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【2020年】ハロウィン・パティシエコンテスト

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【2020年】ハロウィン・パティシエコンテスト

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第7章 まったりと甘い試食タイム

-10月30日 AM0:00-

 コンテスト当日、西園寺は一晩寝かせた生地を薄く伸ばし、目と口の形に切り取りオーブンで焼く。
 数十分後、オーブンから出した顔パーツを弥十郎に渡す。
「出来たよ♪」
「ありがとう先生」
 弥十郎は真名美が作った顔のパーツに、卵白で昨晩作った求肥につけて帽子に被せる。
 皿に栗の甘露煮をキレイに並べ、昨日のクリームを使い、栗色と赤色の順に絞りモンブランにする。
 パタパタとココアをふるい帽子と顔を隣に置く。
「ふぅ、何とか出来たね」
「佐々木さんお菓子を完成させたみたいだね」
 同じ薔薇学の彼のお菓子が気になっていた北都が、カメラを手にテーブルへ寄る。
「あ、試食に来たのかな?」
「うん。でもその前に、写真に撮りたいな」
「いいよ」
「かなり手がこんでいるね」
 可愛いゴーストのお菓子を写真に撮る。
「見た目はかなり美味しそうですね。味はどうですか?」
 クナイは味オンチな自分よりも北都や周りの人の反応を見て決める。
「美味しいけどいろんな色のクリームがあるね?それぞれ味が違うよ」
「フフッ分かっちゃった?」
「赤はカボチャかな」
「そう、正解♪」
「普段家で食べ放題状態ではあるが、不思議な味だな」
 豪華な吸血鬼衣装に角をつけ、セディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)は魔王の仮装をして試食させてもらう。
「この緑色のクリームはなんなのだ?」
「枝豆だよ」
「ほほう、引き締まったこの甘さがなんともいえないな」
 いくつもムシャムシャと食べる。
「他の人の分も考えて食えよ」
 全部食べてしまわないか、ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)が注意する。
 彼と同じ仮装だが、彼女の場合は男装している姿だ。
 セディの考えた衣装を彼女も着たくなってしまい、その格好でコンテスト会場へ来たのだ。
「お菓子作りって面白そうだね。僕も今度やってみようかな?」
 夕月 綾夜(ゆづき・あや)はルナティエールがデザインした漆黒のウェディングドレスで、魔王の花嫁の仮装をしている。
 たっぷりとフリルがついたドレスはゴスロリっぽい雰囲気だ。
 彼女と瓜二つだが、美しい美女に見える綾夜は、実は女装なのだ。
「さっそく試食に来たね」
 エリザベートたちの姿を見つけた弥十郎は可愛いゴーストのお菓子を渡す。
「いただきますぅ。帽子の部分がさくさくしてて美味しいですねぇ」
「そこは先生が作ったんだよ」
「西園寺さん、美味しくいただきましたぁ♪」
「喜んでもらえてよかったよ」
「タイトルはあるんですか?」
「えーっとね。僕をお食べ、かな」
 弥十郎が作品タイトルを言ったとたん、周囲が驚きのあまりどよめいた。
 ただ1人、天使の仮装をしている真白 雪白(ましろ・ゆきしろ)を除いて。
「お食べなら食べちゃうもん♪」
 彼は気にも止めず、黙々と食べている。
「深い意味はないよ。そのゴーストがお食べと言っていることだからね」
「そういうことかのう、さすがの私も驚いたぞ」
 もちもちとした求肥にかぶりつきながら、ほっとしたようにアーデルハイトは肩を落とす。
「あれ?集めて持っていってあけようと思ったのに」
 2人の姿を見かけたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、ぱたぱたと走り寄る。
「すまぬのう。待ちきれなかったのじゃ」
「いえ、いいのよ。じゃあ他のところに行ってもらって持って行くね。あ、ねぇねぇ。クジを引いてみない?プレゼントをあげるわよ。エリザベートもアーデルハイトもよかったら引いてね♪」
 ルカルカは黒ワンピース姿に、頭の後ろの方には赤リボン、猫を肩に箒持った魔法少女姿で仮装している。
「お菓子を持っていますね?引きませんか」
「これ?うんいいよ」
「クジはルカが持っています」
 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)はストロベリーの肉球グミを1つもらう代わりに引いてもらう。
 丈を長くした教導団制服をボロボロにダメージ加工し、肌に縫い痕などを付けてフランケンシュタイン風の仮装が余計に危険そうな香りを放つ。
「引かせてもらうね」
 北都がルカルカの持つ箱の中の中に手を入れ、包装してあるクッキーを1つ掴む。
「1が出たよ」
「ありゃ、ハズレね。板チョコをプレゼントするわ♪」
「はい、どうぞ」
 どうみても死体とか危ないモノが入ってそうな大きな袋から、真一郎が板チョコを出して2人に渡す。
「私も引くですぅ。1ですねぇ」
「ほほう、クジとな?―・・・む、1じゃのう」
 エリザベートとアーデルハイトも真一郎からハズレの板チョコをもらう。
「僕をお食べ美味しそうね」
「試食していかない?」
「ありがとう!代わりにクジをどうぞ」
 弥十郎から僕をお食べをもらい、試食用のお菓子とクジを交換する。
「3って何かな」
「アタリよ、おめでとう♪」
「確かドライフルーツ業務用パックでしたね」
 真一郎はごそごそと袋中を探し、弥十郎にドライフルーツ業務用パックを渡す。
「ルカ、俺の分を残して・・・」
「んう?あ、ごめんね。全部食べちゃった」
「くぅっ・・・、なんていうことだっ」
 少し分けてもらおうとした夏侯 淵(かこう・えん)が杖を支え代わりにガックリと俯く。
 黒服に羽織っているマントが床につきそうになるほどへこんでいる。
「淵さん、シルクハットが落ちているのだよ」
 姜 維(きょう・い)は彼が床に落としてしまったシルクハットを拾い被せてやる。
「あぁ、すまない」
 仮想用の頭頂部につけている1本角まで落ちてしまわないように片手で、ちょうどいいポジションに直す。
「そんなにしょんぼりしなくてもまだありますよ」
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は試食用にもらった僕をお食べを淵にあげる。
「くれるのか?」
「どうぞ」
「なんだか本当に刺さっていそうだな、それ」
「特殊メイクですよ」
 眉を潜めて見上げる淵に、フランケンの仮装をしている彼はニコニコと笑顔で言う。
 しかし本当はこめかみにボルトが刺さっているのだが、痛みを知らぬ我が躯で痛みは感じない。
「そうなのか」
「えぇ、そうです。ほどよい甘さで美味しいですね」
「それもそだが、求肥の食感がいいな」
「可愛い子は笑顔になるとさらに可愛いですね」
「(ひょっとして口説かれているのか?)」
 彼の物言いにきょとんと首を傾げる。
「(主公はここでも口説くんですか・・・、相手は気づいているんでしょうか)」
 ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)もぱくつきながら、エッツェルをじっと目で見る。
 彼女は薄汚れた布を被り、ゴーストの仮装をしている。
 しかしネームレスから漂う瘴気など不気味な雰囲気は、まるで本物のゴーストのような禍々しさがある。
「バターの味がきいていて・・・、美味しかったです・・・。上特に帽子の・・・さくさくとした歯ざわりがよかった・・・です」
 ぼそぼそと小さな声音で西園寺に感想を言う。
「味だけじゃなくて食感も大事だからね、ありがとう♪」
 感想をもらった彼が嬉しそうに微笑む。
「頑張って作ったかいがあったね」
「用意した分の、半分以上なくなっちゃったよ」
 他の生徒たちのところへ試食に行くネームレスたちの後姿に、西園寺と弥十郎は2日もかけて作ってよかったと、2人は顔を見合わせて思わず笑顔になる。



「チョコに絵が描いてあるのか」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)はテーブルに並べられたチョコドームを眺める。
「食べてみてー」
 蒼がしっぽをふりながら勧める。
「お、中にワッフルが!?」
 ひょいっとヒヨコの絵が描いてあるチョコを持ち上げた彼は、目を丸くして驚く。
 真と蒼が完成させたそのお菓子は、びっくりおもちゃ箱を思わせる雰囲気だ。
「皿にアイスがあるな、つけて食べてみるか。―・・・はぐ、うめーなぁ!なんかカボチャの味がするな?」
「それはね、アイスとカラメリゼしたんだよ」
「へぇー、そんな作り方もあるのか!」
 真の説明を聞き料理の勉強する。
「お皿以外、全部食べられるんどすなぁ。イラストのアザラシも可愛らしくてえぇなぁ〜」
 まずは目で見て楽しんだ後綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)は、飴細工を摘んで口の中に入れるとすぐに溶けてしまった。
「主様は試食して勉強しているようじゃが、参考にしたものを作るのかのぅ?」
 山猫の仮装をしている彼に、覚えたお菓子を作るのかどうかアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が聞く。
「ワッフルはなんとかなりそうだけど他は難しいな」
「失敗も勉強のうちじゃぞ。じゃがな、料理を失敗しても食べられるものはしっかり主が食べるのじゃ」
 アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)は早くも諦めモードの彼に失敗してもいい。
 しかし、台無しな感じになってもそれを食べも害がないのなら、残さず食べるようにと言う。
「え、いつも俺の手料理を食っているじゃないか。一緒に味見してくれるだろ?」
「細かい作業の多いお菓子は別じゃ!分量を変えるだけで、美味くなることもあるんだがのう。もし間違ってしまったら煮ても焼いても食えないものが出来てしまうかもしれないのじゃぞ」
「確かに、焼き菓子なんか失敗してしまったら、調節がききずらいからのう」
 傍らで聞いているアルスがうんうんと頷く。
「これだけコンテストに作品を出している生徒がいるんだぜ。俺にだって作れるものがあるはずだ!」
「ちょっとずつ、焦らずじっくり学べえぇんどす」
 風花はチョコをパリパリ食べながらのんびりとした口調で言う。
「そうだよな!―・・・でも、皿の飴細工の作り方が気になるぜ・・・」
「教えてあげようか?」
「いいのか!?やったぜ!」
「お、何か始まるのか?」
 賑わう声を聞きつけ、包帯男の仮装をした冴弥 永夜(さえわたり・とおや)が駆け寄って来る。
「何かやるの?見たいー」
 アンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)も見ようと走ってきた。
「こんな感じでやるんだけど、そんなに難しいことはしていないよ」
 真はグラニュー糖を溶かした鍋から棒の間に細くふるい、綿飴細工を作ってみせる。
「簡単なんだ?でもキレイだねぇ」
 照明の光を受けて輝く飴細工をアンヴェリュグが見つめる。
「そうやって作るんだな!」
 紫音は忘れないうちにメモを取る。
「メモを取っているみたいだけど作るのか?」
 参考にしようとしている紫音に永夜が声をかける。
「あぁ、最近ちょっと料理にこっていてな」
「へぇーそうなのか」
 食べるだけじゃなくって勉強しに来た人もいるのかと、ワッフルと食べながら彼のメモ帳を覗き込む。
「あ、そうだ。美味かったよワッフル」
「飴細工をつけて食べてみたけど、出来立ての表面のかりかりしたところとかよかったかな」
 永夜とアンヴェリュグは皿の傍にあるミルクティーを飲み、真に試食の感想を言う。
「いろんな食べ方があって面白いですわね」
 ラズィーヤはチョコドームの端とアイス、飴細工をワッフルに乗せて食べている。
「そう?ありがとう」
「チョコに描いてある鳥の絵、可愛かったね。君が描いたのかな?」
 真の傍でじっと見上げている蒼にも感想をあげる。
「うん、そうだよ!わぁい〜、ほめられたよー兄ちゃん」
「よかったな蒼」
「えっへへ〜♪」
 わんこは真に頭を撫でてもらい、嬉しそうな笑った。
「チョコ、美味しそうー」
「兄ちゃん、いきなりうさちゃんが食べられちゃった」
「お腹が空いているのかな?」
 来るなりチョコドームを掴み、雪白はアーデルハイトと同じようなブラックフォール的食い方をしている。
 でもひょっとしたら胃袋は宇宙並なのかもしれない。
 彼はお菓子の試食を制覇しようとしている。



「甘そうなケーキですねぇ」
「食べていってくれ。オレと真奈が作ったんや!」
 じーっと洋菓子を見つめるエリザベートに気づき、陣が手招きをする。
「甘めのお菓子なので、ホットミルクかストレートティーがオススメですよ」
「私はストレートをいただきますぅ」
「む、私はホットミルクがいいのじゃ!」
「ボクはストレートかな」
「わたくしもそれがいいですわ」
 真奈に飲み物をもらい椅子に座る。
「このケーキ、生キャラメル風の味がいいですねぇ」
「目と口にチョコホイップが入れてあるところがよいのう。エリザベート、それをよこすのじゃ」
「いやですぅ、これは私のですーっ!」
 食べ物の醜いケンカを始めている彼女たちの傍ら、静香とラズィーヤがケーキを食べ始める。
「パンプキンケーキだけど、お腹に重たい感じじゃないとこが好きかな?」
「ケーキ類は無駄にバターばかりきかせていたり、甘すぎるものもありますからね。わたくし、上品ではないそういうものはあまり好みませんの。くどい甘さがないところが素晴らしいですわ。美味しかったですわよ」
「やったな真奈!」
「はい、ご主人様っ」
 美味しいとお墨付きをもらい、陣と真奈とハイタッチして喜んだ。



「ルカは元気です♪」
「御主。宅急便屋でもするつもりか」
 空飛ぶ箒に乗っているルカに淵が突っ込みを入れる。
「試食用のお菓子をエリザベートたちのところに届けるから今日はそうかもね」
「しかし俺の格好はあくまでも執事という奴だな」
「むしろ、あと11人使徒を集めたい・・・」
 淵の仮装をちらりと見てぽそっと呟く。
「ヴァーナーさん、審査用の試食のお菓子をくださいなー♪」
「オバケのなかまがオカシになっちゃったです〜。たべてじょうぶつさせてあげてくださいです♪」
 ヴァーナーはぷるぷるっと揺れる可愛らしいお化けのゼリーをルカルカにあげる。
「ルカたちの分も・・・欲しいな」
「はーい、いいですよ」
「わぁいありがとう!あ、お礼にクジをどうぞ」
「クジですか?はいですっ、2でした」
「ハズレね、ペーパーコースターをあげるわ」
「はい、どうぞ」
 真一郎は引きずっている袋から取り出しヴァーナーにあげる。
 彼とルカルカは移動式のアテモノ屋といったようなところだ。
「むむ、ハズレでしたか。ありがとうです!その袋、動くものが入っているんです?」
 彼が持っているその袋は、カタカタッと中で何かが蠢くような音を立ている。
 血なのか何かで薄汚れた感じの袋で、景品を分けて入れている謎の子袋が10個は入っていそうだ。
「淵さん・・・ちょっと・・・」
「ん?―・・・あぁそうだな」
 ルカルカと真一郎を2人きりにさせてやろうと、淵と維はそっとその場から離れる。
「じゃあねー」
 彼らがいなくなったことに気づかず、ルカルカは彼と会場内を歩き回る。
 入れ違いに樹たちがやってきた。
「試食させてくれないか」
「オバケさんたちをじょうぶつさせてあげちゃってください」
「食べて成仏させるんだな」
 樹は皿にもらったグミのブルーベリー味を食べる。
「ベリーの味が甘酸っぱくって美味いな」
「サイズも小さいし食べやすいな」
「美味しそうですね、グミがぷるぷると震えている感じがします」
 フォルクスとセーフェルも取り皿に盛られたグミをむにっと摘み試食する。
「おいしいですか?うれしいですっ♪」
 小さなグミを食べる彼らに、ヴァーナーはニコニコと微笑む。
「向こうにパイがあるみたいだから食べに行ってみようか」
 他の生徒のお菓子も試食しようと、樹はフォルクスたちと菊のところへ行く。
「あ、もうちょっとで焼くから待っていてくれない?」
 菊は伸ばし棒で円形に薄く延ばした黄色と緑色の生地を、裏表に張り合わせてオーブンシートに敷く。
「スプーンを使った方がかけすぎないんだよね」
 グラニュー糖をパラパラとふりかけたカボチャの種を、同心円状に並べる。
「30分くらいかかるねぇ」
 200度に暖めておいたオーブンに入れて焼く。
 火力に気をつけながら、焼きすぎないようにオーブンの透明な蓋の部分を覗き見る。
「さぁどんどん食えっ、おかわりもちゃんとあるからね」
「あはは、俺はそんなに食べられないけど甘いものが好きなセーフェルが食べるかもな」
 樹はさっそくカボチャの断面図のような雰囲気の焼きたてのパイを取り皿へもらう。
「ん?パイなのにそんなに甘くないな」
「お、気づいたか。砂糖を控えめにして、自然の甘さを生かしているんだよ」
「しかもそれ、使われなかった部分を集めて作ったのさ」
 あまった種を軽く塩をふって炒りながらガガが言う。
「そうなのか!?その発想でくる人がいるなんて思わなかったな」
「捨てられちゃうなんてもったいないじゃん?」
「緑の部分は少し苦いんだな」
 一見甘さそうなパイなのにほろ苦いと不思議そうにフォルクスが首を傾げる。
「そこは菊が皮の部分を使って作ったからね」
「ありがとう、以外と全然重たくなくって美味しかったよ」
「え、パイがあるの?僕も食べたいな」
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)は私服の和服姿で、取り皿を片手にクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)と一緒に試食用のパイをもらう。
「パリパリしてて美味しいね」
「そんなにお砂糖を使っていないんですね」
 2人はヘルシーなパイを夢中で食べる。
「材料に使われなかったところを集めて作ったんだけどねぇ。でも、集めてからそんなに時間は経ってないからさ、衛生面は問題ないよ」
「ちゃんとカボチャの甘みが引き出されていますよ」
「フフッそうかい?」
「少しだけもらっていっていいかな?」
「あぁ、いいよ」
 食べられて小さくなっていくカボチャの断面菓子を綺人に渡してやる。
「試食用のお菓子を集めに来たわよ」
「それはこっちに用意してあるよ」
 ルカルカに審査用の方を菊が渡してやる。
「―・・・ルカのもください♪」
「あ、そうか。ほら」
「美味しそうーっ。んっ、ぱりっぱりね♪」
 歯ごたえを楽しみながら食べ、指についたパイをぺろっと舐めとる。
「忘れるところだったわ、クジをどうぞ」
「クッキーのクジか。―・・・5だねぇ」
「あたぁーりぃー♪」
「ミックスナッツをどうぞ」
「くれるのか?ありがとうな」
 真一郎から受け取った菊は、何も入っていないキレイな袋の方に入れる。
「へへっ、思いがけない収穫だねぇ!」
 使われなかったカボチャの部分だけじゃなく、景品ももらえた彼女は満足そうに笑う。
「捨てられたもんから出来たんなんて思えないねっ」
 見事にキレイに洗浄してパイを作った彼女たちに、雪白は再利用する心に感心する。
「あっちには和菓子があるんだね」
 綺人とクリスは人だかりが出来ている透乃たちのところへ行く。
「ちゃんと素材の味がするよ」
 クナイに食べさてもらい、北都はカボチャ餡の味を楽しむ。
「洋菓子もいいけど、こういうのもいいね」
「とっても上品なお味でしたわ、見た目も美しいですわね」
 ラズィーヤは満足そうににっこりと微笑む。
「喜んでもらえて嬉しいよ♪」
「紅葉の形をしているね。餡がとっても美味しいよ」
 綺人は口の中に甘い幸せが広がる。
「ついつい食べすぎてしまいそうですねアヤ」
 陽子の澄んだ歌声に、クリスは気分も幸せになる。
「やわらかぁい。和菓子の餡子も大好きーっ♪」
 しかし雪白は美よりも食い気という感じでムシャシャシャッと食べまくっている。
「マスターたちは食べないんですか」
「フォルクスと半分にして食べたよ。1個は食べられそうなかったからな」
 もぐもぐと食べながら話しかけるセーフェルに、樹はちょっと重そうだから半分だけ食べたと言う。
 他のところも行ってみようと、彼らはそれぞれのパートナーと試食出来るテーブルへ行ってみる。



「これクッキーかな」
 北都は皿に乗った無数の赤い目玉の形をしたクッキーをじっと見る。
 普通の可愛いお菓子のはずなのに、なんか怖い異様な雰囲気を放つ。
 その皿の下から人の声のようなものも入ったおどろおどろしい効果音が流れている。
「―・・・何か聞こえるけどなんだろう?」
 しかしそれは効果音ではなく、カセイノの歌が録音されたやつが流れているだけなのだ。
 音量を小さくしているため、効果音のように聞こえる。
「よかったらご試食いかが?」
「うん、もらうね。その前に写真を撮られて」
 不気味な焼き菓子をパシャッと写真に撮る。
「どうですの?」
「美味しいよ」
「目玉みたいですねぇ。見た目はいくらな感じもするですぅ」
 皿のクッキーを掴み、エリザベートがはぐはぐと食べる。
「歌・・・ですか?」
 エリザベートはクッキーが盛られた皿の下から聞こえるカセイノの歌声を耳にする。
 実は、リリィと会場で合流する前の日に、恐れの歌を録音しPCに取り込み、ノイズを取って加工していたのだ。
 テンポ数やボリュームを操作し根性で加工して音楽プレイヤーに落としたまではいいが、寝不足になってしまいその後にすぐ寝落ちてしまった。
 コンテストの日にちに遅刻してしまったのだ。
「(うぅ、聞かれている。恥ずかしいじゃんかよぉ)」
 歌声の主のカセイノは柱の陰に隠れて様子を見ている。



「さっそく試食しに来たようだ。食べてみたいか?」
 グロリアーナが可愛らしい三色のプディングを紫音に勧める。
「ヴィナ、取り皿に乗せてパートナーの方たちにもあげてください」
「うん、分かったよ」
 ウィリアムに言われ冷蔵庫からプディングを出し風花たちに渡す。
「英国のお菓子か・・・。お、カボチャのやつ美味いな」
 紫音は少しだけ口に運んで見ると、意外だというふうに驚く。
「私はさっぱりとしたリンゴが好みどすなぁ」
「それにはこのお茶が合うわよ」
 風花にアールグレイの紅茶をローザマリアが差し出す。
「ふぅ。プディングが砂糖代わりになりはるから、ストレートでも大丈夫どす〜」
「なんというか、英国の料理はあまり・・・美味しそうに見えないからのう」
「うむ、しかしこれは違うようじゃな。うん、美味しいぞ」
「これで英国の味の認識も変わるのう!」
 アルスとアストレイアの会話に、グロリアーナは嬉しそうに言う。
「これって作るの難しいのか・・・?」
 からっぽになった皿を見つめて紫音が呟く。
「いえ、手軽に作れますよ」
「俺でも作れそうか?」
「たぶん大丈夫ですよ、作ってみたいんですか」
「チャレンジしてみたいな」
「でしたらこれをどうぞ」
 ウィリアムはレシピを紙に書き紫音に渡す。
「ありがとうな!」
「いえいえ、英国の味を分かっていただけただけでも嬉しいですから」
「ねぇー、ユーリにもちょうだい」
 ユーリエンテも欲しそうに裾を引っ張る。
「えぇ、沢山ありますからどうぞ」
「やったー甘いの大好きー!―・・・おぃしーっ」
「お持ち帰り用もありますよ」
「欲しいっ!!」
 ウィリアムに小さな箱へ入れてもらい受け取る。
「ありがとーっ、わーいもらっちゃったー♪」
「む、俺たちも食べてみるか。と、届かない」
「どうぞ淵さん」
 淵の背では届かず、維にとってもらう。
「すまないな、ではいただくとしよう。ふむ、英国の味もいけるな」
「持ち帰りのやつがあるの?僕も欲しいーっ」
 箱に詰めてもらったのを見て、雪白も欲しそうにウィリアムを見上げる。
「いくついりますか?」
「んーとね、いっぱーい。これくらい!」
 両腕を広げて欲しい量を表現する。
「そんなに美味しかったですか?待っててくださいね」
「うん!」
「重たいですけど大丈夫ですか?」
「全然平気だよっ、ありがとう♪」
 ウィリアムに包んでもらったプディングを背負う。
 食欲魔王な彼女にとっては、食べ物を運ぶためならそれくらいは紙切れを持ち上げるような感覚なのだ。
「ウィルよ、なかなか好評ではないか」
「やりましたねライザ様!」
 ローザマリアたちは英国の味も美味いのだと分かってもらい、満足そうに微笑み合う。



「いっぱい作ったら時間かかっちゃったな」
 椎名は焼き上がったケーキを冷ました後、カボチャに目と口を彫っていてかなり時間をとられてしまった。
 隠し味にレモン汁を加えると彼女の分の作業は終わった。
「(マスターのケーキはきっと激甘だろうからね)」
 鍋に砂糖と超すっぱいベリー系入れて煮詰めながらソーマは心の中で呟く。
 ベリーと氷をミキサーにかけ、こして種だけちまちまと取る。
「作品名は・・・甘すぎる妖精とジャックランタンの嘆き・パンパイア風味でどうかな、マスター」
 血を思わせるような真っ赤なジュースのタイトルを考える。
「嘆きってジュースがその色だから?」
「う、うんそうだよ」
「まぁいいんじゃないか?」
「じゃあこの作品名にするよ」
「(本当の意味を知ったら怒り狂いそうですね)」
 気泡を含ませ白くなるまで何度も伸ばした水飴で、晒し飴を作っているナギは黙っておく。
「ここの飴細工はそうやって作るんだな」
 真の作り方とは違うなと、紫音が観察する。
「作り方はいろいろありますからね」
 ナギは晒し飴を細長く丸め、棒につけてハサミを入れて人形のような形に整え、細かいところをハサミの先を使い女の妖精を2・3体ほど作る。
「髪の毛とかは先でちょっと摘んで伸ばすと出来るんですよ」
「なるどなぁ、面白いな!」
「ハンプキンヘッドも作っておきましょう」
 飴で作ったそれに、食紅で橙色の色をつけて、完成させた飴をケーキに見栄えよく乗せる。
 完成雰囲気はジャックランタンとバンシーというような感じだ。
 バンシーはナギが作っていた女の妖精だ。
「作品タイトルってあるのか?」
「甘すぎる妖精とジャックランタンの嘆き・パンパイア風味だよ」
「真っ赤なベリージュースがバンパイア風って感じです」
 言葉をつなげるようにナギが説明する。
「あぁ〜っ、なんどすかぁ。ケーキが甘すぎるーっ!」
 一口食べたとたん風花の口の中が大パニック状態になってしまう。
「なんじゃ、これは!?」
「甘いぞ、ケーキのどの辺を食べてもめちゃくちゃ甘いぞ!」
 アルスとアストレイアが大騒ぎする。
 椎名がデザートを作るとなぜかもの凄く甘くなる。
 それは何かの呪いがかかっていそうなほど核爆弾級に激ヤバなのだ。
「ふ、うっ」
 さすがの紫音も思わず顔を顰めてしまう。
「あれ、どうしたんだ?」
 作った本人はまったく分からず、ハテナと首を傾げる。
「さっきのタイトルの嘆きっていう意味はね、超甘すぎるから嘆いているんだよ」
 ソーマは椎名に聞こえないよう、こそこそっと紫音に耳打ちする。
「そ、それを早く言ってくれ」
「ボクが作ったジュースを飲むと、ちょうどいいよ」
「んぐんぐ・・・ふはぁーっ」
「ふぅ、このすっぱさならケーキと合う感じどすなぁ」
「(ケーキの破壊力がなんとも・・・)」
「(美味いが甘さが・・・)」
 紫音たちは鮮血色のジュースを一気に飲み干した。
「私はこの甘さでもいける!」
「うむ、かなり甘いがそれでも全然食べられるぞ」
「あまあま〜。美味しかった♪」
 破壊的な甘さのケーキでも、アーデルハイトとセディ、雪白にとっては平気のようだ。
「(これが平気だなんて!?)」
「(どれだけあまりものが好きなんでしょうかね)」
 ソーマとナギは、3人を英雄を見るような眼差しで見つめた。



「えーと、ただの仮装大会ではなかったのか?甘いものの試食とは聞いていなかったぞ」
 林田 樹(はやしだ・いつき)は周囲を見回してぎょっとした顔をする。
 気合いを入れて谷間が見えるほど大胆に胸元が開いている不思議の国のアリスの女王の仮装をしてきたのだ。
「(み、見ちゃいけない!だって今日の僕は騎士だものっ)」
 女王の騎士風の仮装をしている緒方 章(おがた・あきら)は、彼女の胸元に視線が行きそうになる。
「あー・・・ジーナ、アキラ、コタロー。試食は任せる」
「おねーたんたべないのー?」
 ウサギ耳をつけベストを着て三月ウサギ風の仮装をし、懐中時計を抱えている林田 コタロー(はやしだ・こたろう)がじっと彼女を見つめる。
「私は・・・、適当にコーヒーでもすすって待たせてもらう」
「どれも美味しそうなスイーツだね、本当に樹ちゃん食べないの?」
「あぁ食べない」
「でもさ、教導団の訓練の時にはチョコすすってたよね。何でこれは駄目なの?」
「レーションのチョコは何で食べるのかって、あれは・・・レーションだからだ!戦場ではエネルギーにすぐ変わるものを食べないと生死に関わるであろう?」
「そうなの?」
 必死に試食から逃れようとする彼女に、章は腑に落ちないような顔をする。
「だから食べているだけだ。好き好んでは食べていない!それに、私の年では甘いものの大量摂取はウエイトコントロールにもな・・・」
 彼の表情に林田は床を突くように杖をカンッと鳴らす。
「普段から晩酌しているから、ダイエットを気にしているわけでは・・・」
「―・・・アキラ。晩酌とこれとは別な話だっ」
 持っている杖で章のふくらはぎをバシッと叩く。
「イッた!―・・・ごめん、言い過ぎた」
「大体・・・むっ」
 ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)に甘いケーキを口の中に詰められ、その先の言葉を言えなくなってしまう。
「あらあら。ここは“ハロウィンパティシエコンテスト”の会場ですよ、樹様。お菓子を食べなくてどうするんですか?」
 ニコニコと微笑むアリス風のピンクカラーのロリ服を着た彼女に、これ以上の抵抗は出来ないと林田は諦めた。
「でも・・・やっぱり」
「う?ねーたん、おかし、めーらお?んじゃ、こた、ねーたんのぶんもたべうー」
「そうか!私の分はコタローに食べてもらおう」
「いーつーきーさーま、何でそう意固地なんですか?少々の食べ過ぎくらい、次の日の食事でいくらでもカバーは効きます!!問題は、次の日にも同じ量で食べてしまって使用されないカロリーが溜まることですっ!」
「じにゃが、らいじょーむとゆーから、らいじょーむなのれす!」
「うぅ、分かった」
 コタローにまで言われてしまい、一緒に試食して回ることになってしまった。
「さあさあ、試食致しますよー。こたちゃん、餅っ。樹様にじゃんじゃん取り分けてくださいましっ!」
「まあ、基本的にはカラクリ娘の考えでカロリーコントロールの仕方は合っていると思うよ。それでは女王様、コタ君。どれからお取り分け致しましょうか?」
「あき!こたは、あいすくいーむをしょもーするお!」
「じゃあとってくるね」
「きゃわ〜っ!とっても可愛らしくて美味しそうなスイーツがいっぱ〜い!!」
 ジーナはお菓子の城やイラスト入りクッキー、お化けのお菓子だらけの会場内をキョロキョロと見て回る。
 本当に不思議の国迷い込んだかのように、アリスな気分を味合う。
「見たところ、カロリーが高そうなのはほんの一部みたいですわね。妙なものもありませんし」
「うん、極端に偏ったものはなさそうだね。由宇ちゃんのクッキーとかは高いカロリーじゃないと思うよ?」
 体重計のメーター数が増えるようなバッドステータスはないと、章は試食し博識で説明する。
「食べてすぐ眠らなければ大丈夫ですわ。それにしても可愛い絵ですわね♪」
 クッキーを手にとったジーナは目をキラキラと輝かせて眺める。
「チョコペンで描いたんです・・・っ」
 仮装の大きな帽子をぎゅっと掴み恥ずかしそうにしているが、超感覚で生やした背中のコウモリの翼をバタバタとさせて喜びの表現をする。
「爽やかな味ですわね?」
「隠し味にバジルの粉が入っているんです」
「そうなんですの?私もちょっと勉強になりますわね」
「お茶もありますよ」
「あら、飲み物もいただけるんですの?」
 クッキーを食べきったジーナはカップに注がれた温かい紅茶を飲む。
「うん、すごく美味しいよ!お茶も出してもらえるなんて来てよかったね」
「こた、あいすのまえにたべうーっ」
 コタローはジャンプして章の皿から取ろうとするが届かない。
「あ、コタ君ごめんね」
 ぴょんぴょんと跳ねるコタローに気づいた章は手が届くように屈む。
「はむっ。おいしー!もっとたべたいおー」
「コタロー、私の分をあげよう」
「ねーたん。よぶんなおにく、ついちゃうの、めーらお?」
 カロリーばかりする樹の胸をコタローがむにっとつついて首を傾げる。
「こっ、これは余分じゃないぞ!」
「樹様も食べてみてください、こんな美味しいものを食べなきゃ損ですわよ」
 ジーナが無理やり樹に食べさせる。
「美味しい・・・っ、もう1つ・・・いやこれを食べてしまっては・・・あぁっでも・・・」
 食べたいのを我慢して躊躇する樹の姿に、本当に頑固ですわねっというふうにため息をつく。
「少しもらっていきますわね」
「いっぱいあるんでどうぞ♪」
「樹様はちょっと頑固なもんですから、きっと後で食べたがると思いますわ」
 頑固な本人に聞こえないように、こそっと由宇に言う。
「フフッ、そうなんですか」
「ではいただいてきますわね。このカボチャのお化けの絵も可愛いっ、こっちのも素敵ですわ〜」
 ジーナはクッキーをひょいひょいっと皿に乗せる。
「あき、あいすーっ!」
「そうだね、持ってくるよ」
 アイスが添えられているお菓子をもらおうと章は真のところへ行く。
「4人分ちょうだい」
「落とさないように気をつけてね」
 真はミルクティーと一緒に、トレイに乗せてやる。
「わーいあいすー」
 章に持ってきてもらったお菓子にコタローはさっそく手をつける。
 添えられているアイスをすぐに食べきってしまう。
「あいすなくなっちゃった。あれー?ちょこたべたら、わっふるでてきたお?」
 チョコドームを食べてみると、中からワッフルが出てきた。
「こんなことならカメラでも持ってくればよかったですわ。イルカのイラストが可愛いですわ」
「本当ー?」
「イラストは食べてしまうのがもったいない感じですわ。ワッフルの焼き具合もいいですわね〜。樹様、他のところも行きましょう♪」
「そうだな・・・。(あぁ・・・、カロリーが。ウェストが・・・)」
 林田は心の中で泣きながらジーナたちに連れられていく。

-AM2:30-

「ま、参加するからには全力でやらなきゃな!だいたいのことは昼間に終わらせたけどさ」
 セシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)は小麦粉でシュー生地を焼き、昼間に作っておいた苺と昼間に作っておいた餡子を入れる。
 苺大福シューをひとますトレイの上に置いておき、今度は晒し飴を作ろうと水飴に気泡を含ませるように何度も伸ばす。
 大きめの器に作っておいた抹茶アイスを盛り、苺大福シューをのせてチョコをトッピングする。
「私は陰陽師に襲いかかる鬼役というわけだな」
 カイルフォール・セレスト(かいるふぉーる・せれすと)の仮装は、頭に2本の角をつけ顔には隈取メイクをほどこした和装姿だ。
「互いに爆炎波とか使うといいかもしれないな。しかし、派手に演出するとなると、周りに火の粉とか飛ばないだろうか?」
「そうか。どうするかな」
「誰の声が聞こえてきたかと思ったら、馬鹿セシルじゃないか」
「な、何だいきなり!ば・・・馬鹿っていう方がば・・・って、ルナか!?」
 ムッとするものの振り返るとすぐに性悪ルナだと分かった。
「俺は特別お菓子好きってワケじゃないけど、馬鹿セシルの得意分野でセディの大好物だからな。どうせなら馬鹿に健闘してほしいし、試食しながら助けてやるか」
「ほほぅこれが私のために作ってくれたパフェなのだな?」
 彼好みの甘さの巨大和風パフェに、セディがさっそく手をつける。
 その間に、ルナティエールは演技指導をしてやった。
「もう少し離れて見ていてくれな」
「ここでも何かやるのか?」
「見ていこうかな」
 生徒たちをテーブルから離す様子を見て、永夜とアンヴェリュグが見にやってきた。
「女優の俺が指導してやったんだ、無様な演技はするなよ馬鹿?」
「ここからが本番だ」
 陰陽師の衣装で仮装している彼は袖からすぅっと片手を出し、女王のソードブレイカーを抜き放つ。
 割り箸に晒し飴をつけ、パッと放り投げる。
「人々を惑わし食らう鬼め、退治してくれるぞ」
「はーっははは。地球人の若造が、貴様の躯を町に吊るして人々を恐怖に突き落としてくれる!」
 カイルフォールと互いに爆炎波を放ち、火の粉を撒き散らす。
「フォールも、材料もたせたらまたぶちまけて被害出しそうだけど。かつてほどじゃないけど随分力を取り戻したし、剣を振るえばいいだけならまぁ得意だもんね」
 かつては無駄なく剣を振るっていたカイルフォールに、アスティ・リリト・セレスト(あすてぃ・りりとせれすと)は一目惚れしたのだ。
 彼女の義姉のルナティエールが用意してくれた日本舞踊の胡蝶の衣装を纏い、演出に印を切って術を放つと同時に、それらしく表現するために光術を放っている。
 術を使っているセシルの手や、足元から照らして輝いて見えるように演出する。
「くっ、同じ技比べでは勝負がつかない。ならばっ、この術ではどうだ。炎よ、醜悪な鬼を滅せよ!」
 彼に向かって放つように見せ、宙を舞う飴を火術で作り出した炎の刃で溶かす。
「わぁ〜なんか凄いことしてるね」
「(私的には、飴についている割り箸が燃えずに残っているのが凄いと思いますけどね)」
 北都とクナイも演出を見に来た。
「んー、お菓子美味しいねぇ。あれ、ルナは甘いもの得意じゃなかったっけ。じゃ、これなんか甘さ控えめで美味しいよ?」
 綾夜は菊が作ったパイをルナティエールに勧める。
「これなら食べられるな」
 のんびりと試食しながら彼らの演技を眺める。
「どうした鬼。防戦一方か!?」
 カイルフォールの方へぶっとんでいく飴を氷の冷気で包む。
「ぐぉおっ、やりおったな小僧の分際でっ」
 くらったフリをし、冷気を振り払うように翼の剣の柄で出来上がった飴細工を、アスティの方へ飛ばしてやる。
「あまりやすぎて本気にならなきゃいいけどね」
 アスティは日本の妖怪の形になった飴を着色しパフェに飾りつける。
「お待ちどうさま」
 観戦している永夜たちの傍にあるテーブルに置く。
「熱いから少し冷えてから食べた方がいいかもね」
「ありがとう。熱い戦闘風景を見ながら冷たいものを食べるということか?」
 スプーンでアイスをすくって口に入れる。
「刀の妖怪だね?」
 飾りつけられた北海道の妖怪の形をした飴をアンヴェリュグがじっと見つめる。
「パフェ?たべたぁい!」
「飴は出来立てだから火傷しないように気をつけてね」
「うん、はふぃ。でもおいしぃ♪」
 雪白は熱いのを我慢しながら夢中で食べる。
「飴ってああゆうふうに作るのかな?」
 由宇からもらったクッキーをアイスにつけて口の中に放り込み観戦する。
「(こっちもちょっとは反撃するような感じするか?)」
 もう少し演出しようかとカイルフォールは空色の光翼で宙を舞う。
 バーストダッシュで間合いを詰めツインスラッシュを放つ。
 目配せで足元を狙うという彼に、セシルはふわりと飛び退け、柄で叩き込むように加減しつつ床へ飛ばす。
「(セシルめ、ちょっと痛いぞ)」
 加減してもらっているとはいえ、けほっとせきこむ。
「まいったか鬼」
「おのれぇえっ」
「フッ、まだ立ち上がるか。よかろう、望み通り術の餌食にしてくれる」
 セシルは翼を舞う彼に向かって飴を投げ、溶かすための火術を鞭を振るうように弧を描き放った。
「その程度では倒せぬ!」
「ならば直接刃の餌食にしてくれようか」
 飴細工用の小刀に持ち替え、遠当てで飴に切り込みを入れる。
「ぐぅう、ここは一旦引かせてもらう。だがしかし、このままでは済まさん。いずれ私はまた、セシルあなたの現れるだろう。ククッはっははは!」
 十分飴細工が出来あった頃合を見計らいカイルフォールは退散する。
「面白かったよ!」
 北都は彼らのシーンをばっちりと写真に撮った。
「きれいに撮れてますよ」
 ブレがないかクナイが確認する。
「楽しかったですぅ」
 いつの間にやら現れたエリザベートがデジカメで録画していた。
「動画サイトにでも流れそうだね」
 アスティは夫の傷を治してやりながら可笑しそうに笑った。



「(ふっふふ、これからお菓子作りを始めます)」
 ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が着ている真黒な防疫服には胸元に名札がついている。
 鳥を模したマスク――所謂“ペスト医師”の格好をている。
 顔はまったく見えず、彼と分かるのは名札だけだ。
 小鍋にグラニュー糖と水をザバッと入れて中火にかける。
 ぷくぷくと沸騰しかかりカラメル色になったそれを型に流し込み、切っていたリンゴを敷き詰めていく。
 ボウルにバターと砂糖を入れ、泡立て器で混ぜ合わせる。
 溶き卵とふるったホットケーキミックスふるい入れ、それぞれ半分だけ混ぜて馴染ませる。
 その後に残りの半分を加えて混ぜる。
「何だろう・・・近づいたら危ないのかな?」
 ラムズの格好を見て北都は試食させてもらいに行こうか迷う。
「コンテストだし衛生面を考えたらそんなことない・・・たぶんな」
 樹は自身がなさそうに、だんだんと声音のボリュームを下げる。
「でも気になるね、行ってみようよクナイ」
「校長が2人もいることですし、ここに危険な要素はないでしょう」
「だよね、行こう」
 北都はクナイと一緒にラムズがお菓子を作っている様子を見に行く。
「行っちゃったよ・・・」
「我らは行かないのか?」
「うーん・・・行ってみるか」
 どうしようか考えながらも樹はフォルクスたちと調理場へ行ってみる。
「ケーキなのかな」
 先にラムズのところに来た北都が、型に生地を被せるように入れてゴムべらでならしている作業を眺める。
 しかしラムズは一言も話さず、160度のオーブンの下段に型を入れ、ただ淡々とお菓子を作っている。
「他のところへ行ってみませんか北都」
「うーん、何か気になるから出来るまで待っていようかな」
 どうしてもオーブンの中が気になる北都は、オレンジの肉球グミを食べながらしばらく待ってみることにした。
 60分後、ようやく焼き上がり冷めないうちに型を皿に被せ、皿ごとひっくり返して型を外す。
 ラムズは無言で彼らに近づき洋菓子を、戸惑ってばかりの樹の方に勧める。
 タイトルはアップルボビングに準えてアップサイドダウンケーキ。
「えっ!?―・・・食べても大丈夫・・・・・・だよな。お菓子だし・・・ケーキでも生クリームをたっぷり使っているわけじゃないみたいだからな」
 躊躇しながらも樹は取り皿にもらい試食してみる。
「リンゴの酸味でちょうどいい甘さになってる!俺は濃厚なのより、あっさりしてて軽い食感が好きだからちょうどいいな」
 普通に美味しそうなのに、作り手がアレだから口に運ぶのは躊躇う一品!不思議!?といった感じだ。
「(ふむ、樹は甘味もよく口にするが、特に甘党という訳ではないのだな?特に好き嫌いはないが、重たいか軽いかの好みはうるさい、といったところか。まぁ、間食する際も菓子類より軽食の方が好きなようだからな・・・覚えておこう)」
 樹の味の好みや感想を聞いたフォルクスは心の中で呟きしっかり覚えた。
「なるほど、そんなに甘くはないから食べやすいな」
「おや、マスターもフォルクスも甘いものはそれほど好きじゃないんですか?」
 試食させてもらいながらセーフェルは首を傾げて言う。
「俺の方は胃が重くなるものはちょっとな」
「んー、そうなんですか」
「クナイ、僕も食べたいよ」
 犬尾をふりふりとふり、北都はクナイに食べさせてというふうに見上げる。
「あ、その手ではちょっと食べづらいですよね」
 ケーキをホークで刺し、彼に食べさせてやる。
「―・・・もぐもぐ。嫌な甘さとかなくて食べやすいよ」
「そうなんですか?確かに見た目は美味しそうですね」
「リンゴのケーキですかぁ?私も食べるですぅ〜」
 エリザベートも試食させてもらうとラムズが作ったケーキを食べる。
「爽やかな甘さですねぇ♪」
「ふむ、私の分もあるんじゃろうな?」
 アーデルハイトは見つけるなりすぐさま皿にある残りにぱくつく。
「なかなかじゃぞ!」
「(結構うけてるようですね?)」
 数分前に完成したアップサイドダウンケーキが即、皿の中がからっぽになってしまった。