようにスライスする。

-PM13:00-

「初日の深夜からいる人もいるのね。ちゃんと睡眠とっているのかしら・・・」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はインドの女神ラクシュミーの仮装をし、民族衣装のサリーを身に纏っている。
 顔は特殊な顔料で黒くペインティングし、金糸の髪に黒いかつらを被っている。
 ずっと作り続けて大丈夫なのかとダークブラウンのカラーコンタクトをつけた瞳で、夢中でお菓子を作っている生徒たちの様子を見る。
「場所は適当でいいか。目立つところにいても、味つけには関係かいからな」
 空いている場所を見つけたグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は、手際よく砂糖と牛乳の分量を量る。
「ウィル?その――似合うかの?」
 作業しようとする手を止めて、そっとウィリアム・セシル(うぃりあむ・せしる)の方へ顔を向ける。
 彼女の仮装は白い狐の耳が付いた銀髪のかつらを被り、白と銀を基調とした和服に九つの狐の尻尾を付けた妖狐の姿だ。
 両目にはめた黄色いカラーコンタクトをつけた瞳で、気恥ずかしそうに彼を見る。
「えぇ、とてもお似合いですよ。いつものライザ様の雰囲気と違って美しい・・・ですね」
「それではいつもわらわはそうではないのかのう・・・」
 視線を逸らして照れながら言う彼に、しょんぼりと小声で言い俯く。
「いっ、いえそういう意味では・・・っ」
 いつもの凛とした雰囲気とは違い、淑やかさは変わらないが可愛らしい一面を見せる彼女にパニックになってしまう。
「よい、言ってみただけだ」
 返答に困り仮装の狼男の尾をぶんぶんと振っているウィリアムの姿に、フッと悪戯っぽく微笑む。
「そうですよね。はははっ・・・」
 彼女の言葉にウィリアムはほっと安堵した。
「(それにしてもナラカより舞い戻れば、英国は味覚崩壊王国などと言われており、甚だ心外ですね。これを期に皆に手作りのお菓子を振る舞い、不味くないと思ってもらえるように頑張りましょう)」
 “ライザ様共々英国の名誉のために”と、お菓子作りに挑む。
「ねぇ、俺の役目は雑用だけ?」
 使うボウルをテーブルに置きながら、ウィリアムと同じ仮装をしているヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が彼をじっと見る。
「ヴィナは見て覚えてください」
「うん・・・お菓子は特に作り方を間違えると大変なことになるっていうから仕方ないか。ローザマリアちゃんの包丁裁き凄いなー」
 ローザマリアの方を見ると、剣を振るうようにスパンッスパッとリンゴとカボチャを切っている。
「では、卵を割っておいてしまおうか」
 グロリアーナはセシルやローザと手分けして、ケースに入っている卵をボウルの中に割り入れて掻き混ぜる。
 量っておいた牛乳と砂糖を加え、ぱっぱっとバニラエッセンスを入れる。
「そろそろカボチャと林檎に火が通った頃だ。別々に掻き混ぜよう」
 1つのボウルにはホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)に裏ごししてもらったカボチャ、もう1つのボウルにはフランシス・ドレーク(ふらんしす・どれーく)が潰した林檎、残りは何もいれずそれぞれ混ぜる。
「フランシス、ホレーショ。ちょっと変わってくれないかのう?手が疲れてしまったんだ」
「陛下、了解だっ」
 ボウルを受け取ったが、フランシスは目出しバンダナを締めなおし、ガシャシャシャッと勢いよく泡立て器を回す。
「女王陛下にバーリー卿、錚々たる面々で何をやるのかと思ったら料理たぁ面白ぇ」
 泡立て器の柄を使って帽子を持ち上げ、英国メンバーを見てニヤリと笑う。
「かなりこったお菓子が多いようじゃが、ここはどうかのぅ?」
 ふらふらとアーデルハイトが様子を見にやってきた。
「栄光たる英国の歴史は俺等から始まったんだ!それを復権するのも当然、俺等じゃなきゃなぁ!」
 黒マントを翻し、期待して待っていろというふうに言う。
「ほほぅ〜、頑張るのじゃ!」
「お菓子の家だとかスケールのでかいもんじゃないが、こういうやつだって味だけじゃなくって見た目もいいんだぜ?」
 混ぜ終わった彼は外見とは裏腹に、器用にアップルプディング用に使うリンゴの皮を包丁でしゅるると剥き、銀杏に切り分けていく。
「ふむふむ。フランシスたちの勇姿を撮影しておこう」
「どんどん撮ってくれ!」
「記念撮影というわけか。このネルソン、一命に代えても英国の復権の為に尽力致す所存にて」
 海賊船長の仮装をしたホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)がデジカメの画面に映り込む。
「こんなにも硬いとは。なかなか手強い相手だ」
 しかし、硬いカボチャの皮取に、やや苦戦しているようだ。
「おおぅ燃えておるのう」
 闘志を猛々しく燃やす彼の姿を録画する。
「私掠(海賊)船の善い所は上も下も隔てなく自由にやれることでっさぁ!俺自ら料理の腕を振ったことも、1度や2度じゃないんだぜぇ」
 フランシスはコンロの火加減を調節し、リンゴに柔らかくなるまでじっくり火を通す。
「甘い匂いがしてきたのう〜」
 鍋に引き寄せられるようにアーデルハイトは甘酸っぱい香りの元へ寄る。
「簡単に作れるんで沢山ご用意しますね」
 ヴィナの用意したミニサイズのココットへ注ぎ入れたウィリアムが、アーデルハイトの方へ振り返る。
「私はいくらでも食べられるぞ!」
「それは試食というより、しっかり食べにきた感じだぞ?」
 なんとか皮を丁寧に取り、切ったカボチャを火に通しているホレーショは彼女に、食事のようだなというふうに眉を潜める。
「私の胃はブラックホール並じゃ。全然問題はないっ」
「ブラックホールか、そりゃいいな。山盛り食べもらおうじゃないか」
 それを聞いたフランシスは、はははっと冗談を含んだ言葉を言う。
「手の込んだものではないがのう、英国の味を知ってもらいたい」
 ココットを蒸し器に入れて強火にかけ、グロリアーナは英国の食文化は決して不味くないとアピールする。
「一般家庭のものがそう思われていそうですからね。今回は煌びやかなものではいですが、誰でも簡単に作れるやつにしたんです」
 レシピさえ覚えれば簡単だと、彼女の言葉に続けるようにウィリアムが言う。
「ライザ様、火を弱めますね」
 ウィリアムはプディングを焦がさないように火を小さくする。
「―・・・もう止めてもいいかのう。とりあえず10個くらいは出来たか、蒸し器から出すかのう」
「熱いですから私がやります」
 グロリアーナに火傷させるわけにはと、白い湯気を出している熱々のプディングを、蒸し器から出してテーブルの上で粗熱を取る。
「ウィルよ、最高の出来だの」
「えぇ、これもライザ様たちの協力のおかげです」
「最後に、遊びのようなものも用意しておくわね」
 ローザマリアは正統なイギリス王朝式に加え、ハロウィンらしいアクセントをつけようと大きなカボチャをくり抜く。
 ジャックオーランタンを作り上のヘタの部分を刃で華麗に切り飛ばし、開閉式にしてプディングの収納スペースを作る。
「摘み食いはしないからのぅ。私は試食の時間までその辺を見てよう」
「そうですか、ではまた後ほどいらっしゃってください」
 離れていくアーデルハイトにウィリアムが片手をフリフリと振るう。
「結構時間が余りましたね」
 プリディングを冷蔵庫に入れて冷やしておく。